魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る   作:kadochika

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5.10.古の伝承

 考えもしなかったこと、というものが存在すると、知ってはいるつもりだった。

 例えば、そもそもの事の起こりだ。

 ディゼムは偶然、異世界からやってきた黒い鎧に選ばれ、悪魔と戦うことになった。

 大聖堂の警備をしていた時には、考えもしなかったことだ。

 そして王女の部下となり、(良くは思っていないものの)生き別れていた母親と再会する。

 考えもしなかったこと、というものは、確かに存在する。

 

(俺が、プルイナを殺す……?)

 

 それもまた、先ほどまでは考えもしなかったことだ。

 別れを告げられた衝撃で頭がいっぱいになっていたこともあるが、この上、更に殺す?

 いやそもそも、黒い鎧は死に得るものなのか?

 黒い鎧はパーツに分かれて行動することもできる、彼にとっては謎めいた存在だった。

 ディゼムとしては彼女は生きた存在だ、とは思うものの、さりとてプルイナは人間や動物、植物のようなものとはまた違うだろう。

 仮に死ぬものとして、どのようにすれば死ぬのか?

 溶鉱炉の中の溶鉄に沈めれば死ぬだろうか?

 あるいは実は、寿命でもあるのか?

 そうした根本的なことについて、ディゼムはプルイナと一度も話したことがなかった。

 

(まぁ、それを言うならアケウとだって、そんな話はしたことないんだが……)

 

 しかし思い至れば、それが悔やまれた。

 話したところで異世界の難解な概念を聞かされるだけだったかも知れないが、それでもだ。

 黒い鎧が戻ってくればそれに越したことはないが、そうでない場合も覚悟しなければなるまい。

 と、いうよりも――と、ディゼムはそこで、考え直した。

 

(プルイナを殺すとしたら、それは俺がやらなきゃならねぇことだ……

 他のやつには任せたくねぇ)

 

 それは、正直な気持ちだった。

 さほど長い期間ではないが、それでも悪魔との戦いを共にした、彼女は言わば、戦友であった。

 もし殺さねばならないとなれば、それは自らの手で。

 とは言え、黒い鎧の防御を貫き、その中の凍魔をも殺す手段となると、見当が付かなかった。

 彼が考えずとも、トラルタの魔術師や科学者たちが何かを思いつくかも知れないが、できれば自分で考えたい。

 

(しかし俺一人じゃ、やっぱ考えつくことじゃねぇんだよな……)

 

 そこで彼は、仮設工房で真紅の鎧の動作確認をしていたホウセに相談を持ち掛けた。

 ふと考えついて、トラルタの兵士たちに分けてもらった茶を淹れて、持っていく。

 すると彼女は着装を解除しつつ、ディゼムに言った。

 

「え……大丈夫? 何かだいぶ思い詰めてない? 無理もないとは思うけどさ……」

「……思い詰めてないっつったら嘘かも知れねぇが、俺がやらなきゃならねぇことだと思うんだ。

 一番世話になった俺が、引導を渡してやりてぇ」

 

 ホウセはそれを聞くと、茶の入ったカップを受け取り、ゆっくりと椅子に腰かけながら、白い息を吐く。

 

「ありがとう。

 ……ディゼムが、となると、やっぱり魔拳になるんじゃないかな。

 青騎士でやったら護拳が壊れちゃったって言うなら、もっと、拳だけは黒い鎧に負けないレベルに強化するとか。

 真紅の槍を貸したいとこだけど、あたしの武器がなくなっちゃうから」

「それはそうだな……」

「あとは、鉱山の発破に使ってる魔術爆材とか、レブルの持ってきた削岩機」

 

 彼女がずず、と茶を一口啜って息を吐くと、それは気温の下がった虚空にひときわ大きく膨れ上がった。

 ホウセはそれを眺めながら、続ける。

 

「あれを改良して、黒い鎧ごと凍魔をバラバラにできるような威力にする。それを、ディゼムが使う。

 ディゼムの手で、っていう条件だと、凍魔を確実に殺す方法についてあたしが考えつくのはそのくらいかなぁ」

「あの削岩機でプルイナを抉り散らすのは、少し気が引けるが……」

 

 ディゼムも茶を啜り、所感を述べた。

 

「あとは、プルイナを凍魔から引きはがす手段と、凍魔を動けなくする方法だけど……」

 

 ホウセが、彼の持ちかけた相談について、話題を変える。

 

「槍の修理が終わって、アケウとエクレルを呼んで来れれば、だいぶ話が違ってくるよね」

「そこはやっぱ、そうなるよな……人が遠ざかってる状態なら、ガンマ・ガンも使える」

 

 頷いて、ディゼムは更に、一口啜る。

 彼らが来てくれるなら、作戦の確度は上がるだろう。

 ホウセは、更に意見を言った。

 

「アケウたち抜きでもやれる方法を考えておくのは悪くないと思うけどね。

 ただ、黒い鎧を引きはがす方法は、実際にそこまで到達する穴を開けてから試してみてもいいと思う。

 それより先に、凍魔が動き出した時に、黒い鎧抜きで動きを止める方法を考えた方がいいかな。

 でも、それってあたしが魔術の索で縛ったくらいじゃダメかな……?

 凍魔って、あの魔王くらい強いみたいだしね」

「俺にも悪魔が使うみたいな、呪いの魔術が使えりゃあな……」

 

 以前の戦いを思い出しつつディゼムが口にすると、ホウセが彼を指さす。

 

「あ、それなんだけど」

 

 彼女はまた一口茶を啜って、続けた。

 

「今まで言ってなかったかもしれないけど、悪魔の素の魔術抵抗ってすごいんだよ。

 エリカレスの受け売りだけど、中級以上の悪魔には直接変性させる魔術がほとんど効かないんだって。

 訓練しなきゃいけない人間とは根本的に違うんだろうって、エリカレスは言ってた」

「んじゃあ、俺が仮にそういうのを使えたとしても、凍魔相手に効く見込みは薄いと……」

「断言はできないけどね。ごちそうさま」

 

 ホウセは茶を飲み干すと、トレイにカップを置いて言った。

 そして、提案を続ける。

 

「だったら、雪に隠して吸引の魔術紋様を設置して、そこにおびき寄せるとかがいいと思う。

 紋様が破損した時点で効果が発動する“条件付き待機”っていう技法があるから、睛画(せいかく)を書く人がいなくても大丈夫なやつ」

「そうか、もしプルイナを引きはがせたら……

 動き出した凍魔を、俺とお前と青騎士総出で追い込んで、魔術紋様の罠にかけて動けなくする」

「そこにとどめを刺す、って感じかな」

「……俺の魔拳で行けっかなぁ……ちょっと自信なくなってきた」

「他にも予備の手段はあった方がいいね。

 アケウたちが来てくれたら、もっと強い武器もいっぱい作れるだろうし、あたしも参加できるし。

 あとは、ネッキーたちにも意見を聞いてみたいな」

「ネッキーたちか……ヘルディンに訊いてみるか」

 

 レブルに訊いたところ、彼女はネッキーたちの住処に言っているという。

 ディゼムとホウセは、それぞれの鎧を着装してそこに向かった。

 

***

 

 二人は再び、ネッキーたちの住処へとやってきた。

 ネッキーたちに案内されて、ディゼムとホウセは長老の臥せっている部屋へと入る。

 ヘルディンが彼らを出迎えて、微笑んだ。

 

「二人とも、ありがとうございます。様子を見に来てくれたんですか?」

「それもあるけど、長老さんに話を聞きたくてな。

 あの凍魔について、何か知ってるんじゃねぇかって」

「意識ははっきりしてるんですけど、ちょっと待ってくださいね」

「うん」

 

 少女が、寝床の長老に声をかけるのが見える。

 長老が弱々しく頷くと、彼女はディゼムたちに手招きして、

 

「どうぞ。今は容体は安定していますが、声は小さめにお願いします」

「わかった、ありがとな」

 

 二人がそのまま長老の枕元に近づくと、彼は体を起こさないまま、口にした。

 

「……話はヘルディンから聞いている。機械でおれの病を治してくれているそうだな」

「あぁ……調子はどうかな、長老さん」

 

 ディゼムが尋ねると、彼は少々困惑した様子で答える。

 

「若返った気分だ。こうして人間から、恩を受けることがあるとはなぁ」

「別に見返りが欲しくて治療したわけじゃねぇよ。

 ヘルディンに頼まれて、俺の相棒が勝手にやっただけだ」

「その相棒が、あの氷の悪魔を自分ごと封印したとも聞いている」

「……その通りだ」

「ならば、おれの知っていることを全て教えよう……

 もう話す必要もないと思っていたことだが……」

 

 白髪に覆われた口から、昔話が始まった。

 

***

 

 かつて悪魔が地上から人間のほとんどを駆逐したのが、150年ほど前のこと。

 長老キシュタの伝える伝承は、更にそこから100年を遡るという。

 当時からそこは標高も高く、決して温かいわけではなかった。

 だがその時、その地を更に過酷な寒波が襲った。

 それを起こしたのが、氷の悪魔だった。

 キシュタの見方では、それは恐らく、現代のトラルタに現れた凍魔と同じものだろうという。

 ともあれ、氷の悪魔からは寒波が広がり、その地を氷に閉ざした。

 人間もネッキーも凍え、その地を捨てねばならないかと思われた。

 そのまま凍土と氷河が、全世界に広がるかと思われたその時、その地に二人の魔術師が現れた。

 一方が人間で、もう一方がネッキーだったという。

 二人は共同して、氷の悪魔を卵へと戻した。

 そして、更に、その地にあった大岩を中心に、共同して異空間を作った。

 卵へと戻った氷の悪魔を、彼らはその異空間の地の底深くに封じ込めた。

 そのようにして、世界は事なきを得たのだった。

 ――だが、話はそこで終わらない。

 平和になった地上ではあったが、今度は人間たちがネッキーたちを追いやるようになった。

 ネッキーたちは、氷の悪魔を封じた二人の魔術師に助けを求めた。

 彼らは思案して、人間が追って来られない場所を提示した。

 氷の悪魔を封じた、異空間の中だ。

 二人の魔術師は事の経緯をネッキーたちに教え、住むのは構わないが、大地を深く掘ってはならないと警告した。

 そしてまた、もし万一、氷の悪魔が蘇った際にはこれを使ってそれを殺せと言って、剣を授けて去った。

 それはいつしか、“雪解けの剣”と呼ばれるようになり、ネッキーたちの宝として、大切に秘匿されてきたのだった。

 ディゼムはそこまで聞いて、思わずキシュタに尋ねてしまう。

 

「え、その剣は今どこにあるんだ……!?」

「150年前に人間たちがこの地に押し寄せてきた時に、安置場所ごと奪われた」

「え"っ……じゃあ書記官長さんが持ってるってことか?

 見た目の特徴とか、あるか?」

「形は何の変哲もない剣だが……刃が銅のような、赤みがかった色をしている」

「それなら、見つけやすいか……?」

 

 ネッキーたちには悪いが、トラルタの宮殿にあるということなら、話は早いように思われた。

 そこに、ディゼムの後ろから声をかける者がいた。

 

「少しばかり気まずいですが、私も宮殿に連れて行ってください。

 何かお手伝いできるかも」

 

 バクラヴァだった。

 凍傷を治療中の足をプルイナの作った繊維質で包まれたまま、松葉杖でよろよろと歩いている。

 それを見て、ホウセが言う。

 

「あ、バクラヴァ。足のケガ、治すよ?」

「これはどうも」

 

 バクラヴァの靴を脱がせ、足を包んでいる繊維を剥がすと、彼女は呪文で治療を行った。

 痛ましく腫れあがった組織が収縮していき、見る間に健康な状態に戻っていく。

 それを見届けて、ホウセが彼に訊ねた。

 

「これで……痛くない?」

「助かりました、ありがとうございます」

 

 脱いでいた靴を履きながら、バクラヴァは笑って礼を言った。

 ディゼムも、キシュタに礼を言う。

 

「俺たちも助かった、長老さん。ありがとう」

 

 そして念のため、更に問う。

 

「……あとさ。療養中に色々教えてもらって悪りぃんだけど、何か他に、手掛かりになりそうなもん、ないかな」

 

 キシュタは少し考えるように目を伏せて、言った。

 

「……気がかりなことならある」

「気がかり?」

 

 再び少し間を置いて、長老は自問するように口にする。

 

「なぜ二人の魔術師は、凍魔を殺せる武器を作れるにもかかわらず、あれを封印するにとどめたのか、とな」

「……確かに」

 

 言われてみれば、妥当な疑問だった。

 ネッキーたちを救済するにしても、凍魔を殺してから異空間を作っても良かったことだろう。

 殺せない事情があったのか? ならばなぜ、後で殺す手段を与えたのか?

 ただ、今のところはその伝承の、雪解けの剣とやらを探してみるべきと思われた。

 ディゼムたちはバクラヴァを伴ってトラルタの宮殿に戻り、エシアに仔細を尋ねた。

 が、彼女は表情を変えずに答える。

 

「そう言った品の話は聞いていない。

 宮殿の倉庫を開けさせるから、そこを漁ってみろ」

 

 ディゼムたちは開放された倉庫に入り、中を探してみた。

 書記官長であるエシアの性格なのか、倉庫の内容物は整然と分類・整理がされており、捜索しやすかった。

 だが、目録を読んでいる――足の負傷で捜索には参加できない――バクラヴァが首をひねる。

 

「昔ネッキーたちから奪った物品で、魔術の品なんかは確かに倉庫にあるはずですが……

 毎年棚卸もしてるんですけど、ここに剣なんてないはずですよ。

 実際、目録にもありませんし」

 

 彼の言う通り、半日ほどを費やして全ての内容物を改めたが、剣は無かった。

 

「長老さんは人間に奪われたって言ってたが……」

「書記官長が現在の地位に着いたのは、20年ほど前です。

 我々の祖先がここに来てから、それまでに130年ほどの時間があった。

 最悪、その間にどこかに流出してしまったのかも知れませんな」

「クソ、空振りかよ……」

 

 落胆したところに、ホウセが彼の肩を叩いて言う。

 

「そろそろ槍が直ったかも。ちょっと関所に行って、動作確認してくるね」

「おう」

「赤縫変異!」

 

 彼女は倉庫を出て宮殿の塀を飛び越え、関所へと飛んで行ってしまった。

 ディゼムは縋る気持ちで、バクラヴァに尋ねた。

 

「バクラヴァ、例の剣がどこに行ったか見当はつかねぇ?」

 

 問われた彼は顎を捻りつつ、人差し指を立てて口にする。

 

「まだ形と機能とを保って、どこかに現存していると仮定しましょう。

 ならば、倉庫にないのは、現在の目録を作成される前に盗まれた、民間に払い下げられたといった線が考えられますね」

「それを追っかける方法は……二十年以上前じゃ無理かなぁ」

「しかし、見た目は銅剣ということですよね。

 剣なんて基本、実用品としては人間を殺すためだけの道具です。

 薪割にも大工仕事にも使いづらいものを、麦や酒と交換してくれる人なんていません。

 そんな品を盗む者が、トラルタにいるでしょうか?」

 

 貨幣のあるインヘリトで生まれ育ったディゼムにとってはやや実感しづらい話だったが、要は剣を欲しがる者などほとんどいないということだろう。

 とはいえ、不可解な点もあった。

 

「でも、魔術の品ってことくらいは分かるだろうからなぁ。

 使い方不明の魔術の道具を、当時の政府がどうしたか……」

 

 考え至って、ディゼムは肌が小さく粟立つのを感じた。

 

「……まさか、捨てた……!?」

 

 それを聞いて、バクラヴァが言う。

 

「捨てたのだとすれば、宮殿からの廃棄物は燃やして灰にして、畑に撒いてますね。

 燃え残ったもので金属があれば鋳潰して、それも出来ない物は北東の湾に捨てている筈ですよ。

 今は埋め立て地になってますが」

「じゃあ今は海の底どころか、土の下か……!?」

 

 ディゼムは愕然とした。

 埋立地に埋まっているのだとすれば、それを掘り返して探すのは現実的ではない。

 とはいえ諦めきれず、ディゼムはバクラヴァに尋ねた。

 

「どうしようもねぇかも知れねぇが……

 その埋立地ってとこ、案内頼んでもいいか」

「そりゃ構いませんけど……ディゼムさん、その青騎士の服、やめといた方がいいですよ」

「え……」

 

 今のディゼムは、トラルタ正規の青騎士隊と同様の、青い全身鎧に変形する青い衣服を上下に着ていた。

 彼は意外な気持ちで、バクラヴァに問う。

 

「まずいのか?」

「ちょっと事情がありましてね。畳んで持ってる分には大丈夫でしょうから、行くなら着替えてからにしましょう」

「分かった」

 

 その後、ディゼムは仮説拠点の管理者に行き先を告げて、埋め立て地へと向かった。

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