魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る   作:kadochika

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5.11.雪解けの剣

 バクラヴァに案内されて、ディゼムは埋立地に到着した。

 凍魔の影響か、弱いながらも雪が降り始めており、景色全体が白みを帯びている。

 この事態でも埋め立ては続いており、大勢のトラルタ人が石や土砂を運んで、作業に勤しんでいた。

 その影響か、土と塩の入り混じった、奇妙な匂いがする。

 ディゼムはその光景を見て、剣については断念すべきかと考え始めていた。

 

(……こんなとこを掘り返して探すなんて、無謀だよな……

 クソッ……プルイナがいりゃあ、さっと見つけてくれんのかな……)

 

 ディゼムは内心で歯噛みしながら、ふと、別のものが意識に止まる。

 埋め立て現場から数百メートルほど離れた沿岸部に、簡素な――あるいは粗末な作りの小屋がずらりと並んでいた。

 そこには大勢の人々が出入りしており、その動きを見る限り、埋立地の関連施設というわけではないようだ。

 彼は気になって、やはりバクラヴァに尋ねてみた。 

 

「あの並びは何?」

「あぁ、あそこは――大きな声じゃ言えませんが、闇市です」

「あぁ……」

 

 答えを聞いて、納得する。

 

「そういうの、やっぱりあるんだな……もしかして、書記官長さんも黙認してるってやつか」

「ご明察です。我が国では、全ての生産物は国に帰属し、それが国民に平等に配給される……

 という建前ですが、それだと賄賂もはびこりがちになりますし、国民同士での取引を禁止するというのも現実的ではない。

 なので、ああして兵士や青騎士も立ち入らない場所が設けられているんです。非公式にね。

 もっとも、露骨に儲けすぎると目を付けられますが……

 私が青騎士の服は着ない方がいいと言ったのは、そうした理由でして。

 着たまま近づいたら、書記官長の手先だと誤解されますよ」

「ふーん……」

 

 そこは、インヘリトで言えば遷都横丁のような活気を感じさせた。

 海辺ということは、主にやり取りされているのは海産物だろうか。

 その並びの入口と思しき場所では人だかりができており、何か見世物を開いていると思しかった。

 

「ん……?」

 

 何故かそれがひどく気になって、ディゼムはそこに向かって歩き始めていた。

 

「はい、一枚目が取れたァ!」

 

 威勢のいい掛け声と共に、群衆から小さなどよめきが上がる。

 そこに近づいて行くディゼムを見てか、バクラヴァが後ろから声をかける。

 

「ディゼムさん、あそこに何か用事ですか!

 麦も酒も持ってないなら、何も買えませんよ!」

「悪りぃ……いや、ちょっと気になってな?」

 

 更に近づいて行って、群衆の端から覗く。

 それはどうやら調理台に巨大な魚を乗せ、それを切り捌いて行く過程を見せる見世物だと思われた。

 

「麦1/4アローバで一切れだよ! さぁ買った買った!」

 

 ついでに、切り身も売っていくという催しらしい。

 切り身を買うのか、天秤の一方の皿に、持参した袋から麦を流し込んで行く客の姿もある。

 ここでは麦が、実質的な通貨として用いられているようだった。

 が、ディゼムはそこで、気づいてしまった。

 

「…………!?」

 

 調理台に乗っているのは、全長二メートルを超えようかという、平たく巨大な魚だ。

 そしてそれを捌くのに料理人の一人が使っている刃物が、気になった。

 そこに、追いついてきたバクラヴァが、声をかける。

 

「ディゼムさん、観光が悪いとは言いませんけど、今は見世物なんてどうでもいいでしょ……

 帰って代替策を考えましょうよ」

「いや待ってくれ。ほら、あれ!」

 

 ディゼムは指さして、訴える。

 料理人が魚に刺し込んでいる長い刃物の刃の色が、調理用には似つかわしくない赤みがかった銅色をしているのだ。

 柄も含めた長さは、人間の腕程度。

 ネッキーが剣として振るうにはちょうど良いかと思われた。

 彼はそれを指さして、言う。

 

「なぁ、もしかしてあれじゃねぇのか?

 雪解けの剣ってやつは……!?」

「……魚の解体が終わったら、聞いてみます?」

 

 ディゼムは思わず期待してしまっていたが、バクラヴァは疑っているようだった。

 そして解体が終わり、群衆が解散するのを見計らい、ディゼムは料理人に声をかけた。

 

「悪りぃ、その剣についてちょっと、聞きたいんだが……」

「何だ、見かけない兄ちゃんだな?」

「えーと、まず俺はだな……」

 

 ディゼムが包み隠さず事情を話すと、彼は怪訝そうな顔で言う。

 

「悪魔が出たらしいってのは噂で聞いたがなぁ……

 こいつがそれを倒す切り札?

 ……まぁ、親父が生まれる前に網にかかった魚の腹から出てきたって聞いてるけどよ。

 うちで代々使ってても錆びる気配も一向にねぇし、そういう()()()があってもおかしかねぇのかもな」

「…………」

 

 海底に投棄された剣を底生魚が誤食し、それが漁獲され、陸へと戻ってくる――

 奇跡じみているが、全くあり得ない筋書きでもないように思われた。

 剣を握って軽く掲げる料理人に、ディゼムは懇願した。

 

「頼む、そいつを貸して欲しい!

 悪魔を殺したら、必ず返す!」

 

 すると彼は朗らかに笑って、

 

「いや、こりゃあ商売道具だしよ。

 あの強欲な書記官長様に貸したままパクられちゃ敵わねぇ」

「どうすりゃ貸してくれる……!?」

「そんなに欲しいのか? そうさな……」

 

 頭を下げるディゼムを見て首を傾げつつ、彼は条件を提示した。

 

「こいつの代わりになると保証されてる何かがあって、そいつをロハでくれんなら貸してもいい。

 俺たちも、もしトラルタの海がまるごと凍っちまったら困るのは確かだしな」

「今まで同様に魚を捌けて、錆びない大包丁があればいいと?」

 

 バクラヴァの問いに、料理人は答えて、

 

「まぁ、そうなるな」

「…………分かった、何とかしてみる」

 

 ディゼムはそう約束して、闇市場を離れた。

 その隣を歩きながらバクラヴァが、彼に訊ねる。

 

「ディゼムさん、そんなアテあるんですか?

 宮殿の倉庫にも、包丁なんて無かったでしょう」

「作る」

「作る……? まさか、あれの代わりになる錆びない大包丁を作ろうってんですか?」

「雪解けの剣は、大昔の魔術師が作ったシロモンだろ?

 言っちゃなんだが、魚包丁にしとくのは宝の持ち腐れだ。

 凍魔を殺せるような性能は省いた、錆びない頑丈な包丁ってだけなら……

 俺が魔術で何とか作ってみることもできるんじゃねぇかってな」

「できるんですか、そんなこと?」

「錆びねぇ程度なら心得がある。

 ホウセやトラルタの魔術師に知恵を借りるって手もあるしな」

 

 だが、ディゼムたちが宮殿に戻ると、悪い知らせが待っていた。

 ホウセが、外に出るのに失敗したという。

 

「マジかよ……」

 

 彼は詳しく話を聞こうと、バクラヴァと別れてホウセを探した。

 魔術師や兵士に話を聞きつつ、宮殿の外れに作られた庭園に出る。

 弱いながらも雪が降っており、草花がしおれ始めていた。

 

「――!」

 

 その隅に置かれたベンチにうずくまるように座っている彼女を発見し、ディゼムは声をかける。

 

「ホウセ! おい、大丈夫か……?

 どこか調子悪いのか……?」

「……あたしは大丈夫」

 

 ホウセはもぞり、と動いて、小さく、弱々しく返事をした。

 見てすぐに分かったが、彼女は今は、真紅のマフラーを首にも腰にも巻いていない。

 

「その声は大丈夫じゃねぇだろ……」

 

 と彼は声をかけ、

 

「……隣、いいか?」

「……うん」

 

 返事を待ってゆっくりと腰かけると、老朽化しているのか、ベンチがわずかに軋んだ。

 すると、ホウセが口を開く。

 

「ごめん、ディゼム……もう聞いてるよね?

 あたしの槍で、外に出られなくなったって……」

「あぁ……」

 

 落ち込んでいる理由が本人の口から明らかになり、ディゼムはやや、安堵した。

 気遣って、口にする。

 

「それで、責任感じてんのか」

「……そういうことだと思う……」

「お前のせいじゃねぇだろ……槍の修復は完璧なんだろ?」

「うん……一緒に来た魔術師と誤修正の箇所を探したんだけど、見つけられなくて……

 今、他の魔術師にも念のため見てもらってるけど……」

 

 真紅のマフラーを身に着けていないのは、そうした理由らしい。

 そして、更に言葉をかけた。

 

「そんなに気にすんな……ってのは無理か。悪りぃ」

「うん……」

 

 心なしか、彼女の泣きそうな気配が薄らいできたように思えて、ディゼムは考えを口にする。

 

「あとは、凍魔を倒してみるしかねぇな。

 あいつが出てきてからだろ、合言葉でも、槍でも外に出られなくなったのって。

 大昔の魔術師たちが、凍魔が復活しても外に出られねぇように、そういう仕組みにしたのかも知れねぇし」

「そうだけど……でも、もし倒してもダメだったらどうしよう……」

 

 随分と悲観的になっているように感じたが、ディゼムはとりあえず、と考えを述べた。

 

「……外に出る方法を研究しながら、しばらくはここに住むしかねぇだろうな」

「……一緒に?」

「えっ」

 

 彼女の口から考えの埒外の言葉が出てきて、ディゼムは一瞬、硬直してしまう。

 ホウセはそこに続けて、

 

「あたしは一応、ここでも家借りてるけどさ。ディゼムはまだ住むとこないでしょ」

「……それは何つうか……まぁ、後で考えりゃいいだろ、な?」

「……はぐらかさないでよ」

「いやそれよりもさ……! 長老さんの言ってた凍魔殺しの剣、見つけたかも知れねぇんだ。

 それについて、ちと相談したいことがあってだな……」

 

 ディゼムは取り繕うように、まくしたてた。

 

***

 

 その後、ホウセをなだめすかして宮殿の工房へと連れて行き、ディゼムは彼女に教えを乞うた。

 ホウセはペンを掲げながら、所感を述べる。

 

「そういう条件だったら、魔術具として作るのも、まぁ難しくはないかな……」

 

 そして、工房の空いている製図机に向かい、魔術塗料に漬けたペン先を走らせ始める。

 ディゼムはそれを聞いて、尋ねる。

 

「簡単なのか?」

「あたしの鎧みたいに変形しないでいいなら、そこまで難しくないよ。

 何かの拍子に原図に戻らないように、がっちり固まるように不可逆で描けばいいだけだから」

 

 彼女の小さな手によって、すらすらと、描画板に青黒い塗料で外形図が書かれていく。

 

「ただ錆びない――つまり劣化しないってことになると、ちょっと難易度が上がるね。

 出来ればメンテナンスできるように、原図に戻せた方がいいんだけど……

 その料理人、魔術師じゃないんだよね?」

「あぁ、剣が魔術の道具だってことも気づいてなかったみたいだから、それを指摘できる魔術師も身近にいなかったってことかな」

「うーん……じゃあちょっと詐欺っぽくなっちゃうけど、握った人間の魔力を吸って自己修復できるようにしちゃおう」

「勝手に魔力を吸うと、まずかったりするのか?」

「生まれつき魔力の低い人だと、修復が不十分になって包丁の耐久力が下がったように感じるかも。

 本物の金属じゃないから錆びたりはしないんだけど、刃こぼれしやすくなると思う」

「それを防ぐために強度を上げたきゃ、それなりにでかい絵を描く必要があるか」

「そうだね……あたしが修復用に分けてもらった塗料だけじゃ足りないかも。

 エシアさんに追加を注文しないと」

「なら、悪りぃけど頼んできてくれるか?

 俺はその間、作図を進めるから」

「あたしが描いた方が早いけど」

「俺が請け負った仕事なんだが……ま、早い方がいいか。

 んじゃあ、俺が頼んでくるわ」

 

 エシアはやや渋ったが、最終的には塗料の分与に同意した。

 半日ほどで魔術の包丁は完成し、ディゼムはそれを闇市場の料理人に渡して、雪解けの剣——と思われる品を借り受ける。

 三たびネッキーの住処を訪れてキシュタに見せると、それは確かに、実物であろうとの言を得た。

 絶対の保証はないが、彼らは凍魔を殺しうる手段の一つを手に入れたことになる。

 

「ようやく前進したな……」

 

 ただ、キシュタの言っていたことが、気にはなった。

 凍魔を殺せる武器を作れるにもかかわらず、封印するにとどめた二人の魔術師の意図だ。

 

(……殺すと不味いことがある、とかか?)

 

 エシアやレブルと共有はしておくべきだろう。

 彼はそう考えつつ、宮殿に向かった。

 

***

 

 一般的に、祖父母は孫に甘いとされる。

 だが、エシアとしては、ヘルディンをそこまで甘やかしたつもりはない。

 

「お婆ちゃん、ネッキーたちにも、何かできることはない?」

「無い」

 

 交渉と称して会いに来た孫娘の提案を、彼女は却下した。

 理由は分かっている。

 

「凍魔退治に協力して、成功したならその分け前として土地を寄越せというのだろう」

 

 図星だったようで、ヘルディンは眉根を寄せて口を尖らせた。

 

「雪解けの剣はネッキーたちのものだったでしょ!」

「直接の供出者はトラルタ人だ。

 我々に追われたまま、山に閉じこもっているネッキーに何ができる」

「できるよ?」

「む……!?」

 

 その時、エシアは体が不意に重くなるのを感じ、唸った。

 奇妙な感覚ではあるが、痛みや苦しみはない。

 そして、その重量感はすぐに消え去った。

 間違いなく、ヘルディンの仕業だろう。

 

「ヘルディン、何をした……?」

 

 問うと、彼女はくるりと回って背中を見せた。

 背負っているリュックサックの中から、小さな肉球のついた手が覗いている。

 エシアは、推測を口にした。

 

「ネッキーの魔術か……!?」

 

 ヘルディンが、得意げに言う。

 

「魔術印、っていうんだよ。

 おばあちゃんの身体に、こっそり鈍化の印を貼り付けたの。

 効果の強さも時間も、人間の扱う呪文ほどじゃないけど……無言で発動できるからこういうイタズラができる。

 ネッキーならみんな使えるから、使い方次第で凍魔の足止めに使えると思うんだけど」

「…………あまり過大な要求は呑めんぞ」

「そんなつもりはないけど、ホウセさんは味方になってくれるもんねー。

 お父さんとも話すし」

「…………」

 

 ついこの間までは駄々をこねるだけだった小娘が、ずいぶんとませたものだ。

 エシアは面食らって、孫娘に対する自分の甘さを痛感した。

 

***

 

 翌日。

 雪の勢いが強まり、各地で除雪作業が必要になってくる中、作戦実施前の、最後の作戦会議が開催された。

 議長を務めるエシアが開会を宣言し、そして言う。

 

「私は凍魔を撃滅するにあたって、現段階で我が国が用意できる全てが揃ったと見る」

「我が国って、ネッキーのことも含めてる?」

「茶化すな、ヘルディン。協力者として、除外はできんが……今のは議事録からは削除しておけ」

 

 孫娘を窘めつつ、彼女は続けた。

 

「再確認になるが、まず必要なのは、黒い鎧の奪還だ。

 黒い鎧に搭載されている食料生産装置は、是非とも我が国に欲しい。

 これが達成できて、冷害が無視できるなら、凍魔を殺す必然性もなくなる程には重要だ」

 

 インヘリト王国代表として臨席していたディゼムはそれを聞きつつ、再度決意する。

 

(必ず取り戻すからな、プルイナ……!)

 

 エシアの言葉が続く。

 

「もう一つの懸念が、黒い鎧を取り戻したならば予想されるであろう、凍魔の活動再開だ。

 奴の動きが封印前と変わらないならば、これを止め、殺すための手段は複数用意した。

 担当者各自、これは練習を行って準備は万端のことと思う」

「青騎士各隊、いつでも出撃可能です」

「周辺の整地と魔術紋様の敷設、完了しております」

「ネッキーたちも、準備はできてます」

 

 青騎士の隊長や魔術師たち、そしてヘルディンが、これに頷く。

 エシアも頷いて、短い会議をまとめにかかる。

 

「本作戦を、雪解け作戦と名付ける。

 明朝午前六時より、最終準備を開始。

 その準備が完了次第、作戦を開始とする。

 異議や提案はあるか?」

 

 手を挙げる者はいない。

 ディゼムも、最善は尽くしたと考えていた。

 あとは、実行のみだ。

 

「それでは、本会議は終了する。

 おやすみ、諸君」

 

 会議を終えて席を立つ際、ホウセがディゼムの肩を叩いた。

 

「プルイナ、無事に帰ってくるといいね」

「……あぁ、あいつなら大丈夫だろ」

 

 既に、やることは全てやった。

 ホウセは市街地の借家に戻っていき、ディゼムは宮殿に借りている小さな個室で眠った。

 そして、トラルタは翌日を迎えた。

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