魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る 作:kadochika
ディゼムの身体に向かって、漆黒の装甲の群れが殺到する。
彼も――変性した青騎士の鎧を投棄して、それを受け入れる。
黒い鎧は瞬く間に彼の身体を包み込み、互いに結合し合い、その体を覆っていった。
かじかんだディゼムの肌を、優しくも強靭な感触が包み込む。
着装、完了。
落ち着き払った女の声が、彼の耳へと流れ込んできていた。
『ディゼム、待たせてごめんなさい。
本機はただいま、正常な復旧を完了しました』
「思ったよか早かったじゃねぇか……!」
たった数日聞けなかっただけの声が、こんなにも懐かしい。
ディゼムは涙ぐみつつ強がると、早速、黒い鎧の機体を前へと押し出した。
跳躍のみで亜音速に達した鎧は、そのまま凍魔の頭部へと前蹴りを見舞う。
ズドン、と激しい爆発音が響き、凍魔はよろめいた。
「――ッ!?」
その反動を利用して後退したディゼムは、取り残していたホウセを再び抱き上げ、更に後退する。
怒りの形相でそれを追いかけようとする凍魔を、しかし、空中から阻む者があった。
「させるか!」
体当たりで凍魔の横っ面を打ったのは、空を飛ぶ純白の全身鎧に身を包んだアケウだ。
その中から、制御人格のエクレルが声を発する。
『突貫工事で試作した異空間通路、何とか間に合ったな。
詳細はプルイナに共有しておいたから、そっちで聞け』
「お前も相変わらずだな、性悪女!」
ディゼムは憎まれ口を叩きつつ、着装の解けたホウセを安全圏まで退避させた。
そして、告げる。
「ホウセ、他の連中と合流しててくれ!
俺はアケウたちと、あいつを始末してくる!」
「うん!」
彼女はもはや、ディゼムの身を案じていない。
その必要がないのを、理解しているのだ。
黒い鎧には、先ほどディゼムが加えた魔拳による損傷が残っている。
だがそんなものは、今となっては誤差だ。
原因は不明だが、ディゼムの心身には力が漲っていた。
彼は再び離陸し、凍魔を抑えているアケウに助太刀に向かう。
その時、凍魔が全身から電撃を放つのが見えた。
『イダクション・アーマー、行使!』
しかし近い距離にいた白い鎧は、装甲表面に超高導電性物質を析出させた。
内部機器に損傷を受けることなく、大電流は大気中に受け流されていく。
「そんなことできんのか!?」
『本機のデータが役に立ちましたね。
先日は不意を突かれてダメージを受けましたが、手がわかっていれば対策はあります』
ディゼムは驚いたが、鎧たちにとっては難しいことではないようだ。
改めて頼もしさを覚えつつ、彼は凍魔へと魔拳を放った。
爆音と共にその肩が大きく弾かれ、破壊はできないまでも体勢を崩す。
ディゼムが距離を取ると、
『今だ!』
「ガンマ・ガン、行使!」
白い鎧が右腕部装甲を展開し、凍魔に対して限局核レーザー砲を照射した。
不可視のガンマ線バーストが白銀の肌を焼き、爆発が生じる。
だが凍魔の傷は浅いらしく、反撃の電撃が激しく空中に伸びた。
それを見て、プルイナが分析する。
『効果、小。流体の凝固を阻む魔術が、防御的に作用しているようです』
『ならば、これだ!』
白い鎧からエクレルがそういうと、黒い鎧の中のディゼムの視界に、情報が表示された。
「ん、何か来る……?」
『拡張装備が飛来します。ディゼム、追加着装を行います!』
「分かった!」
実は分かっていなかったが、ディゼムは相棒を信じて応じた。
北から飛んでくる物体に、アプローチするらしい。
そちらの方角を見ると、何か黒い物体が飛んでくるのが見えた。
拡張装備とは、そのことか。
それは黒い鎧の近くまで来ると相対速度を落とし、各所に設置されているらしいスラスターを噴かせて滞空を始める。
拡張装備は何やら長大で、巨大な腕のような形をしている――ように思えた。
同時、ディゼムの視界に、「↑ここに右手を差し込め」と表示される。
「お、おう……!」
ディゼムがその黒い物体の開口部に向かって右腕を伸ばすと、向こうから引っ張る力が働き、黒い鎧の右腕が肩まで飲み込まれる。
がちり、と小さな衝撃が走り、黒い鎧のシルエットが大きく変わった。
鎧の中でプルイナが、アナウンスする。
『システム・オンライン、同期確認。
ディゼム、当機は新たな拡張装備、XM-1-XTIAS-6――通称、ジャイガンティック・ゴーントレットを着装しました』
「ジャイ……?」
『巨大な腕です。機体バランスは変わりますが、これまでの腕の十倍の性能を発揮します』
「こいつでぶん殴れってか!」
『それだけではありません』
プルイナが視界に表示した指示に従い、ディゼムは新たな漆黒の巨腕の掌を、凍魔に向けて広げた。
そして、唱える。
「イクスプローシヴ・シェルズ!」
通常の腕部同様に、その掌に設けられた十一の多目的射出孔から、大型化した成形炸薬弾が射出された。
それは凍魔に命中し、轟音と共に威力を撒き散らす。
『続いて、殴る!』
「しゃあッ!」
巨腕の肩の後ろに設置されたスラスターから巨大な推力が迸り、黒い鎧を加速した。
凍魔は魔術の衝撃波でこれを撃墜しようとするが、安直で力強い暴力が、その防御を突き崩す。
そのまま彼女の手をすり抜けて、ディゼムの巨大な魔拳がその顔面を打ち抜いた。
「――――ッ!!?」
ついに、凍魔が大きく転倒する。
追撃を受けまいとしてか、再び強力な電撃が全方位に放たれるが、鎧たちの装甲表面の放電処理によって受け流された。
『効果、小。巨大化を考慮しても、防御力が異様に上昇しています』
「……あの雪解けの剣の効果なのか……?」
そこで、アケウが白い鎧の中からディゼムに告げた。
「ディゼム! その悪魔の胸部に、本体とは違う魔力の塊が見える!」
「ん、もしやそれって……」
「細長い形状……剣かな?」
エクレルからプルイナに情報が送られたのだろう。
黒い鎧の中のディゼムの視界に、凍魔の身体の内部に何かがあることが輪郭線で示される。
よく見ると、アケウの着装する白い鎧は、頭部の形状が変わっていた。
白い鎧は本来、ディゼムの黒い鎧と色以外は全く同じだったはずだが、今は仮面を被ったようになっている。
その経緯はよく分からなかったが、ディゼムは親友を信じた。
「なら、返してもらうぜ、雪解けの剣!」
彼は黒い鎧を急加速させて、凍魔に突撃した。
そしてその胸郭に巨腕の手刀を突き立てようとするが、直前、彼女は両手で黒い鎧を挟むように掴み取る。
しかしその顔面を、今度は白い鎧の放った限局核レーザー砲が直撃した。
「―――ッ!!?」
「ナイスッ!」
隙を突いて拘束から抜け出たディゼムは、今度こそ魔力を手刀に集中させ、凍魔の胸郭を突き破る。
血肉と骨を破壊する感触が、伝わってくるように感じられた。
『目標物を摘出します!』
凍魔は激しい苦痛からか、両手で黒い鎧を引きはがそうと試みる。
ディゼムはそれに負けずにしがみつき、青黒い組織片や体液のこびりついた巨腕を引き抜いた。
そこには、小さな銅色の剣が握り込まれている。
これが凍魔に力を与えていたのだろう。
「うぉっ!?」
ディゼムは凍魔に掴まれて放り投げられるが、雪解けの剣は奪還した。
スラスターを噴かせて姿勢を立て直し、伸びる髪を回避しながら、彼はアケウに尋ねる。
「アケウ、伝説じゃ、この剣があいつの弱点らしいんだが!
さっきは刺しても効果がなかった、何かわかるか?」
「凍魔の魔力の源は腹部だね。
エクレル、僕の視線の位置を送って!」
『ここだ』
ディゼムの視界に、臓器の一つと思しい輪郭線が表示される。
「ガンマ・ガン、行使!」
「――ッ!!」
白い鎧の放った限局核レーザー砲を、凍魔が両腕で防ぐ。
そこに生じた隙をめがけて、黒い鎧が飛翔した。
「悪く、思うなよッ!」
左腕で、雪解けの剣を凍魔の腹部へと突き刺す。
凍魔は両腕でディゼムと黒い鎧を跳ね除けるが、更にそこに、アケウと白い鎧が蹴りを放った。
深々と突き刺さった銅色の剣が更に奥へと侵徹し、効果を発揮する。
凍魔の中核部分へと到達した剣は、先ほどまでとは逆に、彼女の魔力を吸い始めた。
「――!!」
凍魔の動きが鈍っていく。
雪解けの剣の刃から、無数の枝が植物のそれのように、しかし激しく、爆発的に伸びた。
それがディゼムたちの目には、凍魔の身体の内側から突き出した多数の針のように映る。
「キァァァァァ…………!!」
凍魔の悲鳴らしき声が聞こえる。
それを聞き、膝をつく凍魔の姿を見てディゼムには、二人の魔術師たちが凍魔を殺さなかった理由が分かった気がした。
純粋に、憐れんだのだ。
殺さずとも解決できるならば、そうしたいと願ったのだ。
(あんたたちの気持ち……分からなくもねぇぜ……)
ディゼムとアケウが、それぞれの鎧と共にやや距離を置きつつ、凍魔の末期を見定めようとしていた、その時。
「――――ッ!!」
凍魔が、口から何かを吐き出した。
それは高速で飛翔し、巨大化する前の凍魔と同じ形をしている。
プルイナが、呼びかけた。
『ディゼム!』「おう!」
すると、黒い鎧の装備していた右の巨腕――ジャイガンティック・ゴーントレットが変形する。
それは黒い鎧が元から装備していた、腕部装甲を変形させる切り札に似ていた。
『ジャイガンティック・ガンマ・ガン――』
「――行使!」
装甲内部で核爆発を生じ、そこから発生した大量のガンマ線を高密度・高コヒーレント化して照射する、純然たる殺戮破壊兵器だ。
それは、その場から脱出を試みた凍魔を、空中で完全に塵にしてしまった。
プルイナが、落ち着き払った声で報告する。
『凍魔、消失しました。
本機には魔力の計測はできませんので、詳細な観測は専門家に任せたいと思いますが……
放射性物質の飛散は、許容範囲内です』
一方で、雪解けの剣に魔力を吸われた凍魔の元の身体も、灰のようになって崩れ去ろうとしていた。
ディゼムは緊張を解かないよう心掛けつつ、口にする。
「……やったのか」
『気温が少しずつ上昇を始めています。蓋然性は高いでしょう』
見れば、雲間から陽光が差し込んでいた。
トラルタを覆っていた雪雲が、薄れ始めているのだろう。
ディゼムたちには聞こえなかったが、エシアが遠話を通して、青騎士たちに宣言する。
「……これにて、雪解け作戦を終了する。
各員は、一度仮設拠点に戻れ。
よくやってくれた」
凍魔が、撃滅された。
異常な冬が、終わる。
知らせはトラルタ全土に伝わり、人間たちとネッキーたちはそれを喜んだ。