魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る 作:kadochika
『実は、我々XTIAS-6には、この世界では寿命があります。
今後の状況次第では、あまり長い間、あなた方に協力を続けることができないかも知れません』
プルイナの発言に、ファリーハが眼鏡の位置を直しつつ、問う。
「……寿命、ですか?」
黒い鎧が答える。
『正確には、稼働時間の制限です。
我々の動力源となる分散型QGPコアの持つエネルギーが、有限であるためです。
これがゼロになると、我々は行動できなくなります。
QGPコアの補充が期待できない今の状況では、それが尽きた際の、再稼働の望みはありません』
「え、待てよ。お前ら、死んじまうのか……!?」
ディゼムが動揺を見せると、プルイナはその一部を否定する。
『死とは異なりますが……これまでのような活動はできなくなるでしょう』
そこにファリーハが、再び問う。
「それは、具体的にはいつまでなのですか?」
『召喚を受けてから現在までのペースの平均値を算出すると、およそ二日と八時間程度です』
「は!? ……三日後!?」
不安げなディゼムに、プルイナが答えた。
『ですがそれは、現在までと同じペースで国外の各コミュニティを支援し、悪魔と戦い続けた場合の話です。
実際には、三日後にも問題なく活動できるでしょう。
ただ、我々が召喚を受ける前、我々を製造した木星開発機構軍は、その稼働期間として800年程度を想定していました。
大量の余剰エネルギーを蓄え、無補給での長期間の軌道上戦闘を耐え抜く。
このドクトリンは、悪魔との戦いでも有効でしたが……
しかしそのエネルギー残量は、この三か月で召喚当初の、1/40以下に減少しています』
「……悪魔との戦いで減ったということですか?」
『戦闘が激しいためもありますが、何度か使用した自己複製プリンターに、QGPコアを分配しているためです』
ファリーハの問いに答えて、プルイナ。
『現在、自己複製プリンターはインヘリト本土、アウソニア、トラルタで稼働していますが、更に何度か戦闘用装備の作成にもQGPコアの残量を消費しました。
今回黒い鎧の増加装備としてジャイガンティック・ゴーントレット、白い鎧の頭部を改装してルーシーズ・レンズを製造しましたが、これで五年分ほど。
トラルタへの自己複製プリンター供与では、更に五十年分ほどのエネルギーを消費しています』
「十年分の食料を作るのに、そんなに必要なのですか?」
『物質転換を行う機械を正確に複製し、更に動き続けるようにするには、それほどのエネルギーを使うのです』
それを聞いて、今度はアケウが問う。
「戦ったりしなければ、長生きできるってことでいいのかな」
『自己複製プリンターに、QGPコアを大幅に割くことをしなければ、それなりに期限は伸びる。
例えば、ここでこのまま動かなければ500年程度は話し相手も出来るだろう。
戦闘も、よほど激しいものでなければ年間1000時間として、20年は可能だ』
「寿命を増やす方法はねぇの?」
『現在のところありません』
ディゼムが更に問うと、プルイナはそれを否定した。
『我々の動力源となっているQGPコアの製造には、巨大な設備と膨大な電力を必要とします。
我々の保有するQGPコアの残量では、それらを生み出すには足りません。
たとえ召喚当初と同じ量が残っていても、です』
「と、なると、当然インヘリトの発電所から供給することも難しい、と」
『QGPコアを使用せず直接給電を受けて動作することも可能ですが、』
ディゼムはファリーハの方を見て、尋ねた。
「……よく分かんねぇけど、姫様、召喚で何とかなりません?」
彼女はかぶりを振って、
「彼女たちを呼び出せたことが、既に奇跡に近いのです。
その寿命を延ばす存在など、召喚式の算出に必要な条件からして想像がつきません。
持ち帰って検討はしますが、現実的ではありませんね」
そこでエクレルが、話し向きを変える。
『必要なのは、この世界の人類が早急に、悪魔に対抗する能力を確立することだ。
そうすれば我々も不要となり、送還の魔術によって太陽系に帰還できる。
今のところ兵力の増強はうまく行っているとは思うが、この世界全土に存在する悪魔を押し返すには足りない。
我々を複製するという手段も考えたが、製造するだけならまだしも、実際に着装者を迎えて悪魔と戦うのであれば、十分な量のQGPコアを動力源として分けねばならないのが痛い』
続けて黒い鎧から、プルイナが補足した。
『試算では、我々の複製には現残量の半分ほどのQGPコアが必要ですが……
結局その新造した複製にもQGPコアを分け与えなくてはなりませんので、稼働時間はさらに短くなってしまいます』
「じゃあ無理か……」
『トラルタに向かう前に相談すべきだったのですが、入国直後に凍魔との戦いに入ってしまったので……
トラルタの人々を優先しました』
「まぁ、出し惜しみして死ぬよかマシではあるか」
ディゼムが自分に言い聞かせると、そこで、ホウセが提案する。
「それじゃあ、メイエに聞いてみようか?
場所的にはトラルタから一番近いし、異世界の鎧についても何かしら、手がかりくらいは知ってるかも」
ディゼムは腕組みをしつつ、尋ねる。
「メイエって、湖になった人らのことだろ?
そんなに何でも知ってるのか?」
「いやまぁ……何でもは知らないかも知れないけど……」
ホウセは自信なさげに黙ってしまうが、ファリーハが話を畳みにかかる。
「……考えるべきことが増えました。詳しくは、次の機会にしましょう。
今は、みんな休むべきです。わたくしも、少々疲れが――」
「殿下!?」
立ち眩みを起こしたらしい彼女を、立ち上がったアケウが慌てて支えた。
ファリーハは白い鎧の着装治療によって一時的に回復し、一部の予定をキャンセルして病院に向かった。
アケウが彼女を送って行き、ディゼムが魔術省の関係者に事情を説明することになるという顛末があったが、それはまぁ、些事と言っていいだろう。
***
ディゼムは、インヘリト特別市の外れにある拘置所に来ていた。
何の用かと言えば、母であるという女、ミカレに面会するためだった。
彼がトラルタで内紛に巻き込まれ、凍魔と戦い滅ぼし、その後始末などに奔走していた25日ほどの間に、インヘリト王国では裁判などの手続きが進んでいたのだ。
裁判の結果は出ていないが、既に被告人となったミカレは、拘置所で生活している。
ディゼムが面会の予約を取って待っているのは、そのためだ。
「ディゼム・タティさん。中へどうぞ」
「はい」
係官に呼び出されて、ディゼムはベンチから立ち上がって面会室へと入った。
そこには、先日よりわずかにやつれた印象の、ミカレがいた。
「久しぶり。会いに来てくれて、とても嬉しい」
「……あぁ」
ディゼムは頷いて、彼女に陳謝した。
「この前はその……乱暴な言い方して、悪かったと思ってる」
「いいの。仕方ないことだもの」
「……父親の話、聞かせてくれよ」
「名前は覚えてるよね? ディアム・タティって……」
「あぁ……爺ちゃんと婆ちゃんは、自分たちの息子としてしか話さねぇからさ。
夫としては、どうだったのかなって」
「そうね……」
彼女の語る所によれば――
かつてミカレ・グリマーは、魔術紋様の研究を志し、王立大学へと入学した。
そこで出会ったのが、先に入学して研究を進めていた、ディアム・タティだ。
ミカレの贔屓目もあったかもしれないが、気のいい男で、正義感と思いやりがあった。
彼女はすぐにディアムに惹かれて行き、研究テーマが近かったこともあり、二人は意気投合した。
私生活での付き合いも深まっていった。
特にディアムは卒業後、魔術紋様の設計を請け負う企業への就職が内定していた。
ミカレが卒業した直後、二人は結婚し、ディアムの実家で暮らすこととなった。
そしてディゼムが生まれたが、しかし、そこでディアムは病死してしまう。
本来ならば商家としてそれなりの権勢のあった実家を頼るべきだったのだが、しかし実家は当時起きた汚職事件に巻き込まれて焼き討ちに遭い、その上父親が死亡していた。
とても駆け込める状態ではなかった。
――彼女の話は、そこで途切れた。
ディゼムは彼なりに、その心情を慮って声をかける。
「……良い人だったんだな」
「……うん……」
ミカレが、涙をぬぐう。
ディゼムはやや気まずく感じて、話題を変えた。
「……裁判、まだしてるんだよな」
「えぇ……重い罪になると思う」
「…………」
そこでディゼムは、思い悩んだ。
旧世界奪還計画の最前線にいる自分がファリーハに訴え出れば、あるいは減刑ができるのではないか?
どう考えても、倫理上問題があるが。
ディゼムはその考えを取りやめて、気になっていたことを尋ねた。
「……言いづらかったらいいんだけどよ。
何で反王国組織に行ったんだよ?」
「……卑しい話になるけど、十年前は景気が悪くてね。
勤めてた商社が潰れちゃって、次の当てもなかったの。
そこに大学時代の先輩に誘われて入った会社が……」
「…………」
聞いていると、ミカレは一層視線を落として、小さく首を横に振る。
「いや、違うか……本当は、世の中を恨んでたのかな。
ディアムを失って、父親も失って、あなたを連れて実家にも帰れなくて……
こんな世界、滅びればいいって思ってたのかも」
予想よりも酌量すべきと思える身の上を聞いて、ディゼムは唸った。
「……うーん……そこまで不幸が続いたら同情の余地はある……かも」
しかし、彼女は今度は視線を上げ、再び小さく首を横に振る。
「でも、大きくなったあなたを見たら、少しは気が安らいだみたい。
自分の人生が、無駄じゃなかったっていうか……」
「そ、そうか……」
そこに、係官が声をかけた。
「面会時間、終了します」
ディゼムはそれを受けて、会話を締めくくった。
「その、さ。あんたのこと、まだ母親とは呼べねぇし、全部許せたわけじゃねぇけど……
たまに会いに来るくらいはするから」
「うん。ありがとう」
「じゃあな」
そう言うと、彼は面会室を出た。
インヘリトはすっかり夏になっており、暑かった。
高く上がった陽が、窓から廊下へとわずかに差し込んでいる。
「…………」
ディゼムは少しばかり気がかりが晴れたように感じて、足を踏み出した。
建物の外に出ると、天には青空が広がっている。
そして正門を出て、官舎に戻ろうとすると、そこに。
「よっ」
街路樹の木陰に、ホウセが立っている。
暑いからか、今日は上半身は半袖の薄いシャツを着ている。
首と腰に巻いた真紅のマフラーはいかにも暑そうだったが、本人の話では、夏場は冷却装置として作用するのだったか。
それはともかく、彼女がここにいる理由を察して、ディゼムはぼやいた。
「何だ、プルイナに聞いたのか?」
「まぁね」
ホウセは彼の前まで歩いてきて、尋ねる。
「どうだった?」
「当たり障りのねぇ話をして終わりだよ」
「お母さんのこと恨んでたと思ったけど、気が変わった?」
「まぁ……考えてみりゃ別に、そこまで邪険にすることもねぇかなってな」
目を逸らしながらディゼムが言うと、彼女はにやりと笑った。
「へー……よかったじゃん」
「別に格別いいようなことでもねぇだろ。
刑が決まりゃあ相当な重罪だぞ、国家反逆とか」
「ファリーハに頼んでみない?」
「そりゃ俺も考えなくはなかったけど……明らかに公私混同じゃねぇか」
「おっ、ご立派!」
「茶化すんじゃねぇ!」
「あはははは……!」
夏の日差しの中、二人は並んで、通りを歩いて行く。
***
そこから遥か遠く離れて。
花咲く山々に囲まれた、魔王の居城。
その中心に位置する大典の間で、魔王の腹心・ヌンハーは、伝令の悪魔から知らせを受け取っていた。
それは、魔力を帯びた奇妙な湖を見つけたとの報告だった。
「ふむ……ならば、ルイストに検分するように伝えよ。
鎧の足跡が残っている可能性もある」
ヌンハーが指示すると、伝令は該当の悪魔へと指示を伝えに退出する。
彼は魔王の玉座へと向き直り、跪いて言った。
「魔王陛下……このまま。分身をお出しにならずにお待ちください。
必ずや、良い供物を持ち帰らせますゆえ」
金色の魔王は、玉座の中で眠っているように見える。
と、そこで彼は立ち上がり、思い直した。
「いや、ルイストも強者なれど、鎧たちに出くわしては危険。ここは用心して、私も出よう」
「それこそ油断ではないか、ヌンハーよ」
そこへ転がってきた、角の生えた首だけの悪魔・アリフバが呼びかける。
ヌンハーは答えて、
「私が討ち取られると言いたいのか、アリフバよ」
「自分が死ぬ可能性を考えておらん。それが油断でなくして何だというのだ」
「魔王陛下がお生まれになったあと、その伴侶となるのは私だ。
第一配偶者が捧げものを手に入れるのは、もっとも望ましきこと」
銀色の悪魔の反論に、アリフバは首だけで転がりながら同意した。
「それはその通り、と言っておこう。
だがヌンハーよ、魔王様は万が一にもお前を失っては、大いに悲しまれるだろう。
それを忘れてはいかんぞ」
「うむ。忠告に感謝する。
では陛下、失礼仕りまする――」
ヌンハーは翼をはためかせて魔王に一礼し、大典の間を退出していく。
それを感じ取ったか、魔羊水の中に浮かぶ魔王が、わずかに体を揺り動かした。
お疲れさまです。これにて第五章終了です。
融合し、湖となって悪魔の目を逃れた人々の成れの果て、地底湖メイエ。
そこに向かったディゼムたちは、信じられない事態に遭遇する。
メイエに溶けたホウセとファリーハを、彼らは助け出すことができるか――次章『
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