魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る   作:kadochika

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1.8.図書館の二人

 翌日、三人と二領は地下室に戻っていた。

 時刻は朝、八時過ぎ。

 ファリーハまで相伴して、朝食を取っている。

 王女は噛み砕いたチーズを飲みこんでから、話を続けた。

 

「魔術省での分析の結果が出るのはもう少しかかると思いますが、ほぼ確定と見て良いです。

 爆発の魔術紋様を使って、あの洞窟を爆破した者がいます。

 恐らく、あなたたち二人を爆殺しようとしたのと、同じ犯人か、組織でしょう」

 

 噛んでいたパンを飲み込んだアケウが、王女に尋ねた。

 

「その目星などは……? 見当がつく段階でしょうか?」

「爆発物を正確な転移で送りつける紋様にせよ、大規模な爆発で洞窟を破壊可能な紋様にせよ……

 それほどの高い技術や規模が必要な魔術塗料を扱えるという点では、陸軍か海軍か……あるいは魔術省が候補になります」

「そんな……殿下がいらっしゃるのも、魔術省じゃありませんか」

「心の底から疑っているというわけではありませんよ?

 その恐れは排除できない、という程度です、今のところは。

 それ以外に、わたくしたちの知らない暴力組織という可能性もなくはないのですが、そんな集団がいるならとっくに保安警察が目をつけているはずなので、可能性は低いとして……

 残念ですが、魔術省と警察だけでは容疑者候補を絞り込むのも難しいと行った状況です」

 

 チーズの包み紙を畳みながら、王女は言葉を続ける。

 

「なので、今朝は魔術大臣と一緒に、内務大臣に直接申し入れをしてきました。さすがに史跡の爆破までされては、保安警察にも動いてもらわなくてはなりませんからね」

 

 保安警察とは、インヘリト王国の警察の中でも、国家にとってより脅威となるものを対象に捜査を行う部門である。

 ファリーハがパンをちぎっていると、既に食事を終えていたディゼムが発言した。

 彼は、やや離れてたたずむ二領の鎧に目をやりながら、

 

「いっそのこと、プルイナとエクレルに捜査させたらいいんじゃないスかね。

 なぁお前ら、色々できるんだろ? やってみれば何かわかるかも知れねぇじゃねぇか」

 

 その意見を、ファリーハとアケウがたしなめる。

 

「ディゼム。異世界からの客人に、我々の問題であるところの国内の犯罪捜査をさせるわけには行きません。

 というか、内務省や警察の人たちが怒るのでダメです」

「それを抜きにしたって、僕たちは未だに外では顔を出せない状態なんだよ?

 素顔も見せない全身鎧の捜査員とか、どう思われるやら」

「……そりゃそうか」

 

 ディゼムが小さくうめくと、プルイナが鎧の外に向かって音声を発した。

 

『いえ。悪くない考えではないでしょうか』

「え」

 

 エクレルが、白い鎧の人差し指を立てて、主張する。

 

『我々は熱電・色覚迷彩と呼ばれる機能で、透明になることが可能だ。

 インヘリト王国の既存のセキュリティも、魔術が関わっていなければ突破できる。

 内部に着装者がいないと使えない機能だから、アケウたちの同伴は必要だが……

 大量の会話を盗み聞きしたり、機密文書を探り当てたりする程度はやれるだろう』

『インヘリト王国の法には背くことになるでしょうが、必要とあらば超法規的措置も検討すべきです』

 

 王女はやや俯いて、唸った。

 

「うーん。バレたらわたくしの立場が危ういのですが……とはいえ魔王はいつ来てもおかしくありませんからね……」

「で、殿下まで……」

 

 アケウが困惑し、声を上げる。

 彼女はしかし、顔を上げて否定した。

 

「いえ、ここは保安警察を信じましょう。彼らも魔王襲来の危機の情報は共有しています。

 ビョーザ回廊にも、警備を増員しました。もう隙を突いて爆破されることはないでしょう。

 明後日には紋様の再描画も終わる見込みですから、それまでは我々も休んでおきましょう」

 

 黒い鎧の手を挙げて、プルイナが王女を呼んだ。

 

『ファリーハ、頼みがあります』

「何でしょう?」

『この国で最も大きく、資料の充実した図書館を利用させて欲しいのです。

 これは、先日約束した情報収集の一環です。

 ディゼムが、本機を着たままで利用できることが望ましいのですが』

 

 名を出されたディゼムが、怪訝そうに口にする。

 

「図書館……ていうか、お前を着たままかよ」

『この世界に関する情報を一度、体系立てて集めたいと思っていました。

 旧世界探査計画に参加する前に、是非やっておきたいことなのです』

 

 そこに今度は、エクレルが白い鎧から発言した。

 

『我々がこの世界に来た当初、ファリーハが我々にかけた……翻訳の魔術というのだったか?

 あれもどうやら、効き目が切れている。我々がこの世界の言葉を先に習得したから、発声には問題ないが……

 肝心の文字が、あまり読めないままだ。これも図書館で補いたい』

「あああ……ごめんなさいすっかり忘れていました。

 あなたたちがあまりに流暢に意思疎通をしてくれるので……」

 

 頭を抱えるファリーハに、プルイナが確認する。

 

『お願いできますか?』

「やってみましょう!」

 

 こうして、王女ファリーハと魔術省を介して王立図書館へ、王国史上初めて、鎧で武装した人物の立ち入りが申請された。

 王立図書館からは、意外なほどあっけなく、許可が下りた。

 

「身元の確かな付き添いの方が一人いらっしゃれば大丈夫ですよ」

 

 とのことだ。

 

「それでは、ジャンノ、フェブ。二人をよろしく頼みます」

「はい」

「お任せください」

 

 ファリーハは、護衛の魔術師二人に二領の鎧――ディゼムとアケウの付き添いを指示して、馬車に乗って自分の仕事へと向かった。

 不便が大きいということで、ビョーザ回廊での作業の後、護衛の二人の魔術師は、それぞれの鎧に人格があること、内部の二人のことを知らされていた。

 

『それでは、指定の時刻までは資料を閲覧させてもらいましょう』

『護衛の二人、昼食の時間になったら教えてくれ。

 我々は食事は不要だが、付き添いはしてもらわなければならないからな』

「わかりました」

 

 護衛の魔術師は姿勢よく答える一方、黒い鎧の中のディゼムは少々憂鬱だった。

 

(またあの流動食か……)

 

 ともあれ、黒い鎧と白い鎧による、資料の閲覧が始まった。

 

「………………」

 

 黒い鎧が図書館の通路を静かに歩く。

 付き添いである護衛の魔術師は、少し距離を置いてついて来ていた。

 

『ディゼム、我々はこの国の文章をあまり読めません。まずはあなたが最初の一冊を選んでください。初等向けの、歴史の本などが良いでしょう』

「ん、分かった……」

 

“こどものずかん――われらがインヘリトのれきし”

 

 ディゼムが選んだのは、そのような本だった。

 悪魔に旧世界を追われる前から続く、インヘリト王国の歴史。

 それをわかりやすく、子供向けに書いた書籍のようだ。

 

『外へ漏れる音声は遮断しておきますので、抵抗はあるかもしれませんが、音読してください』

「マジで……」

『視線を追って、表記と発音を一致させるためです。

 最初は全て声に出してもらうことになりますが、読み進めていくにつれて対応がわかってきますので、そのあとは難しいつづりだけを読んでくれればよくなります』

「……俺が読めねえやつは勘弁してくれよ」

『エクレルとも同期を取っていますので、問題ありません。始めましょう』

「んー、それじゃあ……」

 

 ディゼムは、扉に書かれた前書きから音読を始めた。

 

「はじめに。今の私たちの生活は、過去の人々による、様々な行動の結果として成り立っています。

 今を知るには、過去を知ることが大切です。この本は――」

 

 一方、アケウとエクレルは、理学系の書籍の区画にいた。

 選んだタイトルは、“算術――初等一年”。

 

『数学の法則は我々の世界と同じはずだ。音読、頼むぞ』

「あぁ。

 かずをかぞえてみよう。かずのよびかたをならおう。

 せんせいのいうとおりに、こえをだそう。

 いち、に、さん――」

 

 内容は極めて初歩的なものから始まり、すぐに高度になっていった。

 

 “インヘリト年代記”

 “夏に降る雪”

 “初等魔術 訓練要領”

 “天体総覧”

 “アールヴの伝説・伝承”

 “1/10,000 王都地図”

 “長い旅の末に数多くの強敵を下し、また数多くの善行を成し遂げたレンビトン侯爵の素晴らしき生涯”

 “出入国、外交についての関連法の現状”

 “1506年度予算委員会会議録”

 

 後半になると、ページをぱらぱらとめくるだけで内容の把握が終わっていた。

 ディゼムに読めない内容が増えていき、彼が不貞腐れたことを除けば、順調だったといえる。

 時刻は、昼食の時間のわずかに前。

 その時、プルイナとエクレルはほぼ同時、鎧のセンサーで振動をとらえた。

 プルイナが、ディゼムに警告した。

 

『誰かが走ってきます』

「図書館だぞ」

『我々に向かって来ています』

「姫様じゃないんだよな?」

『複数です』

「そんなことまでわかんのかよ……」

 

 振動は徐々に、ディゼムにも分かる大きさになってきた。

 複数の足音とともに、声が近づいてくる。

 館員が、走っている誰かを注意する声まで聞こえてきた。

 

「館内では走らな……ひっ!?」

「非常事態だ、堪忍しろ!」

 

 止めようとする館員を退けて、軍服を着て武装した、四人の男が走ってくる。

 彼らはこちらを視認したかと思うと、そのまま小銃を向けて近づいてきた。

 

「いたぞ、異世界の鎧だ!」「動くな!」

 

 ディゼムたちの側には、付き添いの護衛の魔術師もいた。

 ジャンノといったか、彼が声を上げて兵士たちに尋ねる。

 

「何だ、どこの部隊だ!? 何の用がある!」

 

 兵士たちはそれには取り合わず、銃口を小さく振った。

 

「魔術は使うなよ、魔術省さん。こっちの弾丸の方が速い。

 両手を上げて、降伏しろ。そうすれば命までは取らん。

 そっちの鎧もだ!」

「……!」

 

 本棚と本棚の間で、黒い鎧と護衛の魔術師、兵士たちがにらみ合う。

 しかも、足音は遠くから、更に増える。増援か。

 黒い鎧の内部で、プルイナがディゼムに語りかける。

 

『ディゼム。アケウ、エクレルと協同して、あの兵士たちを制圧します』

 

 通信を介して、アケウとエクレルが応えた。

 

「聞こえてるよ、プルイナ。こっちは僕とエクレルに任せてくれ」

『さっさと済ませてしまおう』

 

 やり取りを終えると、プルイナが言う。

 

『ディゼム、両手を敵に向かって掲げてください。無力化します』

「こうか?」

『バインド・シルク、行使』

 

 すると、黒い鎧の指先に開いた穴から小さな音を立てて、白い塊が発射される。

 それは味方である護衛の魔術師を、ぎりぎりの距離ですり抜けた。

 そして空中で瞬時に膨張して、敵に襲いかかった。

 

「ぶわっ!?」「どっ……!?」

 

 膨張した白い粘着繊維の塊が、兵士たちの体に絡みつく。

 

『次です』

 

 床に倒れ、身動きが取れなくなった兵士たちを飛び越えて、プルイナは鎧を走らせた。

 その後から、別の兵士たちの集団やってきた。

 彼らは広い通路に飛び出したディゼムたちを捉えて、銃を構える。

 

『ディゼム、今度はあなたが動いてみてください』

「よし……バインドなんとか、行使ッ!」

 

 プルイナの補正もあり、ディゼムの操作で打ち出された粘着繊維の弾丸は命中した。

 兵士たちはやはり、床へと貼り付けられて動けなくなる。

 ディゼムは通信で、アケウを呼んだ。

 

「アケウ、そっちはどうだ!」

「今そっちに合流する!」

 

 図書館の反対側から、同様に敵を制圧してきたらしい白い鎧がやってきた。

 通信を繋いだまま、アケウが訊ねてきた。

 

「これみんな、海軍の兵士だよね?」

「あぁ、何でこんな……」

 

 陸軍のものとは色調が異なる制服。

 陸軍の兵士であるディゼムとアケウにとっては、見間違いようがない。

 混乱する二人に、プルイナが情報を提供する。

 

『館外から聞こえてくる音から判断するに、一定以上の規模の軍事行動が行われていると推測できます』

「軍事行動……?」

 

 更に、エクレルが補足した。

 

『平たく言うなら、海軍による反乱だろうな』

「反乱……!!」

 

 アケウが、苦々しげに口にする。

 そこに、護衛の魔術師二人が合流してきた。

 

「助かった、二人ともありがとう。だがファリーハ殿下が心配だ」

「今は魔術省の建物にいらっしゃるはずだが……」

 

 プルイナが、それに同意する。

 

『そうですね。まずは魔術省に向かいましょう。そちらにファリーハがいればよし。

 その後、護衛のあなた方は王女の側に戻ってもらいます。

 ディゼム、アケウ、他に提案はありますか?』

「ない。それでいいだろ」

「僕も特にない」

 

 護衛の魔術師たちも、うなづく。

 

「分かった。では行こう」

『我々が先行して邪魔を排除しておくが、その前に』

 

 エクレルはそう言うと、床面に拘束された海兵の一人の首筋に、白い鎧の指先を押し付けた。

 外部音声をオンにして、問いただす。

 

『この鎧は指先から弾丸を発射することができる。死にたくなければ正直に証言しろ。ファリーハ王女の消息を知っているか?』

 

 内部のアケウが、鎧を非難する。

 

「エクレル、やめろ! 本当に殺してしまう気か!?」

 

 その声はエクレルによって遮断され、外には届かない。

 海兵は歯を食いしばって答えた。

 

「知らない」

『そうか』

 

 ぱ、と小さな破裂音が鳴って、海兵の首筋に赤い液体が広がった。

 彼はそのまましばらく首を動かしていたが、すぐに動かなくなる。

 それを目だけで追って見ていた、他の兵士たちの顔色が変わった。

 鎧の中のアケウの表情も、同じだった。

 

「……!」

『では、次の者に訊くとしよう』

「ほ、本当に知らないんだ!!

 俺たちはただ、鎧を探して拘束するか、連れてくるよう言われてて……!!」

 

 同じように白い鎧の指先を突きつけられた別の兵士が、取り乱しながら喋る。

 

『どうやら本当に知らないようだな』

 

 エクレルは白い鎧の指先を兵士の首筋から離して、白状した。

 

『安心しろアケウ。今のは急性の経皮浸透麻酔薬を配合した、液体塗料の弾丸だ。

 その兵士は気絶しているだけで、命に別状はない』

「……!」

 

 よく見ると、撃たれた兵士の胸郭は、ゆっくりと上下している。

 

「だったらあらかじめ教えておいてくれ!!」

『次からそうしよう』

 

 アケウの抗議を受け流し、エクレルは機体の制御を彼に戻した。

 それを横で見ていた黒い鎧と、護衛の魔術師たち。

 黒い鎧から、プルイナが言う。

 

『では、行きましょう。魔術師の方たち、くれぐれも気をつけて』

「あぁ、分かった」

 

 彼らは館員たちに事情を説明して、図書館を後に魔術省へと向かった。

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