魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る   作:kadochika

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6.4.悪魔の内訌

 ホウセたちが先んじてやってきて、去った、その数日後。

 次にメイエの湖面に触れたその気配は、悪魔のものだった。

 彼らは当初、エリカレスが戻ってきたのかと思ったが、そうではない。

 別の悪魔で、その上、メイエに友好的ではないことがすぐに理解できる。

 

(ほう、これは面白い)

(誰だ)

 

 問うと、悪魔は名乗った。

 

読取(どくしゅ)のルイストと呼ばれている。

 実に興味深いぞ、お前。液体が意思を持っている……)

 

 メイエは、悪魔がここへ来た理由を察した。

 

(……先日池に落ちた下級悪魔から、ここにたどり着いたか)

(話が早いな。

 しかも、ヒトたちの鎧と接触しているな?)

(…………!?)

 

 メイエは動揺した。

 表現していない記憶が、読み取られている。

 

(湖水に触れたものの内実を読み取るお前と、物質から記憶を読み取る私……実に相性がいいと思わないか?)

 

 それは、敵意や害意とは違った。

 美味な食物を見つけた時の喜びに近い感情を、メイエは感じ取っていた。

 危険だ。

 

(滅びよ!)

 

 メイエは大量の湖水を強固な氷の薄片に相転移させて、悪魔・ルイストを攻撃した。

 何重にもなったローブを羽織ったその悪魔は、しかしそれを回避する。

 

「無駄だ。お前は私の位置を読み取ったつもりだろうが、私はお前に幻の情報を与えることができる。

 最初から間違った位置を攻撃しているお前に、勝ち目はない……」

 

 するとルイストの頭部から、金色の粒子のようなものが無数に漂い出てきて、メイエの湖面へと降り注ぐ。

 

(何だこれは……?)

 

 メイエは困惑した。

 だが次第にその感覚は無くなっていき、代わりに何かに気づいてしまったような感覚が、その湖面から内部に広がっていく。

 自分たちは実は、人間ではなかったのではないか?

 

(そうだ……我々は……悪魔だった……?)

 

 自分が、かつては人間を狩る側であったのではないかという思いが強まっていく。

 しかし、彼らの内部でまだ完全に溶け合ってはいない部分が、反発もしていた。

 

(いや、違う! 我々は人間だ!)(姿かたちを失っても、人間に戻りたいという意思は失っていない!)

 

 とはいえ、もはやそれは記憶違いだったのではないかという考えが、湖水の中で強まっていく。

 

(認めよ、我々は悪魔だったのだ)(こんな液状の人間など、あり得ないではないか)

(忘れるな、恐怖と屈辱を!)(悪魔に抗え!)

(抵抗するな、我々は悪魔だ!)

(人間だ!)

(悪魔だ!)

 

 メイエの中で、二つの情報が相争っていた。

 もはや悪魔が傍にいたことも忘れて、激しく対立する二つの認識。

 勝利を収めたのは――悪魔の側だった。

 

***

 

 エスコドゥスの語ったのは、そうした顛末だった。

 

「そんな次第だ。今のメイエは、自分を悪魔だと思って行動しているのだろう」

「くそッ……僕たちがいない間に……!」

 

 アケウは白い鎧の拳を、大地に強く叩きつけた。

 今の彼らは、この近辺に多く開いた縦穴の一つに横穴を掘削し、そこに隠れている。

 エスコドゥスが、アケウを慰めて言った。

 

「気を落とすな、お主らの仲間を救う希望はある」

「どうやって……?」

 

 アケウが尋ねると、彼女は説明を始める。

 

「そもそも、なぜわしが今ここにいるかということだ。

 わしも150年前、自身を液状化してメイエに溶け込んだのだ。

 しかしメイエがお主たちの仲間を取り込んだ際の隙を突いて、こうして人間の姿を取り戻せたというわけだよ。

 もっとも、ひどく急いだので全く別人の身体になってしまったが……」

「……てことは、また誰かが溶けねぇと、ホウセも姫様も戻ってこれねぇのか?」

 

 ディゼムの問いを否定して、エスコドゥスが首を振った。

 

「いやいやそうではない。まだ彼女らも、溶けてさほど時間が経っておらん。

 まずはメイエの思い込みを解くのだ。

 自分が悪魔ではないということを思い出させればいい」

「どうやって」

「魔力をぶち込んでやるのだ。とにかく強烈なショックを与え、動揺が生じた隙に魔術通信の要領で、お主らは悪魔ではない、と吹き込む」

「ショックを与えるなら、魔拳がいいのか?」

 

 ディゼムが胸の前で拳を握ると、エスコドゥスも小さな手を握って言う。

 

「魔術の拳ならば、要領は近そうだな。

 目的は破壊ではなく、メイエを動揺させることだから、湖水を揺らすことを主眼にアレンジを加えると良いだろう」

「なら、魔術で声を送り込むのは僕の役目か……」

 

 不安げなアケウを、エスコドゥスが勇気づけるように言った。

 

「覚えがないなら、わしが手ほどきをしよう。あまり時間はないかも知れないがな」

「教えてくれ、出来るだけ早く」

「待て、その前に、メイエを惑わせた悪魔がいる。

 そやつを倒さなければ、またメイエが操られてしまって意味がない。

 探し出して、討ち取りたいのだが……」

 

 エスコドゥスはそこでいったん言葉を区切り、手で己の顎を捻る。

 

「お主ら、世界を悪魔から取り戻そうというのだ。

 そのくらいはできような?」

 

***

 

 悪魔ルイストは、メイエが魔術信号を送り届けてきたのを知って、戻った。

 

(再びヒトが接触してくると予想していたが、的中したな)

 

 透明な湖水の底には、ヒトたちが残していった鳥のような乗り物が沈んでいた。

 そして湖水に接触し、問う。

 

(首尾はどうだった、魔の戦士メイエ)

(ヒトを二人溶かし込んだ。一人は強い魔宝を持っていた)

(鎧のヒトか?)

(そうだ。だが二人の鎧は逃げた)

(…………)

 

 ルイストはそれを知って湖水から手を離し、考えた。

 

(厄介かも知れん……私と我が軍団とで仕留められるだろうか?)

 

 鎧たちは、マフにおける四万の包囲も突破している。

 ルイストの任された五千の軍団では、厳しいだろう。

 やはりメイエを罠として利用し、おびき寄せるのが良いか。

 ヒトの習性を利用すれば、難しいことではあるまい。

 

「――!」

 

 そう考えた時、ルイストは上空から降りてくる影に気づいた。

 翼を備えた、銀色の悪魔。

 魔王の最側近にして、王配候補者のヌンハーだった。

 彼はルイストの近くに音もなく着地して、彼に訊ねる。

 

「魔の戦士ルイスト。報告を聞いた。現状はどうか?」

 

 ヌンハーが聞きつけやってくる前にメイエを取り込みたかったが、間に合わなかった。

 ルイストは忌々しく思いながらも、返答した。

 

「……献上の準備中だ」

「いつ献上可能か?」

「不明だ」

「ならば、私が献上の支度を行う。これを渡せ」

「ふざけるな!」

 

 ルイストはそこで、不意を打った。

 爆裂の魔術で攻撃するが、ヌンハーはこれを、前方に翻した翼で防御する。

 彼は目を細めて、口にした。

 

「何の意図か?」

「これは私のものだ! 横取りなどさせるものか!」

 

 銀色の悪魔を罵りながら、ルイストは自身の足をメイエの湖水に浸した。

 そして、命じる。

 

(メイエ、敵だ! 滅ぼせ!)

 

 すると、湖水が渦巻いて相転移し、鋭い氷の刃がヌンハーを襲う。

 これを上空に飛んで回避した銀色の悪魔は、しかし、頬に傷を受けた。

 

「…………!」

 

 青黒い粘液が、じわりと銀色の肌に滲む。

 そして、彼はルイストを見下ろして告げた。

 

「……ルイストよ。魔王の名に於いて、貴君を反魔王と見做す。

 覚悟しておくことだ」

 

 そう言うと、銀色の悪魔は凄まじい速さで飛び去る。

 

「……ふん。メイエを取り込んでしまえば、こちらのものだ。

 ヌンハーとて、敵ではない……!」

 

 ルイストの独り言が、静まり返った地底湖に反響した。

 

***

 

 それらのやり取りを鎧の聴音機能で聞いていたディゼムが、呟く。

 

「何だ、内輪もめかよ? マフでも何か、それっぽいのは見なかった気がしないでもねぇが」

「……それも終わったみたいだね」

 

 アケウが口にすると、プルイナが黒い鎧から音声を発した。

 

『メイエを取り込む、と言っていたようです。

 アウソニア、アールヴィルにトラルタと、悪魔が魔術紋様の凝集体を摂取することで強大化する事例が続きましたね。

 今回もそのような企てと思われます』

『だが、すぐに取り込むわけには行かないようだな。

 ならば、こちらから仕掛けるべきだろう』

「向こうにはメイエが付いてる、それはどうすんだ?」

 

 エクレルの提案に、ディゼムが尋ねる。

 

『ホウセとファリーハを元に戻す方法次第ですね。

 エスコドゥス、具体的にはどうやるのですか?』

 

 プルイナが尋ねると、エスコドゥスは答えて言った。

 

「メイエが正気に戻ったあと、わしが魔術で溶けた二人を抽出し、元に戻す」

「そんなことができるの?」

 

 アケウの問いに、再びエスコドゥスが答える。

 

「わしを信じてもらうしかないが……まぁ、それもメイエを正気に戻してからのことだ。

 今は彼らを狂わせた悪魔を倒すのが先決だが……」

『やはりあの悪魔がどこかに移動してしまうか、メイエをどうにかして飲み込んでしまうより先に仕留めるべきか。

 だがその前に、ここに下級悪魔たちが近づいて来ているな。そちらを始末するか』

 

 エクレルが報告する。滞空中のドローンで検知したのだろう。

 アケウは気持ちが逸り始めてきたのを感じつつ、口にした。

 

「何にせよ急ごう。殿下とホウセを早く元に戻さないと。

 ディゼム、君はエスコドゥスを守りながら戦ってくれ」

「お前は――まぁ訊くまでもねぇか」

 

 アケウはエスコドゥスから離れて、スラスターの推力を上げて上昇を開始する。

 

「近づいてくる軍団は、僕が全て倒す」

『ならば、ひさびさの空中装備だ。行くぞ、我が着装者』

 

 白い鎧が離陸し、そこからの信号を湖底で受け取った保護セルから、追加武装が発進した。

 両者は空中で合流し、白い鎧は背部に大型の機材を接続、搭載する。

 

『接続完了。ディグニティ1号機、重兵装(ヘヴィリー・アームド)モードIII(スリー)

「了解、悪く思うなよ……!」

 

 白い鎧から発射された対地仕様の純粋水爆ミサイルが、大地に着弾して下級悪魔(ダフニア)たちを天高く巻き上げる。

 激しい振動が地底湖にまで届くが、アケウは意に介さず、悪魔の殲滅を試みた。

 

「殿下――今しばらく、お待ちください……!」

 

 一方、空を飛んで接近してくる悪魔たちもいた。

 彼はこれをレール・スナイパーライフルで迎撃し、多くを撃墜する。

 

「取ったぞ、鎧のヒトッ!」

 

 仲間を囮に接近してきた悪魔の一人が、背後から白い鎧を爆裂の魔術で攻撃した。

 が、

 

「見えている」

 

 白い鎧は左右に増設されたスラスターを噴射してこれを回避しながら、左腕に装備していた大型カッターで悪魔を両断する。

 そのようにして数分も攻撃と防御を重ねると、悪魔の軍団は壊滅状態となった。

 密度を減らした下級悪魔(ダフニア)たちが、指揮系統を失っているのか右往左往している。

 それを遠くから見ていたエスコドゥスも、しばし言葉を失っていたが、

 

「凄まじい威力だな……もう大丈夫だろう。お主らは悪魔の指揮官を探してくれ。

 わしはメイエに接触する」

 

 それを聞いたディゼムは、接近してきた下級悪魔を黒い鎧で掃討しつつ、彼女に尋ねた。

 

「いや、溶かされちまうだろ」

「液化合一の魔術を開発したのはわしだ。それに対抗する方法も、一応は考えた」

「考えたって、今か? 大丈夫なのかよ」

 

 そこに、プルイナが提案する。

 

『念のために、沈んだ保護セルに搭載していた潜水服を回収しましょう。

 ファリーハが着るためのものだったでサイズは合いませんが、ドライスーツなので気密を保てます』

「うん? まぁ、せっかくいいものがあるなら借りてみようか」

「んじゃあ、抱え上げて行くぞ……?」

「手柔らかに頼む」

 

 白い鎧が猛威を振るう中、ディゼムは黒い鎧にエスコドゥスを抱え、再びメイエへと向かった。

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