魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る   作:kadochika

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6.7.鎧の叱咤

 銀色の悪魔・ヌンハーは、転移で魔王の居城に戻った。

 そして、魔王への挨拶を済ませると“(さきの)魔王(まおう)”の居室へと出向く。

 “先魔王”とは、文字通り先代の魔王にして、現在大典の間で誕生の時を待っている魔王の、母親だった。

 その居室は広大だが、薄暗く、湿っている。

 ヌンハーが入室すると、その中心には、巨大な肉塊を思わせる怪物が鎮座している。

 手足は退縮し、膨張した腹部から、今も新たな悪魔が生まれているところだった。

 それが、先魔王であった。

 彼女は前の世界で蓄えた想像を絶する魔力の残りで、働き悪魔や、魔王に仕える魔の戦士たちを産み出し続けているのだ。

 二つの魔王の卵を産み果たした彼女には、もはや明瞭な意識はない。

 その姿はもはや、単なる肉の装置と言っても過言ではなかった。

 ヌンハーはその先魔王の前に跪き、願い出る。

 

「先魔王陛下、お疲れの所、ご無礼仕りまする」

 

 そして立ち上がると、彼は広い居室を見回しながら呼びかけた。

 

「陛下のお子、我が兄弟たちよ。私に力を貸してはくれぬか」

 

 うす暗闇の中から、空色の悪魔がヌンハーに問いかける。

 魔の戦士カーモ。その腕は太く、丸太のようだ。

 

「俺たちが、お前に?」

「いかにも」

 

 それに関心を示して、闇色の悪魔が続けて尋ねた。

 魔の戦士ゴウンド。背には翼を、口には無数の大きな牙を生やしている。

 

「そこまで手のかかる相手か?」

「そうだ」

 

 更にそこに、緑色の悪魔が続いた。

 魔の戦士ドロッズ。背中には、魔宝らしき盾を背負っている。

 

「興味あるな……鎧のヒトだっけ」

「今は違う。反魔王となった魔の戦士の討滅だ」

「何……?」

 

 ヌンハーがそれを告げると、彼らの態度が変わる。

 彼は手ごたえを感じて、続けた。

 

「これまで我が軍においてヒトの捜索に携わってきた魔の戦士ルイストが、我らに反旗を翻した。

 ルイストには、新たに発見された魔力を帯びた湖――恐らく元はヒトだったものたちが味方に付いている。

 諸君らには、私と共にこれらを討ってもらいたい」

 

 彼らは力こそ優れているが、協調や統率を欠くために城――特に先魔王の防備に回されていた悪魔たちだ。

 説得に手こずるかも知れないと考えていたが、その反応はヌンハーにとっては好ましいものだった。

 

「ふーん……初めてかもね、魔の戦士を狩るのは」

「ヒトを狩るのも久々だな」

「楽しそうだし、いいと思うよ」

「ならば、共に来てくれ。諸君らの力を得られるのは心強い。

 必ずや魔王陛下に、新たな魔宝を献上できることだろう」

 

 そう言って翼を翻すヌンハーの背後から、三人の悪魔たちが声をかける。

 

「でもさぁ、その前に……」

「最近鈍ってる気がするんだよな」

「ちょっと遊んで行けよ、ヌンハー」

 

 そのただならぬ気配を察して、ヌンハーはうめいた。

 

「諸君ら、何のつもりだ。ここは先魔王の御部屋だぞ」

「いいから付き合え!」「お前も鈍ってないかどうか!」「俺たちが試してやるからさぁ!」

 

 襲い掛かる三人の悪魔。

 ヌンハーは銀色の翼を翻して、これを迎撃した。

 

***

 

 苔に覆われ、蔦に覆われ。

 石となって風化し果てようとしてたディゼムに、声をかける者がいた。

 

「こんなところにいたのですね、ディゼム」

 

 それは奇妙に聞き覚えのある、落ち着き払った女の声だった。

 彼は自分が石くれになったのも忘れて、思わず首を上げ、声の出処を探してしまった。

 

「…………!」

 

 見ればそこには、黒衣をまとった黒髪の娘が立っている。

 

「お前は……?」

「本機のこと、忘れてしまいましたか?」

 

 彼女は無造作にディゼムへと近寄ってきて、白魚のような手で彼に付着した蔦や苔を引きちぎった。

 ディゼムには、理解できていた。

 彼女は、プルイナなのだろう。なぜ人間の姿をしているのかは分からないが。

 黒装束の娘が、彼に手を差し伸べて言う。

 

「立ちなさいディゼム。もしもあなたが誰より劣っていたとしても、今はあなたが立たなければならない時なのです。

 あなたはホウセと共に、命を懸けて本機を救い出してもくれたでしょう?」

「いや、でもさ――」

 

 そう口にしようとしたディゼムを、激しい衝撃が襲う。

 

「ほぐぉ!?」

 

 プルイナがその細い腕で、彼の顔面を殴り飛ばしたのだ。

 

「自己評価が低いならまだしも、それで我々の足を引っ張るのは許されません!

 命がけの仕事になると知ってそれでもなお、あなたはこの戦いに参加したのでしょう!」

「…………!」

「あなたは強くなりました、ディゼム――本機が保証します」

 

 プルイナが、どこか寂しげに微笑む。

 

「それとも、本機の評価では不足がありますか?」

「――いや」

 

 ディゼムは不甲斐ない己への怒りを両足に込めるつもりで、立ち上がった。

 

「十分だ!」

 

***

 

 乱心したと思しい白い鎧に襲われて、アケウは困惑していた。

 咄嗟に手足や体を曲げて拒むが、白い鎧は凄まじい力で彼に着装を強いてくる。

 

『当機と完全に一体となれ! それで何もかも解決する!』

「何を言ってるんだエクレル! 意味が分からない!」

『悔しいだろう、自分だけがうまく行かなくて!

 憎いだろう、意中の相手を奪われて!

 その怨念を晴らすために、当機に身を任せてしまえ! そうすれば全てが分かる!』

(……信じて、いいのか……そんなことを……?)

 

 エクレルがそのようなことを言うはずがない。

 頭ではそう理解しているつもりだったが、アケウはしかし、その誘惑に強い魅力を感じ始めていた。

 この世で最も強いものの一つ、異世界の鎧。

 彼女が力を貸して、苦境を救ってくれるという。

 

(そうだ……エクレルはいつだって、僕を助けてくれた……

 今度だって……そうやって……?)

 

 感謝して、その救いの手を握るべきではないか?

 アケウがつい、手を伸ばそうとした――その時。

 

『待て!』

 

 彼の背後から、鈴の鳴るような女の声が聞こえた。

 

「――っ!?」

 

 アケウが思わず振り向くと、そこには若い娘が立っている。

 美しく輝く金髪を腰まで伸ばし、肌に張り付いているかのような純白の衣装を身にまとっていた。

 彼女は鋭い目つきで、アケウに呼びかけた。

 

『我が着装者よ、しっかりしろ。当機の声が聞こえているな?』

「え、エクレル……なのか……!?」

 

 刮目する彼に、白装束の娘は説明した。

 

『今は識別のためにガイダンス用のアバターを使って表現しているが、当機が本物だ。

 ディグニティ1号機の制御人格、エクレル。

 投与したマイクロマシンの機能を使って、お前の脳に直接語りかけている状態だ』

 

 それに応じてか、アケウの前にいる白い鎧が、同じく鈴の鳴るような声で彼に語りかける。

 

『騙されるなよアケウ。当機の姿を忘れたのか?

 今まで共に戦ってきた相棒を?』

「……っ!」

 

 アケウは、迷った。

 声と口ぶりは同じように聞こえるが、娘と鎧、どちらが本物のエクレルなのか?

 外見だけならば鎧の方だが、彼女であれば人間の姿を取ることもできるように思えた。

 するとその迷いを打ち破るためか、白装束の娘が口にする。

 

『ならば、本物であれば答えられるはずの事柄を問うぞ。

 アケウが先日買ったナイフの拵えの素材は?』

 

 だが、白い鎧もそれに応えて言う。

 

『白木だ。我が着装者が、当機の色に近いという理由でな。

 合っているか? アケウ』

「あ、うん……」

 

 アケウが鎧の方に頷くと、鎧は白装束の娘に問いを発した。

 

『こちらからも問おう、アケウが退役後にやろうとしている商売は?』

 

 白装束の娘が、問いに答える。

 

『食事処だ。料理の練習もしている。そうだろうアケウ』

「うん、まぁそうだけど……」

 

 すると彼女は、白い鎧に問い返した。

 

『次、アケウの実家にいる家族の名前を全て答えよ』

 

 白い鎧が、更に応じる。

 

『祖母がカウルマ、父がスルグニ、母がシノリ、兄がクアギ、義姉のスレティと姪のラチャ。

 合っているよな? アケウ』

「そ、そうだけど、ちょっと待ってくれ二人とも!?」

『次、得意な兵練の科目は――』

 

 アケウの目の前で、彼についてのクイズの応酬が始まってしまった。

 今のところどちらも全て正解だが、アケウは狼狽するしかなかった。

 

『好きな色は?』『白!』

『身長は?』『171センチ!』

『嫌いなものは?』『反王国組織!』

『――――?』『――――!』

 

 応酬が進んでいき、内容はさらに踏み込んでいく。

 

『今の意中の相手は?』

『ファリーハ以外にいるか?』

「やめてくれ!?」

 

 だが、次に白装束の娘の発した問いは、それまでとは違った。

 

『アケウの将来の希望は?』

 

 それに対し、白い鎧は即答する。

 

『もちろん、彼女を妻に迎えて暖かい家庭を築くこと――』

「ふざけるなぁッ!!」

 

 アケウはその時不意に激昂して、白い鎧を殴り飛ばしていた。

 

『な――何だと!?』

 

 吹き飛ぶ鎧――現実ならば質量差であり得ないことだ――に向かって、アケウは怒声を上げる。

 

「僕がいつ、そんな図々しい願望を口にしたッ!?

 エクレルにだって、そんなことは言ってないぞ!!!」

 

 そう断言すると、不意に、白い鎧の姿が消えた。

 残された白装束の娘が笑って、勝ち誇る。

 

『フ……いくら人の心を操れても、その機微までは分からない――悪魔のやりそうなミスだな』

「じ、じゃあ……君がエクレル……?」

 

 彼女はアケウに歩いて近づき、その肩を軽く叩いて言った。

 

『姿形は変わっても、当機はお前の相棒だ。忘れるな』

「あ、うん……」

 

 そして更に、白装束の娘は翡翠色の瞳を彼に向けて、告げる。

 

『それよりアケウ、すまなかった……試すような真似をしてしまって。

 当機はアルファ級汎用人工知能の名誉にかけて、お前に謝罪する』

「……いいんだよ。僕のこと、理解してくれてたんだって思えて、嬉しいと感じる」

『ありがとう、アケウ』

 

 彼女がそう微笑むと、アケウは白い鎧の内部で我に返った。

 そこは聞慣れた異世界の鎧の中だ。漠然とした、あの空間ではない。

 何とか、声を出す。

 

「――う、え……エクレル……!?」

『ようやく魔術の支配から逃れたようだな、アケウ』

 

 鈴の鳴るような高い女の声が、冷たくアケウに語りかけた。

 場所は、暗黒の地底湖の中のままのようだ。

 

『脳の活動をスキャンしたが、どうも精神に作用する魔術をかけられたらしい。

 お前が暴れるので、当機は機体をロックせざるを得なかった』

「そうだ、悪魔は!?」

『奴はお前を無視して、黒い鎧の方に向かって行った。

 プルイナからの通信では、ディゼムも同じような目に遭ったようだ』

 

 彼は悪魔ルイストを捕縛したつもりで逆に魔術をかけられ、行動不能になっていたのだろう。

 アケウは友に呼びかけた。

 

「同じような目、ってことは、ディゼム! そっちは大丈夫かい!」

「あ、アケウ……クソ、あんのカス悪魔が……!」

 

 毒づく声がすぐに帰ってくるところを見るに、大きな問題はないらしい。

 黒い鎧から、プルイナが通信を介して説明する。

 

『悪魔は我々の装甲を破壊できないと考えて、着装者を狙って同士討ちをさせようと試みたようです。

 悪魔は今は、地底湖内の別の場所で、何らかの作業を行っているように見えます』

(聞こえるか男子たち! エスコドゥスだ!)

 

 そこに、エスコドゥスの思念が届いた。

 

(メイエの湖水を通して、お主らに呼びかけているぞ!

 悪魔の狙いは恐らく、メイエの魔宝化だ!

 メイエ自身に魔術紋様を描かせて、自分が飲み込めるサイズにまで凝縮するつもりだろう!)

「させねぇ、今度はブチ殺す……!」

「うん。早く殿下たちを元に戻さないと!」

 

***

 

 メイエは、ファリーハとホウセから――そしてそれを援護するエスコドゥスの――干渉を受けて、激しく揺れていた。

 悪魔ルイストが、それに気づいてメイエに命じる。

 

(メイエよ、早くあのヒトどもを同期してしまえ!

 余計な真似ができないように、お前の魔力で均すのだ!)

 

 それに対抗するように、ファリーハも液化したまま、メイエに呼びかけた。

 

(いけません、メイエ! 思い出してください、あなた方は人間として生き延びたかったからこそ、湖に姿を変えたのではありませんか!

 同じ人間として、あなた方に共感します! 人間の尊厳を、忘れないで!!)

(あたしにもエリカレスにも良くしてくれたこと、忘れてないよ!

 あなたたちも、思い出して! いつかは人間に戻るんでしょ!!)

 

 いつのまにか近くに漂って来ていたホウセも手伝い、メイエの心を人間の側に取り戻すべく、声を重ねていく。

 それに業を煮やしたか、ルイストが動き出した。

 

(ならば、邪魔なヒトどもの意識から支配してやろう!)

 

 手足のヒレを動かして、悪魔はファリーハたちの漂っている場所へと接近していく。

 しかし、そこに鎧たちが駆けつけた。

 水中モードに切り替わったスラスターを猛烈な勢いで噴射しながら、湖水の中を突進してくる。

 

「腐れ悪魔が、よくもセコい手で辱めてくれやがったなッ!」

「ディゼム、水中じゃ多分聞こえないと思うよ」

「気分の問題だ気分の!」

(水中では戦闘用の魔術も使えまい!

 今一度、記憶を上書きしてやる!)

 

 ルイストが魔術を行使すると、その口から金色に輝く粒子が水中に放出され、それが更にメイエの湖水の中に漂う微粒子に伝播していく。

 湖水がきらめき、暗黒の地底湖に輝きが広がっていった。

 

『魔術の兆候現象を検知しました』

『いったん距離を取るぞ、アケウ』

 

 脚部を前方に向けて後退しようとする鎧たちだが、

 

(その必要はないぞ!)

 

 そこに響いたのは、エスコドゥスの意識だ。

 

(わしの魔術で、記憶操作を防いでいる! 今のうちに、倒してしまえ!)

 

 鎧たちのソナーには、ぶかぶかの潜水服をまとったエスコドゥスの影が映っていた。

 悪魔はそれを感じ取り、メイエに命じる。

 

(メイエよ、惑うな! あのヒトを潰してしまえ!)

 

 しかし、ファリーハとホウセが、それを制止する。

 

(いけません! 彼女は同胞です!)

(やっつけるなら、あっちの悪魔だよメイエ!)

 

 メイエは拮抗する二つの意見に戸惑い、行動することができなかった。

 

(く……我が魔術が、ヒトごときに……!)

(メイエを生んだのはわしだからな!

 いかに記憶を操る悪魔が相手といえど、メイエの中、彼らが迷っている今ならば、どうにか対抗くらいはできるわい!)

 

 半ば勝ち誇るエスコドゥス。

 鎧たちにはファリーハたちやエスコドゥスの思念は届いていないが、彼女たちも状況を総合して判断し、着装者たちに助言した。

 

『ならば、今です!』

「おう!」

 

 ディゼムが念じると、彼の脳波を読み取った黒い鎧が、遠隔操作で追随させていた巨大な黒い腕――ジャイガンティク・ゴーントレットを悪魔に向かって突進させる。

 

(く、仕方ない!)

 

 反転し、悪魔は逃走を試みるようだった。

 しかし巨大な腕は水中を怪魚のように泳いでいき、悪魔の胴体を鷲掴みにする。

 それと同時、その掌の十一基の大型多目的射出孔から炸裂弾が発射され、悪魔の肉体にゼロ距離で炸裂する。

 

(ぐぉっ!?)

 

 水中に衝撃波が走るが、悪魔はまだ生きていた。

 爆発によって肉体を上下に両断されながらも、上半身だけで泳いで逃げようとしている。

 

(おのれヒトどもめ……こうなれば……!)

 

 悪魔は両腕を広げ、思念の声を大きく上げた。

 

(メイエ、メイエよ! 我が血肉を食らえ!

 そして完全に、我が手足となるのだッ!!)

 

 すると、悪魔の姿は幻だったかのように消えてしまう。

 同時、メイエの湖水が再び揺れ始めた。

 事態を理解したのか、エスコドゥスが思念を発して説明する。

 

(いかん……奴め、とんでもないことをしよった……!

 記憶を操る魔術を持った悪魔がメイエに溶け込んでは、メイエが乗っ取られてしまうやも知れん!)

(え、どうするの!?)

(何とかメイエに、悪魔を分離するように説得するしか……!?)

 

 ホウセは狼狽し、ファリーハも有効な手立てを見いだせないでいた。

 そこに、今度はプルイナが警報を発する。

 

『悪い情報です。悪魔らしき影が空中から、ここに接近しています。推定で四人。

 一人は先ほど争っていた悪魔たちの片割れの、銀色の個体のようです』

「マジかよ……」

「殿下たちが溶けたままだっていうのに……!」

 

 鎧たちは悪魔を迎撃するために、急ぎ地底湖の入り口へと戻った。

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