魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る   作:kadochika

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6.8.四人の悪魔

 四人の悪魔が、メイエへと接近している。

 ディゼムはそれに応じて、黒い鎧を地底湖の上空へと飛翔させた。

 アケウも白い鎧と共に追随すると、彼は魔眼で、近づいてくる大きな魔力を知覚した。

 白い鎧と情報を共有したプルイナが、アナウンスする。

 

『再度、戦闘準備。装甲表面に対呪いの魔術紋様を析出します』

『武装は減ったが、運動性能は上がっている。頼むぞアケウ』

 

 黒い鎧の表面に、赤い色の魔術紋様がびっしりと描かれる。

 白い鎧は、重兵装モードIIIから残弾を使い切った兵装を排除したものを装備している。

 彼らは接近する悪魔たちに、それぞれの火器を行使した。

 黒い鎧の巨腕からは大型炸裂弾、白い鎧からは対空ミサイルが放たれる。

 だが、

 

『全弾、失中』

 

 悪魔たちは素早く空中を散開し、これらを回避した。

 次いで空色の悪魔の両腕から、魔術が放射される。

 

「千病万毒よ、蝕め!」

「ディゼム、避けて!!」

 

 高速で円錐状に広がる魔術の領域をアケウが魔眼で捉え、それを読み取ったエクレルが黒い鎧と予測危害範囲を共有する。

 ディゼムとプルイナはそれを回避しようとスラスターを噴かせたが、避け切れなかった。

 

「――!?」

 

 ディゼムの肉体を、壮絶な悪寒が通り過ぎる。

 呪いの魔術だ。

 ディゼム自身の魔術抵抗は紙のように貫通され、黒い鎧の装甲表面に描画された魔術紋様が、その一撃でほとんどを消し飛ばされた。

 呪いは発効しなかったが、プルイナが報告する。

 

『今の魔術らしき攻撃で、対呪いの魔術紋様の九割が損耗しました。再描画します』

「三十回は防げるっつう話じゃなかったのかよ!?」

『それだけ強力なのだと推測できます。戦闘に集中してください』

「くそッ」

 

 一方で、銀色の悪魔は凄まじい旋回速度で、黒い鎧を翻弄した。

 その姿を視界に捉えきれず、うめくディゼム。

 

「く、速えぇ――!」

『質量と形状から推測できる空力性能をはるかに超えています。

 恐らくは魔術の作用です』

「何かこうパパッと撃ち落とす方法はねぇのか!」

『クロスレンジ・レーザー、行使』

 

 黒い鎧の頭部から、迎撃用の小型レーザー砲が照射された。

 銀色の悪魔に照射点が移動するが、悪魔はレーザーで体表面があぶられるのを無視して、黒い鎧に向かって衝撃波の魔術を放つ。

 

「うぉっ!?」

 

 人間の平均的な魔術師の扱うそれとは比較にならない量のエネルギーに弾かれて、黒い鎧は森へと撃墜された。

 即座にスラスターで空中へと復帰するが、そこへ空色の悪魔から、今度は呪いの魔術の雨が降り注ぐ。

 

『回避運動!』

 

 プルイナは戦闘経験から魔術の兆候を判断し、黒い鎧のスラスターを全開にして距離を取った。

 今度は回避に成功するが、代わって魔術を受けた広範囲の木々が、毒々しい色に変わって枯れ果てる。

 一方、白い鎧も他の悪魔を相手取っていた。

 レール・バトル・ライフルの弾幕を掻い潜って低空を飛ぶ、闇色の悪魔。

 

「速い――!」

 

 その運動能力に、白い鎧の中でアケウが舌を巻く。

 

『接近警報!』

 

 そこへエクレルが警告を発し、白い鎧は緑色の悪魔が放った熱線の魔術を回避した。

 

『これまでの平均的な悪魔の魔術に比べて、二十倍近いエネルギー輻射だ。

 威力で言えば、先日の凍魔に匹敵するかも知れん。

 直撃すれば装甲が持たないぞ』

「分かった……!」

 

 アケウの放ったミサイルの反撃は、しかし、緑色の悪魔が前方に掲げた盾に当たる。

 超小型純粋水爆のもたらす破壊的な爆炎が広がるが、しかしそこから飛び出してきた緑色の悪魔には傷一つない。

 エクレルが、白い鎧の中のアケウに告げる。

 

『簡単な分析だが、暗黒色の悪魔は特に運動力に優れている。

 緑色の悪魔は攻撃も厄介だが、防御力が恐ろしく高い』

 

 もう一方、プルイナも黒い鎧の中で、ディゼムに報じた。

 

『空色の悪魔は特に魔術に長けているようです。

 銀色の悪魔は、攻守共に高い次元でバランスしています』

「くそ、精鋭ってやつか……?」

『恐らく、先ほどメイエに溶けた悪魔を、反逆者として討ち取るために戻ってきたのでしょう。

 メイエの存在が彼らに露見しているのは、何とも不都合です』

「仮にこいつらを全滅させても、またメイエを狙って悪魔が来るってことか……!」

 

 うめくディゼムに、アケウが言葉を続ける。

 

「しかもさっきの悪魔が、メイエに溶けたままだ!

 このままじゃ、乗っ取られてしまうんじゃないのか……?」

『今は戦闘に集中しろ。やつらは強敵だ』

 

 その戦いを地底湖から見上げていたエスコドゥスが、湖岸に手をつきながら尋ねた。

 

「まだ意識を保っているか、二人とも?」

 

 すると、湖水の中から返事が来る。

 

(まだ行けます)

(あたしも大丈夫)

 

 ファリーハとホウセのものだ。

 エスコドゥスが、やや改まって口にした。

 

「急ぎたいが、その前に改めて自己紹介しよう。わしの名はエスコドゥス。

 150年前に、この地に逃れた人々を湖に変えた張本人だ。まぁ、容姿は全く変わってしまったが……」

(わたくしはファリーハ・クレイリーク。インヘリト王国の魔術師です)

(えーと……あなたは知ってると思うけど、ホウセ。まぁ魔術師かな)

 

 エスコドゥスは、続けて語った。

 

「良かれと思ってやった。実際のところそれは上手く行って、150年のあいだ悪魔の目を欺き続けることができた……

 だがもはや、それも終わりのようだ。溶け込んだ人々の同期が進んで、魔力の輻射が増えたらしい。

 しかも魔術を使う悪魔がそこに溶け込んで、メイエを乗っ取ろうとしている」

(…………)

 

 沈黙する二人に、エスコドゥスは言い逃れめいて語り続けた。

 

「わしは、メイエが悪魔のものになってしまう前に、引導を渡そうと思っているが……

 そこにお主らを巻き込んでしまうのは忍びない。

 まだ溶けて間もないから、魔術を施して分離するのも難しくはない。構わんな?」

(いえ、まだ手はあります)

 

 と、ファリーハが言う。

 エスコドゥスは目を細めて、

 

「どうするというのだ。今や悪魔が攻め寄せ、異世界の鎧たちも苦戦しておるようだ。

 メイエの魔宝としての価値を無にして、せめてお主らが逃げられるようにするべきではないか?」

(溶け込んだ悪魔を、どうにかできればいいわけでしょう?)

(あなたが分離したみたいに、悪魔だけ追い出すことはできない?

 そのあとで、メイエを転移でインヘリトに逃がせばいいんだよ!)

 

 ファリーハとホウセが、希望を口にした。

 エスコドゥスは少し考えて、二人に問う。

 

「……取れる手段が、無いわけではないが……成功の保証はないぞ」

(アケウたちが戦っています。わたくしたちも、メイエを救うために、できることをしたいと思っています)

(あたしも賛成だよ! あなただって、みんなを騙したのは救いたいと思ってのことでしょ!)

「…………」

 

 彼女は胸中で算段を立てると、潜水服を操作し、再び湖水に潜った。

 

「お主らがそう言ってくれるのならば、わしもいま少し、足搔いてみるとしよう」

 

***

 

 するとファリーハは、自分の肉体の感覚が戻っていることに気づいた。

 

「これは……?」

 

 五感も、着ていた衣服も眼鏡も、存在しているように感じられる。

 不思議に思っていると、隣にはホウセもいた。

 真紅の鎧をまとったままだが、ファリーハと同様に、自身の身体の感触を確かめているようだ。

 

「ファリーハ? もしかしてあたしたち、元に戻ってる?」

 

 彼女が真紅の鎧の中から尋ねると、そこにどこからか、エスコドゥスの声が響いた。

 

(そうではない。わしの魔術で、分かりやすいようにお主らの感覚を少し調整しただけだ。

 実際には、今もお主らはメイエに溶けたままでいる。

 わずかずつだがメイエと同期が続いているのは分かるだろう)

「え、何この巻物」

 

 ホウセの声に気づけば、彼女たちの腰からは、足首ほどまである長いスクロールが垂れ下がっていた。

 しかも、その端には火が付いている。

 

「えっ!?」

 

 だが、その火は熱を発してはおらず、衣服に燃え移る様子もない。

 不思議に思って観察していると、エスコドゥスの声が言う。

 

(それはお主らがメイエに完全に同期してしまうまでの、残り時間の目安と思ってくれ。

 燃え尽きてしまったら、お主らの人格はメイエと同期して、元に戻れなくなってしまうだろう)

「これで、どうするの? もしかして、悪魔も同じ状態になってる?」

 

 ホウセが尋ねると、エスコドゥスは答えて、

 

(そうだ、ただし……ちと待っておれ)

 

 するとファリーハたちの目の前に、街が出現した。

 多数の建物に路地を備え、そこには無数の人々、老若男女が行きかっている。

 

(メイエの中を強引に具象化したものだ。実際の街というわけではないから、気を付けよ)

 

 ファリーハはその目的を察して、虚空に向かって訊いた。

 

「この中から、悪魔を探して……殺す、ということでしょうか?」

(殺すのとはちと違うな。奴は恐らく、溶けたといっても見た目の上だけでのことだ。

 人間ではなく悪魔だから、メイエに完全に同期しきるのもお主らより時間がかかる。

 奴はまだどこかに漂っていることだろう。それを見つけて捕えたら――)

 

 エスコドゥスの声がそこで一度中断すると、彼女たちの目の前に、大きな門が出現した。

 高さは十メートルほどか、アーチ状の梁をした重厚な形式で、両開きの扉が設えられた立派なものだ。

 もっとも、これもエスコドゥスが具象化したもので、現実に存在する物体ではないのだろうが。

 彼女は説明を再開して、言う。

 

(――二人でこの中に引きずり込め。お主らも同時に入ることで、共に分離できるはずだ)

「何か、思ってたより野暮ったい方法だね」

(やかましい)

 

 ホウセの感想に、エスコドゥスが文句を言う。

 彼女は続けて、

 

(ただし、この門が使えるのは一度きりだ。いざとなったらまた出す。

 悪魔を引きずり込むのが無理だと判断したら、お主らだけでこの中に飛び込みなさい)

 

 すると、門が消えた。

 その跡を人々が、彼女たちを気にかけることもなく行き交っていく。

 

(他に質問が無ければ、悪魔を探してくれ。あまり時間があるとは言えん)

「そうですね、急ぎます」

 

 ファリーハはそう言って、ホウセに呼びかけた。

 

「では、参りましょう、ホウセ!」

「うん!」

 

 二人は悪魔を探して、人の行きかう街に向かって歩き出す。

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