魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る   作:kadochika

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6.10.鎧の切り札

 具象世界の、小麦畑で。

 

「ふははははは!!」

 

 異形と化した悪魔が哄笑し、そこから山吹色の触腕が槍のように激しく伸びてくる。

 

「むっ!!」

 

 ファリーハとホウセは跳躍し、これを避けつつ悪魔に向かって疾走した。

 

「赤く、燃やせ!」

 

 ホウセが火炎の魔術を放ち、火の玉が悪魔に直撃する。

 しかし、

 

「効かぬわぁッ!」

 

 巨大な藁の塊のような見た目に反し、悪魔が炎上する様子はない。

 

「貫け、雷よ!」

「ぴゃあ!?」

「ファリーハ!?」

 

 むしろ悪魔が放った電撃で、ファリーハが直撃を受けてしまった。

 

「痛た、このっ……!」

 

 だが、現実ならば焼死していたであろう彼女も、具象化魔術の世界ということか、多少焦げて煙が上がる程度で済んだ。

 気を取り直して疾駆し、左腕に着装した白い装甲の中からナイフ――正式名称ハード・カッターを引き抜く。

 

(ほの)めく光よ、確かな(ほの)めきよ!」

 

 魔術によって強化された刃が、うっすらと輝く。

 そしてそれを構えると、悪魔から彼女に向かって飛び出してきた触腕を斬り破った。

 一方でホウセは真紅の槍を構えて飛びかかっており、触腕を切り裂き、新たな触腕に巻き付かれながらも、悪魔に得物を突き立てている。

 

「このっ、大人しくし――むぎゅ!?」

 

 口の中へと触腕を挿入されるホウセ。

 ファリーハは触腕を切り裂きながらそこに接近し、彼女の口の中に入った触腕の中ほどをカッターで切り飛ばした。

 

「ホウセ、これではキリがありません!

 何とか、悪魔の力を一気に削ぐ方法はありませんか!?」

「そ、そんな方法――っ!?」

(方法ならある!)

 

 そこに響いたのは、エスコドゥスの声だ。

 彼女の声と共に、小麦畑に地響きがやってくる。

 ファリーハたちがその出所へと振り向くと、そこにやってきたのはメイエの人々だった。

 

(お主らが戦っている隙に、メイエの皆を呼び集めておいたぞ!)

「悪魔がぁッ!」「失せやがれっ!」「人間舐めんじゃねぇぞ!」

 

 悪魔に対して怒りと殺気を漲らせる群衆の中には、これまで彼女たちが殴り飛ばし――もとい、正気に戻してきた人々もいる。

 

「やっちまえぇぇぇぇぇッ!!!」

 

 彼らは怒号と共に、悪魔に殺到した。

 

「ヒト風情がぬぉぉぉぉぉ――!?」

 

 悪魔は触腕を伸ばすが、さすがに四方八方からなだれ込んでくる人々の群れを止めることはできない。

 触腕は引きちぎられ、詰め寄られ、よじ登られ、悪魔は数の暴力に追いやられ始めていた。

 多勢に無勢とは、このことか。

 だが悪魔は、無理にそれを押し返そうとはしなかった。

 

「くっ……戦略的撤退だ……!」

 

 むしろ山のように増殖した触腕を囮にして、暴力の渦から抜け出しているところだった。

 群衆の中から這い出してきた本体の前に、しかし、二人の魔術師が立ちふさがる。

 

「どこに行く気!?」

「逃がしませんよ!」

「ひっ」

 

 横合いに走って逃げようとする悪魔の両腕のそれぞれを、彼女たちは引っ掴んで止めた。

 そして、ファリーハが叫ぶ。

 

「今です、エスコドゥス!」

(よし、行け!)

 

 すると彼女たちと悪魔とのすぐ近くに、高さ十メートルほどの重厚な門が現れ、ゆっくりと扉を左右に開いた。

 

(この中に、引きずり込め!)

「ぬぉりゃあぁあああっ!!」

「こんのぉおおおおおっ!!」

 

 彼女たちは悪魔をその中へと引きずり込むため、四肢と腹筋とに力を込めた。

 しかし悪魔も、全力で抵抗する。

 

「く、止せぇえええッ!!」

 

 手足を暴れさせ、彼女たちを振りほどこうとした。

 が、彼女たちとてそう簡単に脱出を許しはしない。

 

「固く、絡まれっ!!」

 

 ホウセの真紅の鎧の袖口からは鎖のついた錨が伸びて、悪魔の身体に絡みつく。

 なおも悪魔はそれに抵抗し、叫んだ。

 

「舐めるなぁあああッ!!」

 

 最後の足掻きか、悪魔の顔面が変形して、ファリーハの顔へと咬み付きにかかる。

 

「っ!?」

 

 思わず彼女がそれを避けたところを、悪魔は振り払い、蹴り飛ばした。

 

「あっ!?」

「ファリーハ!?」

「ホウセ、そのまましっかり押さえて、離さないで!」

「分かってるっ、けど……!」

 

 門扉は目前に迫っている。

 既に極彩色に渦巻くその向こう側が見えていたが、ホウセ単独では、悪魔によって徐々に押し返されつつあった。

 ファリーハは意を決して体勢を立て直し、彼女たちに向かって駆けだし、そして。

 

「失敬っ!!」

「ぐぉっ!?」

「にょわ!?」

 

 全力で放った飛び蹴りが悪魔へと命中し、その力で体勢を崩した悪魔は、ホウセを巻き込んで門の向こうへと転倒した。

 同時に門扉がずしりと閉鎖され、消え去る。

 ファリーハは胸の締め付けられる思いと共に、それを見送った。

 ホウセと悪魔を、メイエから分離することには成功した。

 しかし、ファリーハはもう、元には戻れない。

 

「…………」

(……よくやってくれた、と言いたいが……

 これで良かったのか、ファリーハ?)

 

 エスコドゥスの思念が、彼女に問いかける。

 彼女の腰から下がっていたスクロールは、今しがた燃え尽きた所だ。

 ファリーハは、眼鏡を外しながら答えて言う。

 

「致し方ありません。

 心残りは尽きませんが……わたくしの戦いは、ここまでだったということです」

 

 そこはもはや悪魔の小麦畑ではなく、静かな湖水の中だった。

 

***

 

 ホウセは暗い湖水の中で感覚を取り戻し、慌てかけた。

 

(身体が戻ってる……!?

 じゃあ、やっぱりファリーハは……!?)

 

 だが、彼女は悪魔のことも忘れてはいない。

 エスコドゥスの開いた門によってメイエの中から追い出され、ホウセと同様に実体が戻っているはずだ。

 

(いた!)

 

 真紅の鎧を通して悪魔の存在を知覚できるのが、その証拠だった。

 

「眩く、照らせっ!」

 

 ホウセは魔術で強烈な照明を発生させると、湖水の中を泳いで逃げようとする悪魔の姿を目でも捉えた。

 向こうもそれに気づき、必死に泳いで逃げるが――

 

()く、貫けッ!!」

 

 彼女の魔術で湖水の中に真空の渦が発生し、更に真紅の鎧の腕の装甲が大きく膨張する。

 そしてホウセが真紅の槍を投擲すると、それは一直線に真空の渦の中を飛んで、悪魔を串刺しにした。

 

「我が手に、戻れ!」 

 

 そして水中を戻ってきた槍に刺さったままの悪魔の体を確かめ、死んでいることを確認する。

 真紅の槍を鎧に収納しながら、ホウセは呼びかけた。

 

「エスコドゥス、悪魔は確かに殺したよ」

(うむ。いま男子たちは、メイエの上空で悪魔たちと戦っている。

 わしと共に、援護に行こう)

「……ファリーハは……?」

 

 気がかりを尋ねると、エスコドゥスは少しの間沈黙し、答えた。

 

(……残念だが、メイエと同期しきってしまった。

 無理矢理分離しても、人格や記憶は戻らんだろう……)

 

 それは、胸を抉る内容だった。

 ホウセは苦り切りつつも、頷く。

 

「……分かった。今はディゼムたちを援護しに行こう」

(すまんな、頼むぞ……)

 

 ホウセはメイエを介してエスコドゥスに誘導されながら、地底湖の出口へと向かって泳いだ。

 

***

 

 メイエ上空の戦いは、人間たちの劣勢に傾いてきた。

 悪魔たちの連携は崩れず、異世界の鎧たちは逆に連携を阻まれている。

 ディゼムはダメージの重なった黒い鎧の中で、うめいた。

 

「クソ、マジで埒が明かんぞこいつぁ……!」

『こちらの戦闘準備が不足していました。ここは切り札――秘中の秘を使用します』

 

 プルイナの発言に、ディゼムは驚いて訊く。

 

「何だ、そんなもんあんのかよ!?」

『ただし、我々にとっても出力調整が非常に難しいものです。

 威力を絞ると目くらまし程度にしかならず、大きく撃つと残った全エネルギーを喪失しかねません』

「博打ってことか……!」

 

 すると、通信を介してエクレルが言う。

 

『ならば、こちらに任せてもらおう。

 我々には魔眼がある』

「あたしもいるよ! 悪魔は倒した!」

 

 そこに、ホウセの声が加わった。

 エクレルが応じて、彼女に指示する。

 

『丁度いい。お前とディゼムとで、あの悪魔たちを全員引き付けて、出来るだけ一か所に集めろ。

 お前たちが巻き添えを食わない位置取りで、だ。

 できるか?』

「任せて!」

「簡単に言いやがって……!」

 

 真紅の鎧は空中に飛び出して、白い鎧を援護しながら悪魔を相手取る。

 闇色の悪魔の攻撃を回避しながら、彼女は緑色の悪魔に魔術を放った。

 

「光よ、穿てッ!」

「何だ?」「赤い鎧……隠れてたか」

 

 悪魔たちは目標を真紅の鎧に切り替えたようだった。

 一方で、破砕弾とレーザーを連射して後退するディゼム。

 銀色の悪魔がそれを追う。

 

「出し惜しみなしだ、オラ、来やがれッ!!」

 

 空色の悪魔は魔術を放ちつつ距離を取ろうとするが、分離したジャイガンティック・ゴーントレットに機動を阻害される。

 そして白い鎧はそれらから距離を取って、地上で切り札の発射の準備に入っていた。

 切り札――正式名称、クォーク・グルーオン・プラズマ・カノン。

 それは胸部装甲に格納されており、非常時にはこれを展開し、火砲として用いることができる。

 背部に集中するQGPコアからエネルギーを取り出し、前方へと超高温・超高圧のクォーク・グルーオン・プラズマのビームを放つ。

 これはXTIAS-6に搭載された攻撃用兵器の中で、最大のエネルギー投射量を持つ。

 ただしQGPコアの定量的な制御が困難で、僅かなミスでも計算以上の威力が生じ、それに応じたQGPコアを消耗してしまうという欠点があった。

 QGPコアの残量が少ない今の状況で使えば、反動による破損を生じたり、エネルギー不足で即座に行動不能になるといった危険がある。

 にもかかわらずそのような代物が搭載されているのは、そうした機能が必要な局面が想定されたからでもあるが――

 

『QGPコア、解放』

 

 白い鎧の背部に格納されていたQGPコアの群れが、肩装甲の内部経路を通して胸部装甲の奥へと移動・収束していく。

 

『砲身展開』

 

 胸部装甲が変形し、短い筒状の部品が前方へと伸展する。

 

『熱量・圧力充填』

 

 砲身の奥の圧力室にQGPコアが蓄積し、その中に閉じ込められている超高温・超高圧の始原宇宙の名残が解放を待っていた。

 

『防熱膜展開』

 

 更に、白い鎧の装甲の表面にはジェル状の耐熱液が分泌され、発射時の超高温から自身を守る準備を固めた。

 

『発射準備完了。アケウ、照準補助と発射の引き金は任せるぞ』

「分かった」

 

 着装者にアナウンスして、エクレルはディゼムとホウセに呼びかけた。

 

『ディゼム、ホウセ。こちらは準備が完了して、いつでも撃てる』

「分かった、待ってろ!」

「千病万毒よ、蝕め――」

「うぉらァッ!!」

 

 ディゼムは地上から呪いの魔術を投射しようとしていた悪魔に高速で接近し、組み付いた。

 高密度の呪いの魔術が魔術紋様を貫通して呪いを発動させるが、彼は呪いが発症する前に空色の悪魔を掴み上げ、

 

「エクスプローシヴ・バレッツ!」

 

 鎧の掌から破砕弾を連射して、その爆圧で悪魔を天空に打ち上げた。

 空色の悪魔は魔術の威力こそすさまじいが、機動性や運動力はさほどでもない――その見立てが当たったようだ。

 

「ホウセッ!!」

 

 ディゼムが通信越しに叫ぶと、打ち上げられた空色の悪魔に向かって、ホウセが魔術を行使する。

 

「竜巻よ、飲・み・込・めぇッ!!」

 

 真紅の鎧の両腕から、目に見えるほど濃縮された魔力の力場が、渦となって投射された。

 

「おっと――」

 

 そこに割り込み防御しようと試みた緑色の悪魔が、しかし、空色の悪魔と共に魔術の竜巻に飲み込まれる。

 竜巻は破裂して光の渦となり、悪魔たちを空中に磔にした。

 どうやらそうした、動きを止めてしまう効果を持つ魔術らしい。

 

「――!?」

 

 それを見て動揺したのか、動きの鈍った銀色の悪魔と闇色の悪魔に向かって、今度は地中から何かが伸びた。

 

「何!?」

 

 激しく伸びてきたのは、水柱だった。

 二人の悪魔は空中で強くそれに衝突し、ホウセの作り出した光の渦へと弾き飛ばされる。

 好機を逃さず、エクレルが言った。

 

『二人とも、衝撃に備えて離れろ! アケウ!』

「発射!」

 

 白い鎧の胸部から、圧縮されたクォーク・グルーオン・プラズマが発射された。

 質量にして1グラムほどだが、絶対温度にして二兆度ほどのエネルギーを持つそれは超音速で飛翔し、ごく短時間で周囲にエネルギーを撒き散らした。

 大気が急激に膨張し、爆発する。

 強烈な上昇気流が発生して周囲の粉塵を巻き込み、数秒後には巨大なキノコを思わせる形状の雲が発生していた。

 同時に発声した強烈な電磁波によって機器がかく乱を受け、黒い鎧の内部でそれを見ていたディゼムの視界にノイズが走る。

 

「な、何つう威力だ……」

 

 衝撃波で薙ぎ倒される森、激しく吹き飛ぶ土砂。

 また、爆心点は真空に近い状態になっているため、周囲に拡散した大気がそこに戻ろうとして、いわゆる「吹き戻し」が発生する。

 一行はそれに翻弄されながら、ノイズ交じりの通信で連絡を取り合った。

 

「こんなにヤベーなんて聞いてねぇぞ!」

「そこは同感ー!」

『ごめんなさい、事前にレクチャーできていればよかったのですが、時間がありませんでした』

 

 ディゼムとホウセの感想に、プルイナが落ち着き払って陳謝する。

 

「殿下は……殿下は大丈夫か!?」

『まずは敵の状況だ。殺せていればいいが――ホウセ、感じないか?』

 

 ファリーハの身を案じるアケウを抑えつつ、エクレルがホウセに尋ねた。

 彼女は顔を上げて、

 

「あ、気配は消えてるね……近くにはいないと思っていいんじゃないかな?」

 

 数分もして大気の狂乱は収まり、彼らは地底湖の入り口に戻った。

 そこに戻っていたエスコドゥスから、アケウは世の終わりめいた事実を聞かされた。

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