魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る   作:kadochika

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7.3.女児の誘拐

 地上への攻撃を阻止するための、調査が始まった。

 具体的には、まず、魔眼を使えるアケウが市内を見て回る。

 ウィッシェルについてある程度の知識のあるホウセも、そこに同行する形だ。

 

『アケウ、万が一の時は急行する。何かあればすぐに呼べ』

「ありがとう、エクレル。そうするよ」

 

 アケウは相棒にそう言うと、端末に話しかけた。

 

「色々と情報を集めたいんだ。どこに行けばいいか、教えてくれたりする?」

 

 すると端末が応えて、画面の表示を変える。

 

『マップを表示します』

「……前にエクレルたちが立体で見せてくれたやつみたいだな」

 

 そこには地図が広がり、中心部にはアケウたちの現在位置らしき点が表示されている。

 そしてその点から数百メートルほど離れた場所に、名称の書かれた赤いアイコンが追加される。

 

「情報センター?」

『他の候補はあるか?』

 

 エクレルの音声を拾ったのか、端末は他にも赤いアイコンを表示した。

 

「防犯警備隊詰め所、情報研究所、情報魔術会社……」

『詳細を知りたい時はアイコンをタップしてください』

 

 アケウが一つ一つ読み上げて行くと、端末が音声で案内する。

 

「じゃあ……」

 

 と、彼が最初に表示されたアイコンを指でつつくと、説明が表示された。

 超空間通信機の音声でしか通話できない状態のエクレルのために、アケウがそれを読み上げる。

 

「あらゆる物事についての情報を高密度に集積するための施設。

 許可された端末があれば資料を閲覧可能……だって」

『なら、まずはそこに行ってみるか』

 

 量子暗号通信を介して、プルイナが応える。

 

『それがいいでしょう。ディゼムたちが接続している端末から得られる情報は広範ですが、恐らく太陽系のネットワーク同様、限界があります』

「わかった、じゃあそこで」

『ナビを開始します』

 

 アケウたちは地図についていた案内機能に従って歩き、立体高架沿いに佇む無機質な建物へと到着した。

 思い出したのか、ホウセが言う。

 

「あ、ここはエリカレスと来たことある。

 本はおいてないけど、図書館みたいなとこだって」

 

 内部は静かだが明るく、人の出入りもそこそこにある。

 彼らは係官やロボットの案内に従って、情報を要求した。

 

「こちらの固定端末に、閲覧したい情報を入力してください。

 機械が各資料を参照し、コピーをお持ちの端末に送ってくれます」

 

 超空間通信機の端末から、エクレルが小声で言う。

 

『あの魔術意思が監視していそうだが、やってみるか』

「そうだね、何から調べようか。ウィッシェルの構造?」

『差し当たってはそこだな。重要な箇所は記録されているとは限らないが……

 それと、ウィッシェルの成り立ちについても興味がある。歴史関連もざっと掬っておきたい』

 

 アケウはエクレルと話しながら、要求すべき資料を絞り込んでいった。

 

・国体構造概要

・我が国の基礎 ~保守管理の全て~

・やたらよくわかるウィッシェル

・ウィッシェルを作った男たち 苦節苦闘の百年紀

・全史 -古代から現代まで-

 

 タイトルはこれに留まらないが、アケウとホウセに貸与された携帯端末へと入るだけ、情報のコピーを要求した。

 係官は一覧を受信すると、

 

「点数が多いので、資料の取り出しとコピーに一時間ほどかかります。

 よろしいですか?」

「うん」『問題ない』

「ということで、お願いします」

 

 ホウセとエクレルが頷くと、アケウは係官にコピーの実行を要請した。

 

「かしこまりました。お呼び出ししますので、ロビーでお待ちください」

 

 ロビーには、広大な情報保管庫を見渡せる巨大な窓が設置されていた。

 金属製らしいラックが整然と立ち並び、そこを自動ロボットがゆっくりと走行しているのが見える。

 その様子を見ていたアケウは、ロボットが金属ラックの前に停止して、ラックを開けて中身を取り出すところが気にかかった。

 ロボットは繊細そうな作業肢で、小さなガラス板のようなものを掴んでいる。

 

「あのガラス板、何かな……?」

 

 エクレルが超空間通信機の通信を介して、答える。

 

『その形容では恐らく、太陽系でシリカメディアと呼ばれていたものに近いかも知れないな。

 石英ガラスにレーザーでデータを記録し、然るべき読み出し機構があれば読み取れるようになっている』

「へぇ……手のひらよりも小さいガラス板みたいなんだけど、どのくらい入るの?」

『メディアの形態にもよるが、太陽系の基準ならば、およそ一千から35万点といったところか』

「字じゃなくて冊数……!? すごいな」

 

 その時、首元の通信機からディゼムの声が届いた。

 

『アケウ、ホウセ! 今動けるか!?』

「どうしたの、ディゼム!」

 

 動揺しているその様子にアケウが応じると、

 

『エスコが攫われた! 部屋に残ってる姫様を頼む!』

「っ!? わかった!」

 

 彼はわずかに動じつつ、ホウセに告げた。

 

「ホウセ、悪いけど着装して、エクレルと一緒に殿下の所に先行してくれ!

 僕は資料の入った端末を受け取ってから向かう!」

「わかった、そうしよ!」

 

 ホウセは走って、情報センターの外へと出る。

 アケウはもどかしい思いで、資料のコピーが終わるのを待った。

 

***

 

 少し時間を遡り、ファリーハに割り当てられた宿泊室にて。

 ソファに寝転がった女児が、端末を見ながらつぶやいた。

 

「う~ん……この端末というやつ、中々面白いのう」

 

 ファリーハがそれを見て、ため息をつきながら言う。

 

「エスコドゥス、まじめにやってください」

「まじめにやっておるぞ? この動く解説なんか、分かりやすくていいと思うが」

 

 端末に映し出されている動画を横から見て、王女が所感を述べた。

 

「……生首同士が妙な声で喋っているだけではありませんか」

「まぁ、学術的かと言われたら困るが……しかし、地上を爆撃することについてはどこにも情報がないな。

 わしの探し方が悪いのかな?」

 

 ディゼムの首元の超空間通信機から、プルイナが言う。

 

『それについては、恐らく機密ということなのでしょう。

 アヴァリク・ハルドゥスが我々にそれを明かした理由は不明ですが、我々が妨害しても遂行できるという自信の表れかも知れません』

「しれっと言ってのけやがったからな、あいつ……

 だが、熱核融合爆弾とかいうのがどんなものかは、何か動画があるな。

 この前使ったQGP砲みてぇだ」

 

 ディゼムが端末を机のホルダーにセットすると、手のひらほどの大きさのその画面の中で映像が流れた。

 ファリーハとエスコドゥスがそこを覗き込むと、そこには、閃光の直後、キノコのような形状の巨大な雲が生じる有様が描写されている。

 ファリーハが少しばかり青ざめて、懸念を口にした。

 

「こんなものを、もしインヘリトに向かって使われたら……!」

『こちらでは音声データしか取得できませんが、察するに、破壊的な威力の爆弾であろうと推測します。

 炸裂高度にもよりますが、インヘリト特別市は壊滅し、十万人を超える市民が死亡する可能性が考えられます』

「絶対に阻止しなければ――」

 

 その時、エスコドゥスの端末がぴろりと音を立てる。

 彼女はポップアップされた表示を見て、嬉しそうに声をあげた。

 

「おっ、何やらうまそうな氷菓売りの車が近くに来ているそうだ。

 買いに行っていいか?」

 

 ウィッシェルには、金銭に相当する概念もあった。

 彼らは入国時にはウィッシェルの通貨を持っていなかったが、ファリーハがホウセの証言を基に持ち込んだ魔術塗料にその価値があると判断され、換金・分割されて端末の中に振り込まれていた。

 今の彼らは、節制すれば一か月程度は滞在可能な通貨を持っている。

 エスコドゥスが氷菓を買いたいと言い出したのは、それが念頭にあってのことだろう。

 ファリーハが、彼女を(たしな)めて言う。

 

「無駄遣いはいけませんよエスコドゥス。何があるのか分からないのですから」

「しかしこの身体、以前より腹が減りやすくてなぁ……」

「んじゃあ姫様、俺が付き添って、すぐ戻ってきますんで」

 

 調査に飽きてきていたディゼムが提案すると、ファリーハは少し思案して、言った。

 

「……まぁ、こうして閉じこもっていても気が滅入ってしまいますね。

 それでは、頼みます」

『ディゼム、くれぐれも気を付けて。

 恐らく行政魔術意思は、我々を潜在的な敵と見做しているでしょう』

 

 プルイナの警告に、頷く。

 

「分かった。まぁ、アイスを買うくらいでそこまで目くじら立てやしねぇと思いたいがな……」

「そうとなったら早う行くぞ、ディゼム! 氷菓屋は待ってはくれん!」

「そんなそそくさと移動したりもしねぇだろ、売りに来てんだから……」

 

 エスコドゥスが小さな靴を履いて玄関の扉を開けると、ディゼムもそこに続く。

 二人が建物を降りて路地に向かうと、そこには氷菓の移動販売車が停車していた。

 イルミネーションを煌めかせ、氷菓の味を喧伝する歌を流している。

 エスコドゥスの目も輝いていた。

 

「ひょ~! 何味がいいかのう! 何段にしようかのう!」

 

 いや、ディゼムに先行しているのでその表情は直接は見えなかったが、浮足立ったその動きで分かる。

 彼もそれに釣られて、自分も買ってもいいかもしれない、などと思った、その時だった。

 

「――!?」

 

 移動販売車の荷台から大型のマニピュレーターが伸びて、エスコドゥスを捕獲する。

 

「ほゎ!?」

 

 ディゼムは咄嗟に飛び出して、彼女を捕らえたマニピュレーターに掴みかかった。

 

「いや待てオイ、いきなり何だこいつ!」

 

 だが機械の腕の力は強く、ディゼムは弾き飛ばされ、エスコドゥスは移動販売車の荷台の中へと運び込まれてしまう。

 

「が!?」

 

 移動販売車が発進し、加速を始めた。

 彼は打撲の痛みをこらえて起き上がり、それを走って追いつつ、相棒を呼ぶ。

 

「プルイナ!」

『向かっています!』

 

 ウィッシェルの港に置かれた保護セルから緊急発進した黒い鎧が、空中を飛行して市街地に到着、疾走するディゼムを追いながら着装を開始した。

 行政魔術意思からの警告が、兜の中に響く。

 

『警告します。戦闘用外骨格を着装しての外出は、緊急時でない限り容認できません――』

「るせぇ、今がその緊急時だろうが!」

 

 五秒で着装を終えて、ディゼムはスラスターの推力で移動販売車に追い付いた。

 が、そこに更なる妨害が重なる。

 

『戦闘用外骨格の市内での使用は認められません。今すぐ着装を解除し、行政の指示に従ってください』

「ふざけんな! 連れがさらわれてんだぞ!」

 

 飛来した機械に毒づきつつ、ディゼムはエスコドゥスを捕獲した移動販売車のタイヤに向かって粘着繊維弾を放とうと試みた。

 

「エスコ、車を止める! 衝撃に備えろ!」

「そ、そう言われてもだな!?」

 

 互いの首元に巻いた超空間通信機で警告するが、しかし、その直前に飛行機械から何かが発射された――投網だ。

 それは黒い鎧に絡まって、粘着繊維弾の投射を阻害する。

 

「あっ、クソ!?」

『今すぐ使用を停止してください』

 

 更に飛行機械からはフックが伸びて投網に引っかかり、ディゼムたちにブレーキをかけた。

 

FXA(辺縁収奪装甲)起動』

 

 黒い鎧が発光する。

 装甲に触れた物質の原子を分解し――その間は強度が下がるので、使いどころを選ぶのが難点だ――、資源として吸収する機能だった。

 投網を構成する合金は瞬く間に分解され、そこを抜け出た黒い鎧は装甲を通常モードに戻し、再び移動販売車を追跡する。

 同時、ディゼムは仲間に呼びかけた。

 

「アケウ、ホウセ! 今動けるか!」

『どうしたの、ディゼム!』

「エスコが攫われた! 姫様を頼む!」

『っ!? わかった!』

 

 部屋に残されたファリーハも気がかりだったが、ディゼムは今はエスコドゥスの身柄を取り戻すことを優先した。

 移動販売車は街路を曲がり、視界から姿を消す。

 それを追おうとディゼムが速度を上げようとした、その時だ。

 行く手から、くすんだ緑色の車両が車道をやってくるのが見えた。

 それは拡声器で、彼らに警告してくる。

 

『黒い戦闘用外骨格とその着装者に警告する! 我々はウィッシェル防犯警備隊である!

 速やかに市街地での行動を停止し、指示に従え!』

『有人部隊のようです。どうしますか、ディゼム』

「人間入りかよ……ていうか、動きが妙に早え!」

 

 荷台に乗っている人員の装備を見るに、黒い鎧で蹴散らすことも可能だろう。

 だが、さすがにそれをしては完全にウィッシェルを敵に回してしまう。

 エスコドゥスを攫った相手やその理由は不明だが、あるいはそれは、このタイミングの良さを見るに、ウィッシェルの意思なのか。

 ディゼムは黒い鎧に尋ねた。

 

「プルイナ、エスコの位置は分かるか」

『端末の反応が失われています。ウィッシェルの側から遮断されたと思われます』

「それじゃあこりゃ、ウィッシェルの仕業かよ!? 首の通信機で特定できねぇのか!?」 

『超空間通信機は特性上、通信装置同士の位置を同定することができません』

「クソッ、癪だが一旦透明になって逃げて、姫様たちの所に戻るか……!?」

『そうしましょう。熱電・色覚迷彩起動』

 

 ディゼムたちは黒い鎧を透明にして有人部隊の目を逃れ、その場を去った。

 

***

 

 事情を届け出て業務を早退したマイレは、自宅に戻った。

 そこには普段あまり時間の合わない夫がいて、更には学校が放課となった息子のヴォルディが帰ってくる。

 休日には少し早いが、家族が日中に揃ったということで、マイレは少し高級な糧食を注文した。

 しかしそこに、三人の端末が一斉に振動する。

 

「?」

 

 いつもなら放っておくのだが、その時のマイレは何かを感じて、端末のスリープを解いた。

 

「……!?」

「どうした?」

 

 彼女の血相を見て、夫が尋ねてくる。

 息子も、通知を確認したようだった。

 

「お母さん、これ何て読むの?」

 

 彼が見せてきた端末の画面には、こう書いてあった。

 

 ――召喚状

 氏名:ヴォルディ・アクタイル

 以下の日時までに、指定の場所に出頭すること。

 

 彼女たちの息子であるヴォルディに、行政魔術意思からの呼び出しがかかったのだ。

 その目的は、息子の年齢を考えれば一つしか思い当たらない。

 

(そんな、嘘だ――)

 

 マイレは、視界が闇に包まれていくような錯覚に陥った。

 

***

 

 ホウセは真紅の鎧をまとって、空中を飛んだ。

 彼女の鎧は戦闘用外骨格に該当しないのか、それだけで妨害を受けることはない。

 飛びつつ、超空間通信機でファリーハに連絡を取る。

 

「ファリーハ、大丈夫?」

『わたくしは無事です! それより、ディゼムたちが……』

「エスコが攫われたのは聞いてる。

 アケウに資料の受け取りを任せて、あたしはエクレルと一緒にそっちに向かってる。

 でもエスコを攫うって、誰が、何の目的で……?」

 

 その疑問に、エクレルが答えた。

 

『プルイナの報告では、端末の反応が不自然に途切れたらしい。

 ウィッシェルが噛んでいる可能性がある。

 少なくとも、お前が何も感じていないということは、忍び込んだ悪魔の仕業ではないだろう』

「そりゃ、そうなるけど……ウィッシェルが、なんでエスコを……?」

 

 ただ、ホウセには、エスコドゥスのような幼い――元は老人らしいが――児童を(かどわ)かす行為について、不愉快な心当たりがあった。

 彼女はファリーハの宿泊室に戻り、自分の目でその無事を確かめた。

 

「良かった、本当に大丈夫だね」

「えぇ……エスコドゥスのことは気がかりですが」

 

 ファリーハが部屋の端末に向かって、話しかける。

 

「アヴァリク・ハルドゥス、要請した事件の捜査はどうなっていますか?」

 

 すると、鏡のようだった壁の画面が変化し、抽象的なアイコンが現れて応答する。

 

『現在捜査中です』

 

 ファリーハは首を横に振って、ため息をついた。

 

「……こういった調子なので、頼りがいがあるとはいいがたいですね」

 

 すると今度は、ホウセやファリーハに貸与されている小型の端末から音声が届いた。

 

『異邦の方々にお知らせです。市内で戦闘活動を強行した黒い鎧と、その着装者に出頭を求めます。

 出頭は端末に表示した防犯警備事務所へ願います』

 

 ホウセはその内容を理解し、端末に言い返した。

 

「ちょっと、何それ!? ディゼムはエスコを助けようとしただけでしょ!?」

『そうした事情も含めて説明を求めるためです』

「説明ならこの端末越しに話すだけで十分でしょ!」

『手続き上必要です。協力を願います』

「このっ、ばかっ!」

 

 ホウセは怒って、端末の画面を消した。

 そして首元の超空間通信機を介して、ディゼムを呼び出す。

 

「ディゼム、行くことないからね! あたしたちだけでエスコを助けよう!」

『……俺は、出頭もありだと思ってる』

「本気!?」

 

 ホウセはその返事に、ひどくショックを受けた。

 ディゼムが通信の向こうから、続けて言う。

 

『エスコを見失ったのは俺のミスだからな。ウィッシェルの仕業だとして、何とか手掛かりになるもんを探してぇんだ』

『本機もついています。何とかします』

「……二人でそこまで言うんなら、止めないけどさ」

 

 ホウセは不安を感じつつも、呼びかけた。

 

「ちゃんと帰ってきてよ?」

『あぁ、約束する!』

 

 そう言ってディゼムが連絡を絶つと、そこにアケウが戻ってくる。

 

「ただいま戻りました」

「無事で何よりです、アケウ」

 

 ファリーハが安堵するも、ホウセはやはりディゼムの安否が気にかかり、アケウに告げた。

 

「ディゼムが出頭するって」

「うん、僕もそれは気がかりだ。どうしようか、エクレル」

『差し当たっては、持ち帰ったデータの共有だな。

 固定端末につなげるドックがあるはずだ、そこに携帯端末を置いてみろ』

 

 エクレルがそう言うと、アケウは二人分の携帯端末を、固定端末の上へと置いた。

 

「こう、かな?」

 

 ホウセにはよく分かっていなかったが、固定端末が無線通信で携帯端末の中のデータを読み取り、部屋の壁に設置された大型端末の画面に映し出した。

 鏡のようになっていたディスプレイに、端末内部に入っていた情報が表示される。

 それは雑多な文章や図像の集合体で、一見した所では要領を得なかった。

 

「多すぎてよく分からないね……エクレル、どうしたらいいかな」

『端末に要約を頼んでみろ』

「そうか……情報を要約してくれる? まずは……ウィッシェルの歴史がいいかな」

『歴史について要約します』

 

 要請を受けた端末が情報を要約し、表示して読み上げた。

 

『およそ一万二千年ほど前、この世界は悪魔と思われる種族の侵攻を受けました』

 

 それを聞いたファリーハが、メガネの位置を直しながら驚いた。

 

「一万、二千年前……!?

 悪魔の侵攻が、150年前より、もっと昔にあったと……!?」

『その時、人類は大きな打撃を受けて、空に逃れたウィッシェルだけが生き残りました。

 それから一万二千年の間、ウィッシェルは空で平和に繁栄してきました』

 

 そうした端末の説明に、エクレルが口を挟む。

 

『まぁ、そこについては、150年前に再度悪魔が侵攻してくるまでに地上がだいぶ復興していたようだから、事実と異なるがな。

 生き残ったのはウィッシェルだけではないのか、ウィッシェルから地上へ抜け出した者がいたのかは分からないが』

「では、ウィッシェルでも悪魔には、正面からは勝てなかったということでしょうか」

 

 疑問を口にするファリーハに、やはりエクレルが答えた。

 

『推測ではそうなる。核兵器で悪魔を駆逐しようとするのも、そのためかも知れないな。

 だが、当機が気にしているのはそこではない』

 

 彼女はそう言って、話題を変えた。

 

『ウィッシェルの動力源はどうなっている? 資料は要求したはずだがな』

「あ、それ、あたしも気になってた」

 

 エクレルの疑問に、ホウセは同意する。

 

「ウィッシェルも魔術で飛んでいるはずなんだけど、どこから魔術資源を持ってきてるのかなって」

『魔術塗料の原材料には酸化コバルトや酸化アルミニウムなどがあるが、今まである程度鉱物資源を収集して把握できた傾向としては、この世界でもコバルトあたりは希少金属だ。

 これを核融合で調達するのはかなり難しい。

 地上に機械を降下させて調達している可能性も考えたが、それらに該当する記述は機密なのか、発見できなかった。

 その程度は、機密にするほどでもないと思うのだがな。

 とはいえ、ウィッシェルが今も浮き続けているのは、核融合ロケットのような機械的な推進の力でないことは明らかだ』

「つまりどのようにしてか不明ながら、ウィッシェルは浮力を生む魔術を生成するための魔術資源を、どこかから調達していると……?」

『推論としてはそうなる』

 

 ファリーハの推測に、エクレルが同意した。

 

「……もしかして、人間?」

「……!!」

 

 ホウセの言葉に、アケウとファリーハの表情が凍り付いたように見えた。

 

「ウィッシェルも悪魔と同じ方法で、人間を魔石に変えて、それを使って塗料を作って、魔術紋様を描いてるんだとしたら……?」

 

 それを聞いたか、エクレルが超空間通信機からの音声で、端末に問いかける。

 

『おい端末よ、ウィッシェルの動力はどうなっている?

 まさか人間を攫って動力源にしているんじゃないだろうな』

『そうした事実はありません』

『……まぁ、素直に認めるわけがないことだがな。

 大した額を持ち込んだわけでもないし、我々XPIAS-6は市街地での使用を禁止されている状態だ。

 何者かが金目当てにエスコドゥスを誘拐するといった線は考えにくい。

 多少強引だが、かつてのホウセのように、魔術資源にするためにウィッシェルに攫われたと考えると、整合する』

「やめさせなければ……!」

 

 青ざめるファリーハに、アケウが意見する。

 

「しかし、それはさすがに……アヴァリク・ハルドゥスに聞いても本当のことは言わないでしょうし、証拠を押さえなければ言いがかりになってしまいます。

 となるとそのためにも、エスコドゥスを探し出さないといけませんね……」

 

 彼女は自身の顎に手をやりつつ、

 

「ディゼムが首尾よく調べてくれるのを、待っているだけではいけませんね。

 我々も、可能なところから調べて行きましょう」

 

 そこに、部屋のチャイムが鳴った。

 続いてどんどんと、やや乱暴に玄関の扉を叩く音がする。

 

「誰?」

 

 ホウセが玄関に寄ってインターホンを起動すると、そこには記憶に新しい顔が映っていた。

 マイレだ。他に同じような年頃であろう男と、息子らしき男児が、一人ずつ傍にいる。

 彼女の表情は、恐怖に青ざめていた。

 

「異邦の人たち……助けてください……!

 うちの子が、息子が……!」

 

 彼女は、消え入りそうな声で続けた。

 

「選ばれちゃった……!」

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