魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る 作:kadochika
市内の防犯警備事務所に出頭したディゼムは、まず着装を解くように言われ、指示に従った。
「戦闘用外骨格はこちらで預かります」
「どうするつもりだ」
「まずは事情の説明を願います」
彼は係官に食って掛かろうとするが、プルイナがそれを止める。
『ディゼム、指示に従いましょう』
「……あぁ」
引き下がったディゼムは、取り調べのためと思しき個室に通された。
席に座るとそこに置かれていた固定端末が起動し、合成音声が質問する。
『それでは、早速ですが事情を説明していただきましょう。
なぜ市内で戦闘用外骨格を使用したのですか?』
「攫われた仲間を助けようとしたからだ」
ディゼムは苛立ちながら、答えた。
プルイナも、通信機越しに発言する。
『本機も同じ内容を証言します。あれは明らかに、人間に対する誘拐行為です』
「入国手続きはしたから、そっちにも情報は行ってるだろ。
俺たちと一緒だった、エスコドゥスって名前の子供だ」
ディゼムが続けてそう言うと、端末はそっけなく答えた。
『そうした事実は把握していません』
「なら早く把握しろ! アイス屋の車が、攫ってったんだよ!!」
『戦闘用外骨格の使用はあなたの意思なのですね?』
「だったら何だ!」
『治安妨害の容疑で、あなたを拘束します』
端末がそう言うと、個室の扉が開いてガスが噴霧された。
「ぐッ――!?」
ディゼムには判断できなかったが、即効性の催涙ガスに、吸入麻酔を添加したものだった。
彼は吐き気と涙に苦しみつつ、意識が薄らいでいった。
『ディゼム? 何かありましたか? こちらは拘束を受けて――』
首元から聞こえるプルイナの声も、徐々に遠のいていく。
倒れた彼を係官たちがベッドに乗せると、ベッドは自走を始め、彼の身体は部屋から運び出され、ウィッシェルの中枢に位置する魔術炉へと搬送されていった。
***
ファリーハたちの元に姿を現したマイレたちは、部屋に入れられると憔悴しきった様子で事情を語り始めた。
「ウィッシェルの市民には……義務があるんです……
年に一人、測定で選ばれた子供を、魔術意思に差し出すっていう……!」
息子だという少年を抱き寄せながら言う彼女に、ファリーハは尋ねた。
「魔術意思にお子さんを差し出すとは、もしや、資源として……!?」
「それは……子供がどうなるのかは、誰も知らないんです……
でも、この子を失って、代わりにクローンを育て直すなんて、耐えられない……!」
「妻と相談しました。何とかこの子だけでも、そちらの国で匿っていただけないかと」
マイレの夫が、二人を庇うようにして言う。
そこに、部屋の端末が起動した。
『異邦の方々に告げます。ヴォルディ・アクタイルと、その両親を匿っているのは確認済みです。
速やかに彼らを、当局に引き渡してください』
そう告げる抽象的なアイコンに対し、ファリーハが問いかける。
「何の容疑です?」
『都市運行妨害です。彼らはウィッシェルの正常な運行を妨げています』
答える行政魔術意思に、王女は更に訊ねた。
「運行の妨げとは、具体的には何ですか?」
『詳細を説明する必要はありません。彼らを当局に引き渡してください』
「その姿勢は、この少年の犠牲がウィッシェルの運航に必要であり、それを妨害する両親や我々が邪魔だという意味でしょうか?
子供を魔術資源に変換して運行しているのですか?」
『我々と市民とが、必要な犠牲を支払っているまでです。
それによって、悪魔に侵入される危険を冒して地上に降りる必要がなくなります』
『なるほど、地上ごと悪魔を滅ぼすと言っていたのは、それに限界を感じていたからか』
アケウの首元からエクレルが発言すると、そこにファリーハが続く。
「ならば、あなた方がインヘリトと協力することにはなおさら意味があります!
市民を犠牲にするのをやめ、協力して悪魔を駆逐して、安全になった旧世界に共に帰還する……
それが最善ではありませんか!?」
しかし、行政魔術意思はそれに答えず、告げた。
『あくまで匿うのであれば、あなた方の滞在を拒否し、反逆者に対する措置を取ります』
「させない!」
そう言ったのは、アケウだった。
彼は自身の着ている灰色の野戦服の胸元を掴み、仲間たちに呼びかけた。
「エクレル、ホウセ。殿下とマイレさんたちを頼む!」
『いいだろう』「わかった!」
すると、玄関口に白い鎧が姿を現す。
黒い鎧と共に保護セルから飛び出していたが、こちらは熱電・色覚迷彩で隠れていたのだ。
そして白い鎧はアケウではなく、ファリーハを包み込む。
『危険だから眼鏡を外せ、ファリーハ!』
「は、はい!?」
同時、ホウセも呪文を唱えて真紅の全身鎧を身にまとった。
そして――
「凝襲!」
アケウが呪文を唱えると、彼の野戦服が変形する。
それは頭頂からつま先までを包み込む、灰色の全身鎧となるのだった。
***
彼らがウィッシェルに到着する、三日前のことだ。
インヘリト王国は南部の陸軍第二基地に隣接する、起伏の多い低木地帯。
演習場となっているそこを、二つの灰色の影が走る。
ざざ、とそれらは素早く低木をかき分け、二本の脚で疾駆していた。
鎧だ。
灰色の、全身をくまなく覆う鎧が、草や低木をかき分け、ジャンプを織り交ぜながら疾走している。
すると、二領の全身鎧はそれぞれ、叫んだ。
「着撃する雷鳴よ!」
「破裂する衝撃よ!」
圧縮された空気の塊と高圧電流が、低木の中に設置された看板型の標的を破壊する。
灰色の全身鎧たちは走り続け、次々と同様に標的を破壊していく。
しかしそこに、どどど、と連続して爆発が生じた。
陣地から発射された弱装砲弾だ。
灰色の全身鎧たちはその飛んできた方角に見当をつけたか、方角を変えて突進していく。
彼らは砲兵隊が陣地変換を終える前にそこにたどり着き、
「着色する手心よ!」
魔術で即席の塗料を作り出し、撃ち放った。
新式の野砲と砲兵たちが真っ赤に染まり、撃破判定を受ける。
もっとも、その塗料は魔術で作り出した仮初の物質なので、すぐに分解されて消えてしまうが。
灰色の全身鎧たちはその後、更に歩兵部隊を判定撃破して、演習は終了となった。
彼らは撤収を始めている演習指揮所に戻り、そこで敬礼する。
「殿下、アケウ・ハーン准尉、ディゼム・タティ准尉、演習を終えて参りました」
「お疲れさまでした、二人とも」
そこにいたファリーハが、眼鏡の位置を直しながら二人に尋ねた。
「灰色の鎧の調子はどうでしたか?」
「悪かないですけど、汗を吸ってくれねぇのがちょっと、改善の余地ありってとこスかね」
「飛べないのが歯がゆいところはありますが、それでも強力な武器だと感じます」
ディゼムが先んじて答え、アケウが続く。
「詳細は報告書にまとめてもらうとして、エクレルたちはどうでしょう?」
まず黒い鎧から、プルイナが発言した。
『衣服として着用できるので、携帯性には優れていると言えるでしょう。
先日のトラルタの時のような非常時の戦力としては、本機は有効だと判断します』
『着装維持を着装者の魔力量に依存するようだから、航続性能には不安が残るがな』
エクレルの意見に続いて、ホウセが言う。
「単純に原図を大きくしたら? その分機能は増やせるし、自己修復入れちゃえば、多少の傷はほっとけば直るよ」
「うーん、しかしこれ以上面積を広げるとメンテナンスがのう。
灰色の鎧の原図の面積はホウセの鎧の1/4程度だが、それでも複雑すぎる」
エスコドゥスが、ファリーハにそう意見を告げた。
「――魔術紋様の知識のある魔術師に整備させないと、大きな損傷は直せないと思うぞ。
使い捨てにしていいような値段ではあるまい?」
「そうなのですよね……価格を抑えれば性能も落ちます。
これ以上は議会に文句を言わせず、生産に移りたいのですが」
「まだ試験とかやんですか?」
ディゼムが問うと、ファリーハが答える。
「陸海軍と魔術省の意見次第ですね。
有用なのは判明していますから、あなた方に貸与されているその初期ロットは、引き続き次回のウィッシェル行きでも携帯してください。
許可は既に取ってあります」
「鎧の下にまた鎧……」
そう呟くディゼムに、エクレルが白い鎧から警告した。
『二人とも、我々を着装している状態で二重着装など試みるなよ。
中のお前たちが、膨張した灰色の鎧で押し潰される危険の方が大きい』
「うん、気を付けるよ」
「脅すんじゃねぇわ……」
アケウは素直に頷き、ディゼムはわずかばかり青ざめるのだった。
***
行政魔術意思の下位システムは、意識を失った状態のディゼムの肉体に対し、魔力の測定を行った。
結果、魔力偏差1.35を得る。
これは百人に一人という、それなりの資質であった。
魔術炉の高効率の駆動に要求される、50万人に一人ほどの資質には足りないが、市民でないならば都合がよい。
魔力炉に併設された魔石化装置が、ディゼムの身体を内部へと収納していく。
が、装置が始動する直前、彼の首元に巻かれた超空間通信機から音声が発せられた。
『ディゼム、今です!』
黒い鎧の制御人格、プルイナの声だ。
その音声は、プルイナが彼と別れる直前、その体内に残したマイクロマシンを作動させた。
五千を超えるマイクロマシンが彼の脳の血管内部で神経伝達物質を放出し、意識を急速に覚醒させる。
目を覚ましたディゼムは、状況を判断して呪文を唱えた。
「凝襲ッ!」
彼の着ていた灰色の野戦服が変形し、その頭頂からつま先までを包み込む灰色の鎧となった。
そして、ディゼムは魔術を念じて呪文を唱える。
「着撃する――雷鳴よッ!」
灰色の全身鎧の手の先から迸った高圧電流が、彼を魔石化しようとしていた装置を焼き尽くした。
次いで、叫ぶ。
「来い、プルイナッ!」
『急行中』
離れた場所で解析作業に掛けられていた黒い鎧は、着装者の命令に応じて緊急出力で動作した。
拘束具を破壊して、スラスターの爆風と多目的射出孔からの非殺傷兵器をばらまき、ロボットや生身の職員を制圧、着装者の元へと向かう。
『ディゼム、気を付けてください。恐らく行政魔術意思が、都市中枢付近で反抗する我々を制圧するために戦力を出動させているはずです』
「保護セルはどうなってる!」
『現在熱電・色覚迷彩を使用して港を滞空中。無人機に追いかけられていますが、もう少し持ちます』
「エスコは!」
『ウィッシェル側の無線通信を解析して居所を探しています。
魔術資源化された人間の資源としての効率は不明ですが、およそ五百万人というウィッシェルの人口を考えるに、人間を魔術資源化する設備はそう多くは作らないと思われます。
なので、既に資源化されていなければここに向かっていると考えられますが』
「クソ、手遅れって可能性もあんのか……!」
そこに、黒い鎧が到着した。
「着装解除!」
ディゼムは灰色の鎧を衣服に戻して、黒い鎧を着装した。
同時、プルイナが言う。
『状況を見るに、今しがたあなたが破壊したのが魔術資源化の装置だったと考えられます。
既にエスコドゥスを資源化していたのなら、あなたを資源化する必要は無かったのではないでしょうか』
「ってことは、まだエスコは来てない?
どこにいるんだ、あいつ……?」
***
時刻を少し、遡る。
氷菓を楽しみにしていたエスコドゥスは、移動販売車の荷台から伸びてきたマニピュレーターに捕獲されてしまった。
「ほゎ!?」
マニピュレーターは荷台に彼女を回収し、発進してしまう。
「うぉ、何だこれは!?」
固定されたまま狼狽するエスコドゥスの周囲に、気化した吸入麻酔が充満し始めた。
「う!?」
意識が薄らぐのを感じて、彼女は思案する。
(いかん、これは何がしかの罠にかかってしまったか!?
だが、この車を壊す規模で魔術を使えば余波でわしも死んでしまいかねん……!
どうする――)
そこで、エスコドゥスの意識は途切れた。
だが事態はそこでは終わらず、荷台に収納されたマニピュレーターに掴まれたまま、彼女の身体は何と、溶けた。
荷台の中を監視するカメラがその異常を捉え、行政魔術意思へと報告する。
氷菓の移動販売車――に偽装した捕獲車は本来の目的を果たせなかったと判断され、魔術炉のある中枢へと戻って行った。
殺風景な地下の格納庫に到着すると、捕獲車は荷台を展開し、別のロボットが内部を検分する。
車内には液体が散らばっているだけで、被検体の姿がない。
その報告を受けて、行政魔術意思は判断する。
『何らかの手段で脱出したと考えるべきです。
市民も動員して市内を捜索し、被検体を探し出します』
行政魔術意思は即座に広報を打ち、行方不明の子供を探すよう市民に要請した。
無論ロボットも動員し、捜索を始めている。
すると、捕獲車の荷台で何かが動いた。
人間だ。
捕獲車の荷台から消えたはずの人間が、今まさにそこにいる!
「サンダーボルト・スクリュー!」
その指先から高圧電流が投射され、液体を清掃しようと近づいていたロボットを焼灼した。
機能を停止して転倒するロボット。
魔術を放ったのは、液体から元の姿――いや、本当の元の姿ではなかったが――エスコドゥスだ。
彼女は自分でも驚いて、ひとりごちる。
「ま、まさかまた液化することになるとはな……」
液化はエスコドゥスの意思ではなかった。
メイエの一部となって、今の女児の形で分離された経緯と、何か関係があるのだろう。
「…………」
彼女はふと体の力を抜いて、自分の姿形が失われたような気持ちになってみた。
すると、その肉体は再び形状を失って液化し、ばしゃりと床に広がる。
その液体は緩やかに集まったままさらさらと周囲を動き回り、そして再びむくりと盛り上がって女児の形状を取り戻す。
彼女は戦慄した。
「むぅ、これは便利なような、多用してはいかんような……」
そこに、天井のスピーカーからブザーが鳴り響く。
『被検体271、機材の破壊行為をやめて、措置を受けてください』
行政魔術意思のアナウンスだ。
エスコドゥスは格納庫の天井に設置されたカメラがじりじりと動いているのを見て、それが監視の機械と判断した。
彼女はそこに向かって両手で己の目じりを引き下げ、大きく舌を出して宣告する。
「ベーッ、だ!!」
***
アケウが灰色の全身鎧を着装すると同時、部屋の窓を破壊して戦闘服をまとった兵士たちが突入してきた。
灰色の都市迷彩に、様々なオプションの装置を身につけ、銃を構えている。
「破裂する――衝撃よ!」
アケウは呪文を唱えて魔術を行使し、彼らを吹き飛ばした。
「ホウセ、殿下! 僕が追撃を防ぎますので、マイレさんたちを保護セルに!」
「うん!」「えぇ!」
白い鎧をまとったファリーハと真紅の全身鎧が、親子三人を誘導して外の廊下に出る。
そこにも兵士たちが待ち構えていたが、
「スタン・バレッツ!」
「優しく、爆ぜよ!」
彼らは白い鎧の多目的射出孔から放たれた軟質弾の雨と、ホウセの放った衝撃波の魔術によって体勢を崩した。
その隙を突いて、エクレルが白い鎧を発進させる。
『今だ、三人とも、走ってついてこい!』
「は、はい!」
廊下に飛び出す白い鎧と、それを追う三人の家族。
更にその後に、真紅の鎧をまとったホウセと、灰色の鎧をまとったアケウが続く。
『保護セルを呼んだ、駐機場から発進しているが……問題はエアロックの通過だな。
行政魔術意思が閉鎖していて動かない可能性が高いから、破壊するしかないかも知れん』
「プルイナ、ディゼムたちはどうなってる?」
アケウの問いに、黒い鎧からの遠隔通信でプルイナが答えた。
『現在ディゼムと合流し、エスコドゥスを捜索しつつ脱出を模索しています』
「こっちは今は、白い鎧を殿下にお貸ししている。僕が灰色の鎧で加勢に向かおうと思うけど、大丈夫かい?」
『助かりますが、白い鎧を着装したまま魔眼を使える組み合わせは潰さない方がいいでしょう。
あなたはエクレルと共にいてください』
『当機もそれに賛成だ』
同意するエクレルにアケウは頷いて、
「わかった、そうしよう。
殿下、このままマイレさんたちを連れて、保護セルの置き場に向かいましょう!
ホウセもよろしく!」
「了解!」「わかった!」
彼らは増派の兵士を退けつつ階段を下りて、港へと走った。
***
エスコドゥスは、一人で抵抗を続けていた。
「ファイヤー・ボムズ!」
地下の格納庫に、爆音が響き渡る。
超高熱によって超音速で膨張する空気が、爆炎となって無人車両を吹き飛ばした。
だが、その残骸の向こうから、今度は放水車両が水を噴射して、水圧で彼女を転倒させる。
「うぎょわ!?」
先ほどから敵――あまり考えたくはなかったが、それはウィッシェルそのものなのだろう――は、何らかの理由があって、エスコドゥスを殺さないようにしているらしい。
それは彼女に有利な要素といえたが、多勢に無勢の状況は変わらない。
エスコドゥスは、首元に巻かれた超空間通信機に呼びかけ続ける。
「のうのう! 誰か助けてはくれんか!?」
だが、服や装備ごと液化・実体化を繰り返した影響なのか、通信機が作動している様子がない。
やはり、壊れたか。
放水しながら彼女に接近してくる放水車、そして魔術封じのテープを広げつつ迫って来る人型ロボット。
近づかれすぎて、余波の大きな爆発の魔術は危険だ。
「でぇい、ブラスト・トルネード!」
エスコドゥスは強烈な気流を起こしてそれらを退けようとするが、重量のある車両やロボットたちはバランスを崩しつつも、接近を止めない。
(こ、このままではまた捕まってしまう!)
監視されている状態で液化しても、回収されてしまうだろう。
四方八方から追い詰められつつあった彼女の耳に、しかし、スラスターの噴射音が聞こえてきた。
「エクスプローシヴ・バレッツ!」
ガガガ、と鋭い炸裂音を立てて放水車両が転倒し、ロボットたちが横合いに吹き飛ぶ。
そこにやってきたのは、黒い鎧だった。
「見つけたぞ、エスコ!」
「おぉ、ディゼムか! だよな?」
『お待たせしました、エスコドゥス』
兜で顔が見えないので疑問形だったエスコドゥスに、プルイナが音声で答えた。
『あなたの超空間通信機は不具合を起こしています。
誘導しますので、脱出しましょう』
「いや、お主らが一緒なら、せっかくなのでやりたいことがある」
彼女はその提案に、要望を返す。
「何だ? とっととこんなとこ、おさらばした方がいいと思うが」
ディゼムの疑問に、エスコドゥスは問い返した。
「ウィッシェルの正体というか、弱みだ。プルイナよ、なぜわしが攫われたと思う?」
『あなたを魔術資源に変換して、ウィッシェルの動力源とするためだと推測しています。
既にウィッシェルの児童が一名、恐らくそのためと思われる指名を受けていることが判明しました。
救援を求めてきた彼とその家族を、エクレルたちが保護しています』
答えるプルイナに、彼女は提案した。
「うーむ、そんなところか。わしはな、そこのところについて、ウィッシェルともう少し腹を割って話したいと思っておる」
「話すことなんてあるか?」
「わしらが逃げても、次の子供が資源にされるだけだろうからな。
今後そういうことをしないよう、ウィッシェルと交渉したいのだ」
『倫理的には正しいことですね。ディゼム、どうしますか?』
「うーん……」
問われて思案する、ディゼム。
「なら、念のためその保護してるっつう家族は姫様と一緒に保護セルで逃がして……
そんで俺がウィッシェルの親玉の喉元までエスコを送り届けて、話をするよう仕向けりゃいいってわけか」
「うむ、そうしてくれるとありがたい」
『その必要はありません、エスコドゥス・ラビヒ』
聞こえてきたのは、合成音声による呼びかけだ。
『あなた方の要望を聞き入れることはありません。
これからも我々は、これまで同様にウィッシェルを運行していきます』
「現状には改善が必要だとは思わんか?」
『不要です』
エスコドゥスの問いかけに、合成音声――行政魔術意思は短く答える。
『生命を支払うのも、税を支払うのと変わりありません』
「なぜ子供なのだ? なぜわしを子供扱いする?」
『情報を開示しません。我々は都市の運行を妨害するものを排除します。
我々は、ウィッシェルの500万の市民の生活を支えている。
それを悪魔の脅威にさらすことはできません』
「それでわしらごと地上を更地にしようというのだな?」
『必要なことです』
エスコドゥスは問答をやめて、プルイナに尋ねた。
「プルイナ、わしらが今どこにいるか、わかるか?」
『マッピングしていますが、ウィッシェルの中心部、地下二十メートルといったところです』
「行政魔術意思……それに司法と立法がいるんだったか。
そやつらを駆動している魔術紋様が、この都市の中枢のどこかにあるはずだ!
それを探し出して、書き換えてくれる!」
『不可能です。中止を推奨します』
「やかましいっ!!」
女児の姿をした魔術師はそこで、声を荒らげた。
「子供を燃料にするわ、地上を更地にしようとするわ、やりたい放題過ぎる!
話し合いのつもりだったが、その
「同意だ! 俺がそこまで、風穴を開けてやる!」
ディゼムも声を上げ、相棒に呼びかける。
「プルイナ、案内頼むぞ!」
『本機の指定するポイントに向かって、
「エスコ、あぶねぇから離れてろよ!」
「うむ!」
黒い鎧はエスコドゥスから距離を取って、格納庫の床へと拳を突き放った。
鉄筋コンクリートの構造が、
「うぉ、とんでもねー威力だのう……」
瓦礫のがらがらと崩れ落ちる、凄まじい音と粉塵。
黒い鎧は掌から風を起こしてそれを吹き払い、エスコドゥスの所に戻ってきた。
「降りるぞ!」
「すまんの!」
彼女を抱き上げると、黒い鎧はスラスターを噴かせて静かに移動し、床の破壊で生じた広い空間へと降下していった。