魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る 作:kadochika
エスコドゥスによって行政魔術意思の中枢で放たれた、自己複製プリンター。
それは黒い鎧からの指令で、最大速度で作動していた。
魔術紋様を形成する塗料を下地ごと削り取り、再構成して自己の組織を増殖させていく。
ある程度の大きさになったら分裂し、同じことを繰り返す。
行政魔術意思アヴァリク・ハルドゥスを構成する魔術紋様は、それによって徐々に削られていった。
これに対抗するため、行政魔術意思はウィッシェルを循環するエネルギーの流れを変え始めた。
エアロックから港へと飛び出した保護セルの中から、アケウは窓を通してそれを見ていた。
「エクレル、ウィッシェルのエネルギーが中枢部に集まろうとしてる。
ディゼムたちを排除するためかも知れない」
『その可能性は高そうだ。
住民の生活用のエネルギーを防衛に回しているのか』
「それより、あの穴を塞がないと、ウィッシェルの空気がなくなっちゃうよ!」
ホウセが破壊されたエアロックを指して言うと、エクレルは白い鎧の中のファリーハに告げた。
『分かっている。ファリーハ、少しせわしなく動くぞ』
「ど、どうぞ!」
すると重装したままの白い鎧が破壊されたエアロックに向かって飛び、音速で噴き出す凄まじい空気流の中を逆行した。
そして再び市街地に入ると、大型切断機で隣の隔壁を切り裂き始める。
破壊されたエアロックの入り口を塞げる大きさを切り出すと、白い鎧はそれを右手に吸着させ、流出する空気の中へと飛び込んだ。
爆音と共に切り出された隔壁でエアロックが塞がれ、空気流が激減する。
そこに更に白い鎧が掌の多目的射出孔から、接着剤弾を放った。
『ラピッド・フィクサー、行使』
即効性の硬化樹脂が隙間を塞ぎ、空気流はほぼ停止した。
だが港に出ても、戦闘用の武装した飛翔機械が保護セルに攻撃を仕掛けてきている。
「エクレル、終わったらこっち手伝って!」
ホウセがそれに応戦しつつ言う。
その様子を見てアケウが、保護セルの中でうめいた。
「そんなにこの子が欲しいのか……?」
エクレルが白い鎧から答えて、
『恐らく、資源としてよほど適しているのだろう。
ディゼムとエスコドゥスのことは気がかりだが、一旦ここを離れるべきだ。
一定の戦力が追って来るなら敵を分散させることになるし、そうでなければ安全が確保できる』
「そうしましょう。それと……」
ファリーハが、白い鎧の中で息を吐いた。
「さすがに疲れてきましたので、着装をアケウと交代したいのですが……」
『もう少し離れたら、保護セルのエアロックを開ける。合図したら後退して、機内に引っ込むといい』
保護セルと、それを守って飛ぶ白い鎧、真紅の鎧は、ウィッシェルの港を離れようと試みる。
するとそこに、ホウセが口にした。
「あ、ヤバげ――」
更にそこに、電波通信が届く。
『警告します。現在、ウィッシェルに悪魔の集団が接近中です。
離れる際は当局の許可を――』
それを聞いて、アケウはホウセに尋ねた。
「……ホウセも感じたのかい?」
「まだ遠いけど、何かいっぱいいる感じ……!」
彼女が答えると、エクレルも報告してくる。
『当機のレーダーでも、それらしき飛行体群を検知した。かなりの数がいるな』
彼女は白い鎧の中から、通信で一行全員に伝えた。
『緊急、ウィッシェルに悪魔の群れが接近している。
どうやってかは分からんが、連中、ここを嗅ぎ付けたようだ』
***
魔術意思を収めた区画の中で、ディゼムとプルイナは戦い続けていた。
行政魔術意思が、魔術音声で何度も警告する。
『警告します。魔術紋様の破壊を停止しなさい。
繰り返します――』
「そんなら、お前らがやろうとしてる地上の爆撃とか、子供の誘拐を止めやがれ!
話を聞くなら、そっからだ!!」
外部音声で叫び返すディゼムに、プルイナも同調する。
『その通りです、アヴァリク・ハルドゥス。
ここでの戦闘は、あなたにも危害が及んでいるはずです。
これ以上は、我々とあなた方、双方に利益がない』
『私はウィッシェルの運行を守ります。それこそが人類全体の幸福に繋がること』
大型戦闘ロボットが熱線を薙ぎ払うように照射し、黒い鎧がこれを回避する。
回避された熱線は行政魔術意思を構成する魔術紋様を巻き込み、一部を蒸発させた。
プルイナが、行政魔術意思に反論する。
『それは全体主義というものです。地上の人々の意見を蔑ろにするべきではありません』
『これ以上の会話は無意味です。降伏しなさい』
「するか、クソ魔術野郎ッ!」
ディゼムが吠えると、隔壁の破壊跡を通ってジャイガンティック・ゴーントレットが到着した。
「来たか――っておい!?」
しかし、それを追うようにして大型戦闘ロボットの同型機が二機、やってくる。
そこから発射された複数の誘導ミサイルが黒い鎧に迫るが、
『クロスレンジ・レーザー行使』
鎧の頭部から照射されたレーザーによって撃墜される。
それによって生じた爆炎を突っ切ってやってきた黒い巨腕を、ディゼムは着装しようとするが、ゴーントレットは黒い鎧を通り過ぎて行く。
「うん!?」
『ゴーントレットは手にエスコドゥス用の与圧服を持っています。彼女にそれを届けるのが先です』
「くそ、しゃあねぇな……!」
ディゼムは三機に増えた敵の攻撃を回避しつつ、エスコドゥスに余波が及ばない位置取りに注意した。
一方で物陰に隠れつつ自己複製プリンターの様子を見ていたエスコドゥスは、上空にきらめくスラスターの光を見る。
「ん、何だ!?」
黒い鎧の増加装備、ジャイガンティック・ゴーントレットだった。
全長三メートルはある腕が、速度を落としてエスコドゥスの近くに滞空し、どかりと一抱えほどもあるコンテナを落とした。
それは何だと訝っているうちに、黒い巨腕は飛び去ってしまう。
そこに、首元の超空間通信機からプルイナの声がした。
『エスコドゥス、それはあなたの着る与圧服です。
ディゼムの戦闘をサポートしながらになりますが、着方を指示するので着てください。
そこから脱出する際に必要になりますので』
「そうか、ウィッシェルの外は極寒な上に空気がないという話だったのう……
今着てる服は脱がんといかんか?」
『多少動きにくくはなるでしょうが、そのままで問題ありません』
「わかった、頼むぞ。ちなみにプリンターは順調に紋様を削っておるようだ」
エスコドゥスはコンテナを開き、プルイナの指示に従って与圧服を着始めた。
***
改めて戻ってきたジャイガンティック・ゴーントレットを追加着装すると、ディゼムは大型ロボットの一機に接近して魔拳を放った。
が、後退して回避される――と同時、黒い巨腕が高速で射出される。
大型ロボットはそれを回避しきれず、胴体を貫通されて墜落した。
『
「悪くねぇ!」
しかし更に増援が増えて、大型ロボットは九機になっていた。
それだけでなく、武装した飛翔機械が無数に、破壊で生じた穴から飛来している。
そこから飛来する、ミサイルの弾幕。
ディゼムは戻ってきたゴーントレットを再着装しつつ、回避機動を取りながら、プルイナに尋ねた。
「プルイナ、行政野郎の紋様はどこまで削れた!?」
『必要面積が不明ですが、既に書き換えの頻繁な部分を二割ほど削り取っています。
人間で言えば、脳にかなりの危害を受けている状況だと思われますが』
彼女が黒い鎧から、行政魔術意思に向かって音声で訊ねた。
『アヴァリク・ハルドゥス。あなたは現在、市民生活の維持に必要なエネルギーも攻撃に回していますね?
このまま我々を駆逐するまで、エネルギーを消耗し続けるつもりですか?』
『肯定します。都市の運行は全てに優先します』
答える行政魔術意思の音声を聞いて、ディゼムは少しばかり戦慄した。
「何か、あいつ狂い始めてねぇか……!?」
『とっくにそうだったと推測します。
エクレルたちは保護セルで脱出しましたので、最悪の場合、エスコドゥスを連れてあなたもここから離脱すべきでしょう』
「地上を爆撃するとかいう企みはどうする?」
『ウィッシェルのどこかに弾道ミサイルなどが準備されていると考えるべきですが、今はマイレを含めた要員を保護することを優先したいところです。
あなたの考えはどうですか?』
「……さすがにこれ以上、エスコを庇いながらは厳しいわな」
『自己複製プリンターに転移の紋様を準備させます。それまで三分ほど凌いでください』
「クソ、三分は厳しくねぇか!?」
大型ロボットの弾幕を回避し続けながら、エスコドゥスに向かって接近を始めた新たな小型のロボットを、破砕弾で破壊していく。
プルイナの補助を得ているとはいえ難度の高い戦闘機動を繰り返す、ディゼムと黒い鎧。
だが、そこに。
『緊急、ウィッシェルに悪魔の群れが接近している。
どうやってかは分からんが、連中、ここを嗅ぎ付けたようだ。
恐らく全てが飛行していて、個体数は推定で五千を超える。当機は撤退を推奨するが、その前にお前たちと合流したい。
離脱を急げ』
「んだと……!?」
エクレルの送ってきた通信に、ディゼムは戦慄した。
***
青い海の上、青い空を、悪魔の群れが飛んでいた。
空を飛べる悪魔となると、それらは全て戦士階級――即ち彼らの称する所の“魔の戦士”となる。
それはそれぞれが、一定以上の強度の魔術を行使する能力を持つことを意味した。
人間たちの規定するところの下級悪魔――ダフニアは一人としていない。
それは魔王の軍の、空中戦力の全てといってもいい規模だった。
だがその中に、ひときわ大きな、乗り物のような影もある。
巨大な風船の下に乗り籠を吊り下げた、いわば気球とでも呼べそうな代物だ。
乗り籠の中には、魔宝の作り手・カイフォスがいた。
「そろそろだな」
ヒト探しの魔宝――ガラス球の中のに吊るされた針は、徐々にその青い先端を天空に向けつつあった。
カイフォスは、魔の気球の近くを飛んでいた銀色の悪魔に告げる。
「ヌンハー! そろそろ高度を上げてもいい頃だぜ!」
「承知した」
銀色の悪魔は翼を翻し、魔術で巨大な音声を行使した。
「総員、我に続いて高度を上げよ!
これより先の天空に、ヒトの住処あり!」
魔の空軍は、目に見えぬ空に浮かぶ都市――ウィッシェルに向かい、高度を上げ始めた。
目標となるウィッシェルの高度は海抜二万メートル近く、気圧は海面高度の5%ほどしかないため、翼で羽ばたいて有効な揚力を得ることはできない。
悪魔はそれを、魔術で解決するが。
***
エクレルから悪魔の接近の報を聞いたディゼムは、外部音声で行政魔術意思に呼びかけた。
「オイ聞こえてるか、アヴァリク・ハルドゥス!
悪魔が近づいてる! やべぇから、早くウィッシェルを移動しろ!」
それに応える音声には、やはり抑揚がない。
『緊急抽選により、資源化する児童を追加で選出しました。
これにより、電力供給が安定化します』
「ざっけやがって、ンなことしてる場合じゃねぇだろが!?」
『ならば、あなた方も資源として身を捧げてください。
ウィッシェルを守り抜くには、これが最も安定した手段――』
と、そこで、音声が一時、途絶える。
すると今度は、別人らしき声が、音声放送で流れてくる。
『こちらは立法魔術意思、セアトゥサントゥルスです。
現在行政魔術意思を抑制しています』
『同じく、司法魔術意思、コートゥヴゥイム。
行政魔術意思の行政権を一時的に凍結しました。
これにより、人間の代理者が行政を執行します。
異邦人は速やかに退避してください』
「何だ……!?」
ディゼムが訝ると、プルイナが推測した。
『恐らく分立三権の残りを司る魔術意思が、暴走を始めたアヴァリク・ハルドゥスを抑え込んだのでしょう。
魔術紋様を削った効果が出たのだと思われます。
戦闘ロボットたちの動きも止まっていますから、今のうちにエスコドゥスを回収して、保護セルに合流しましょう』
「うぎゃあ!? 増殖したちっこい豆粒が全部わしにまとわりついてくるぅ!?」
「何だ……?」
通信から聞こえてきたのは、エスコドゥスの悲鳴だ。
与圧服を着ているはずだが、それでも生理的に嫌悪感があったか。
プルイナが、黒い鎧から陳謝して言う。
『ごめんなさい、自己複製プリンターはもう無駄遣いできないのです。
すぐに回収するので、我慢してください』
戦闘がなし崩しに終わり、黒い鎧はエスコドゥスを回収しに向かった。
***
ウィッシェル市内の全ての端末に、不安を感じさせる音と共に警報が表示された。
『緊急警報。本市に悪魔が接近しています。
市民の皆さまは、速やかに所定のシェルターに避難してください』
「え、何」「マジで悪魔?」「シェルターだって。どこだっけ……」
市民たちは従順ではありつつも、その反応は厭わしげであったり、緩慢であったりした。
一万二千年の平和が、今まさに破れつつある。
反応が鈍いのは、長い安眠の副作用であろうか。
ただ一方で、平時から訓練を続けていた人々もいた。
『魔術機関準備よし! イェラキア1、全機発進準備!』
格納庫では、与圧服を着た人々がロボットと入り混じり、せわしなく動いていた。
対地用に建造された核ミサイルでは、悪魔の群れを攻撃することができない。
ウィッシェルに迫りくる悪魔を撃墜するべく、無人機を含めた魔術戦闘機の部隊が、発進準備を進めているのだ。
だがこちらも、ウィッシェルが結界を張っている以上迂闊に飛行訓練などができず、シミュレーターのみで済まさなければならないという事情があった。
一万二千年ぶり――実質的に初めてとなる実戦に戸惑いつつも、数少ないウィッシェルの軍人たちは奔走し続けた。
***
悪魔の群れが上昇してくるのを見て、アケウはエクレルに告げた。
「殿下から離れてくれ、エクレル。僕が着装する」
『それがいいだろう』
アケウが保護セルの簡易エアロックの中に入ると、そこに空気が充填され、更に奥の扉が開いて機内から白い鎧が飛び込んでくる。
追加兵装ごとの着装が完了すると、簡易エアロックの出口が開き、アケウは保護セルの外へと飛び出した。
「ホウセ、一人じゃ危ない!」
「二人でも危ないよ、でもやらないと!」
「わかってる!」
ホウセと共に悪魔の群れに対して降下しながら、彼は火器を選択する。
『敵、大型目標に照準』
「発射!」
浮力で飛行しているらしき大型の飛行物体に向かって、アケウはミサイルを発射した。
高速で突進する飛翔体が炸裂し、純粋水爆の巨大な爆炎を膨れ上がらせる。
が、しかし、効果がない――強固な魔術の障壁に阻まれているようだ。
一方で上昇してくる悪魔たちは、次々と魔術を放ってきた。
「く――!」
戦訓として分かっていたが、空を飛べる悪魔というものは、それだけである程度以上に強力だと判断してよい。
それが五千を超える数で押し寄せるというのは、恐るべき脅威だった。
アケウとホウセは悪魔の魔術の雨をあるいは回避し、あるいは鎧の機能で防御した。
アケウが白い鎧の中で、相棒に言う。
「エクレル、保護セルを遠くに退避させてくれ!」
『やっている。だが、敵の目当ては保護セルではないようだ』
「じゃあ、ウィッシェルか……!」
『既に結界を抜けて、敵もウィッシェルを視認しているようだな。
繰り返すが、当機は黒い鎧とエスコドゥスを回収して、撤退することを推奨する。
ウィッシェルならば防衛機構があるだろう』
エクレルがそう言うと、ウィッシェルの底部に開いた穴――アケウたちが脱出してきた港から、武装した飛翔機械やロボットが出撃してきた。
また、底部に設置されていたらしい砲台が起動し、悪魔の群れへと火線を放ち始める。
だが、悪魔たちが集まって魔術の障壁を張ると、それらは威力を大きく減殺された。
アケウはそれを見て危機感を覚え、言った。
「……加勢したいけど、保護セルを放置はできない……!」
彼に対し、エクレルが言い放つ。
『防衛網を掻い潜ってウィッシェルに戻るか?
プルイナの報告では一時的に凍結されているらしいが、また行政魔術意思がマイレの息子を狙わないとも限らんがな』
「アケウはファリーハたちを守ってて!
あたしが行く!」
ホウセがそう告げ、虚空を蹴って飛び出すと、空中都市の底から何かが飛び出してきた。
「悪りぃ、待たせた――って、やべぇなこりゃ」
黒い鎧をまとったディゼムだった。
気密服を着たエスコドゥスを両腕で抱きかかえており、その近くには着装を解除したジャイガンティック・ゴーントレットも追随していた。
***
立法魔術意思、そして司法魔術意思の案内で、ディゼムはエスコドゥスを抱え、ウィッシェルの中枢から脱出を始めた。
平素に使うことはないと思われる非常用通路の入り口を破壊し――自動開閉機能はなく、緊急時に人間が手動で開ける仕様なのだ――、ディゼムは黒い鎧と共にそこを通過した。
「も、もうちょっとスピード落としてくれんかの!?」
『十分に安全な速度で飛行中です』
複数の角を曲がり、破砕弾で非常用の扉を破壊しながら、ディゼムたちはウィッシェルの底部に設けられた脱出口を通って外に飛び出した。
『保護セルはあちらです』
プルイナが兜の内部のディスプレイに情報を表示すると、ディゼムはそちらに方向を転換しながら言った。
「悪りぃ、待たせた――って、やべぇなこりゃ」
エクレルが通信で言っていた通り、ウィッシェルには悪魔が接近していた。
鳥の群れのようにも見えるが、映像を拡大すればそれは確かに、翼を備えた多種多様な悪魔の群れだとわかる。
ディゼムはエスコドゥスに告げて、
「エスコ、保護セルに戻ってろ」
「にょわっ」
掌を広げたジャイガンティック・ゴーントレットに彼女を預ける。
「プルイナ、頼むぞ」
『わかりました』
ゴーントレットはプルイナの操作で保護セルへと飛んだ。
「ぬひゃあっ!?」
ディゼムは空中機動を続けながら、通信を通して仲間たちに告げる。
「俺は悪魔を食い止める、お前らは姫様たちを連れて撤退しろ!」
黒い巨腕が、エスコドゥスを保護セルのエアロックの中に放り込んだ。
それを見ながら、アケウも白い鎧の中で口にする。
「……ホウセ、頼めるかい?」
「二人だけであの大軍を相手にする気!?」
真紅の鎧の中で動揺する、ホウセ。
だが異世界の鎧をまとった二人は、その懸念を否定した。
「俺にはプルイナがいる」
「僕にはエクレルが」
「いやそりゃそうかも知れないけどさ!」
そこに黒い鎧から、プルイナが言う。
『マフでも使った大規模転移の魔術紋様を試みます。
あそこまで密集した500万の人口をインヘリトに強制転移させれば大量のトラブルが生じるでしょうが、ウィッシェルが滅びるのを眺めているよりは、倫理的に正しい選択肢だと考えます』
『悪魔がどのように人間を石にして食べるのかは不明だが、これまでの傾向やホウセの証言から推察するに、エネルギー源として摂取するのだろう。
悪魔たちがこれ以上力を得ることを防ぐのは、悪い手ではない』
そう補足したのは、エクレルだ。
ファリーハが、保護セルの機内で眉根を寄せつつ口にする。
「ならば、あなた方の武運を祈ります……!」
「うちの子を守ってくれて、ありがとうございます!」
『礼には及びません』
『まだ保護しきれたとは限らんからな』
感謝するマイレに鎧たちはそう答えると、更に保護セルに指令を送り、格納ハッチを開いて最後の追加装備を射出させた。
スラスターのついたコンテナが一つずつ、黒い鎧と白い鎧の元へと向かう。
『二人とも、追加着装しろ』
『これが今の我々にできる全てです』
それぞれの着装者が悪魔の攻撃を回避しつつコンテナと合流し、そして空中着装へと移った。
コンテナが展開し、中から出てきた部品たちが襲い掛かるように鎧へと殺到する。
『ディグニティ2号機、
黒い鎧は脚部を丸ごと覆う増加スラスター、そしてサブアームとそこに保持された複数の大型レール・ライフル、及びその弾倉を装備した。
『ディグニティ1号機、
白い鎧は重兵装モードを投棄し、上半身を覆う増加スラスターとシールド、ミサイルポッド、レーザー発振器、そして腕部に大型切断機を装備した。
装備を発進させた保護セルは鎧たちの指令を受け、ウィッシェルを離れていく。
幸い、それを追おうとする悪魔はいないようだ。
「オラッ、失せろ悪魔どもッ!」
「これ以上はやらせない!」
ディゼムとアケウは、それぞれの相棒と共に暴れた。
悪魔を撃っては次の目標を狙い、切り裂いては次へ向かう。
敵の魔術は回避しない。
メイエの加護によって、黒い鎧と白い鎧にも強力な魔術抵抗が備わったためだ。
多数の悪魔の死体を降らせながら、ディゼムは港からウィッシェルに入ろうとする悪魔たちを蹴散らした。
アケウはウィッシェルの外壁を攻撃する悪魔を大型切断機で叩き切りながら、ミサイルとレーザーで離れた悪魔を撃ち落とす。
『このまま死に物狂いで奮戦を続けたならば、あるいは……』
『ウィッシェルを防衛できるかも知れないな』
プルイナとエクレルがそう考え始めた時、しかし。
「それ以上はさせぬ」
「活きがいいな、鎧のヒトども!」
そこに飛来したのは、四人の悪魔だった。