魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る 作:kadochika
ウィッシェルに飛来した悪魔の空軍を迎撃する、ディゼムとアケウ。
追加武装を得て形勢を覆せるかと思えたその時、四人の悪魔が襲来する。
ディゼムとアケウには、その姿に見覚えがあった。
「あの時の四人組か!」
高速で飛んできた銀色の悪魔がすれ違いざまに攻撃すると、黒い鎧の背部に増設されていたサブアームが二本破壊された。
そこに続いてやってきた緑色の悪魔が、大ぶりな鎌――そう、鎌だ――を振り回して黒い鎧を切り裂こうとする。
「うぉっと!?」
咄嗟にジャイガンティック・ゴーントレットでそれを掴み取るが、
「光よ、食いちぎれ!」
至近距離で悪魔の攻撃魔術を被弾し、黒い鎧は吹き飛んだ。
「がっ!?」
「ディゼム!」
だが、彼を案じるアケウの白い鎧にも、強烈な呪詛が襲い掛かる。
「く……!」
空を飛ぶ闇色の悪魔の背に乗って、空色の悪魔が魔術を放ったのだ。
他の中級の悪魔たちに比べて、明らかに強い。
間違いなく、メイエにも襲来した四人の悪魔だった。
鎧自体とシールド表面の魔術紋様、そして自身の三重の魔術防御で
プルイナが、黒い鎧の中から音声を発する。
『また遭遇しましたね。上級の悪魔というものがいるとしたら、彼らのことかも知れません』
『同感だ、手強い』
白い鎧の中で、エクレルも同意した。
ディゼムたちは四人の悪魔と戦うので手が塞がり、ウィッシェルに接近する他の悪魔たちを攻撃できない状態だった。
「クソ、こいつらの相手をしてたら、ウィッシェルが落とされちまう!」
「僕が全員引き受ける、ディゼムはウィッシェルを守って!」
「っ、仕方ねぇ!」
黒い鎧の脚部増加スラスターを噴かせて離脱しようとするディゼムだったが、それを銀色の悪魔が阻む。
「させぬ!」
「が、このッ!?」
舌打ちしつつ防御するディゼムに、プルイナが告げる。
『敵の悪魔から魔力の信号が送信されています。音声に変換します』
すると、人間の男に近い音声が、ディゼムの耳に届いた。
「鎧のヒトよ。抵抗をやめ、その鎧を差し出せ。
そうすれば命は助け、最後まで生き永らえさせてやろう」
「っ、抜かせ!」
毒づきながらレール・ライフルを連射するが、魔術の障壁に防がれる。
ディゼムは敵の反撃を回避しつつ、プルイナに問いかけた。
「降伏なんぞは論外としてだ、プルイナ。
それよりあいつら、どうやってウィッシェルのことを嗅ぎ付けたと思う?
俺らが尾行とかされてたってことか?」
『直接聞いてみます』
「え……!?」
『銀色の悪魔に問います。本機はXTIAS-6・ディグニティ、そしてその制御人格のプルイナです。
あなた方がこの空中に浮かぶ都市を発見できた理由は何ですか?』
高速で回避軌道を繰り返しながら、銀色の悪魔が答えた。
「私はヌンハーと言う。質問に答えれば、裏切り者が残していった道具を解析したまでだ。
ヒトの最後の住処、我々が取っていく」
脚部の増加スラスターで運動性能は上がっているはずだが、それを以てしても銀色の悪魔の速度はすさまじい。
緑色の悪魔が魔術で援護してくることもあり、ディゼムは不利を感じていた。
それを補おうとしてか、プルイナが更に問う。
『ヌンハー。あの都市とその住民を、どうするのですか?』
「ヒトが知る必要はない」
同時に放たれた衝撃波の魔術で、黒い鎧は吹き飛ばされた。
「が――!?」
『安全制動措置』
ウィッシェルの外壁に激突する前に、スラスターを断続的に吹かせて減速し、更に黒い鎧の手足が動いて受け身を取る。
外壁を大きく破壊することなく移動ベクトルをずらし、プルイナは黒い鎧を追撃の雨から逃がした。
が、今度はウィッシェルに奇妙な様子が観察できる。
「な、何か描かれてるのは……魔術紋様か!?」
ウィッシェルの天井を覆う外殻に、悪魔たちが赤黒い塗料で、血文字のごとき魔術紋様を描いているではないか。
既に外壁に取り付いていた、悪魔たちの手作業だ。
「何をしやがる気だ……!?」
ディゼムの疑問に、プルイナが答える。
『解析しています。これは、召喚の魔術紋様に似ています』
「召喚って、何を呼ぶってんだ……!?」
『こちらもデータを共有した』
離れた空域で戦闘している白い鎧から、エクレルが言う。
『立体魔術紋様ではないから、異世界から何かを呼ぶといったものではないだろう。
同じ世界、比較的近い場所から、何かを呼び出す魔術のはずだ』
そこに映像が共有されたのか、アケウが意見した。
「何にせよ、悪魔の企みなら妨害した方がいい!」
「させねぇよ?」
「くっ!」
アケウと白い鎧は、空色の悪魔と闇色の悪魔との連携によって、ウィッシェルへの接近を阻まれていた。
空色の悪魔は空を飛べないようだが、闇色の悪魔の背中に乗って呪詛と熱線を乱射してくる。
それを回避しながら、アケウが叫んだ。
「ディゼム、ウィッシェルをあまり傷つけず、魔術紋様を破壊するんだ!」
「分かってる!」
「させぬ」
そこに切り込んでくる、銀色の悪魔の攻撃。
「この、銀ピカお邪魔虫が……!」
銀色の悪魔は凄まじい速度だが、攻撃力はそこまででもない。
天空都市の近傍で激しい機動を繰り返す、黒い鎧と悪魔たち。
プルイナが黒い鎧の中から、ウィッシェルに呼びかけた。
『ウィッシェル、聞こえますか。
こちらディグニティ1号機、現在貴国の外壁に悪魔による魔術紋様が描画されています。
描画を阻害したいのですが、協力してくれますか?』
だが、それに答える者はいない。
「……クソ、立法とか司法とかいただろ、何やってんだよ!」
ディゼムは舌打ちして、銀色の悪魔と緑色の悪魔の攻撃を回避した。
回避された魔術はウィッシェルの外壁や、そこに描かれた魔術紋様にも当たる。
巨大な魔術紋様が損傷するのだが、悪魔たちはそれを気にする様子もない。
それを気に掛けるより、敵の排除が優先されるということか。
するとプルイナの呼びかけに対し、数十秒ほどもして反応があった。
『――こちらウィッシェル臨時行政官、ティーマ・ブンディオだ。
魔術紋様は既に市内から確認している。現在敵の侵入を防ぎつつ、飛行隊が出撃準備を進めている。
すまないが、もう少し持ちこたえてくれ』
『感謝します、行政官。すみませんが、出来るだけ急いでください。
通信終わり』
「そのヒコータイってな、役に立つのか……!?」
プルイナが通信を終えると、ディゼムがサブアームからレール・ライフルを撃ちつつ、ぼやく。
しかしその時、黒い鎧のレーダーに感があった。
『ウィッシェルから飛行物体が出現――悪魔ではないようです』
「何だ――!?」
それは翼を備え、強大な推進力で飛行する機械だった。
黒い鎧の中で、プルイナが言う。
『戦闘用航空機――我々の世界では戦闘機と呼ばれていたものです。
ウィッシェルの戦力なのでしょう』
ディゼムの目にも、発進してきた戦闘機がミサイルを発射して、悪魔を攻撃するのが見えた。
黒い鎧の装備する純粋水爆搭載型ほどではないが、爆炎の花が高度二万メートルに咲いている。
白い鎧から、エクレルがそれを賞賛した。
『この高度で戦闘可能とは、中々やるな』
『こちら臨時行政官。我が国の魔術戦闘機隊が発進した。
異邦人諸君においては、どうか我が国の防衛に、引き続き協力して欲しい』
『問題ありません。人命のみならず、社会生活の防衛も我々の重要な使命ですから』
プルイナが行政官とそうした通信を行っている間にも、戦闘機は続々と発進し、最終的には十六機にもなった。
五千人を超える悪魔の数が、ディゼムとアケウの抗戦で百人ほど、戦闘機隊の加勢で更に百人ほどが減りつつある。
圧倒的な推進力で空域を旋回する大型の戦闘機たちが、悪魔たちの足並みを乱していた。
「横やりを――」
ディゼムを相手取っていた銀色の悪魔ヌンハーが、彼から目を離して戦闘機隊の方へと飛んで行く。
『ディゼム、今のうちに魔術紋様を破壊しましょう』
「クソ、持ちこたえてくれよ……!」
ディゼムは残った緑色の悪魔の攻撃を回避しつつ、ウィッシェルの透明な円蓋に描かれた魔術紋様に接近した。
「クソ、オラッどけっ!」
『ウィッシェルの外殻は、資料によれば強化石英ガラスです。
その耐久性を考慮して、弾丸を調合します』
魔術紋様を描いている悪魔たちを殴り殺し、蹴り殺しながら、黒い鎧の多目的射出孔から化学薬品の弾丸が放たれる。
「ヒート・ショット!」
それが命中すると広範囲に火が走り――この希薄な大気の中で発火するのは、酸化剤が調合されているためだ――、悪魔たちの描いていた魔術紋様が熱変性し、魔術的機能を失う。
調合された弾丸はウィッシェルの外殻を破壊することなく、表面に塗られた悪魔たちの魔術塗料を焼き払う温度に調整されていた。
それを見た緑色の悪魔が、激昂して魔術を放つ。
「魔のうねりよ、喰らいつけ!」
「当たるかよ!」
複雑に屈曲する熱線を、黒い鎧は増加スラスターを噴かせて回避する。
そして続けて、ディゼムたちは悪魔たちの魔術紋様を破壊し続けた。
「そら、そらッ!」
「やめろ、このヒトがッ!」
追いすがる緑色の悪魔だったが、他の悪魔と連携できない状況では、黒い鎧とディゼムを捉えきれないようだ。
プルイナが、アナウンスする。
『魔術紋様破壊率、50%を突破。
ディゼム、ここで敵戦力を削っておいてもいいでしょう』
「同感だ!」
彼は黒い鎧を反転させて、追撃してきた緑色の悪魔に向かって加速した。
「ッ!?」
虚を突かれたのか、悪魔の動きが止まる。
そこに、ディゼムは右腕に着装したジャイガンティック・ゴーントレットを引き絞り、脚部の増加スラスター出力を最大にして魔拳を放った。
「
その巨大な一撃を、緑色の悪魔は盾で防御する。
しかし、
「追い
ディゼムはすかさずゴーントレットを右腕から外し、悪魔の盾に向かって黒い鎧の素体の右腕から魔拳を打った。
「ぐ――!?」
緑色の悪魔も負けじと、変形させた盾から触腕を伸ばして黒い鎧を絡め取る。
だが、しかし、それでもなお。
『緊急着装解除』
「凝襲!」
黒い鎧が触腕を引きちぎってディゼムの身体を離れ、弾け飛ぶ。
同時、彼は呪文を唱えて灰色の全身鎧を着装した。
そして、自由になった灰色の全身鎧は緑色の悪魔へと掴みかかり、その顔面へと更に魔拳を打ち当てる。
「ぅオラぁッ!!!!」
悪魔は頭部を吹き飛ばされて、魔術による推力を失い墜落していった。
「っ……!」
だが、灰色の鎧には飛行能力と気密性能がない。
ディゼムの肉体は、ほとんど真空の極寒地獄に露出、落下しているも同然の状態だった。
これほどの低圧下では、人間の体温程度の温度でも水が沸騰する。
すなわち、彼の血液や唾液、眼球を濡らす体液までもが37度前後で沸騰を始めるということを意味した。
自分の口の中で唾液がじゅわじゅわと沸騰する奇妙な感覚と共に、ディゼムはかろうじて呪文を唱えた。
「っ、凝襲解除!」
『緊急着装』
灰色の鎧が衣服の形態に戻ると同時、プルイナが黒い鎧を再着装し、内部を与圧する。
ディゼムは安堵しながら、周囲を見回した。
「くぉ、し、死ぬかと思った……!」
『まだ敵は多く残っています。引き続き――』
するとそこに、銀色の悪魔が飛来した。
悪魔はその手に、虹色に煌めく石を複数持っている。
ディゼムが警戒を強めると、プルイナが報告した。
『残念ながら、ウィッシェルの戦闘機隊は壊滅状態のようです』
「クソ、マジかよ……! てか、あの虹色の石は何だ!?」
『あれが文献にもあった、悪魔が人間を原料に作る石だと推測します」
ディゼムにも、覚えがあった。
悪魔は人間を、石に変えて食らうと。
プルイナの報告と併せて、嫌悪を催す推測が成り立つ。
「じゃあ戦闘機隊の人間が……!?」
『恐らく』
「奪い返すぞ!」
銀色の悪魔に向かって加速するディゼム。
だが銀色の悪魔は、強烈な衝撃波の魔術を放ってそれを迎撃した。
増加スラスターの推力で抗える威力だったが、衝撃波は横殴りにやってきたため、ディゼムたちは軌道をずらされて数百メートルも吹き飛んでしまう。
そして、銀色の悪魔ヌンハーはウィッシェルの頂点に降り立った。
「刮目せよ、魔の戦士たち、そしてヒトども。
これよりこの地に、玉座と玉体とが御降臨なさる!」
「何だと……!?」
魔力を媒体にしたその発言を聞きつつ、ディゼムは生き残っていたサブアームからレール・ライフルを撃った。
しかし、銀色の悪魔の周囲に集まってきた悪魔たちが魔術の障壁を作り、またあるいは肉壁となって、それを防いでしまう。
その間にも、銀色の悪魔が虹色の石を手に握り、失活した魔術紋様へと宛がった。
すると、何と虹色の輝きと共に、魔術紋様が赤黒い鮮血の色を取り戻していく。
『敵の魔術紋様が再活性化しています』
「やべぇ! ガンマ・ガンで行くぞ!」
ディゼムはウィッシェルの円蓋を巻き添えで破損させるのを承知で、ジャイガンティック・ゴーントレットをガンマ・ガン形態に変形させた。
が。
『接近警報!』
「――!?」
そこに黒い鎧へと、襲い掛かる者があった。
それは魔術の鎌を構えた、首のない緑色の悪魔の死体だった。
ディゼムが先ほど頭部を吹き飛ばして、殺した相手だ。
「んだとッ!?」
その一撃を、黒い鎧はサブアームとレール・ライフルで防御する。
しかしガンマ・ガンの照射が遅れ、彼らは悪魔の魔術紋様の発動を許してしまった。
ウィッシェルの頂点に描かれた魔術紋様が輝き、その効果――召喚を発動する。
「…………!」
するとそこには、不気味な物体が現れていた。
遠目に一見すると、大きな台座の上に据え付けられた宝玉、という印象だ。
だが台座の造形はまがまがしく、宝玉はそう表現するにはやや濁っており、液体で満たされた内部に何かが浮かんでいるように見える。
液中に浮かんでいるのは、人間程度の大きさの物体――というより、人間に似た何かに見えた。
ディゼムはなおも襲い掛かってくる緑色の悪魔の死体を魔拳で粉砕しながら、黒い鎧の望遠機能を使って確認する。
同時、通信を通してアケウが言った。
「あれは……魔王……!?」
それは確かに、以前王都の大聖堂やマフでディゼムが見た、金色の衣をまとった神のごとき姿と同じだった。
今は遠く離れた保護セルの近くから、通信を介してホウセも言う。
「二人とも、何か、すごい気配を感じるんだけど大丈夫!?」
それを聞いてか、プルイナも通信に音声を乗せた。
『真紅の鎧を通して特別に感じられる悪魔……
本機は恐らく、あれが魔王の本体なのではないかと推測します』
『あの銀色の悪魔、ヌンハーとやらもそう言っているようだからな。
御大層なことだが、今は当機にも魔力の輻射を検知できる――あれは、悪魔の親玉にふさわしい力を備えているぞ』
エクレルの声には、僅かだが戦慄が含まれているようにも感じられた。
「なら、動かねぇ今がチャンスだ!」
ディゼムは再びジャイガンティック・ゴーントレットをガンマ・ガン形態に変形させて、魔王を狙った。
そして、照射。
内部で小型のカリホルニウム弾頭が炸裂し、そこから発生した膨大なガンマ線がコヒーレント化されて降り注いだ。
しかし。
「うぉおおおッ!!」
射線に割り込んできたのは、空色の悪魔と闇色の悪魔だった。
二人は超高密度のガンマ線を浴びて、黒い消し炭となって崩れ去る。
魔王はそれに守られて、液体の中に浮かんだままだ。
「クソ!」
ディゼムが毒づきつつ次弾の準備を始めると、銀色の悪魔ヌンハーはそれに目もくれず、魔王の座の前で高らかに謳った。
「平伏せよ、ヒトたち! これよりこの地に、魔王陛下がおわす故に!」
「そんなこと――」
「させねぇッ――!!!」
アケウが残されたミサイルを一斉に発射しつつ、大型切断機を構えて突撃した。
ディゼムは砲撃を中止して
だがなおも、残った悪魔たちがそれを身を挺して防ぐ。
悪魔たちに命中して炸裂する純粋水爆、しかし魔王の玉座はそれなりの防御力もあるのか、余波で破壊される様子はない。
白い鎧が振りかざした大型切断機には残った悪魔たちが群がり、自分たちの肉体を粘液に変換してその威力を殺してしまった。
ディゼムの放った黒い鎧の大魔拳にも、銀色の悪魔が取り付く。
「魔王陛下、万歳ッ!!」
そしてその叫びと共に銀色の悪魔は魔術で自爆し、ジャイガンティック・ゴーントレットを大きく破損させた。
「く――!?」
ディゼムは思わぬ損傷にうめいたが、魔王はすぐ近くにいる。
彼は中破したゴーントレットを分離して、玉座と呼ばれた球体の中の魔王へと魔拳を放とうとした。
が、しかし。
そこに球体から強烈な魔力が放射され、黒い鎧をはじき返す。
「ッ!?」
見れば、内部の魔王が動いていた。
彼女は、こちらを見て――いや、睨んでいる。
その美貌を怒りに歪め、液体の中で魔力を通して叫んだ。
「ヌンハァァァァァッ!!」
同時、金色の光が炸裂してディゼムたちは吹き飛ばされる。
「が――クソ、何だ!」
『強烈なエネルギー輻射です。これが攻撃ではないとは!』
激しい閃光が止むと、そこ――ウィッシェルの頂点には、金色の美女が佇んでいた。
割れた球体は膜と呼ぶべき薄さだったようで、今は破れ、彼女の足元に残骸となって広がっている。
打ち広げられた液体の上をぴちゃぴちゃと踏みだし、彼女――魔王は言った。
「まずは、改めて名乗る。ヒトどもよ」
その声は魔力に乗って、黒い鎧の中にまで聞こえてくる。
「余はワーウヤード、魔術の王にして、魔の一族を統べる者である」
彼女は美しい金色の髪をなびかせて――気圧が極めて低く、風の生じないこの高度では不自然なことだった――、続ける。
「貴様らには、いくつもの罪がある。
一つは、余の糧となることを避け、身を隠したこと――」
肉声ではないにもかかわらず、それは詩でも吟じているかのように、美しかった。
「また一つは、余の“影”を何度も消し飛ばしてくれたこと――
更に一つは、余の同胞たる魔の戦士たちに、働き手たちを殺し散らしたこと――」
魔王ワーウヤードの燃える瞳は、天空都市の頂点からあらゆるものを
そして、一喝した。
「何よりヌンハーを……我が王配となる者を殺してなお、のさばっていることだッ!」
強大な魔力が更に放射され、黄金の光が極光のように周囲へと撒き散らされ、輝いた。
「余の怒り、思い知るがいいッ!!」
魔王が、その魔術を行使する。
するとそれは、ウィッシェルの天蓋を覆う、虹色の魔術紋様となった。
単純な直径にして十キロメートルを超えるウィッシェルの、透明な円蓋を塗り潰す勢いだ。
『これは、呪文で魔術紋様を……!?』
『簡素な物なら人間でも可能だと聞くが、この規模で行使するか……!』
魔術理論を知る鎧たちが、驚愕している。
魔術で生み出された巨大な魔術紋様は、発動させるための最後の一画を描き入れることもなく、即座に発動した。
再び激しい閃光が、天空都市に溢れる。