魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る   作:kadochika

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7.8.核の炎

 この世界に生きる人間は、必ず魔力を持っている。

 正確に言えば、胎児の段階で魔力を産生し始めて、それが死ぬまで続く。

 また、産生できる魔力の量には個人差があった。

 優れて大量に魔力を産生する者もいれば、一方でさほどでもない者もいる。

 優れていれば、呪文を用いた魔術の使い手として資質に秀でていることとなる。

 だがそこに、悪魔が人間を餌食にする理由があった。

 人間は、()()しやすいのだ。

 悪魔の使う特異な魔術の一つに、魔力を帯びた生物を、その時空連続体ごと魔力として圧縮してしまうというものがあった。

 人間を魔石に変換することで、「“その人物が現時点から死ぬまでに産生する魔力の全て”が凝集された、石片状の魔力の塊」が出来上がるのだ。

 アールヴやネッキーでは、そうはならない。

 悪魔が求めるのは、食物ではなく魔力。

 悪魔は良質な魔力源である人間を求めて、それを絶滅寸前まで追いやったのだ。

 そして、魔王ワーウヤードの行使した魔術紋様が放った光は、ウィッシェルの内部に、その力となって降り注いだ。

 人々は虹色の魔力によって時空連続体を圧縮され、魔力の凝集体へと変えられてしまう。

 起きていた者も、眠っていた者も。

 仕事に就いていた者も、休んでいた者も。

 不運を嘆いていた者も、娯楽を楽しんでいた者も。

 臨時凍結された行政魔術意思に代わってウィッシェルの防衛を指揮していた臨時行政官も、戦闘機隊の全滅を嘆いていた管制員も、マイレの同僚たちも、その息子の同級生たちも。

 赤子も、老人も、男も、女も――生きていた人間は、全て。

 虹色の石くれへと、変えられてしまった。

 

『…………!?』

 

 立法魔術意思と司法魔術意思は、その事態を把握して戦慄していた。

 全滅。

 ウィッシェルの五百万の住民が、わずか数十秒で資源化されてしまった。

 本来であれば、魔力の産生量が定まる十歳を迎えた子供から魔力の資質を測定し、ごく一握りを選出して同じ処置を施すことになっていた。

 悪魔の襲来に際して暴走した行政魔術意思を臨時凍結したのは彼らだったが、人口動態に大きな影響を及ぼさない範囲で子供を資源として利用するというのは、彼らの総意だったのだ。

 だが、魔王はそうではなかった。

 

「さぁ集まれ、魔石たちよ!」

 

 都市中に散らばった魔術資源――魔石が、空中に浮き上がる。

 両掌で包み隠せるサイズながら、その総数はウィッシェルの人口と同じ五百万超。

 それらはきらきらと虹色に煌めきながら、魔王の魔術によって障害物を回避し、可能であれば破壊し、ウィッシェルの円蓋へと殺到した。

 そして、ワーウヤードが上げた足を踏み下ろすと、その衝撃が円蓋を叩き割る。

 大きく爆ぜ落ちる円蓋頂部、噴き出した空気流。

 それに乗って上昇する魔王へと、集まっていく魔石。

 

「よせッ!!」

 

 黒い鎧と白い鎧が、そこに向かってレール・ライフルを最大出力で撃つ。

 しかし、秒速七キロメートルで飛翔した弾体は、魔王の周囲に漂う魔石たちに弾かれる。

 群がる魔石たちの中心で、魔王の歓喜が魔力の波動となって伝わってきた。

 

「ふぅううう……!

 たまらんぞヒトども……この幸福、150年以来だ……!」

 

 魔石を口でガリガリと齧り、あるいは髪束の先から吸収する、ワーウヤード。

 

「本来なら余も、こうして産まれたならすぐに次の世界へと向かうところだがな」

 

 大量の虹色の魔石が、続々と魔王に吸収されている。

 彼女はガンマ線レーザー砲を照射するディゼムたちの方を鬱陶しげに睨みながら、にやりと笑った。

 

「だが、これで余の溜飲が下がると思うなよ?

 余が見つけたあの島……あそこが貴様らのねぐらであろう?

 最後にそこを啜り尽くして、終いにしてやるわ!」

「させっかよッ!!」

 

 ディゼムが黒い鎧と共に突進するが、魔王がそれをちらりと睨むだけで、虚空に魔術紋様が現れた。

 

「――ッ!?」

『対魔術防御!』

 

 魔術紋様が輝き、黒い鎧に向かって虹色の光が発せられる。

 が。

 

「……何だ、何が起こった!?」

『恐らく、我々をあの虹色の石のように、魔術資源化しようとしたのでしょう。

 メイエによって増設された魔術炉から逆位相を放射したことで、無効化しました。間一髪でした』

「チッ――」

 

 ディゼムは攻撃を加えようと体勢を立て直すが、魔王が舌打ちすると、大爆発が生じた。

 

「ぉわッ!?」

 

 装甲に損傷を受けて弾き返される、黒い鎧。

 ワーウヤードは恨めし気に彼らを睨みつつ、空間転移でウィッシェルの中へと入り込んでいく。

 

「ならば、手始めにこのヒトどもの街を取り込んで、余のもう一つの城としてくれる……!」

「待ちやがれッ!」

 

 それを追うディゼム。

 魔王の作った円蓋の破壊口からは、音速のチョーク流れが外に向かって発生していている。

 黒い鎧はスラスターの推力でそこに強引に入り込むのではなく、掌から塗料を噴射して円蓋に魔術紋様を描画した。

 

『転移します!』

「おう!」

 

 黒い鎧は魔術紋様で短距離を転移して、円蓋をすり抜けウィッシェルの内部へと入った。

 

「エクレル、僕たちも行くよ!」

『当然だ』

 

 アケウの白い鎧も、同じようにして後に続く。

 白い鎧の中からエクレルが通信に乗せて、疑問を発した。

 

『奴は取り込むといっていたが、まさかウィッシェルと融合でもするつもりか?

 どうやってだ?』

『ウィッシェルはその運行に魔術も用いていますから、そこを介して繋がることができるのかも知れません』

 

 プルイナの返答に、彼女は最悪の予想を口にした。

 

『もしそんなことをされれば、地上の悪魔を攻撃する予定だった核ミサイルが奴の手に落ちることになるな』

『魔王によってそれらが制御できるのかどうかは不明ですが、不安要素は排除するべきですね』

「だが、武装が残り少ねぇ……!」

 

 ディゼムが懸念する。

 魔王は既に、ウィッシェルの中央にある庁舎の屋上へと取り付いて、その多数の黄金の髪束をビルへと突き刺している。

 魔術意思たちが抵抗しているのか、魔王は何かを蹂躙するようにして笑っていた。

 

「ははははは! 無駄な抵抗だな!

 余のもう一つの城となれる栄光の前に、この町もむせび泣いておるわ!」

「バカ笑いしやがって! そこをどきやがれ!」

 

 ディゼムは急降下しながら魔拳を放つが、黒い鎧は横合いから伸びてきた黄金の髪束に弾かれる。

 

「余に触れるな、汚らわしい!」

 

 白い鎧も大型切断機を展開して切りかかるが、黄金の髪束がやはりこれを弾く。

 軌道をずらされ、誤ってビルの一角に突入・破壊しながらも、ディゼムはビルの配管へと突き刺さった黄金の髪束を発見し、それを掴み取った。

 

辺縁(フロンティア)収奪(エクスプロイション)装甲(アーマー)、起動』

 

 黒い鎧の右拳が輝き、その表面が握り込んだ黄金の髪を分解・吸収する。

 

「あっこのっ、薄汚い手で余の髪に触れおってッ!」

 

 それに激昂したか、魔王がビルの屋上を魔術で砕いて降下してきた。

 凄まじい勢いで伸びてくる黄金の髪束を回避しながら、ディゼムは黒い鎧の中でほくそえむ。

 

「この狭い場所じゃ、ちょこまか転移も出来ねぇだろう!」

『悪くない判断です』

「舐めるな!」

 

 吠える魔王が魔術で転移するが、それはかつて“影”がマフで見せたような神出鬼没のそれではなく、どちらかというと高速で移動しているだけのように思われた。

 プルイナが分析する。

 

『恐らく、髪をウィッシェルの配線に突き刺して融合しようとしているために、移動が制限されているのでしょう。

 今がチャンスかも知れません』

「なら、あれだ!」

 

 ディゼムが合図すると、黒い鎧が弾けて分離した。

 そして部品となって魔王に襲い掛かり、彼女に対して強制着装を行おうとする。

 

『ディゼム!』

「凝襲ッ!!」

 

 同時にディゼムは灰色の鎧を着装して、魔王の反撃から身を守った。

 

「く、小賢しいわッ!」

 

 しかし魔王が全身から衝撃波の魔術を発して、黒い鎧のパーツを全てはじき返す。

 ディゼムも姿勢を下げて防御するが、その直後、

 

『当機を忘れてもらっては困るな!』

 

 今度は白い鎧がバラバラになって、魔王を強制的に包み込んだ。

 

『高速魔術紋様はお前だけの専売特許ではないぞ!』

 

 エクレルが白い鎧の内部に高圧電流の魔術紋様を析出させ、即座に発動する。

 バン、と大きな火花が散って、電流がワーウヤードを焼いた。

 そこに続いて、

 

『今だアケウ!』

「凝、襲ッ!」

 

 白い鎧が強制着装を一部解除して、魔王の腹部が露出した。

 一方、こちらも灰色の鎧を着装したアケウが、白い鎧の装備していた大型切断機を取り外して起動し、魔王の腹部を目がけて斬りかかる。

 

「このぉッ!!」

 

 高速回転する超ウラン元素化合物の刃が、魔王の肌を苛み火花を散らした。

 白い鎧に拘束されたまま、魔王がうめく。

 

「ぐ、こ、小癪……!」

 

 すると魔王は魔術で空間を転移して消え、白い鎧とアケウの攻撃から逃れた。

 不意に訪れる静寂、プルイナが分析して言う。

 

『配線を侵食していた髪束ごと転移したようです。

 ひとまずはウィッシェルへの融合は防げたでしょうか』 

 

 しかしそこに、灰色の鎧の着装を頭部だけ解除して、周囲を見回していたアケウが言う。

 

「いや、魔王は地下にいる! 追いかけよう!

 凝襲、解除!」

「プルイナ、俺たちもだ!」

 

 二人は灰色の鎧の着装を解除して、それぞれの相棒を再び着装し、破壊跡の広がるビルの外へと飛び出した。

 

***

 

 離れた空域に退避していた保護セルの中で、ファリーハたちは鎧たちの報告を通信越しに聞いていた。

 プルイナが、冷静な中にも沈痛さを感じさせる音声で言う。

 

『残念ですが……ウィッシェルの住民は一人残らず魔石に変換されてしまったようです』

『あの魔王、インヘリトの位置を知っているようだった』

 

 エクレルが、続けて懸念した。

 

『このままウィッシェルと融合されて、インヘリトが核ミサイルの標的にされることは避けたいな』

『我々は、このまま魔王撃滅のための戦闘を続けます。

 あなた方はインヘリト王国に退避して、住民の避難を開始してください』

「なら、あたしも一緒に戦う!」

 

 ホウセの提案を、しかしエクレルたちは棄却する。

 

『悪魔の戦力が他にも展開していないとは限らん。そちらにも最低限の自衛力は残しておくべきだ』

『魔王の目標は、ウィッシェルと融合してインヘリトを攻撃することと思われます。

 インヘリトを攻撃できさえすれば、次の世界に向かうであろう発言も確認しています。

 住民を転移で退去させ、無人になったインヘリトを攻撃すれば、それでやり過ごせる可能性があるということです』

 

 プルイナの意見は、王女であるファリーハにとっては希望とも、凶報とも取れた。

 

「……インヘリトが廃墟になることを受け入れたくはありませんが、今は住民の非難を優先するべきですね。

 わたくしたちはインヘリトに向かいます。敵の尾行にはくれぐれも気を付けて参りましょう」

 

 ファリーハは通信に対してそう言うと、座席に座ったマイレたちに告げる。

 

「……あなた方には、本当に申し訳ないことになってしまいました。

 わたくしたちの力が及ばなかったことを、極めて無念に思います」

 

 それに対し、マイレが目を伏せつつ答えた。

 

「……私たちだけでも助けて頂いて、ありがたいと思っています」

「ねぇお母さん、もしかしてうちに帰れないの?」

「帰れる、帰れるよ……少し時間がかかるけどな……」

 

 マイレの夫が、マイレと息子を慰めるようにそう告げる。

 保護セルは進路をわずかに変えて、機外のハンドルに掴まったホウセと共にインヘリト王国へと進路を取った。

 

***

 

 魔王ワーウヤードを追って、ディゼムとアケウはウィッシェルの地下へと向かう。

 ワーウヤードは魔術で転移しながら隔壁をすり抜け――転移妨害の仕様になっていないのだ――、一直線にウィッシェルの中枢へと進んでいる。

 黒い鎧と白い鎧が、短距離転移の魔術紋様を街路に描こうとすると、そこに、通信が入った。

 

『異邦人たち、こちらは行政魔術意思アヴァリク・ハルドゥスです』

 

 その声に驚いて、ディゼムは思わず言う。

 

「凍結されてたんじゃなかったのかよ!」

『凍結は先ほど解除されました。侵入した悪魔に通じる通路を提示しますので、そちらを進んでください』

 

 すると、作業用ロボットが街路に設けられた通気口の蓋を外し、そこに入るよう手振りで示した。

 ディゼムはそこに黒い鎧を近づけつつ、訝った。

 

「信用していいんだろうな?」

『保全すべき住民を全滅させられたことに対し、報復が必要です。

 具体的には魔王を空間転移が不能な状態に追い込み、市外に放出、そして熱核融合爆弾で殺害します』

『表現は剣呑ですが、信用しましょう』

『迷っている時間はなさそうだ』

 

 プルイナとエクレルは、彼を信用するようだった。

 

「なら、行こう!」

 

 アケウが白い鎧と共に通気口に飛び込むと、ディゼムも鎧のスラスターを噴かせ、後に続く。

 ディゼムが戦っていたロボットたちも指揮系統が復旧したようで、続々と魔王の進路上に展開し、迎撃の火線を張っていた。

 

「ふはははは! からくりども、余を捉えてみよ!」

 

 余興のつもりか、魔王は哄笑しながら迎撃のロボットたちを破壊し進んでいく。

 転移すればそのような防衛網はすり抜けられるはずだが、そのために中枢への到達までがわずかに遅滞していた。

 一方で、ディゼムとアケウは巨大なシャフトを降下し、またロボットたちの誘導に従って支線を通り抜け、魔王に近づきつつある。

 しかしそれでも、彼女はディゼムのいた、魔術意思の中核のある区画へと進入を果たしてしまった。

 広大だが、緻密な魔術紋様の発する余熱でほんのりと暖かい空間に躍り出て、彼女は呟いた。

 

「ここがこの都市の中枢だな? 魔術の心に支配させるとは、ヒトどもも酔狂よな。

 これでは余に捧げているのと変わらん!」

 

 隔離区画に広がる都市のごとき構造物、そしてそこにびっしりと描かれたマイクロサイズの魔術紋様。

 それが、ウィッシェルを統御する三つの魔術意思たちの意識の源だった。

 先ほどディゼムたちの侵入を迎撃したことで多少の損傷が生じていたが、それでもまだ十分に機能している。

 行政・立法・司法の三つの魔術意思たちは、魔術によって生成された意識でありながら、魔術を行使した。

 

『自衛権を行使する』『好きにはさせない』『退去せよ、悪魔』

 

 破壊的な爆発と衝撃波の嵐が、金色の魔王を襲う。

 だが、彼女は髪と衣をたなびかせつつ、笑った。

 

「何だそれは、それが魔術か?」

 

 ワーウヤードは急降下して、空間の底面に着地する。

 同時、そこを中心にして破壊が広がり、魔術紋様を描かれた構造物が抉れ飛んだ。

 直径にして二十メートルほどのクレーターが生じ、魔術意思たちを生み出す魔術紋様が大きく損傷する。

 

『――これは――あまりに――脅威――』

 

 損傷の拡大で、行政魔術意思の意識が揺らぐ。

 そこに、異世界の鎧とその着装者たちが到着した。

 

「このアマ!」「そこまでだ!」

 

 クレーターの底に佇む魔王に対し、周辺への被害を厭わずガンマ・ガンが照射される。

 しかし、魔王はそれを手をかざして遮ると、空間を転移した。

 

「狼藉者がッ!!」

 

 黒い鎧は脚部の、白い鎧は上半身の増加スラスターを衝撃波で攻撃され、それぞれ急角度を描いて墜落する。

 

「ぐぉッ!?」「ッ!?」

 

 鎧たちが咄嗟に衝撃を殺す方向にスラスターを噴かせていなければ、ディゼムの方は下半身が吹き飛んでいただろう。

 どちらも増加スラスターの半数が破壊され、二人は体勢を立て直しつつもうめいた。

 

「う……!」

 

 魔王は魔力を高めつつ、ぼやくように言う。

 

「ようやく調子が出てきたわ……!

 あまり一度に()みすぎるのも良くないな」

 

 そして彼女が腕を振りかざすと、強烈な火球がディゼムたちの周辺に出現した。

 

「うぉ!?」「まずい……!」

 

 二人は残存したスラスターを噴かせて、何とかこれを回避する。

 それぞれの鎧から、プルイナとエクレルが状況を分析した。

 

『魔王の魔力が亢進(こうしん)しています。

 魔術資源の吸収同化が進んできたのでしょう』

『状況は極めて不利だが、何とか手立てを考えている。

 二人とも、時間を稼げ』

 

 直撃すれば超ウラン元素化合物の装甲と言えど容易に融解するであろう火球の嵐の中を飛びながら、着装者たちはうめく。

 

「軽く言ってくれるじゃねぇか……」

「言葉で気を引きたいところだけど、向こうが有利じゃ聞いてもらえないだろうね」

「ははははは! 逃げ惑うだけか、憎き鎧の戦士どもよ!」

 

 が、そこに、新たに飛来する物体があった。

 

「――!?」

 

 ミサイルだ。

 全長二十メートル、直径二メートルあまりの巨大なミサイルを、戦闘ロボットたちが吊り下げながら飛んでいる。

 鎧たちに対し、魔術意思たちが通信を送った。

 

『市民全滅。かくなる上は、ここで熱核融合爆弾を起動すると決議した』

『悪く思わないでくれ、異邦人たち』

「あらかじめ相談しろよそういうのは!?」「いけない――」

『――起動――』

 

 ディゼムとアケウが戦慄したのも束の間、ウィッシェルの中枢で、水素とホウ素の核融合反応が生じる。

 巨大な火球が空中都市の構造の最奥で発生し、地獄の業火で魔術紋様を焼灼した。

 

『シールド・フルイド最大、魔術防御全開』

 

 転移の魔術紋様は間に合わない。

 鎧たちは物陰に退避しつつ――気休めにしかならないが、それでもやらないよりはいい――、更に防熱磁性流体と魔術紋様による冷熱防御を実行した。

 

「余を舐めるなぁッ!!」

 

 一方の魔王も短距離転移ではかわしきれないこの大爆発を、同様に魔術で防御する。

 同時に生じた衝撃波でウィッシェルの構造は大きくダメージを受けて、魔術意思たちが実行されていた中枢部は溶けるように崩壊した。 

 通気口や通路などの接続部を通って爆轟が都市の各部で噴出し、重力を受け流す支持構造が大きく損傷する。

 荒れ狂う莫大な熱と衝撃波が治まるのに数分を要し、放射線が電波通信をかき乱していた。

 鎧たちは、放射線にかく乱されない超空間通信で通話する。

 

『まさかここで核を起動するとはな……』

『何とか抗堪(こうたん)しましたが、ここまで距離の近い地下核爆発は、開発では想定されていませんでした』

「プルイナ、それよか魔王はどこだ!」

 

 ディゼムが問うと、黒い鎧は状況を伝えた。

 

『電波状況が落ち着いてきました、センサー回復、映像を最適化します――』

 

 そこに、魔王の膝蹴りが黒い鎧の胴体を激しく打つ。

 

「――ッ!?」

 

 ディゼムは黒い鎧と共に吹き飛び、続いてアケウも髪束による薙ぎ払いを受けた。

 防御していたとはいえ、近距離からの核爆発で損傷を受けていた装甲がいくつか吹き飛び、その下の駆動高分子の束が露出する。

 スラスターによる姿勢制御も適わず転倒する鎧たちに向かって、魔王が吐き捨てた。

 

「味な真似をしてくれたなヒトども……!」

 

 魔王の顔は、人間によく似ていた。美貌といってもいいほどだ。

 その顔が、再び怒りと嘲笑の混ざりあった表情へと変わっている。

 

「余の怒り、今一度思い知れッ!!」

 

 すると、彼女は自身の髪で身体を覆い隠し、下方を向いた円錐のようになって回転を始めた。

 そのまま核爆発で溶融し、焼け焦げた高機能分子集積材の慣れの果てへと突き刺さっていき、ガガガ、と瓦礫を撒き散らしながら沈んでいく。

 

「クソ……!?」

 

 ディゼムは痛みにうめきつつ、魔王が今もなおウィッシェルを取り込もうとしていると判断し、動いた。

 が、魔王はその勢いのまま更に地下へと潜り込んでしまい、姿を消す。

 

「待ちやがれ!」「ディゼム!」

 

 二人は装甲が所々剥落した鎧を着装したまま、穴の向こうに消えた魔王を追いかけた。

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