魔王vsパワードスーツ/魔王に滅ぼされかけた異世界の人々、26世紀のパワードスーツを召喚して反撃に出る 作:kadochika
魔術意思を実行していた自己複製型魔術紋様を収容していた中枢区画の、更に下。
そこには、ウィッシェルの全ての電力を生み出す魔術炉が格納されていた。
直上空間における核爆発にもかかわらず、堅牢に作られた炉は異常を検知しつつも稼働し続けていた。
侵入した悪魔の排除のために出撃したユニットは、有人・無人を問わずほとんどが破壊され、停止している。
破壊されたエアロックや円蓋頂部からの空気の漏出を止めるための措置は、魔術意思たちの自爆によって中断された。
住民が全滅して死の都となったウィッシェルに、しかし、魔術炉は淡々と、電力を供給し続けていた。
もっとも、魔術資源――つまり選ばれた子供のことだが――の投入が無くなった今、このままでは稼働の終了も近い状態だったが。
しかしそこに、金色の魔王が降臨する。
「ほほぅ?」
彼女は魔術炉のある区画の天井を破壊して侵入し、警報の鳴り響く中魔術炉に接近し、黄金の髪束を炉の外壁に突き立てた。
損傷を検知したシステムが更に警報を発するが、魔王は髪束を通して魔術炉へと融合を始める。
魔術紋様の回路を通してその肉体は魔術炉へと沈み込んで行き、魔術炉は魔王の肉体の一部となり始めた。
そこに彼女の後を追って、黒い鎧と白い鎧が到達する。
「待ちやがれッ!」
その掌から破砕弾が放たれるが、魔王は既に魔術炉と一体となり、その金色の美貌は上半身が炉から突き出すばかりとなっていた。
魔術炉と同化し、膨大な魔力を循環させるための炉心を得た彼女を傷つけるには、到底足りない。
黒い鎧の中で、ディゼムは動揺した。
「クソ、もう融合しやがったのか……!?」
「ふははは、一足遅かったな! 死ぬがよい!!」
魔術炉の外壁から、魔王のものらしき黄金の髪束が何本も突出してきた。
ディゼムたちはこれを何とか回避するが、反撃の手段が乏しい。
増加装備は使い切って分離済み、腕部装甲の破損でガンマ・ガンは使用不能。
プルイナが通信を通して、二人を叱咤した。
『二人とも、既に手は打ってあります。今しばらく持ちこたえてください――』
「小賢しいわッ!!」
魔王が叫ぶと、彼女と融合した魔術炉から強烈な魔力が放射された。
本来魔力を閉じ込めておくための炉壁から投げかけられた圧倒的な魔力は、人湖メイエによって鎧たちの内部に設けられた魔術炉を共振させる。
すると、鎧の魔術炉が稼働を停止した。
彼女たちは既に元来の動力源であるQGPコアを消耗しきっている。
メイエを内包することで、そこから発生する魔力によって動いていたのだ。
それが、魔王の発した魔力の波動によって麻痺する。
鎧たちは全ての動力を喪失し、質量200キログラムを超える超ウラン元素合金の塊となって崩れ落ちた。
「うぉッ!?」
「え、エクレル!?」
強固な鎧は着装者たちを閉じ込める牢獄となり、その動きをひどく拘束する。
魔王は炉の壁から上半身を生やした状態で、彼らを嘲笑った。
「脆いな? これが余の“影”を下し、ヌンハーを殺した憎き鎧だったか」
彼女はそのままディゼムたちを粉砕しようと、炉から伸ばした黄金の髪束の先端を向ける。
髪が突出して彼らをばらばらにしようとした、その時。
「む……!?」
魔王の動きが、止まった。
彼女の意思ではなく、外的な要因によるものだ。
それがワーウヤードを拘束して、動けなくしている。
「う……く……!?」
魔王は動揺していた。
人間でいえば、金縛りに近いか。
しかし彼女は、怒号を上げてそれに打ち克った。
「舐めるなぁッ!!」
目に見えない拘束が解けて、魔王の髪束が鎧たちへと伸びた。
『魔術炉、緊急再起動』
しかし鎧たちは魔術炉を復旧し、黄金の髪束を回避する。
「プルイナ、何があった!?」
『回路を通して魔術的ウイルスを作成し、投与してみました。
間に合わせですが、それなりの効果はあったようです』
『その隙に、再起動できたというわけだが……不利は変わらんな』
「どうすればいいんだ……!」
彼らの焦燥とは逆に、魔王はまだ笑っている。
「くくく、ヒトどもよ、余は面白いものを見つけたぞ?
先ほど破裂した火の玉と同じものが、この下にまだいくつもあるようではないか」
その表現は原始的だったが、的を得ていた。
エクレルとプルイナが、それぞれの鎧の中で言う。
『ウィッシェルのネットワークを取り込んで理解したか』
『核ミサイルが発射される危険があります』
「止めやがれッ!」
「させない……!」
ディゼムとアケウは損傷した鎧で、魔術炉と融合した魔王へと飛びかかった。
が、衝撃波の魔術で一蹴され、彼らは再び吹き飛ばされる。
その一方で、ウィッシェルの底部に設けられていた弾道兵器の格納庫から、一基の核弾頭搭載ミサイルが落下した。
上部には都市があるため、底部から放つ構造になっているのだ。
海面に向かって落下したミサイルは空中でブースターに点火し滞空、姿勢を変更してインヘリト王国へと向かう軌道を取った。
「貴様らの国に狙いを定めて放った!
止められるものなら止めてみるがいいぞ!」
「クソッ!」
それを止めようと飛び立つディゼムだが、魔王が火球の魔術を無数に放ってそれを阻む。
「畜生ッ……!!」
「ははははは! 多少糧が減ってしまうが、構わん!
貴様らにも味わってもらわねばな、失う苦痛というものを!」
加速を始めたミサイル――
しかしそれは、彼方から飛来した光によって切り裂かれた。
燃料の燃焼制御が失われて爆発が生じる――同時に弾頭部分も破壊されていたため核融合反応には至らない。
海面へと落ちていくミサイルを破壊したのは、何だったのか?
それはウィッシェル底部のミサイル発射管から内部へと進入し、いくつかの隔壁を破壊して魔術炉区画へと姿を現した。
笑っていた魔王がその姿を見て、動揺する。
「……あれは!?」
それは漆黒の全身鎧と、純白の全身鎧だった。
スラスターの推力で飛行し、ディゼムたちを守るように着地する。
「鎧……なのか!?」
無論、ディゼムとアケウが現在着装している鎧とは別のものだ。
細部の形状が異なり、更には機体の各部に発光する箇所が設けられている。
武装も増強されており、新たな黒い鎧には大型の鉤爪、新たな白い鎧には大型の防盾、そしてそれぞれに大型のレール・ライフルが装備されていた。
ディゼムの着装している黒い鎧の中で、プルイナが言う。
『説明は後です、ディゼム。着装転換を行います』
『舌を噛むなよ、アケウ!』
すると、新たに現れた二領の鎧たちはばらばらになって、ディゼムたちへと殺到した。
今までの鎧は脱装され、二人は凄まじい勢いで、新たな鎧のパーツに飲み込まれていく。
着装を進めつつ、プルイナとエクレルが新たな機体へと制御人格を転送しながら、経緯を説明した。
『我々はこの世界にやってきて、悪魔の魔術の脅威を観察しました。
そしてその際、それに対抗するための新たなプランを策定、製造に取り掛かっていました』
『だがそれを機密とするため、自己の記憶を封鎖していた。
アウソニアから帰還して以来、インヘリト王国の地下では自己複製プリンターがこれを製造し続けていた』
『今まで我々から送信されてきたデータを基に地下設備で製造されていたのが、これらです。
XTIAS-6EX、インディサリュブル・ディグニティ』
「小賢しい!」
叫ぶ魔王から爆発的に伸びた髪束を、新たな鎧たちは跳躍して回避する。
ディゼムは驚愕と安堵の重なった複雑な感情を覚えつつ、プルイナに抗議した。
「こんなもんがあんなら黙ってないでもっと早く出せよ!?」
『我々も機密保持のため、忘れていたのです。
それに、核ミサイルを撃墜できたのはインヘリトに隠していたためです。
怪我の功名ですね』
ルーシーズ・レンズも標準搭載されており、内部から魔眼で新たな白い鎧を透かし見たアケウが驚嘆する。
「魔術炉もあるのか、これなら……!」
『魔術炉にはメイエの作ったものほどの出力はないが、事前に分割しておいたQGPコアもある。
全力で戦闘行動をしても十年は持つから、気にせずに戦え』
「分かった!」
アケウが白い鎧から、レール・ライフルを連射する。
魔力で弾速が高まっており、それは爆音を立てて魔術炉に突き刺さった。
「ぬぅッ!?」
炉の損傷部分から魔力が虹色の光となって漏出するが、魔王と融合しているためか、すぐに修復されてしまう。
通信を通して、新たな白い鎧の中からアケウが言った。
「ディゼム、核の位置が分かる僕が魔王の相手をする。
君はプルイナと、残ってる核ミサイルを壊しに行ってくれ」
それは道理が通っているように思えて、ディゼムは頷いた。
「またインヘリトが狙われねえ内に、そうしておくか……!」
『フラッシュ・グレネード、行使』
新たな黒い鎧の掌から、マグネシウムと酸化剤を混焼することで発生する強烈な閃光が発生する。
「む!?」
閃光には魔力も含まれており、これは一時的に魔王の視界と魔力探知を奪い、怯ませることに成功した。
一方でプルイナとエクレルは共同して兜の中の視界を補正したため、ディゼムとアケウが目を焼かれることはない。
「頼むぞ、アケウ!」
「請け負った!」
ディゼムは新たな黒い鎧と共に、魔術炉の区画の床に開いた穴から、その下にある核ミサイルの格納区画へと向かった。
「火の矢に向かうか、そうはさせん!」
魔王はそう言って、残る核ミサイルを発射しようとしたのだろう。
が。
「ぬぅ……また小細工かッ!?」
核ミサイルの格納区画へと向かったディゼムに、プルイナが呼びかける。
『魔王からと思しい発射信号がありました。
ウイルスによって発射を妨害中ですが、長くは持ちません。急いで』
「分かってる!」
下方に抜けると、そこには直径数メートルはある円形の穴が規則的に開いており、更にそこからミサイルの弾頭が覗いている。
だが区画には既に多数の悪魔が入り込んでもおり、彼らは黒い鎧を認識するなり、魔術で迎え撃ってきた。
衝撃波、電撃、熱線、冷線。
「うぉっ、と、透明化!」
『熱電色覚迷彩、起動』
黒い鎧は視覚的に透明になって魔術の砲火をすり抜け、ミサイルに向かってレール・ライフルを撃った。
ほとんど音を立てずに――それほど大気が薄まっているのだ――弾頭の被殻に穴が開き、同時にミサイルが核爆発能力を喪失する。
「ガンガン行くぞ!」
ディゼムは悪魔の魔術を回避して飛行しつつ、レール・ライフルを連射した。
穴から見えるミサイルの弾頭を片っ端から破壊していくが、数が多く、広大な格納区画に数百はある。
『弾頭の数は推定で三百以上。全ての破壊まで推定であと二分』
「クソ、厄介なもん作りやがって!」
それでもアケウが魔王を食い止めている隙に、全てを破壊しなければならない――
ところなのだが、しかし。
「へへへ、それ以上はさせねぇよ、鎧のヒト!」
そこに、魔力の波動に乗せた声が聞こえた。
ディゼムも、プルイナも聞いたことのない声だった。
悪魔たちの間から姿を現したのは、虹色をした悪魔だ。
迷彩で透明化した黒い鎧が視えているのか、空中を飛んで追いすがってくる。
「はじめまして、だ。俺は魔宝の作り手、カイフォス。覚えてくれよな。
魔軍にゃそれなりに貢献してる」
「知るか、死ね!」
「おっと!」
ディゼムの放ったレール・ライフルを寸での所で回避し、悪魔――カイフォスは声を上げた。
「こいつ――!?」
悪魔は虹色に輝く、甲冑のような姿をしている。
生物というよりは、工芸品のような形態だ。
ディゼムは透明化した新たな黒い鎧に追いすがって来るその姿を見て、直感した。
(こいつ、まさか……!?)
『推測ですが、敵は真紅の鎧に近いシステムを着装しています』
「エリカレスに作れたんなら、他にも作れるやつがいるってか……!」
プルイナの推測する通りなのだろう。
虹色の鎧が手から放つ魔術を、黒い鎧はスラスター推力で回避する。
『強敵です。ディゼム、ここは距離を取ります』
「あぁ、ガンマ・ガンで焼き払う!」
黒い鎧の中のその会話はカイフォスには聞こえなかったはずだが、
「おっと、引いたって駄目だ!」
虹色の鎧をまとった悪魔は更に速度を増し、後退したディゼムに襲い掛かった。
「石になりなッ!」
その腕に描かれた魔術紋様から魔力が放出され、透明化したままの黒い鎧に命中する。
が――
『魔術――』「――抵抗ッ!」
新たな黒い鎧を得たプルイナとディゼムは、二重の魔術抵抗でこれを弾いた。
感覚で理解する――魔術抵抗に失敗していれば、ディゼムは鎧の中で虹色の石の欠片になっていたことだろう。
「おっ!? こりゃ並のヒトじゃねぇな……!」
カイフォスはそう言って、レール・ライフルによる反撃を回避――流れ弾が別の悪魔に当たって粉砕する――した。
プルイナが、黒い鎧の中で言う。
『ディゼム、敵の魔術は危険です。魔術抵抗に演算能力を割くので、透明にはなれなくなります』
「あぁ、その方がいい……!」
答えつつ、ディゼムはなおもレール・ライフルを連射する。
しかし、虹色の鎧は黒い鎧の正確な照準補正の更に上を行く高速運動で、それらを回避した。
「爆砕する火球よッ!!」
黒い鎧の魔術補助で強化された魔術を放つも、虹色の鎧は爆轟を受け流しながら黒い鎧に迫ってくる。
そして、
「魔術砲だッ!」
カイフォスの叫び声と共に、虹色の鎧の掌から光が迸った。
単なる熱光線ではない、高熱を帯びた質量攻撃。
ディゼムは黒い鎧の右手に装備した鉤爪――アダマント・タロンズでそれを薙ぎ払い、間合いを詰めてきた虹色の鎧を迎撃する。
至近距離でカイフォスの声が、はっきりと聞こえる。
「へへへ、俺の作った鎧も、中々のモンだろう?」
「るせぇッ!!」
黒い鎧の側頭部から、二条の高出力レーザーが発振される。
「へっ、効かねぇなッ!」
が、虹色の鎧はこれをものともせず、手から伸びた鉤爪を更にディゼムへと近づける。
迫る威力、彼は黒い鎧の中で、うめいた。
「クソ、プルイナ……ミサイルはいつまで止めていられる!?」
『予測では、長く見積もってあと90秒。アケウの足止め次第なので不確定ですが、数秒後の恐れもあります』
「ンなこた……させねぇッ!!」
ディゼムは故意に後ろへと体勢を崩すと、その勢いで前のめりになった虹色の鎧の腹部を下から蹴り上げ、同時にふくらはぎのスラスターを全開にした。
虹色の鎧はその推力に吹き飛ばされて天井に衝突しながらも横へと飛び、追撃のレール・ライフルを回避する。
そして再び衝撃波の魔術を放ちつつ、ディゼムたちへと接近してくる虹色の鎧。
彼らは何とか反撃の糸口を掴もうと照準を付けるが、しかし、その時。
「悪いが、そこだね!」
虹色の鎧が手から光を放つと、それは網のように広がって、高速で動くディゼムたちを絡め取った。
「何っ!?」
異世界の鎧の扱う、粘着繊維弾のようなものだったか。
それは黒い鎧を絡め取るだけではなく、ミサイル区画の床に貼り付けてしまった。
身動きの取れなくなったディゼムたちに、虹色の鎧が慎重に接近する。
「どうだ、俺特製の拘束魔術……!」
『解除を試行します』
だが、全身のスラスターを全開にしても、引きちぎれない強度。
レール・ライフルとアダマント・タロンズも、腕が動かないのではほとんど威力を行使できない。
ライフルを手放して掌の多目的射出孔から化学物質を投射するが、単なる物質ではないのか、光の網には効果がない。
虹色の鎧をまとって接近してきたカイフォスは、背中から小ぶりな剣を取り出して、ディゼムたちに向けて構えた。
その切っ先には、恐らく新たな黒い鎧であろうと装甲を貫通し、内部の着装者を殺す威力があるはずだ。
「悪く思うなよ、鎧のヒト」
だが、カイフォスがそれを突き下ろす前に、その背後から激しい一撃が彼の胸郭を貫いた。
「な、に……!?」
それは、灰色の鎧をまとったディゼムの魔拳だった。
『空間転移、成功です』
プルイナが、黒い鎧の内側に転移の魔術紋様を析出させ、中のディゼムだけを外へと転移させたのだ。
カイフォスの背後に現れたディゼムは灰色の鎧を着装し、魔拳を放ったという順序だ。
ディゼムが拳を開いて悪魔の身体から抜き取ると、魔力の供給が途切れて魔術が停止したのか、カイフォスの虹色の鎧と、黒い鎧を床に貼り付けていた魔術の拘束が消えた。
残ったのは、胸を貫かれて倒れた細身の悪魔だけだ。
彼は既に、こと切れていた。
「――!」
だが一方で、ディゼムも危険な状態だった。
先ほども陥った状況だが、灰色の鎧には気密性能がない。
その上、虹色の鎧との戦いで距離の離れていた、他の悪魔たちが追い付いて来ていた。
周囲はほぼ真空で、彼は再び自分の舌の上で唾液が沸騰する奇妙な感触を味わい――
そして、灰色の鎧を着装解除し、黒い鎧からの強制着装によって危機を脱した。
ディゼムは漆黒のパーツの群れに飲み込まれて与圧を受け、酸素を吸いながらプルイナに礼を言う。
「はーッ……! た、助かった、プルイナ……!」
『あなたも、危険な提案をよく承知してくれました』
「それよか、残りの悪魔とミサイルだ……!」
『行きましょう』
「急いでくれディゼム! こっちは長く持たない!」
通信を通して、アケウが苦境を訴えている。
彼がそう言うのだから、よほどのことに違いない。
ディゼムはやってきた他の悪魔たちをレール・ライフルで射殺しながら、ミサイルの破壊を続けた。
***
『限局核レーザー砲、最大収束』
エクレルが装甲表面に描いた魔術紋様によって、更に収束率を増したガンマ線レーザーが走る。
迫りくる魔王の黄金の髪束は、粗雑に散髪をしたように切り散らされた。
それだけでなく、炉の外壁から上半身を突き出していた魔王の頭の上半分を切除する。
だが、彼女は死なない。その程度では。
頭部の下半分に残された口が動き、魔力に乗せた声が響く。
「ふはははは! その程度か、異世界の鎧!」
傷口から失われた部分が泡を立てながら再生し、反撃の魔術が飛んで来た。
「く、何て威力だ……!」
巻き添えで魔術炉の補器や配管が大きく破損するが、こちらも炉を介して魔王との一体化が進んでいるのか、泡を立てて損傷部分が修復されていく。
自傷に等しい行為をしているにもかかわらず、アケウの魔眼に映る魔王のエネルギーは全く減っているように見えない。
「魔王は全然消耗してない、このまま攻撃しても意味がない!」
エクレルが、涼しげな声を崩さずに言った。
『消耗率は測定誤差未満ということだな。だが時間は稼げている。
ディゼムとプルイナが核ミサイルを破壊し尽くすまで、このまま凌げ』
「……なら、魔王と話せるようにしてくれ」
『ふむ、いいだろう。魔力の波に乗せてやるから、そのまま発話しろ』
アケウはそれを受けて、魔王ワーウヤードに向けて話した。
「聞こえるか、魔王!」
「時間稼ぎの策に乗る気など無いわ!」
再び飛んで来る火球を盾で弾きながら、呼びかけ続ける。
「聞いてくれ! このままお互い、殺し合う以外の選択肢だってあるはずだ!
君たちが魔力を求めるなら、僕たちはそれを提供する方法を知っている!」
「黙れ! 余からマフを奪い、ヌンハーを殺した貴様らに向ける妥協など、一切なし!
滅ぶがいい!」
「食べるために人間を飼っていたんじゃないのか!」
「もはや不要! 余が生まれた以上、次の世界に向かうのでな!」
『興味深い内容だ。もっと聞き出せ』
「……!」
エクレルの耳打ちを受けて、アケウは魔術の攻撃を凌ぎつつ、魔王にまた尋ねた。
「次の世界って、どういうことだ!?」
「貴様らは食事に向かって、丁寧に自分たちの歴史を紹介するのか?
するまいが! それと同じよ!」
ひときわ大きな爆発が、盾で受けたアケウを魔術炉区画の外縁まで吹き飛ばす。
強靭な盾――アダマント・シールドの防御力に感嘆しつつも、彼はディゼムに呼びかけた。
「急いでくれディゼム! こっちは長く持たない!」
「悪りぃ、もう少しだけ耐えてくれ!」
超空間通信を通してディゼムの返事が聞こえるが、
「おのれ、させるか!」
魔王がそう言って唸ると、その時、核ミサイルの残った弾頭が一斉に起爆した。
激しい衝撃が、魔術炉区画を揺るがす。
本来であれば、正規の発射過程――電子的・魔術的な承認や、ブースターへの点火など――を経ていない弾頭が、格納庫で起爆することは有り得ない。
しかし、ウィッシェルと一体化した彼女は力技でそれを可能にしていた。
魔王による円蓋の破壊や、魔術意思たちの自爆による度重なるダメージで空気の過半が漏出していた状態なので、衝撃波や爆風はさほどでもない。
だが、百に迫る核弾頭が発生させた数千万度に及ぶ破壊的な光熱の威力が、広範囲を溶融させた。
黒い鎧を仕留めようとそこに残っていた悪魔たちも含め、ウィッシェル底部に設置されたミサイル格納区画は崩壊し、真下の海へと落下していく。
アケウは思わず、悲鳴を上げた。
「ディゼムッ!」
返答はない。
真下の区画が溶け落ちて、魔術炉のある区画にもダメージが及んでいる。
重力で沈み込む魔術炉から上半身を乗り出して、魔王が哄笑した。
「はははは! 溶けたか! 哀れ、異世界の鎧め!」
「この……!」
アケウは白い鎧の盾を構えて突進し、レールライフルを連射した。
魔術炉に穴が開くが、やはりすぐに塞がっていく。
魔王はもはや、それを防ごうともしない。
「ははは、無駄だ! 貴様も後を追うがいい――」
その時。
突如として魔術炉の炉壁を突き破り、そこから黒い鉄拳が顔を出した。
「ぅおらぁッ!!」
次の瞬間には、魔術炉を引き裂いて、黒い鎧が姿を現す。
「ディゼム!」
親友の名を呼ぶアケウの魔眼に、物質化寸前まで濃度の高まっていた魔力が凄まじい勢いで流出してくるのが見える。
黒い鎧から、プルイナとディゼムが通信に乗せて言った。
『直上の魔術炉の中に退避して、爆発をやり過ごしました』
「爆発から逃げるついでに、炉の底板をぶち破ってやった!
ちったぁ魔力を無駄遣いしただろう!」
そう――先ほどの起爆に伴う衝撃は、弾頭から生じた衝撃によるものではなかった。
大気がほとんど流出した状態では、爆風や衝撃波が生じることはない。
あれはディゼムと黒い鎧が、魔拳によって炉壁を破壊したことによる揺れだったのだ。
「おのれ、ならば……!」
魔王が美貌を歪めてうめく。
そこに何かの変化を感じ取ったのか、白い鎧からエクレルが報告した。
『推力ベクトルの変化を確認した。今、ウィッシェルは海上を南下してインヘリトの方角に向かい始めている。
インヘリトに降着して住民を魔術資源化するつもりか、単純な質量攻撃で殺戮をするつもりかは分からないがな』
『核弾頭は全て破壊されました。ウィッシェルの人々には申し訳ありませんが、あとはこの都市を海に落としましょう。
そうすれば、ひとまずインヘリトの防衛が可能なはずです』
プルイナの提案に、アケウが応じて口にする。
「なら、ウィッシェルを空に浮かせている機構を止めれば……!」
「プルイナ、見当は付くか?」
ディゼムが問うと、彼女は落ち着き払った声のまま説明した。
『資料で確認済みです。十二基の浮力発生装置が外縁下部に存在しています。
それらを八基以上破壊すれば、ウィッシェルは浮力を保っていられなくなります』
「っしゃ、そんなら!」
「行こう!」
後退を始める、黒い鎧と白い鎧。
「待て、ヒトどもォッ!!」
それを見た魔王は声をあげるが、転移して追いかけてくることはなかった。
追って来てもいいのだろうが、そうしたいならばウィッシェルとの融合は手放すことになるのだろう。
二人はそれぞれの相棒と共に、魔術炉区画の底から外へと飛び出した。