不意に胸を揉んでもシリアス顔すれば深読みされて許される説   作:バリ茶

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4話

 

 

 アイリスやエレナの前でシリアスな雰囲気を醸し出した、その翌日。

 

 彼女らへの合法的なセクハラ行為と、並行して行うべき情報収集のため、俺は聖都郊外に位置する、暗い墓地に足を運んでいた。

 ちょっとばかり大切な、この世界で生き抜くための情報収集──その名も突撃隣の亡霊さん、である。

 平たく言うと、墓地にいる亡霊たちに死んだ時のことを聞いて、危険な相手や場所を事前に調べておこう、という話だ。

 

 勇者になってからの半年間で判明したことだが、この世界における魔物のほとんどは、どうやら強い弱いに限らず”隠し玉”というものを持っている。

 例えば、以前闘ったスライム。

 やつは弱そうな見た目と、一見無害そうな立ち振る舞いをする魔物なのだが、その実態は相手が油断した隙をついて、骨まで溶かす強酸性の唾液をぶっかけようとしてくる悪質なクソモンスターだ。ギリギリで躱したが、自分で買ったお気に入りのカッコいい黒コートはダメにされた。

 そう、勇者として前線に立つ以上、少し慎重になり過ぎるくらいがちょうどいいのだ。

 本当は、血生臭い戦場のことなど、考えるだけで疲れるので、ダラダラとやっていきたいお気持ちなのだが、こればかりは致し方ない。

 全てはおっぱいのためである。

 

「で、この先に亡霊がたくさんいるってこと?」

「まぁな。そういえば、翔太郎はここに来るの初めてだったか」

「なんか来る前に『気をつけろよ』って言ってたけど、どういうことなんだい」

「……行けばわかるさ」

 

 いつもの背後霊を引き連れてやってきたのは、辺鄙な場所にある割には手入れが行き届いた、広い墓地だ。

 そして、そこでは。

 

 

『シュウゥゥゥゥッ!!』

『ぐわぁ!? ク、クソっ、これで二対一か……ッ!』

『おいキーパー! ちゃんと止めろって!』

 

 

 ──亡霊たちによる、生首をボールにしたサッカーが、繰り広げられていた。

 

「……なにあれ」

「生首サッカーだけど」

「見りゃわかるって。そうじゃなくて、あぁなってる理由をだね」

「死んでるしどこにも行けなくて暇だから、サッカーして遊んでる」

「……頭が痛くなってきた」

 

 初めてアレを見るとそうなるよな。

 俺も最初は頭を抱えて、墓地への入場を踏みとどまったものだ。

 

 ──この地の名は、勇者墓地。

 かつて聖導国家エドアールに勇者として召喚され、冒険の中でその命を散らした若者たちが埋葬される、亡霊たちの遊び場である。

 

 

 ……

 

 …………

 

 

『オメー翔太郎っつうんか! どう見ても日本人やん! 遊ぼうぜッ!』

「ちょっ、僕はやらないって──ま、間宮ー!」

 

 亡霊に引きずられて、強制的に生首サッカーに参加させられた友人を一瞥しつつ、墓石の前に立って手を合わせる。

 すると、墓石の後ろから一人の少女が姿を現した。

 例によって例の如く、彼女の身体もまた半透明、つまり亡霊である。

 

『あら。十代目、こんにちはぁ』

「お久しぶりです、八代目」

 

 ニコニコしながら俺の隣に座る、ほんわかゴースト。

 彼女は歴代で八番目にこの世界へやってきた勇者だ。

 つまり俺の先輩にあたる人、ということになる。

 

「みんなの様子はどうですか」

『相変わらず、かなぁ。今日は珍しく動いてるけど、いつもはダラダラしてるだけだしぃ』

 

 少女の見つめる先に視線を移すと、そこでは翔太郎を含めた五対四のサッカーが行われていた。

 内一人の少年は首から上が無いため、今日は彼の頭がボールの担当になっているらしい。

 

 ここにいる彼女たちは、幽霊ではなく亡霊だ。

 特殊な術式で、魂を綺麗に保存して幽霊になった翔太郎とは異なり、突然の死で魂が欠けている彼ら彼女らは、肉体が安置されているこの墓地から動くことはできない。

 ゆえに暇を持て余し、誰か一人の首を選んで球遊びに興じている、というわけだ。

 

『十代目もいんじゃん! おーい、早くあの国滅ぼせーっ!』

『よそ見してるのでボール頂くね』

『あっ、てめ!』

 

 彼らは元々一般人だったわけだが、エドアールに選ばれた結果強制召喚され、勇者としてその生涯を終えた。

 それに関して、思うところがないわけではないが、それはそれ、これはこれ。

 俺には俺のやるべきことがある。

 義憤に駆られて、いち国家に反逆できるほど、彼らに対して思い入れがあるわけでもなく、ヒーロー然とした感性を持っているわけでもない。

 できる事といえば、聖剣による先輩たちの成仏。

 そして元の世界へ帰還する際に、召喚システムを破壊して、以降の勇者を生み出させないようにするくらいがせいぜいである。

 この世界の行く末に関しては知らぬ存ぜぬだ。

 

『今日はパーティの女の子たちはいないの?』

「墓の掃除に来たわけじゃないんで。あいつら来たら、みんなも隠れないといけないでしょ」

『まあねぇ。例え亡霊でも、魂が鎮座してるのバレたら、あの国にまた利用されそうだしなぁ』

 

 八代目の少女と、そんな会話を交わしていると、サッカーが休憩時間に入ったのか、六代目の少年がフラフラと此方へやってきた。

 

『十代目、エレナは?』

「いませんよ。来週の戦いに向けて、聖都でいろいろ調整してます」

『はぁー、そうか。また墓の掃除してほしいなぁ』

 

 六代目である彼は、まだアイリスとシャルティアが加入する前のパーティの勇者であったため、一応古参のエレナとだけは顔見知りだ。

 

『あの無表情っ娘の頭を、また撫でたい……』

「……? エレナが無表情、ですか」

 

 六代目とは、そんなに会話をしていなかったため、初耳だ。

 あのツンデレの化身みたいに表情豊かなエレナが、無表情っ娘とは、どういうことだろうか。

 まるで想像がつかない。

 俺はアイリスと、先に二週間ほどチュートリアル的な冒険をしたあとに、勇者パーティを任されたため、それ以前のエレナのことはよく知らない。

 

『ふっふっふ、ウケる話しても頷くだけで無口だし、頭を撫でても無抵抗で無表情だった筋金入りだ。あの子は感情表現が苦手なだけで、きっとオレのこと好きだったんだろうな……』

「そ、そうすか」

 

 彼女が六代目をどう思っていたのかは不明だが、俺と冒険をしているときのエレナは、表情豊かでよく喋る少女だった。

 打ち解けていなかった最初期こそ、お互いロクに喋りもせず距離を測っていたが、最初の冒険で道の通せんぼをしてきたなんかクソデカいドラゴンをぶっ飛ばした頃には、すっかり仲間として受け入れてくれていた。

 それを踏まえると、単純に六代目に対する彼女の好感度が低かっただけに思えるのだが──それは果たしてどうだろうか。

 

 もしかしたら、俺の前では頑張って話をしているだけで、本当は感情表現の希薄な少女、という可能性もある。

 それはそれで、何というかそそられるものがある。

 胸を触られて照れるのも、もちろん良いのだが、無表情で無抵抗なまま気にしないのも、中々に興奮を煽る反応だ。

 気になる……本当はどっちなんだろう……。

 

『スライムからも庇ったし、確実にオレのことが好きだったはずだ。だって今でもオレの墓を掃除しに来てくれるしな』

『六代目の思い込みがすごいなぁ。エレナちゃん、ウチのもやってくれてるんだけども』

「あの、先輩方、そろそろアンタらを倒した四天王の話を教えてほしいんですけど」

 

 雑談にきたわけではないのだ。

 こんな薄暗くて不気味な場所はさっさと去るに限る。

 

『あぁ、あの指輪つけてる骸骨みたいなやつだろ。……名前、なんだっけ?』

『ウチも忘れちゃった』

「……はぁ、まったくしょうがない先輩たちだな。確か……そう、ポコチンですよ」

「間宮ちがう。ロモディン。ポコチンじゃない」

 

 サッカーから解放された親友を交えつつ、同じ国に生まれ、同じ国で育った同胞たちと、その彼らを葬った怪物をやっつける作戦会議が始まった。

 おっぱいは揉む。

 四天王も倒す。

 両方やらなくてはならないってのが、今代勇者のつらいところだ。

 

『あいつ、雑魚モンスターに変装して群れに紛れるから、結構厄介なんだよな。死ぬ直前に気づいたから遅かったけど』

『おかげで弱い魔物に殺されたよわよわ勇者として、歴史に名を刻まれるウチらなのであった』

「そういえば、ポコチンの野郎が変装してた姿って、何か共通点とかありました?」

「ロモディンだって」

『ウチの時のポコチンは、スライムとかゴブリンとかだったかなぁ』

『あー、オレとやりあった姿は、中サイズのオークだったぜ。たぶん飛行する魔物には変装できないな、ポコチンのやつ』

 

 なるほど、つまり。

 

「ポコチンにも穴はある……ということですね」

「だからロモディ──」

「さっきからうるせェぞ翔太郎ッ! ちょっと黙ってろ!」

「えぇッ!?」

 

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