不意に胸を揉んでもシリアス顔すれば深読みされて許される説   作:バリ茶

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5話

 

 

 

 

『じゃあ質問だけど、十代目はこの世界でやりたい事とかあるの?』

「仲間のおっぱいを揉むことです」

『アハハ、不純~』

 

 先輩たちからの情報収集をあらかた終え、余った時間で雑談をしていた、その時だった。

 

『お、おーい十代目。なんか、魔物の群れが遠くから、この墓地に向かって進軍してんだけど……』

 

 事態の急変。

 この日を一言で表すとするならば、それ以外には思いつかなかった。

 

 

 聖都近郊に、突如として出現した魔物の群れ──というより、明らかに何者かによって統率された軍団が、警備の薄い居住区を襲撃して略奪行為を始めた、との一報が、遠隔通話魔法で入ってきた。

 墓地へ訪れること以外何も決めていなかったため、今日は自由な休日だワッホイと浮かれていたのだが、そうは問屋が卸さないらしい。

 やはり面倒くさい世界だな、とつくづく思う。

 神祇官だけじゃなく魔王もキモい。

 たまには平和な日常を送ろう、という考えには至らないのだろうか、あの馬鹿共は。

 

 今回の魔王軍側の目的は、聖都近郊を襲うことでエドアール側の戦力をそちらに向けさせ、ひとりぼっちの孤立無援状態となった勇者(オレ)を、この墓地に埋葬してやろう、ということらしい。

 俺が勇者墓地へ赴くことを伝えたのは、仲間の三人だけだ。

 普通に考えれば、俺がここにいることなど、魔王軍側は知る由もないはずなのだが──そこら辺は一旦置いといて。

 

 墓地に現れたのは、不自然なほどに下級モンスターだけで構成された、弱々しい魔物の群れであった。

 まともに戦えば負けるはずのない相手だが、幸いにもついさっき雑魚モンスターに変装する四天王がいる、という話をしたばかりだ。

 どう考えても()()()がいると、その場にいる全員が空気で察した。

 

「フハハハ! 人類最後の勇者を殺しに来てやったぞッ!」

 

 そして、なんと指輪を身に着けた骸骨──つまり噂の四天王ことポコチン本人が、魔物の群れの中央から出てきた。

 まるでこの軍団は私が連れてきましたと言わんばかりの、ド派手な登場の仕方だ。

 それを目の当たりにした六代目と八代目が、俺の背後に隠れながらコソコソと耳打ちをする。

 

『おい十代目、分かってるとは思うが』

『ポコチンは()()()()()()じゃないよ』

 

 もちろん。

 そんなことは百も承知だ。

 コソコソ隠れながら勇者を殺してきたような奴が、いまさら大仰な名乗りをあげて、相手の目の前に姿を現すはずもない。

 中央にいる指輪骸骨は十中八九デコイであり、本物は別にいるのだろう。

 

「──よし。じゃあ、とりあえず敵討ちでもしましょうか」

 

 唐突に、一週間繰り上げで、因縁の対決が始まった。

 とはいえ、シリアスに事を構えるつもりはない。

 相手は現状手に入る情報だけで作戦を組み立てているに違いないが、こちらはゲームオーバーになったプレイヤーから直接攻略情報を聞き出すという、反則同然の下準備をしているのだ。

 冷静に分析して、まず負けることはあり得ない。

 

「六代目。最初はどこに攻撃されました?」

『左足のアキレス腱だな』

 

 聞いた瞬間、地面を蹴って飛び上がる。

 すると、おそらく短時間の透明化魔法を使っていたであろうゴブリンが姿を現し、先ほどまで俺がいた空間をナイフで斬った。

 

「あー、八代目」

『飛んで避けたら、後頭部に矢がズドーン』

 

 腰の鞘から聖剣を引き抜き、剣背で後頭部をガードする。

 ほどなくして、彼方より飛来した矢が剣にぶつかり、致命傷を負うことはなかった。

 空中で振り返ると、遠くの樹木の太い枝の上に、フードを被った人影が目に映る。

 

 慎重すぎるが故に、最後は確実に自分の手で命を刈り取る──アレが本体だ。

 

 

 ……

 

 …………

 

 

「ほんとに勝てちゃったよ……」

 

 数分後。

 特に見せ場があるわけでもなく、スーパー聖剣パワーでポコチンを木端微塵に粉砕した結果、先輩たちの敵討ちは至極あっさりと終わりを迎えたのであった。

 ポコチンは確かに狂暴かつ狡猾で、四天王と呼ばれるにふさわしい用意周到さではあったのだが、どうやら腕っぷしが強いわけではなかったらしく、聖剣の光で本体にマークを付けた後は、ほとんど消化試合と化していた。

 まぁ、それもこれも先輩たちがアドバイスをくれたおかげだ。

 俺自身に戦闘センスが備わっているわけではないので、彼ら彼女らがいなければ、きっと敗北していただろう──そう思えるほどにポコチンは危険な相手だった。

 

「……お前の敗因は、勇者を殺しすぎたことだな」

 

 風と共に霧散していく彼の亡骸から、戦利品の指輪を拾い上げる。

 そして、多くの勇者を手にかけてきたその執念にだけは敬意を払い、彼の肉体が消えてなくなるその瞬間まで、最期をしかと見届けたのであった。

 ただ、まぁ、悪質な敵だったことに変わりはない。

 コイツの名前は後世に遺るだろうが、そこにあるのはロモディンではなくポコチンの四文字だ。

 名前を覚えられるだなんて贅沢はさせない。

 先輩たちの倍くらいは名誉を傷つけられたまま、大人しく死んでもらうことにしよう。

 

 さて、これで実家に帰ろう作戦の、第一段階の進捗が大幅に進んだわけだが、ここで俺の背後霊に質問だ。

 

「で、翔太郎。さっきお前が言ったこと、もう一度言ってみろよ」

「……いや、いい。忘れてくれ」

「ダメだ。あの女装アカウント、大学の同期にバラすぞ」

「う、うぅ……」

 

 珍しく弱気な翔太郎は、視線を右往左往させて落ち着きがない。

 その理由は、ポコチンを倒した直後に、コイツ自身がぼそりと呟いた言葉にある。

 

「……その、ここにいる先輩たちの分のホムンクルスも、作れないかなって」

 

 本当に、困ったことを提案してきやがった。

 俺たち二人だけでも、元の世界に帰るのが大変だって話なのに、救助する対象を増やしてどうするんだ。

 確かに翔太郎はおっぱいコンプリート作戦に協力してくれてるし、先輩たちもこれまでの冒険のアドバイスや、今回の四天王とのバトルにおける重要なサポートはしてくれたが……あれ。

 ──俺、結構お世話になってね?

 しまった、コレは参ったな。

 物理的にも俺の気持ち的にも、先輩方を助ける理由が、かなり沢山存在してしまっている。

 

 ……ダメだ。

 クールなキャラを演じる中で、非情で冷徹で現実に即した合理的な判断ができるようになったと思っていたが、どうやら全然勘違いだったようだ。

 おっぱいを揉む。

 親友を蘇らせる。

 先輩方に恩返しする。

 やる事がだんだん増えてきて、なんか逆に楽しくなってきたな。

 これは俺個人のポリシーになるが、自分に対して好意的に接してくれた相手には、なるべく同じように好意を返し、恩義があるならそれに報いるべきなのだ。

 結果、大学で増えたのは、金と女に飢えたアルコール中毒の腐れ縁共だったが、毎回そうとは限らないだろう。

 少し大変だが、先輩たちの分のホムンクルスも用意する。

 しかし、問題が一つ。

 

 翔太郎は幽霊で、先輩たちは亡霊──その違いは非常に大きい。

 

「仮にホムンクルスを用意したとして、だ。お前と違って先輩たちは肉体を得ても、元の遺体があるこの場所からは動けない。そこんとこどうするって話よ」

「……元の肉体が別の場所にいったら、彼らもそこに行くの?」

「あぁ、この墓地に楔を打たれてるわけじゃなくて、遺体のある場所が先輩たちの魂の残留位置になる」

 

 昔、魔王軍のネクロマンサーから奪い取った魔導書の情報を、ドヤ顔でひけらかすと、翔太郎は数瞬考える素振りを見せたあと、何か思いついたようにパッと顔をあげた。

 

「──遺体を持ち歩けばよくない?」

 

 その結論は、なんというか。

 

「お前、それは。……いや、いいな」

 

 またしても、目から鱗な意見であった。

 亡霊は、遺体のそばから離れられない。

 亡霊は、質量を伴う物質に触れることはできない。

 しかし仮に、遺体に触れることができ、遺体を持ち運ぶことで、常に魂の座標を移動させられる肉体があるとすれば、亡霊は自由に行動ができるということだ。

 さすが相棒。

 シリアス顔して俺の凝り固まった思考を揉みほぐしてくれた。とてもたすかる。

 

「先輩方に質問でーす。外見は選べませんけど、とりあえず生き返りたい人〜」

 

 質問の結果、全員が手を挙げた。驚異の団結力ですね。

 意見が揃ったのなら、やることは一つだ。

 さっそくホムンクルスの錬成を始めよう。

 必要なのはこの指輪と、術式を書き記した紙と、素材を代替する聖剣の光だ。

 聖剣のパワーは、基本的にひなたぼっこで得た太陽エネルギーであり、この世界の人間と違って体内に魔力を持たない俺たち勇者が、それを引き出すために必要なのは、ズバリ生命力。

 

 平たく言えば──気合いである。

 

 

 ……

 

 …………

 

 

「わははははーっ! これで俺もネクロマンサーだァッ!!」

『がんばれ十代目ぇ〜』

 

 というわけで、聖剣と指輪のパワーを存分に発揮し、ホムンクルスと彼女たち用の簡易的な衣服を、ジャカポコ錬成しまくっていく。

 作るのは残り一体。

 九代目だけは消息不明で、この墓地にはいないため、現在七体を錬成したことになる。

 既に全力でシャトルランをやり終えたあとにそのまま長距離マラソンしてるくらいには疲弊しているが、なんのこれしき。

 

「はぁっ、ハア゛、出来た……は、八代目、どうぞ……」

『ありがとう、十代目。よしよし……あっ、まだ触れないんだった』

 

 サウナにいるのではないか、と錯覚するほどの滝汗を流しながら、錬成した最後のぺったんこロリホムンクルスを八代目の少女のそばに置き、床に倒れ込んだ。

 

「これでロリっ娘ハーレム完成だ……疲れた……」

「お疲れ様、間宮。僕の分は聖剣のエネルギーが補充されてからでいいからね」

「あぁ、すまんな翔太郎。これ以上の錬成はちょっと厳しいわ」

「こうしてワガママを叶えてもらったんだ、文句なんてないよ。

 ……ところで、どうして今回は男性型のホムンクルスを作らなかったんだい?」

 

 …………。

 

「……」

 

 …………。

 

「間宮?」

 

 では、次なる工程へ移ることにしよう。

 先輩たちに肉体を与えたら、今度は彼らの遺体を持ち運ぶ方法の模索だ。

 模索、とは言ったものの、実は既にほとんどやり方は決まっている。

 

「ねぇ、間宮」

 

 流石に腐乱死体が梱包された、デカい棺桶を携帯するのは不可能なため、ここは我が故郷ニポンの知恵をお借りすることにした。

 その名も火葬。

 魂の座標確認に、遺体の状態の細かい要求はないため、燃やして軽くして砂袋にまとめてしまえば持ち歩けるというわけだ。

 

「間宮ぁ……」

「ちょ、泣くなって! しょうがねーだろ、少女型のテンプレしか手元にないんだから!」

「うぇえええ」

「あぁ、クソ……先輩たち、ちょっと慰め手伝ってください」

「はいよぉー」

 

 翔太郎の心境は察するに余り有る。

 これエロシーンいる?と感じるような清純で王道な成人向けゲームでも、余裕で性消費に使っていた本物のエロゲーマーに、この仕打ちはあんまりである。

 だが、こればかりは本当にどうしようもないのだ。

 大前提として、この世界におけるホムンクルスの錬金学が、全くと言っていいほど進歩していない。

 物理的に存在しないのだ。この2Pカラー程度しか違いのないバリエーションの、ロリっ娘ホムンクルス全四種類しか、この世にない。

 最初は俺の技術不足だと考えていたが違った。

 ポコチンがこの指輪を持っていながら、一体もホムンクルスを戦場に連れてきていなかった理由が、今ならわかる。

 このちんまくてかわいいだけの、まるで強みのないロリっ娘──しかも魂を装填しないと意志すら持たない人形を、優先して使う理由など、魔物たちには思いつかなかったのだろう。

 かわいそうに、哀れな翔太郎。

 

「うああああぁ」

「翔太郎……」

「こっ、これじゃあ女装コスプレに釣られたオタク共を『ごめんね?実は男なんだ、私』ってネタバラシして嘲笑うことができなくなっちゃうじゃないかあぁぁァ……ッ!」

 

 絶望の方向性が、予想の斜め上だった。

 

「憎い、この国が! 滅ぼしてやるぅ!」

「別に残っても構わんけど、さすがに国家転覆までは付き合わないぞ俺」

「やだー! 置いてかないで間宮!!」

 

 耳元で騒ぎ続ける親友のことは一旦置いといて、肉体と行動の自由を与えた先輩たちのほうへ向き直った。

 彼らには伝えなければならない事がある。

 

「先輩方、俺らは郊外に戻って、聖都で暴れてる魔物の軍団を掃討しに行きます。あんたらは自由になりますけど、一応このスマホもどきだけは持っといてください」

 

 まるで夏休みのラジオ体操のように、一列にならんだ少女たちにスマホサイズの半透明の板を配っていく。

 これは疑似的な電話が可能になる代物だ。

 二回使用したらぶっ壊れてしまうが、必要最低限の連絡程度ならコレで十分だろう。

 

「あと二、三週間後くらいには、元の世界に帰れる方法を確立させとくんで、帰りたい人は早めに連絡くださいね。それじゃ」

「十代目ぇー! おおきにー!」

「困ったときは助けに行くからねー!!」

 

 手短に済ませ、先輩ロリたちに見送られつつ、墓地を去った。

 一応あの人たちは元勇者なので、安全面のことを考えると、このまま聖都に連れて帰るわけにはいかないのだ。

 それに、疑似的な蘇生に関しても、恩を着せるつもりはない。

 彼らは俺に攻略法を教えてくれて、その分をこうして返した、というだけの話だ。

 道中遭遇したエクストラステージのことは攻略したと考えて、そろそろ俺は俺の冒険に戻ることにしよう。

 

 聖都が襲われるという一大事に、一人だけいなかった勇者──これは何かあると、そう思われるに違いない。

 しかも四天王の一人を倒したとなれば、どんなシリアスな事情に巻き込まれていても不思議ではない。

 今回のこれは突然発生したエクストラステージだが、シリアスムーブで巨乳を揉みしだくための下地を用意できたことを鑑みれば、決してただの寄り道ではなかったということになる。

 結果オーライ。

 計画も前に進んだし、先輩たちもあの辺鄙な墓場から出られたし、良いこと尽くめだ。

 

「……で、六代目と八代目は、何でついて来てるんですか」

 

 絵面がロリ二人を騙くらかして誘拐しようとしている、怪しいお兄さんにしか見えなくなってるので、両サイドから挟んでくるのはやめてほしい。

 そもそも何でいるんだ。早く逃げなさいよ。

 

「聖都が襲われてるんだろ! エレナを守りにいかねーと!」

「ウチも久しぶりにエレナちゃんの顔みたいな〜って。……あと、十代目の助けにもなりたいんだぁ」

 

 なんという仲間愛と優しさに満ちた人たちなんだ。

 これでもし錬成したホムンクルスが爆乳だったら、既におっぱい触らせてくださいとお願いして断られてるところだ。危ない危ない。

 

「そういえば十代目って、おっぱい揉む為に頑張ってるんだっけ。体はホムンクルスだけど、ウチの触る?」

「フッ……触る胸がないレベルのロリじゃないですか。その優しさだけで十分ですよ」

「そう? うーんと……なら、ちゅーとか?」

 

 …………。

 ……!

 

「な、なんすか八代目。俺のこと好きになっちゃいました?」

「そりゃあ普通に大好きだよ〜。ね、六代目」

「あぁ。まったく、自慢の後輩だぜ」

 

 まさか、これが噂に聞く、好感度上昇バグというやつか。

 まさかそんなまさかまさか。

 そうか……そ、そうかぁ……。

 

「じ、じっ、じゃあ、聖都の敵を片づけた後に……」

「アハハ、鼻の下伸びてるんだ。やらし〜」

 

 あ゛ッ!!? こ、このメスガキ……ッ!!!!

 


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