トウカイテイオーと帝王を目指す 【完結】 作:Tmouris_
トレセン学園のとあるチームルームで俺はこの日、覚悟を持って自分がサブトレーナーとして所属してるチームのトレーナー対面していた。
「すいません東条さん……少しお話があるんですけど」
目の前に座っているのは、学園最強のチームリギルを率いる女性トレーナーの東条トレーナーだ。噂ではとても冷たく、競技に対してとてもストイックということになっている。
「どうしたのよ。急に改まって。あなたがサブトレーナーになってからもう3年も経つのよ?」
東条さんは鼻で軽く笑って、デスクから目を離した。さっきまで集中していて少し……いや、結構怖い顔をしているように見えたが、東条さんは基本的に優しく接してくれる。噂は所詮、噂でしかないということだ。
「それで、要件は何かしら?」
そこで、俺はもう一度真剣な目で東条さんを見る。彼女には新人で右も左も分からない時にトレーナーとしてのいろはを教えてもらった恩がある。これから言うことがいずれ言うことであっても、中々言い出しづらい。
「実は……チームリギルのサブトレーナーを辞めて独り立ちしようと思います」
「そう。頑張りなさい」
東条さんは一言そう言うとデスクに再び向き合った。え?それだけ?なんかこうもう少し何かあると思ったんだけど。
「えっと……理由とか聞かないんですか?」
「別におかしいことでもないでしょ。時期的には早くもない時期よ」
そう言いながら1つの書類を印刷して俺に渡してきた。サブトレーナーの解約書だ。
「他の書類はもう準備できてるから、あなたがそれを書けば手続き終了よ」
東条さんの方で解約の準備はほとんど済ませているらしい。この時まで誰かに言った覚えはないんだけどな……
「なんでって顔してるけど。前の選抜レースの時のあんた見てればこうなると誰でも思うわよ。惚れたんでしょ?トウカイテイオーに」
東条さんには全部お見通しってわけか。今でもあの選抜レースのトウカイテイオーの走りが脳裏に映る。
「トウカイテイオーが走るぞ!」
そんな声が観客席では何度も聞こえた。何人ものトレーナーが、選抜レースに出走するトウカイテイオーの走りを見に来ているんだ。
俺もサブトレーナーとはいえトウカイテイオーの噂は聞いている。同世代を寄せ付けないその実力と、これからの伸びも期待できる才能。目を付けない方が可笑しいくらいの全てが備わっている。
(多くの声が掛かる中で未だにトレーナーが居ないというのが気がかりではあるが)
所詮は俺はサブトレーナーで、今回も目星ウマ娘がいるかどうかの確認だ。何よりも才に恵まれた彼女と俺とじゃ関わることもないだろし。
そんなことを考えているとレースはスタートした。
『1着はトウカイテイオーです!』
俺は唖然と立ち尽くしていた。トウカイテイオーの走りがカッコよくて、靱やかな走りが凄くって、楽しそうな彼女が魅力的で。
そんなトウカイテイオーに見惚れていると、ゴール後の彼女とたまたま目が合ってこっちに向かってピースを送ってきてくれた。
その才能に魅入ったのか彼女のビジュアルに惹かれたのか俺にも分からない。ただ、俺はその時に彼女のトレーナーになりたいと思った。
「東条さんの言う通り、俺はトウカイテイオーに惚れました。だから、俺は彼女のトレーナーになりたいと思いました」
東条さんは俺の方をじっと見ている。まるで俺の覚悟を見定めているかのように。
「きっと、トウカイテイオーのトレーナーは大変よ?」
サブトレーナーとして働いてたとはいえ、トレーナーとしては新人と変わらない。そんな俺を心配してくれるのか。
「俺はトレーナーとしては素人です。でも、東条さんの所で色んなことを教わりました……なので大丈夫です」
「そう言うことではないのだけど……まぁ、覚悟は伝わったわ。頑張んなさい」
東条さんは軽く笑うと手を振って俺を送り出してくれた。俺は軽く頭を下げてチームルームを出た。
ドアを閉めて廊下を歩こうと前を向くと、シンボリルドルフが壁に寄りかかってこっちを見ていた。
「すまない。盗み聞きをするつもりではなかったのだがね」
ルドルフは少し申し訳なさそうにしていた。彼女は真面目なウマ娘だし、本当に偶然居合わせて入れずに待っていたのだろう。
「いや、いいんだ。どうせ直ぐに分かる話だ」
「そう言って貰えると助かるよ」
ルドルフは少し安堵した顔をした後にいつも通りの顔つきに戻った。
「テイオーのトレーナーになりたいそうじゃないか」
「あぁ、ルドルフは知り合いか?」
ルドルフはトレセン学園の生徒会長で顔が広い。学年は違えど何かしらの関わりがあるかもしれない。
「テイオーにはとても懐かれていてな。私も娘のように感じている」
学園生活をあまり見ない俺は知らなかったが、どうやらトウカイテイオーはルドルフにベッタリらしい。
「俺がトレーナーじゃ心配じゃないか?」
俺がそう言うとルドルフが鼻で笑った。
「トレーナーとしての腕は問題ないだろう。このチームでのサブトレーナーとしての君は優秀だったからね。しかも、真面目な性格で親身に接してくれる」
「皇帝様にそこまで言われるほど凄くはないよ俺は。でも、ありがとう」
ルドルフは皇帝と呼ばれる程の実力の持ち主だ。無敗でクラシック三冠を制して。その後もG1レースで勝利を収めている。そんなウマ娘に褒められるほどの才能がないことは自覚している。
そう思うと、さっきとは違い心配そうな顔で俺を見ている。
「テイオーは心配ないだろう。だけど私は……いや、きっとトレーナーも君が心配だよ」
「確かに東条さんも心配してたよ。まぁ、でも最強チームで色々教わったんだ。自分なりに頑張ってみるよ」
これは1つの挑戦だ。いつかは独り立ちしてトレーナーになるんだ。それに挑戦する丁度いい機械だったんだ。
「もしも、ダメだったらサブトレーナーとして戻って来るといい。このチームに君を拒絶するものは居ないだろう」
そう言ってルドルフはチームルームへと入っていった。本当にリギルはいいチームだ。
「彼はテイオーのトレーナーを目指すのですね」
少し寂しそうな顔をしてる東条トレーナーにそう声をかけた。彼は3年の間このチームのために頑張ってくれたから、寂しく思う気持ちも分かる。
「えぇ……寄りにもよってトウカイテイオーなんて言う才能の塊にね」
彼は自分をいつも平凡と言う。それ故に才能がある者を全力で支えようとしていた。それが凡人である自分の役目なのだと言わんばかりに。
「別に彼はネガティブだったり暗い性格では無いのですけどね……そこだけは彼の弱点と言った所でしょうか」
自己肯定感が低く自分の才を認めない。テイオーは天才だ。頭もいいし走力もある。
「トウカイテイオーの才能に飲み込まれなければいいけど」
俺はトウカイテイオーのトレーナーになるために資料作りに励んでいた。トレーニングメニューの案やレースプランなどを考え、彼女のデータを集めて作戦や脚質を知ろうと奮闘した。
(噂では、近々トウカイテイオーがトレーナーを決めるために走りを披露するらしい)
これは最初で最後のチャンスだ。自分が如何に彼女にとって有意義な存在かどうか。
(時間がない!タイムリミットはそう長く無いはずだ)
ならどうする?削れるものは自分だけだ。自分の時間を出来る限り削って資料作りに勤しむ。
そして、迎えた当日でこんなことが起こるなんて。
「うーん、正直僕はレースに出るためにトレーナーが居れば誰でもいいんだよね〜ここにいる人でジャンケンで勝った人でいいかな?」