トウカイテイオーと帝王を目指す 【完結】 作:Tmouris_
ついに迎えた菊花賞当日。テイオーと俺は最後の作戦会議をしていた。
「今回のレースは確実にテイオーはマークされることになるだろう。けど、ダービーを見てガッチリ固められることはないと思うから安心しろ」
「いやー良かったー。あの時本当に走りにくかったからなぁ……」
ダービーの時のマークもやばかった。直接的にテイオーが走りにくいレースだったからな……けど、今回も一筋縄じゃいかない。
「変わりに今回は、テイオーの一挙一動全部観察されてると思った方がいい。仕掛けるタイミングとかコース取りとかな」
テイオーは露骨に嫌そうな顔をしている。強者ゆえに周りからの強いマーク……さぞ走りにくいことだろう。
「正直作戦よりも本番でのアドリブ力が試されると思うが……テイオーなら行けると信じてる」
「あったり前じゃん!僕はサイキョーなんだから!」
元々テイオーには天性のレースセンスがあった。それを今までは作戦で更に確実なものにしてきたに過ぎない。だから大丈夫なはずだ。
「最後に……怪我はするなよ」
その言葉を聞くと、テイオーはバツの悪そうな顔をして笑いながら目を逸らした。
「タキオンが話しちゃったんだ」
「内容が内容だからな。いいか?今まで通りステップを使っていいのはラスト200mだけだ!長くても400m……それ以上は今のテイオーだと確実に怪我に繋がる!」
言っても無駄だと言うことは分かってる。小さい頃からのテイオーの夢。無敵の三冠ウマ娘。その夢にあと一歩届くという時に、テイオーは止まらないだろう。
「分かってる。無理はしないようにするよ。ありがとうねトレーナー」
僕、トレーナーに嘘ついちゃった。なんか分かるんだよね……今日のレースは今までみたいに簡単に行かないって。みんなが全力で僕に勝とうって強い気持ちを持ってるから。
(無敗の三冠ウマ娘まであと一歩……何より、僕の為に頑張ってくれたトレーナーたちのためにも勝ちたい)
きっと、トレーナーはそんなこと望んでない。自分のために僕が傷つく何て嫌だと思う。でもね……僕は君のために勝ちたいって思っちゃったんだ。
「おやおや、その顔じゃあ説得は失敗したようだねえ」
「あぁ……本番でそんな事にならないことを祈るよ」
観客席に戻るとタキオンは同情の視線を俺に向けていた。一応は彼女も説得を試みたんだけどな。
「そうならないように、私たちチームがテイオーしゃんのために頑張ったんじゃないですか!」
デジタルも気合十分という感じでターフにいるウマ娘達を眺めていた。
「あんた大丈夫なの?」
一緒に観戦に来てくれた東条さんにも心配される始末だ。
「まぁ……最悪の場合は全責任を負うつもりでいます」
そうならないことを祈るばかりだが……とりあえず、パドックでの様子を見てからになるが……
そんなことを考えてるとパドック入場の音楽が鳴り響いた。
『3枠5番ナイスネイチャ!菊花賞直前のレースたちの勝利を手に取り、菊花賞出走を果たしました。本日の調子も大変良さそうです!その期待から2番人気です!』
「やっべえな……」
調子がいいのは勿論のこと、その身体の仕上がりが並大抵なものじゃない。おそらく、今日このレースのためにかなり綿密な調整をしてきたんだろう……
「ナイスネイチャか……前までは突飛つして目立つ戦績はなかったが、この夏と秋を通して一気に花びらいたな」
後ろからルドルフが合流してきた。どうやら東条さんと一緒に観戦に来ていたらしい。
「ナイスネイチャもやばいっちゃやばいんだが……」
『4枠8番トウカイテイオー!ついにこの日がやって来ました。皐月賞、日本ダービーを勝利し。無敗で三冠への挑戦となります!果たして1着に輝くことが出来るのか!1番人気です!』
「テイオーだって負けてない」
3冠の最後のレース。そして、テイオーにとっては長距離の3000mという1番の関門。今まで以上にハードなトレーニングと綿密な調整を行ってきた。タキオンとデジタルが死ぬ気で頑張ってくれたおかげなんだが……
「これは驚いたわね……」
あの東条さんもルドルフもテイオーの仕上がりを見て驚いていた。そんな2人を見てタキオンは自慢げに笑っている。
「今回のレース展開は予想出来ているのか?アグネスタキオン」
前回のレース同様にある程度の予想は立てている。しかし、今回は夏を挟んで未確定要素が多い……
「そうだねぇ……第3コーナーで仕掛けて、ラストの直線で周りを引き剥がし単独ゴール。それが私たちの描いているレースプランさ」
あくまで最善でレースが進んだ時の予想。他のウマ娘が俺たちの予想通りの能力という前提だ。それ通りに進むとも思ってない。
「流石に今回はそんなに上手く行かないのではないか?」
「テッテイオーちゃんなら勝ってくれます!」
ルドルフの質問に対しての回答に俺は驚いた。回答内容というか、それを発した人物に驚いたんだ。
「その通りだともデジタル君」
あのデジタルがウマ娘……それもシンボリルドルフに反論するとは。俺も正直驚いた。
「たしかに、周りのウマ娘も成長している。我々の予想を上回ることもあるだろう。しかし、テイオー君が1着でゴールすることは揺るがない」
デジタルに並んで、タキオンもルドルフに向かって高らかにそう宣言した。
2人の言う通り……このレースで一番最初にゴールを通過するのはテイオーだ。
「テイオー」
パドック入場も終わって、ゲートの準備中にネイチャが話しかけて来た。
「ん?どうしたのさネイチャ」
「私は今日のレースでテイオーに勝つために頑張ってきた。だから、全力でぶつかる」
ネイチャから熱い視線をぶつけられる。いや、ネイチャだけじゃない。周りの娘達からも見られてる。
「うん!全力で走って……僕が1着でゴールしてみせる」
それを聞いてネイチャは満足したのか、少し笑っててゲートに向かおうとした。けど、ちょっとしてからこっちを振り向いた。
「そうだ、いいレースにしようね」
「うん!」
『まもなくレースがスタートします。出走するウマ娘はゲートに入ってください』
こうして僕にとっての大事なレースが幕を開いた。
『全てのウマ娘がゲートインしました!菊花賞3000m!菊の勲章をその手に収めるのはどのウマ娘か!3000m先のゴールを目指して……今スタートしました!』
スタートは問題なし。周りからも特別囲まれそうな様子は無い。
「さぁ……このまま何事もなく進んでくれよ……」
各々がポジションを取り、ある程度レースが形になって来た時に違和感を感じた。
「ナイスネイチャのポジション少しおかしくないか?」
先行の位置についてテイオーをマークしてるのは分かる……だけど、そのポジション取りに少しだけ違和感を感じていたが。第2コーナーを超えた辺りで違和感の正体に気がついた。
「明らかに外側を走ってる……まさかテイオーにわざと自分の存在を見せつけてるのか!」
(あぁ……ネイチャの圧を感じるなぁ!物理的に!)
スタート早々から僕をマークしてたのは分かった。でも、レースの展開を確認するために後方確認すると、絶対にネイチャがいるんだから!
レース展開を見る感じ、全体的に固まって動いてる。こうなると早い段階でレースが動き始めるってタキオンも言ってた。
(仕掛けるなら残り1000m付近になるだろうなぁ……でも、ステップを使っていいのは残り200m。そこまでは何とかくらいつかなきゃ!)
レースは中盤で1500mの折り返し。後ろの娘たちも少しずつ前に詰めてきてる。想像以上にみんな固まってる。1回飲まれたら前に出てそうにないや。
『おぉっと!レースは残り1100m!ここでリオナタール仕掛けた!』
「おいおいまじかよ」
想像しうる中で1番最悪のタイミングだ。早い展開になるとは思っていたが……
「どうかしたの?」
俺の反応に東条さんが疑問を示した。一応テイオーは長距離レースへの出走はしたことが無い。それ故にテイオーの長距離適正が長くないことをみんな知らない。
「テイオーの適正距離は中距離寄りで長距離適正も低くは無いですが……正直不利です。スパート距離が長くない以上早めの勝負はテイオーにとってはデメリットしかないんです」
有馬記念のような2500mならまだしも3000じゃあ長すぎる。状況としては最悪だ。
「だが、この状況くらい想定していたんじゃないか?勝算はないのか?」
ルドルフが少し心配そうに聞いてきた。
「勝算はあります……けど、あくまで周りの娘達が俺たちの予想どおりの実力だった場合です。それを上回られたら……」
「おやおやおや?トレーナー君らしくないじゃないか」
俺の言葉が最後まで言われることもなく、途中でタキオンに遮られた。
「テイオー君は最強のウマ娘なんだろう?それに、君の言う天才の私やデジタル君も共に考えた。ならば敗北を疑うことは無いだろう」
そうだ……俺は何を考えているんだ。テイオーは負けない。そのためにテイオーは頑張って来たし、タキオンやデジタルも協力してくれたじゃないか。
「何よりも私とデジタル君はテイオー君の勝利を確信している。そうだろうデジタル君」
「はい……勝つと思います」
自信満々なタキオンに対して、どこか不安げというか悲しい顔をしているデジタル。反応は違えど勝利を確信している。なら、俺に出来るのはテイオーを応援することだけだ。
残り900m……このペースならまだ何とか付いていける。そう思ってた。なのに!
(なんでもうすぐ後ろにネイチャがいるのさ!)
まだ僕のことを抜かす様子はないけど……でもこのままじゃまずい。とは言っても今はまだ動けないし……
そして、残り2500mのところでネイチャが僕のすぐ真横に並んできた。
(もうこんなところまで!突き放さないと!)
僕はペースを上げた……つもりだった。それなのにネイチャと距離を離せない!
(このままじゃ……勝てない!)
想像以上に伸びない自分のペースと、ネイチャの追走。その追い込まれた状況だから……ううん、僕の夢のため。頑張ってきたトレーナーのためにも!
(トレーナーにはダメって言われたけど残り500mなら!)
「動けぇぇぇぇ!」
加速……できた!これならまだいける!
『おぉっと!トウカイテイオーが来た!トウカイテイオー一気に加速していく!後方のナイスネイチャも必死に食らいつく!おぉっと!このままトウカイテイオーが先頭まで駆け抜ける!』
トレーナー……僕勝つよ!そのために必死に頑張ってる……だからさ、そんなに悲しそうな顔しないでよ。
「テイオーお前!」
タキオンとデジタルがさっき言ってたのはこういう事か!このままじゃテイオーの足が!そう思っていたが……テイオーと目が合った。その目は確かに俺に向けられて、レースに勝つという強い想いを感じられた。
(テイオーはここまでして本気で勝ちに行こうとしている。だったら俺にできることは)
「頑張れテイオー!負けるなぁぁぁぁ!」
(聞こえてるよトレーナー!ありがとう)
「負けるもんかぁぁぁ!」
『トウカイテイオーがリオナタールに……並ば……ない!そのまま先頭に躍り出た!トウカイテイオーだ!トウカイテオーが今一着でゴォォォル!』
やった……勝ったよ。観客席のトレーナーたちに視線を向けると、トレーナーとデジタンは泣いてた。もぉ……そんなに泣いて喜ばなくてもいいのに。
「テイオーさすがだね。私なんかじゃ相手になりませんわ~」
「ううん、僕は相手がネイチャだったから……みんなだったからここまで頑張ったんだよ」
そうだ、全力で走った。限界を超えて走った気がする。疲れのせいか足の感覚もわからないや。
「ちょっとテイオー足が!」
ネイチャが僕の足を見て叫んだ。足を見て見ると、僕が意図しないのにガクガクと足が震えていた。やばいなと思った次の瞬間には視界がブラックアウトしていった。