トウカイテイオーと帝王を目指す   作:しゃなたそ

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全部イカゲーが悪いんだ……いえ僕が悪いです。



第20話:挫折

「折れてます。意識の方は疲労の影響なので、すぐに目を覚ますと思います」

 

 診断室で俺はそう告げられた。予想はしていた……想定よりも長い距離を速いスピードでテイオーは走りきった。そのままの意味で限界を超えて走ったんだから。

 

「テイオーはもう一度走れますよね」

 

「そうですね。骨折自体も複雑な折れ方はしていないので……春が明ける頃にはレースに復帰出来ると思います」

 

「良かった……」

 

 本当に最悪の事態は回避出来た……粉砕骨折や複雑な骨折だったら復帰も遅くなり、巻き返しも大変なことになるところだ。そもそも復帰出来ない場合もあるからな。

 一安心したところで、ドタバタと廊下から騒がしい音が聞こえて来たと思ったら。バンッ!と診察室の扉が開け放たれた。

 

「トレーナーさん!テイオーさんが目を覚ましました!」

 

 デジタルがそう言いながら診察室に駆け込んできた。急いでテンパっていたが先生と俺の目を見て我に帰った。

 

「すっしゅいません……病院の中なのに」

 

 出来る限り急ぎ足でテイオーの病室に向かった。そこにはベットに座るテイオーと様子を見ているタキオンが居た。

 

「テイオー大丈夫か!?」

 

「も〜トレーナー。病院なんだからもう少し静かにしないと」

 

 急いで俺が駆け寄ると、テイオーはニシシと笑いながら俺のことを見ていた。

 とりあえず、お医者さんに診察してもらい。現状は特に異常は無いとのことだった。

 

「ねえトレーナー」

 

「どうしたテイオー」

 

 お医者さんが席を外すと、テイオーは心配そうに俺に話しかけた。

 

「僕勝ったんだよね。無敗の3冠ウマ娘になれたんだよね」

 

「あぁ、菊花賞は1着でゴール。トウカイテイオーは無敗で3冠を取った。明日の記事の1面だろうな」

 

「良かった……」

 

 テイオーは安堵して、ベットにもたれかかった。レース場で意識を失って目が覚めたら病室の中……1着も夢だったのではないかって不安だったんだな。

 

「それで、足のことなんだが……」

 

 俺は言葉に詰まった。無敗で3冠というテイオーの夢は叶った。しかし、骨折をするまで追い込んで。トウカイテイオーの圧倒的才能を持ってして。その罪悪感で口が動かなかった。

 

「分かってる。折れてるんだよね……いやー困っちゃうなぁ!無敗の3冠に骨折なんて。明日はメディアのどこ見ても僕がいるよきっと!有名人だね」

 

 テイオーの顔は笑っている。笑っているのに体は震えていた。初めての怪我が骨折。大丈夫だとは分かっていても、その不安は拭いきれない。

 そして、その不安をケアするのもトレーナーの仕事だ……だけど、俺で……俺がやってもいいのか?

 

「まぁ、1ヶ月近くは入院してゆっくり休んでくれ。俺もその間にやっておかないといけない事がある」

 

 俺は追い込まれていた。勝っても負けてもきっと追い込んでいただろう。

 

「1ヶ月も入院かぁ……暇になっちゃうな。デジたんとかお見舞い来てね」

 

「ひゃっひゃい!テイオーしゃんがいいのならぜひ毎日でも!」

 

「いっいやぁ……毎日は大変だと思うけど……」

 

 そうだ。テイオーにはタキオンもデジタルもいる。精神面は大丈夫だろう。

 

「とりあえず、時間も時間だ。今日のところは1回帰ろう。タキオンデジタルもそれでいいか?」

 

「はい!」

 

「テイオー君も疲れてるだろうし。それがいいだろう」

 

 荷物を持って俺たちは部屋を後にしようとした。

 

「トレーナー!」

 

 その時、テイオーに呼び止められた。しかし、俺はその時にはもう振り返ることが出来なかった。

 

「どうしたテイオー」

 

「あっううん。またお見舞い来てね」

 

「あぁ。今日はゆっくり休んでくれ」

 

「うん……じゃあね」

 

 その時のテイオーがどんな顔をしていたかは分からない。それでも俺の中ではもう決心はついてしまっていた。

 部屋を出てからタキオンとデジタルにも今後のことを確認した。

 

「とりあえず1ヶ月はやることは無いが……2人はどうするんだ?必要ならトレーニングメニューも用意しておくが」

 

「「大丈夫さ(です)」」

 

 そうだよな。このメンバーはテイオーの為に結成したチーム。そのテイオーがいなければ集まることもないか。

 

「私たちもすこ〜し用意するものがあるからねぇ……」

 

 そう言ってタキオンたちは自分の寮に戻って行った。用意するものってなんだろうか……いや、もう俺には関係のないことだろう。

 

 

「みんな帰っちゃった……酷いな〜もう少し居てくれたっていいのにさ〜」

 

 トレーナー1回も目を合わせてくれなかった。やっぱり無理に走ったの怒ってたのかな。でもさ、怒ってたならなんで怒ってくれなかったの?

 

(分かんないや……あぁ、なんか眠くなってきちゃった)

 

 色々なことが頭によぎった。それでも疲労には勝てなくって、僕は眠りについた。

 翌日、トレーナーとタキオンの2人は来なかった。ネイチャとか同級生はチラホラ来てくれたし、デジたんも来てくれた。でも、デジたんも誰かと連絡を取ったり、忙しそうにしててすぐに帰っちゃった。すごく申し訳なさそうにしてたなぁ。

 

「テイオー入るぞ」

 

 夕方頃にカイチョーがお見舞いに来てくれた。いつもなら飛び跳ねて喜ぶのに、なんだかその時はその元気が出なかった。

 

「なんだ彼はいないのか」

 

 カイチョーは病室を見回してトレーナーのことを探してた。良く考えれば、トレーナーが出来てから丸々1日会わないことなんてほぼなかったからなぁ……なんか、ちょっと寂しいかも。

 

「トレーナーがやることがあるって言ってた。僕のリハビリメニューを考えてたりして!トレーナーは僕のこと大好きだからさー」

 

 そうだよ。きっとトレーナーも僕のお見舞いに来たくてたまらないに決まってるよ。

 

「そうか……」

 

 トレーナーが居ないことを知ったカイチョーは凄く落ち込んでた。どうしたんだろう。

 

「トレーナーに用でもあったの?」

 

「直接彼に用事があった訳ではないのだがな……だがそうか……私たちの予想は当たってしまったのか」

 

 カイチョーは悲しそうだった。トレーナーがいないことと何が関係あるんだろう。

 

「ねえカイチョー。何かあったの?」

 

 僕がそう聞くとカイチョーは顔を上げて、僕の顔を見た。

 

「そうだな。テイオーにも心の準備が必要だな……元より隠すつもりはないさ」

 

 そう言ってから少しの時間だけ音が消えた気がした。なんでだろう、それだけ緊張してたのかもしれない。そして、カイチョーが口を開いた。

 

「彼は……君のトレーナーはテイオーとの契約を解除するだろう」

 

 え……?僕はカイチョーの言っている意味が一瞬だけ分からなかった。トレーナーが僕との契約を解除する?

 

「そっそんなわけないじゃんカイチョー。トレーナーは僕の為に頑張ってくれたし、僕だって頑張った。ついに無敗で3冠取れたばっかりなんだよ?」

 

 終わりじゃない。むしろここから新しく始まろうって時なんだよ。たしかに、骨折しちゃったのは不安だしショックだった。だけどさ……これからもっと頑張ろうって思えてたのに。

 

「だが、彼はトウカイテイオーという天才を潰したと思っているはずだ」

 

「でも……!」

 

 思い当たる節は多かった。タキオンたちも言ってたけど、トレーナーは僕たちのことを褒めても、自分のことを褒めることはないから。

 

「確信がある訳じゃないだが……一応覚悟だけはしておいてくれ。彼は……そういう人げ」

 

「カイチョー!」

 

 僕はカイチョーが全部言う前に叫んじゃった。でも聞きたくなかったんだ。頭の整理がつかなくって。

 

「すまない……とりあえず私も帰るよ。またお見舞いに来る」

 

 カイチョーはそのまま帰っちゃった。せっかくお見舞いに来てくれたのに酷いこと言っちゃった。でも、急にあんなこと言われても僕どうしたら良いかわかんないや……

 

 

 体に力があまり入らない。燃え尽き症候群ってこういうことを言うのか。

 テイオーが怪我をした次の日。俺は手続きの為の書類の用意していた。それ自体は早く終わり、正午くらいには作業を終えていた。その後、テイオーの悩んでいた。しかし、その後すぐに眠ってしまい今に至る。

 

(今日は東条さんのところに行かないといけない……)

 

 俺が目を覚ましたのは日が昇った頃だった。昨日は急に眠りに着いたが、こういう習慣ってのは抜けないんだな。

 俺は体を起こして学園に行く準備をした。そして、東条さんのトレーナールームの前までたどり着いた。

 


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