トウカイテイオーと帝王を目指す 【完結】   作:Tmouris_

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少しだけいつもより長いですがお付き合い下さい。


第17話:転機

 テイオーのお見舞いをした翌日。私は東条トレーナーの雑務の手伝いをしていた。普段は生徒会の仕事やトレーニングで忙しいため、トレーナーの作業を手伝うことは滅多にない。手伝える暇があっても、トレーナーが休めと言って手伝わせてはくれないのだが。

 

「まさかあっさりと許可が出るとは思いませんでした」

 

 私は書類を片付けてるトレーナーに話しかけた。すると、トレーナーは呆れたような顔でため息をついた。

 

「どうせ気になってトレーニングどころじゃないでしょ?あなたは昔からトウカイテイオー贔屓だもの」

 

「そこまで分かっているのなら、なぜ彼を止めて下さらないのですか!?彼以上にテイオーのトレーナーに相応しい人物がいるとは思えません!」

 

 私はついトレーナーに怒鳴ってしまった。全部分かっている。それでいてなお口を出さないのは何故なのか。

 

「すいません……つい興奮してしまいました」

 

「いいのよ。あなたの言いたいことも分かるわ。私じゃ怪我を回避できても、トウカイテイオーの夢を叶えることは出来なかったでしょうしね。並のトレーナーだったらダービー……いや、皐月賞時点で彼女の脚を壊してしまう」

 

 それでも彼はやり遂げた。テイオーの無敗の3冠と言う夢を。たしかに骨折という大きな怪我という代償はあった。しかし、その骨折も複雑なものではなかった。

 

「あいつは様々なところから才能を引き出してトウカイテイオーを支え続けた。アグネスタキオンの知能、アグネスデジタルの観察眼、自分自身の時間。それを全て駆使してまとめあげてトウカイテイオーの3冠を成し遂げた」

 

 個性派な2人を仲間にして、それをチームとしてまとめた。誰か1人ではダメだっただろう。けれど、彼は集めたんだ。学園から問題児と言われるウマ娘ですら。

 

「けど、今のあいつは本気じゃないし本気になれない。それでトウカイテイオーのトレーナーを続けても彼女の才能を潰してしまう……そして、本気にできるのは私たちじゃないのよ。だから、あいつらを信じるしかないの」

 

 その時、トレーナーは悔しそうな顔をしていた。本当は自分自身が手を差し伸べて苦しんでいる彼を助けたいのだろう。どうすればいいかは分かっているのに、それは自分の役目でないのだから。

 

 

 書類の準備は整った。あとはこれを東条さんのところに持って行ってサインを貰うだけだ。

 そう思いながら重い脚を東条さんの部屋まで運ぶと、ルドルフも一緒に部屋で待っていた。

 

「東条さんが担当に手伝いをさせるなんて珍しいですね」

 

「気にしなくていいわよ。ルドルフがあなたたちが気になってトレーニングに集中出来なそうだったから」

 

 なるほど……東条さんには全部お見通しってことか。

 

「流石ですね……」

 

「あなたが分かり易すぎるのよ」

 

 ルドルフは特に口に出すこともなく俺たちのやり取りを傍観している。とりあえず、俺はここに来た目的を果たそう。

 

「今日はテイオーのチーム移籍についてお話に来ました」

 

 そう言いながら、俺は書類を東条さんの机の上に出した。そして、東条さんは書類を手に取ると、その内容を読み進めていく。

 

「一点を除いては書類に不備はなわね。担当ウマ娘の同意サインが無いと受理できない。サインを貰ってからもう一度出直してちょうだい」

 

 そのまま書類を返された。元々、チーム移籍の許諾を得るために予め提出したものだから当然なんだけど。

 

「チーム移籍は受け入れてくれるということでいいですか?」

 

「そうね。トウカイテイオーの実力、実績はそれに値する。うちにはルドルフもいるから問題ないから」

 

 ルドルフも無言で頷いた。テイオーは元々人付き合いが上手いからチームにもすぐ馴染むだろう。

 

「それよりも……あんたはどうするつもり?うちのチームのサブトレーナーに戻ってくるのかしら」

 

 今後についての明確なビジョンは無かった。トレーナーは続けたいとは思う。しかし、俺に中央はふさわしくないだろう。

 

「お誘いは嬉しいです……リギルはとても良いチームですから。けど、俺は地方でトレーナーになろうと思います」

 

 地方は中央よりもレベルは低い。けれど、レースに出走するウマ娘たちは全力だ。俺も必死でサポートすればトレーナーが務まる……と思う。

 

「なるほど……だそうだが。あんたたちはどうするの?」

 

 あんたたち?東条さんは誰に話しかけているんだ。と考えた瞬間にドン!という音と共にドアが開かれた。

 

「話は聞かせて貰ったよトレーナー君!」

 

 両手を広げ高笑いしながら部屋に入ってきたのは……タキオン?

 

「なんでタキオンがここに……」

 

「私もいますよ!」

 

 タキオンの後ろからひょこりとデジタルも姿を表した。どういうことなんだ一体……

 

「実は、私達もシンボリルドルフ会長に提出しないといけない書類があってねえ」

 

 そう言って、タキオンとデジタルは懐から1枚の紙を取り出した。そこには[転校届け]と書かれていた……転校届け?

 

「おいおい!待」

 

「生憎と!まだ転校先は決まっていないんだがねえ……」

 

 俺の言葉を遮るようにタキオンは声を張ってそう言った。それを聞くと、ルドルフも声を出して笑っていた。

 

「待てって!なんで転校届けなんか!」

 

「そんなの簡単さ。君がそこに行くからさ」

 

「……はっ?」

 

 俺はタキオンの言っている意味が分からなかった。俺が地方に行くから着いてくって?

 

「デジタル……お前もなのか?」

 

 俺がデジタルの方を向くと無言で頷いた。でも、転校なんてそう簡単にできるものじゃ……

 

「そうだ、転校の手続きには保護者からの同意が必要だろ!」

 

「もちろんそんなことは分かっているとも」

 

 そう言って、タキオンが転校届けを俺の方に突き出した。そこにはたしかに保護者のサインが書かれていた。

 

「お前らいつの間にこんなの準備してたんだ……」

 

 今までそんなものを用意している様子はなかった。しかも、俺が地方に行こうかと決心したのも一昨日のことだぞ。

 

「そんなのつい昨日のこと。私は二つ返事で了承を得たがねぇ……デジタル君の方は説得に苦労したようだよ」

 

 そりゃそうだろう。中央はウマ娘にとって特別なところだ。そこで出走出来ることが1種の名誉ですらある。しかも、活躍する可能性すらあるデジタルを止めないはずがない。

 

「そもそも、なんで俺に着いて来ようとするんだ?タキオンもデジタルも中央で活躍できる程の才能を持っているのに」

 

「元々、私はこの学園を去る直前だった。それが今になっただけのことさ。何より!君がいなかったら私の食事は誰が用意するんだい!?紅茶を入れたり、掃除をするのは!?」

 

 俺は愕然とした。そんな理由のためにタキオンは中央を去ってまで俺に着いて来ようと言うのか。

 

「何よりも、私の目的は速さの探求。研究自体はどこでも出来る。レースの最高峰トレセン学園が都合が良かったから今まで留まっていただけだ」

 

「お前はそういうやつだった……」

 

 そうだ!もしかしたらデジタルはタキオンにやらされてるだけかもしれない。

 

「デジタル……お前はどうしてだ?」

 

「私は……なんて言ったらいいか分からないですけど」

 

 俺の質問にデジタルは少し困ったように後ずさった。両手を胸に当てて一瞬縮こまった。

 

「でも!トレーナーさんが私のやりたいことを初めて受け入れてくれた人でした!」

 

 縮こまったと思ったデジタルが力強くそう叫んだ。

 

「それに、トレーナーさんとタキオンさん……テイオーさんのみんなで色々とやるのも楽しいです。何よりも、トレーナーさんは私でもほかのウマ娘ちゃんみたいに輝けるって言ってくれました」

 

 たしかに、さり気ない日常会話の中でそんなことは言ったが……そんなことはデジタルを見てればすぐに分かる事だ。

 

「私はオタクでこんな感じだから……他のトレーナーさんには距離を置く人もいましたし……たまに走りを見て声をかけてくれる人もいましたけど。それでも正面から私を受け止めて、理解できる所は理解しようと努力してくれたのはトレーナーさんだけでした!」

 

 他人のことを話ことは多いが、デジタルは自分の意見を強く発するタイプじゃない。そんなデジタルに驚いて言葉が出なかった。

 

「というわけだ。シンボリルドルフ会長。この転校届けは受理されるのかな?」

 

「あぁもちろんだとも。君たちのような人材を手放すのは惜しいが、君たちの意思も硬いようだ。ただ、転校先がもし決まったらもう一度持ってくるといい」

 

 ルドルフも問題はなさそうな口ぶりだ。

 

「ちょっと待てお前ら!1回冷静に!」

 

「我々の用は済んだのでね。それでは失礼するよ!」

 

 そう言うと、デジタルはタキオンに抱えられてそのまま立ち去って行った。

 

「君もテイオーのところに行ったらどうだ?きっとテイオーも君を待っているだろう」

 

 最初は硬い表情をしていたが、ルドルフの今の顔は緩んでいた。

 俺も元々の目的は果たしたし、どちらにせよ今からタキオン達を追っても追いつけないからな……

 

「それもそうか……それではサインを貰ったらまた来ます」

 

 そう言い残して俺は部屋を後にした。そして、テイオーの居る病院に向かった。

 

 

「行きましたね」

 

 彼らが居なくなって、私と東条トレーナーの2人が残った。

 

「次に会う時は謝罪の時かしらね」

 

 最初は大丈夫か疑ってはいた。しかし、あのアグネスタキオンが大丈夫と、頼むと頭を下げて来た時には驚いた。

 

「本当に彼は人に恵まれていますね」

 

 恵まれ過ぎたが故の彼の自己肯定感の低さなのか。それは私には分からない。けれど、今回の件は彼女らに任せていれば大丈夫だろう。

 

「全くよ。ほら、ルドルフも心配事は解決したでしょ?トレーニングに行ってもいいわよ」

 

「そうですね……それじゃあ失礼して走って来ようと思います」

 

 彼らのやり取りを見ていて、私もチームメイトと共にトレーニングをしたい気分になってしまった。

 

 

 テイオーの病室の前に着いた。だが、その扉が酷く重く感じた。テイオーのトレーナーを辞めることを自分の中では納得している。なぜこんなにも億劫なのか。

 

「テイオー……入るぞ」

 

 俺はそのまま勢いよく扉を開けて病室に足を踏み入れた。テイオーは上半身を起こしてベットに座っている状態だった。

 

「あっトレーナーやっと来てくれたんだー。全くもー1日も僕のことほっぽらかしてさ」

 

 そこのはいつも通りのテイオーが居た……と思ったが、その手は少し震えていた。ルドルフがあの場所にいた時点で察しはついていたが。

 

「話は聞いているな……さっき、チームリギルのトレーナーから移籍の許可が出た。あとはテイオーがこれにサインするだけだ」

 

 テイオーの前に書類を出した。テイオーはそれをじっと見つめた。

 

「分かったよ。明日までに用意しておくね」

 

 そして、テイオーはあっさりとそれを受け取った。

 

「これも僕のためなんだもんね」

 

 その声は震えていた。それでも、俺はそれを気付かぬフリをした。気づいてしなったら、その場で踏みとどまってしまいそうだから。

 

「あぁ……そうだ。テイオーはもっと強くなれる」

 

 俺はテイオーに背中を向けて、そのまま病室から立ち去ろうとした。しかし、歩み出そうとした瞬間に裾をグッと引っ張られた。

 

「やっぱり……やっぱりヤダよ!トレーナーとタキオンとデジたんと4人で今までやってきた!それで強くなれたんだからそれじゃあダメなの!?」

 

 俺もそう思ってた。でも、それじゃダメなんだ。俺もお前たちと同じ土俵で一緒に戦えてると思ってた。でも、結局はみんなお前たちに頼りっきりだったんだから。

 

「それでお前は怪我をしたんだ!俺じゃあこれ以上お前を伸ばしてやれない!」

 

「そんなことない!」

 

 テイオーは泣きながら叫んだ。

 

「もしかしたら誰でも良かったのかもしれない!僕は強くなれたかもしれない!でも!菊花賞を勝てたのは!骨折してでも勝ちたいと思えたのはトレーナーが僕のために頑張ってくれたからだよ!君じゃ僕を伸ばせない!?そんなの勝手に決めないでよ!僕を強くしてくれたのはトレーナーだもん!君が僕のトレーナーだったから僕は頑張れたんだよ!」

 

 俺はテイオーの勢いに押し黙ってしまった。俺の中で全部を完結していた。菊花賞を終わってからテイオーの想いを聞いていなかった。それでも、自分の中で整理を付けれずにいた。

 

「ごっごめん……叫んじゃって。でもね、僕は君がトレーナーで良かったって思ってるから……」

 

 そのまま逃げ出すように俺は病室を後にした。テイオーに考える猶予もなくあんなことを言っておいて、自分は考える時間が欲しいだなんておかしな話だとは思う。それでも、タキオンにデジタル、テイオーの言葉を聞いて自分が分からなくなってしまった。




ここの部分のお話は個人的に書きたいと思っていたので、できるだけ頑張りました。
トレーナーの明日は如何に
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