トウカイテイオーと帝王を目指す 【完結】 作:Tmouris_
僕は休み時間にぼんやりと天皇賞のことを考えてた。トレーナーたちのおかげで、今じゃすっかり身体は回復した。なんなら前よりも速く走れるようになった気もする。
「やっぱり不安は残るなぁ……」
世間はTM対決だ!って盛り上がってる。前のレースを見て僕の勝利を信じてやまない人がいっぱいいる。みんなマックイーンのこと過小評価しすぎてるんだ。
「おやおや、テイオーさんがため息とは珍しいですなぁ」
「あぁ、ネイチャ。いやーさすがの僕もマックイーンとの対決に余裕が無くってさ」
僕が素直に弱音を吐いたことにネイチャは少し驚いてた。
「でも、最近のレースのテイオーの走り凄かったじゃん。前よりも早くなってるんじゃない?」
「トレーナーが、僕は今ちょうど本格化の最高潮にいるから伸びてるんだって。けど、マックイーンは本格化も終わってる……だからと言って成長が止まったわけでもないからね〜」
僕はデビューしてからグーンと実力が上がってった。傍から見れば僕の方がマックイーンより目立ってるだけ。
「へ〜テイオーも色々考えてるんだね」
「僕だってなんでも出来る訳じゃないからね。トレーナーとかタキオンの方がもっと色々考えてると思うよ」
「なんか、テイオーは前よりも謙虚になったよね。昔は傲慢!って感じだったけど」
トレーナーたちに会うまでは、僕は自分が天才でレースなんてどうとでもなると思ってた。あっ今も僕は天才だと思うけどね!でも、僕の知らないこともいっぱいあった。僕よりも凄い人も居るって知った。そのせいなのかな。
「僕だって成長してるからね!そういうネイチャはどうなのさ。有馬の後に怪我したって聞いたけど」
「いやーネイチャさんはテイオーみたいなキラキラウマ娘じゃないですからねー。ぼちぼちとやってますよ」
ネイチャはいつもみたいなノリで平然としてる。でも、タキオンの研究に付き合わされたり、トレーナーやデジたんの話を嫌ってほど聞いてきて、少しだけ僕も観察眼ていうのかな。そういうのが養われてきたから分かる。ネイチャの体がネイチャの言葉とは裏腹に以前よりも鍛えられてることに。
「ふーん、そうなんだ。菊花賞の時からネイチャはライバルだと思ってたんだけど……そんな感じならすぐに置いてっちゃうよ?」
一瞬だけネイチャは呆気に取られた顔をしてた。けど、すぐにその目は僕を捉えていた。なんだろう……僕がマックイーンに向けるような……そう挑戦者の目だ。
「……秋」
ボソッとネイチャが口を開いた。
「秋までには復帰するから……忘れてると後ろから追い抜いちゃうかもよ?」
そう言うとすぐにネイチャはいつも通りの雰囲気に戻った。
「なーんて。ネイチャさんは復帰のために頑張りますよ〜」
そう言いながらネイチャは自分の席に戻って行った。
そして、僕は久しぶりにその日の放課後、生徒会室に足を運んだ。
「カイチョー入るねー」
「テイオーか。ここで会うのは久しぶりだな」
生徒会室に入ると、カイチョーが机に座って色々な書類を片付けてた。
「ホントだよー。トレーナーと契約してから放課後に来る時間がなかったからさ」
それを聞いたカイチョーは嬉しそうに笑ってた。トレーナーに会うまでは、カイチョーがトレーナーを探せって何度も言ってたからなー。
「それで、今日は何か用事があるのだろ?先日のレースを見る感じでは不調と言う訳ではなさそうだが」
「そうそう!誰に聞こうか悩んでたんだけどカイチョーに聞こうって思って!」
きっと色々なレースにも出走してきて、大勢のウマ娘と走ってきたカイチョーなら答えてくれる!
「カイチョーはさ、絶対に負けたくない!ってライバルと走る時どうする?」
質問を聞いたカイチョーは少し暗い顔をしてた。
「メジロマックイーンのことだな」
「うん……認めたくないけど、マックイーンは僕の知ってる中じゃ最強のステイヤーだと思う。3200mっていう距離じゃ僕が不利なのも分かってる。でも、僕はマックイーンに勝ちたいんだ」
カイチョーは少し考えて椅子から立ち上がった。そのまま僕に背を向けて外を眺めていた。どこか遠くを見ているような感じがした。
「すまないテイオー……私はその質問の回答を持っていない」
僕は驚いて言葉が出なかった。僕の知らないことをいつもカイチョーは知ってた。それが普通だったから。
「トゥインクルシリーズ時代の私にライバルという存在は居なかったからだ」
ライバルが居なかった……?僕はカイチョーの言葉に困惑した。
「でっでも、マルゼンスキーとか居たんでしょ?」
「たしかに彼女は私と同格の存在だったが……短距離とマイルで競えばマルゼンスキーが。中距離と長距離で競えばシンボリルドルフが勝つと言われていた。その関係はライバルというものじゃない」
そっか……適正距離が2人は全然違うんだ。実力は同格なのに、それが邪魔をして2人はライバルになれなかった。
「皇帝と言われた私にライバルと言える存在は居なかった。それが頂点に立つことなのだと自分に言い聞かせていたよ……参考にはならないだろうが、テイオー。テイオーが目指す私という存在はそいうものだ」
カイチョーは強くって周りが着いて行けなかった。きっと、普通の娘が聞いたらかっこいいって思うのかな。ううん……前までの僕だったらかっこいいって思ったと思う。なのになんでだろう……今の僕は。
「なんか……それって凄い悲しいね」
強者ゆえの孤独……きっと、カイチョーは絶対的存在で、挑もうとするウマ娘も少なかったのかもしれない。
「悲しいか……ふふふ」
カイチョーは笑ってた。僕は言っちゃいけないことを言ったと思ってたけど、何故かカイチョーは嬉しそうに笑ってる。
「いやすまない。トレーナー君とも昔似たような話をしてね。その時に言われたことにそっくりだったものだから」
「トレーナーが?一体なんて言ってたの?」
「……寂しいな。そう言っていたよ」
カイチョーは席に戻って、少し昔のことを思い出しているようだった。
「私は言ったよ。皇帝という存在はそういうものだと。強さの先に待っているのは孤独だとね。その時初めて彼と言い争いになったよ。彼は自己肯定感の低い人間だ。しかし、その中に確固たる意思も持っている。みんなを導こうってウマ娘が孤独で誰を導けるんだって言われたよ」
そっか……トレーナーとカイチョーの間にそんなことがあったんだ。
「彼は、皇帝に噛み付くウマ娘を育てるって啖呵を切っていたね……正直言うと、当時の彼にはそんなことは出来ないと思っていた。たしかに彼は優秀だ。しかし、いつか出会うであろう本物の天才という存在に心折られると思っていた」
僕はカイチョーの話を聞きながら、菊花賞の時のことを思い出した。僕のこともタキオンやデジたんのことも天才だってトレーナーは言ってた。自分は相応しくないんだって。
「だが、結果はどうだろう。たしかに挫折はあった。しかし、学園トップクラスの問題児であるアグネスタキオンとアグネスデジタルをまとめあげ、テイオーを無敗の3冠を手にするまでサポートした。そして、未だに彼はテイオーのトレーナーであり続けている」
一瞬だけ僕は言葉に詰まった。僕のこの感情?想いをどう言葉にしていいか分からなかったから。
「トレーナーはさ……いっつも頑張ってるんだ。僕のために1番頑張ってくれる!もちろん、タキオンやデジたんの為にも頑張ってる。だからなのかな、この人の為に僕も頑張ろうって思えるんだよね。多分、タキオンもデジたんも同じ気持ちだと思う」
トレーナーは僕たちの為にいつだって全力だった。時には自分の体調なんて気にしないで動き回ってる。そして、僕たちにとって譲れない物にも全力で向き合ってくれる。
「うーん……なんかうまく言葉に出来ないや」
「いや……いいんだ。成長したなテイオー」
カイチョーは嬉しそうに笑って僕の頭を撫でてくれた。えへへ。
「あっ!そろそろトレーニングの時間だ!春天全力で走るから。カイチョー応援に来てねー!」
僕はそう言って生徒会室を後にした。
(待っててねマックイーン!僕負けないんだから!)