トウカイテイオーと帝王を目指す 【完結】 作:Tmouris_
ついに迎えた天皇賞当日。世間では、テイオーとメジロマックイーンの対決を世紀のライバル対決と盛り上げを見せていた。
「今回のレースで特にテイオーが注意すべきなのは、メジロパーマーの動きだ」
「パーマーの?マックイーンじゃなくって?」
テイオーは新たな勝負服を纏って首を傾げていた。
「たしかに、今回の強敵はメジロマックイーンなのは確かだ。だけどな、菊花賞の3000mの経験があるとはいえ、テイオーにとって3200mのレースはギリギリになると思う。そうなると、大逃げでこちらもペースが乱されるメジロパーマーが序盤中盤で気をつけないといけない」
何となく理解はしているようだが……
「うーん……テイオーがメジロマックイーンに勝つってことに重きを置いてるのは分かる。彼女の強さも本物だ。だけどな、だからってレースの相手がメジロマックイーンになる訳じゃない」
「えっと、敵は1人だけじゃないってこと?」
「何て言えばいいかな……今回のレースの目的はなんだ?」
俺の質問にテイオーは困惑している。意外に簡単そうな質問でも、考え方とか意識の差で変わってくる。
「そりゃマックイーンに勝つこと」
「いや、違うだろ。天皇賞・春に勝つことだ。メジロマックイーンはそこで競い合うライバルであって勝つことがゴールじゃない。レースの目的を見失うなよテイオー。1着でゴールしたウマ娘だけが勝者になれるんだ」
テイオーも何となく理解出来たようで頷いている。
「そうだよね……ゴールを奪い合う相手はマックイーンだけじゃないもんね。ありがとうトレーナー」
「心構えはこの辺にして作戦の続きを話すぞ」
「うん!」
今回の作戦を説明して、俺は観客席へと向かった。
観客席に戻ると、タキオンとデジタルの2人。そして、東条さんとルドルフも一緒に座っていた。
「テイオーの調子はどうだい?」
「ちょっと興奮気味だけど、特に問題はないよ。むしろ調子が良すぎるくらいだ」
観客席に戻ると、1番最初にルドルフが声をかけてきた。
「ふっふっふ。トレーナーくん謙遜する必要は無い。今回のトウカイテイオーくんの仕上がりは完璧だ!いや、私たちの予想を遥かに超える成長を見せてくれた!もはや完璧を超える仕上がりと言っても良いじゃないか!」
はーっはっはっはとタキオンが高笑いしながら、嬉しそうにテイオーの仕上がりを語っている。
「お医者さんにも検査していただいて、体には異常はありませんでしたし。直前のトレーニングでも違和感は無かったからテイオーさんなら大丈夫なはずです!」
タキオンと同じで、デジタルも誇らしげに胸を張っていた。菊花賞のことも踏まえて、3200mという長距離で怪我をしないようメディカルチェックは万全に済ませてある。
「彼女はこのレースを経て、帝王の称号を冠することになるだろうねぇ」
「そんな調子じゃ慢心して油断しました。なんて洒落にならないんじゃない?」
東条さんの言う通り。一瞬の慢心や油断で抜かれました、なんて話は稀に聞く。
「その点は心配ないですよ。テイオーにこのことは話していませんから」
適度な緊張とプレッシャーは、逆にパフォーマンスを上げる。今頃はテイオーも緊張を味わってるはずだ。
初めてのマックイーンとの対決。正直なところ不安はある。だって僕は3000mは走ったことあっても3200mを走るのは初めてだったから。でも……なんだろう。自然と自信というか力が溢れてくる感じがするんだよね。これも、3人に出会えたおかげかな。
『本日出走するウマ娘がパドックに入場します!』
他の娘達が次々とパドック入場を済ませていく。
『お次はお待ちかね!8枠14番!トウカイテイオーだ!』
僕はパドックに立って観客席を見回した。今までに見た事のない程のお客さんがいっぱいレースを観に来ていた。
『トウカイテイオーはクラシック3冠を手にしたあとに故障が発生しましたが、先日のレースではそれを思わせないかのような走りを見せました!』
会場は凄い盛り上がってる。きっと、僕とマックイーンの勝負を観に来たんだよね……
そんなことを思いながら辺りを見回すと、トレーナーたちが視界に入った。
(そうだ……マックイーンとの勝負も大事だけど、このレースで1着でゴールすることが1番だよね)
僕は、トレーナーの方に向かって思いっきり腕を上げてVサインをした。全力で走るから……見ててよね!トレーナー!
『トウカイテイオーとメジロマックイーンの世紀の対決に注目が集まります!』
「あんたたちが言うだけあって……たしかにとんでもない仕上がりね」
今回のテイオーは過去最高の仕上がり……調子も絶好調。
「でも、油断はできません」
「ほう……テイオーにそこまでの自信があってもか」
ルドルフの言う通り、今回のテイオーの仕上がりには絶対的自信がある。スタミナ以外の全ての要素はメジロマックイーンを上回っていると思う。けど、時にウマ娘は自身の限界を超えた走りをする。
「相手はテイオーのライバルのメジロマックイーン。テイオーがライバルと認めた彼女がテイオーに食らいついて来ないはずがない」
『出走するウマ娘はゲートインの準備を開始してください』
アナウンスに従って、僕はゲートインの為にターフに向かった。
「待っていましたわテイオー」
そこで既にマックイーンが僕のことを待っていた。
「この日をどれだけ待ち望んだ事か……」
「うん。僕もマックイーンと一緒に走るの楽しみにしてた」
初めてマックイーンに出会ってから、初めてマックイーンをライバルと意識した時から今日まで色んなことがあった。でも、これがゴールじゃない。
「テイオー……もし負けても泣かないでくださいませ」
「もし負けちゃったら泣いてもいいよ。マックイーン」
お互い視線を合わせて、僕たちはお互いのゲートに向かった。
『全てのウマ娘がゲートインしました!』
『天皇賞・春。3200m晴。バ場状態良。春の盾を手にするのはどのウマ娘か……今一斉にスタートしました!』
「天皇賞・春は3200mの長距離レース」
「どうした急に」
「メジロマックイーンは去年、天皇賞・春で勝利し長距離レースの経験も豊富。それに対して、トウカイテイオーは菊花賞3000mを経験はしていても初めての3200mというレース。ステイヤーの素質としてはメジロマックイーンに軍配が上がる。その差をトウカイテイオーが埋めることが出来るだろうか」
ここにもまた、トウカイテイオーとメジロマックイーンのライバル対決に胸を踊らせる2人……
「勝つのはテイオーさん!」
「マックイーンさん!」
と2人のウマ娘が観戦に来ていた。
「レース展開としてはメジロパーマーが先陣を切ることになるだろうが……」
「トウカイテイオーもメジロマックイーンも得意な戦術は先行。メジロマックイーンにとっては有利な舞台でのレース。そこで同じ戦術を取ってトウカイテイオーが勝てるかどうか……」
「もしかしたら、脚を溜めるために差しに切り替えて来るかもしれない」
「テイオーさんは負けないもん……」
「「ごっごめん!」」
そんな仲良し4人組が見守る中、レースは序盤から中盤の展開に差し掛かろうとしていた。
「ポジションは先行。ここまでは順調みたいだな」
ポジション取りも悪くない。メジロマックイーンの少し後方辺りに付けてる。
「みたいとは?作戦は君が考えたものじゃないのかい?」
「プラン自体は2つあった。けど、テイオーのスピードとスタミナがどこまで通用するか、本番のレースになるまでは分からなかった。だから、脚を溜める余裕があるなら先行。無いようなら差しの位置で脚を溜めるよういっておいたんだよルドルフ」
初めてのシニアのG1レース。何よりも相手はメジロマックイーンやペースを読み切れないメジロパーマー。序盤中盤の展開が読み切れなかった。
「テイオーが先行にポジションを取ったってことはスピードとスタミナに余裕がある証拠だ」
「後はメジロパーマーにペースを乱されないことを祈るばっかりだねえ」
メジロパーマーは最初から全力でぶっ飛ばす大逃げのウマ娘。それ故にその走りには粗が目立つ。そのペースに引っ張られると確実にハイペースになる。
「あんた達ちゃんとメジロパーマーも警戒してるのね。てっきりメジロマックイーンにお熱かと思ってたけど」
「あくまで警戒してるのは、そのハイペースに呑まれることですよ。勝負になるのは確実にメジロマックイーンだと思います」
「あら、メジロパーマーが逃げ切るとは考えなかったの?」
たしかに、実際に有馬記念ではメジロパーマーは見事な大逃げを見せた。そんな彼女を警戒しないわけもなく、デジタルにメジロパーマーのレースを何度も見てもらった。
「メジロパーマーさんは3000mより前にスピードが落ちると思います……」
結果的に、メジロパーマーはスタミナ不足で垂れるという結論に至った。長距離で最短距離の有馬記念と3200mの天皇賞・春では全く距離の長さが違う。
「デジタルの言うことを加味するなら、序盤と中盤はメジロパーマーのハイペースを警戒して自分のペースを守ること。そして、脚を溜めてメジロマックイーンとの一騎打ちに持ち込む。これがベストだと思います」
「あんたたちの信頼関係と策略には恐れ入るわね」
「全くです」
東条さんとルドルフからお褒めの言葉をいただいたが、レースも中盤に差し掛かる。ここからが本番だ。
レースも終盤戦に近い。パーマーはまだ先頭にいるし、マックイーンも、まだ動く様子はない。けど、パーマーのスピードが少しづつ落ちてるのが分かる。
(スタミナにはまだ余裕があるし、脚の方も……うん。大丈夫そう)
『レースも2000mを通過して終盤戦に差し掛かりうとしています!戦闘は依然としてメジロパーマー!注目のトウカイテイオーは5番手!そして、その前4番手にはメジロマックイーンだ!』
僕は気付かれないように少しづつ、少しづつマックイーンと距離を詰めていく。
(マックイーンはスピード勝負じゃ僕には勝てない。いくらマックイーンのスタミナが多くたって、そこから出せるスピードには限界値がある。だからこそ、スタミナをギリギリまで絞り出せば十分勝機はある!)
そして、その瞬間はすぐにやってきた。
『おぉっと!メジロマックイーンがスピードを上げた!メジロマックイーンが仕掛ける!』
残り1000m。既に先頭のパーマーの減速も目に見える様に明らか……マックイーンならここで仕掛けるよね!
『その影から!トウカイテイオーがメジロマックイーンになら……並ばない!トウカイテイオーが前に出た!』
いつの間にこんなに!自分の走りに集中し過ぎるがあまり、相手の警戒を怠るなんて……
(私……初めてでしたのよ。相手が強すぎて落ち込むなんて……だからこそ、ここで負ける訳には行かないのです!それだけ強いあなたに勝って!更に強く!私のライバルは強敵だったと言えるように!)
『メジロマックイーン負けじと食らいつく!レースは残り200m!メジロパーマーを追い抜き、トウカイテイオーとメジロマックイーンの一騎打ちだ!』
分かる……直ぐ後ろにいるんだよねマックイーン。マックイーンなら絶対に付いて来ると思ってた。
(けどねマックイーン。僕は負けないよ。君に勝って……このレースで1着でゴールするんだ)
【絶対は……僕だ】
『トウカイテイオー!トウカイテイオーが更にスピードを上げる!メジロマックイーンたまらず距離を離される!速い!速すぎるぞトウカイテイオー!』
後ろから声が聞こえた。
『待……って』
ごめんねマックイーン。僕は待たないよ。だから、追いついてきてね。
『トウカイテイオー!トウカイテイオーが今1着でゴール!』
ゴールして、僕は膝から崩れた。レースを通して、スタミナをギリギリ使い切るように走ったせいで足に力が上手く入らない。
「もう……勝者が地面を見ていてどうするの?」
「ありがとう。マックイーン」
僕はマックイーンの肩を借りて立ち上がった。
「負けて……しまいましたわ」
「うん……僕の勝ちだよマックイーン」
その一言だけ交わして僕は観客席に手を振った。マックイーンの顔を見ることはなかった。僕だってライバルに……マックイーンに負けたら悔しくて泣いちゃうもん。
(今回のレースは僕の勝ちだよ。次も負けないからね……マックイーン)