トウカイテイオーと帝王を目指す 【完結】 作:Tmouris_
天皇賞を終えてから、10日後にテイオーの脚のに骨折が見つかった。骨折の違和感に俺達もテイオーも気付くことができなかったのは不本意だが、幸いにも骨折の症状自体は重いものでは無かった。
「というわけで、テイオーが次に目標とするのは天皇賞秋。春のレースの復帰は流石に間に合わないからな。確実に秋のレースでの復帰を迎えるつもりだ」
「急に話し始めて、というわけがどういう訳かは分かんないけど。僕もそれがいい。元々、天皇賞秋は出たかったレースだからね」
天皇賞秋はテイオーにとっても重要なレースだ。なんてたって、ルドルフが日本で1着を逃したレースのうちの1つだからだ。
「私達もそれに同意するねえ。天皇賞春でのダメージを考えれば尚のことさ。どうやらメジロマックイーンの方も天皇賞のダメージは大きいようだからね」
「脚の怪我もそうですが、何やらメジロマックイーンさんは最近あまり元気が無いご様子……」
天皇賞でのメジロマックイーンは想像以上の脅威となった。ラストスパートまでテイオーに喰いつくその根性。何よりもその実力がある故にテイオーも全力で迎え撃つ形になった。
「念願のライバル対決も終わった。ここからまた次の目標に切り替えて行くぞテイオー!」
「うん!」
骨折というアクシデントはあったが、テイオーのモチベーション自体は高い。これならリハビリも問題なく進むだろう。けど、テイオーは少しなにか引っかかってる様子だ。
「今出来るのはリハビリと基礎トレーニングだ。今日は事務作業でやらなきゃ行けないことがあるから、俺はトレーニングに出れないけどしっかりな」
「も〜トレーナーは僕がサボったりすると思うわけ?」
「一応だ一応」
「んじゃ行ってくるねー」
そう言って、テイオーはグラウンドへと向かった。今のテイオーなら無理をして怪我を悪化させたりもしないだろうし、1人でトレーニングを行っても問題は無いだろう。
「それで、デジタルから見てテイオーはどうだ?」
「ライバル対決を終えて不思議と燃え尽き症候群なんてこともないです。さすがはテイオーしゃん!……じゃなくて、やっぱりメジロマックイーンさんのことを気にかけてるみたいです」
流石はデジタル。ウマ娘の身体的面のみならず精神的面の観察も出来てる。
「まぁ、メジロマックイーンからしたら、自分の得意な土俵で戦って敗れた訳だからね。それ相応の精神的ダメージは受けてるだろう」
「タキオンの言うことは分かる。けど、対戦相手に心引きずられてパフォーマンスが落ちるのも不味いんだよな」
その辺は、ライバル心の強いメジロマックイーンのことだ。テイオーにケツでも引っぱたかせれば喝が入るとは思うが。
「あの〜メジロ家へのツテでしたらデジたんが一応ありますけど……」
「まじで!?」
「はっはひ。一応ドーベルさんと関わりがあるというかなんと言うか……」
メジロドーベルか……デジタルとはあまり関わりがあるタイプには見えないが。いや、人には他人には見せない側面もあると言うしな。
「分かった。じゃあ、デジタルはメジロ家にアポ取ってみてくれ」
「了解です!」
これでテイオーのマックイーンへの不安も取り除けるだろう。
「ところで、タキオンは一体何を調べてるんだ?」
タキオンの周りには論文やら何かしらの本が大量に積まれていた。
「君もウマソウルという言葉は聞いたことはあるだろう?」
「あぁ、確かウマ娘たちに宿るって言われる別世界の生物の魂だとか何とか」
誰が言い出したかは分からない。ウマ娘という存在に納得するために誰かが考えたのか。はたまた都市伝説が大きくなり一般的になったのか。
「でも、あんなの都市伝説の眉唾物じゃないのか?」
「そもそも、私たちウマ娘は想いを背負って走る……なんてオカルトチックなことを言われている。私自身それを否定つもりは無いが。一考する余地があると考えたのだよ」
ウマ娘は時に自分の限界を超えて走ることがある……テイオーが菊花賞で見せたように。それを論理的に証明する方法は未だに見つかっていない。
「それで、なにか分かったことでもあったか?」
「仮説に過ぎないがいくつか結論を出してはいるよ」
クックックとタキオンは笑いながらノートパソコンを俺に向けた。そこにはタキオンがまとめたであろう文書が書かれていた。
「ウマ娘が想いを背負って走る。その想いとはなにか考えた時、私はトレーナーやライバル。本人の意思などを真っ先に考えた。しかし、冷静に考えてみて欲しい。ウマ娘が何故走りに魅了されるのか、何故ウマソウルなるものが宿ったのか。それは別世界からやってきた魂。彼等がレースというものに未練があるからではないか」
「つまり、タキオンはその別世界とやらでもレースが行われていたと?」
別世界……まるでファンタジーの世界の話のようだ。ただ、タキオンは真面目にその仮説を導き出した。だったら、それは無いだろうと無下にする訳には行かない。
「彼らがどういう生物だったかは皆目検討もつかないがね。恐らく似たようにレースを行っていたと思うよ。そして、その魂の持ち主の生涯が私たちウマ娘にも影響していると考えている」
「つまりなんだ?テイオーのレース結果も怪我も当人の実力ではなく、その魂の持ち主の力でしかないと?」
「そうだねぇ……運命力とでも言うべきか。菊花賞のレースの限界を超えた走り。しかし、菊花賞後の怪我も天皇賞春の怪我も不自然な点が目立つ。これを運命力と言わないでなんと言うか」
たしかに、テイオーの怪我には不自然な点が多かった。菊花賞の限界の走りの後にテイオーが骨折をした。幸いにも軽い骨折で済んだが。それは幸いすぎた。本来ならどれ程の怪我になっていたか。そして、天皇賞春。あの時は菊花賞の経験と天皇賞春という3200mのレースを警戒して、万全を期してレースに及んだ。レースも全力ではあったが無理な走りはしていない。それなのに、骨折という怪我が発生した。
「タキオンはそれを肯定するのか?」
もしその仮説が本当だとしたら?俺たちの努力もテイオーのレース結果も全て運命付けられてるってのか?
「そう熱くならないでくれよ。あくまでこれは仮説でしかないし、作り途中でしかない。この仮説が間違ってるとは言えないが……きっとまだ煮詰め切れてない。私が全力を持って運命なんてものを否定して見せよう」
タキオンも自分の為に全力を尽くして来た。そして、テイオーの為にもあらゆる協力をしてくれた。だからこそ、彼女本人がそれを認める訳にはいかない。
「それじゃあ俺は俺でやるべきことやらないとなぁ」
「私も頑張らないといけないねえ」
俺たちは各々作業に移った。天皇賞春秋連覇を目指して。
「お待ちしておりましたテイオー様」
「どうも爺やさん」
僕は今、マックイーンがいるメジロ家の療養所に来ている。『そんなにメジロマックイーンが気になるなら、お前がガツンと喝を入れてやれ』って。
「お嬢様は、私共から見ても無理をしているように見えるのです……なので、テイオーさま。お嬢様のことどうかよろしくお願いします」
マックイーンのトレーニングルームに向かう途中に、爺やさんはそう言ってた。けど、その意味を僕はすぐに理解することになった。
「お嬢様!大丈夫ですか!?」
トレーニングルームに入ると、マックイーンは下を向いて座り込んでた。体から出ている汗は尋常ではないし、よく見れば筋肉も震えている。誰がどう見てもオーバーワークだ。
「大丈夫ですわ。なにかありましたの爺や」
「トウカイテイオー様がお見えです」
「あら、テイオー来ていましたのね……もう少々お待ちくださる?トレーニングの途中でして」
そう言って、マックイーンは立ち上がり再びトレーニングに戻ろうとした。それを僕は止めるように腕を掴んだ。
「いやさーここまで来るのに意外と汗かいちゃったんだよね。爺やさんここってお風呂とかある?」
爺やさんは僕の意図を察すると、嬉しそうに笑った。
「はい。ここには肉体回復のための温泉があります」
「そうなんだ。積もる話もあるしさ。一緒に入ろうよマックイーン」
「でっですが。わたくしはまだトレーニングが」
「いいからいいから。ほら行くよ!」
腕を引っ張って無理やり連れていく形にはなったけど、僕はマックイーンをお風呂へと連れていった。
「それで?一体どうしちゃったのさ。さっきのトレーニングだって明らかにオーバーワークだったよね?」
僕がそう問いかけると、マックイーンは押し黙るように下を向いた。けど、少しすると上を向いて少しづつ語り始めた。
「私は……!悔しかったのでしょうね。いいえ、それだけじゃないでしょう。レース前にまるで勝利宣言のような言葉を放ち挙句敗北を喫した」
マックイーンはレース前に「私が勝っても泣かないでいただけます?」と言った。勝利宣言……と言われても納得は出来る。けど、僕はそういう意味で言ったものじゃないって分かってる。
「けれど、あなたは違った。目の前の勝負を見ていた。私もしっかりと見据えていたつもりでいたのに。私が見ていたのは目の前の勝利だけだった。自分の走りをすれば誰にもこの距離なら負けないという驕り……それが敗北を招いた」
「たしかに……僕はレース全体を見てた。パーマーのこともトレーナーに言われて警戒してたし。最終勝負のマックイーンのこともしっかり見てた」
トレーナーに言われなかったらきっと気づけなかった。僕はきっとマックイーンを見て、マックイーンと勝負して……負けてたと思う。
「でも、あなたはゴールを見ている余裕があったハズですわ。私はギリギリの限界まであなたを追い詰めることが出来なかった!」
「そんな……僕だって全力だったよ?このとおり脚だってやっちゃったわけだし」
菊花賞に続く2度目の骨折……僕の脚的には長距離レースはやっぱり負担が大きいっぽい。トレーナーも3000mより長いレースはもう勘弁してくれって感じだったし。
「そうじゃ……そうではありません……」
僕の想像と違ってマックイーンは落ち込んでいた。てっきり、全力じゃない僕に負けたと勘違いしたと思ったけど。
「たしかに、あの日のテイオーは全力だったかもしれません。ですが、それ以上ではなかった。限界まで走って……その先の走りを私は見ることが出来なかった」
きっとマックイーンが言っているのは菊花賞のこと……僕はあの日、ネイチャとの勝負で限界以上の走りをした。
「正直言えばネイチャさんには嫉妬しましたわ。クラシックの菊花賞という舞台でテイオーとのレース。わたくしも現地でレースを見させていただいたので。だからこそ、天皇賞でのテイオーとのギリギリの限界を超えた勝負をしたかった」
世代の1つ違うマックイーンとはクラシックで勝負出来なかった。お互いそこがむず痒くて。僕だって早く全力の勝負をしたいと思ってた。
「負けた時は悔しくて仕方ありませんでした。そのあと冷静になればわたくしはあなたのライバルに相応しくあろうとトレーニングに励みました」
「何言ってんのさ。マックイーンは僕にとって自慢のライバルだよ?」
天皇賞だって苦戦を強いられた。勝つことは叶ったけど、どこかで間違えていれば負けてもおかしくなかった。ずっと競い続けてきたマックイーンをライバルと言わずなんと言うのだろうか。
「たしかに、私はあなたのライバルではあります……しかし、
僕は何も言えなかった。天皇賞は厳しいレースだったけど、菊花賞の方が当時の実力も考えて辛かったかもしれない。いや、ネイチャとの勝負が1番苦戦した。
「わたくしはライバルとして、あなたの1番だと思っていました。ですが、実力不足を認めざるを得ません」
マックイーンは焦ってるんだ。僕がライバルとして君を見なくなるんじゃないかって。
「だったらさ、次はマックイーンが僕に挑んでおいでよ」
「……え?」
僕は、僕自身の目標の為にマックイーンに3200mというマックイーンが得意とする舞台で戦って勝った。
「来年の宝塚記念に僕は出走するつもりでいる。だから、そこで勝負しよう。距離は2200mで僕が得意な距離。でも、マックイーンだって走れる距離だ」
僕の言ってることをマックイーンは理解したみたいで、その瞳には闘志が宿っていた。
「舞台としては十分だと思うけど……不満かな?」
「いえ、十分です。わたくしが勝って泣かせてあげましょう!」
「だったら、ちゃんと調整して挑んで来てよね。今のマックイーンに勝っても仕方ないからさ。僕の1番の
「えぇ!もちろんですわ」
これでマックイーンは大丈夫。僕も全力でトレーニングに向き合える。ここまで言ったからには僕だって頑張らないとね!