トウカイテイオーと帝王を目指す 【完結】 作:Tmouris_
天皇賞春の故障から役5ヶ月が経った9月。テイオーの怪我は完全に完治してリハビリも終わり本格的なトレーニングに入っていた。
「怪我が治ったと言えど、流石にぶっつけ本番のG1レースは避けたいところだな……」
次に俺たちが目指すのは11月に開催される天皇賞秋。距離は2000mとテイオーが得意な距離ではある。何よりも天皇賞秋は俺たちにとって逃せないレースの1つだ。
皇帝シンボリルドルフが逃した3つのG1レース。ジャパンカップ、宝塚記念、天皇賞秋。ジャパンカップは翌年に制覇し不恥辱を果たした。しかし、宝塚記念の出走取消を除けば唯一ルドルフが出走して1度も制覇していないレースだ。
「待たせたねトレーナー君……っと。珍しいテイオー君はまだ来ていないのかい?」
俺が色々と考えていると、タキオンとデジタルが部屋に入ってきた。
「テイオーしゃんが集合時間ギリギリになるなんて珍しいですね」
いつもなら先に部屋に来て、ソファーで寝っ転がっているテイオーが今日はいない。
「まぁ、テイオーだってそういう日ぐら」
俺がそう言いかけた時、部屋の扉が弱々しく開いた。
「あはは……ごめんごめん。僕としたことが遅刻しちゃった?」
「いや、タキオンたちも今来たばかりだし。時間的にもギリギリセーフだよテイオー」
「なら良かった。急いで来たから疲れちゃったよ」
そう言いながらテイオーはソファーに腰をかけた。
「よし、メンバーも全員揃ったし秋冬のレースプランを」
俺が話始めると、ドサっと倒れる音が聞こえた。そう……今想像出来うる中で1番最悪のメンバーの方から。
「テイオー……?」
場が一瞬凍りついた。その出来事を理解するのに時間がかかったのか、俺を含めるメンバー3人の行動がワンテンポ遅れた。
「テイオー!?」
ソファーに倒れ込むテイオーの元に急いで駆け寄った。
テイオーの息は荒く熱が篭っている。
「タキオン!デジタル!急いでテイオーを保健室に連れて行くぞ!」
マズイ!マズイ!マズイ!なんでだ……なんでこのタイミングなんだ。こんな重要なタイミングで。
「トレーナー君落ち着きたまえ!」
俺がその場で半ばパニック状態になっていたら、後ろからタキオンが俺の肩に手を置いた。
「とりあえず、テイオー君の症状は発熱だけだ。咳や嘔吐などの症状はない。ともかく、詳しく検査しない限りは安心できない。私たちが保健室に運ぶから君もあとから着いて来たまえ」
タキオンはそう言いながら、デジタルとテイオーを運び始めた。
(そうだ……今考えないといけないのは現状どうするか。今後のことなんて後に考えればいい)
「分かった。頼んだぞ2人とも」
「ああ」「はい!」
俺も急いで2人の後を追いかけた。
保健室に入ると既にテイオーは診察を終えて、ベットの上に寝かされていた。
「タキオン。テイオーの症状はどうだ」
「不幸中の幸いと言うべきか……発熱以外の症状はない。しかし、少しばかり熱が高いね」
テイオーの体温は既に38度を超えている。今日明日で熱が引く様子も無いし、熱が下がっても数日間は安静にしないといけない。
「タキオンもデジタルも体調を崩したら困るし、ここは俺が見てるよ」
「しかしだねぇ……」
体調不良のテイオーを横目に、タキオンは戻りにくそうにしていた。しかし、デジタルがタキオンの腕を掴んだ。
「タキオンさんも大切な時期なんですから行きましょう。テイオーさんはトレーナーさんに任せても大丈夫です」
タキオンはデジタルの普段見せない態度に驚きつつも、デジタルと一緒に保健室を後にした。
この時のことを深夜に思い出したデジタルが昇天したのは語るまでもない。
「デジたんも変わったね」
2人が出ていくと、テイオーが起き上がってそう言った。
「テイオー起きてたのか。体に触るからまだ寝てた方がいい」
俺が背中を支えながら、ベットに再び横にさせる。
「僕って本当にタイミング悪いね。体調とかも気をつけてたつもりなのに」
「そうだな……」
本当にタイミングが悪い。骨折からの復帰でただでさえギリギリの調整。そこに体調不良が重なるとなると……
(テイオー自身も理解しているだろうが……トレーナーとして俺はテイオーに聞かないといけない)
「正直、天皇賞はギリギリで調整が間に合うか分からない。12月には有馬記念も控えてるし、出走をパスするって手もあるが」
「ううん……僕は出るよ天皇賞」
天皇賞春ではメジロマックイーンというライバルを下した。そんな中で自分の得意距離に天皇賞秋から逃げないか。
「分かった。じゃあ、スケジュール見直しておくよ」
おそらくはぶっつけ本番のG1レースになるだろうが……テイオーに出走の意思があるなら俺達も全力でサポートする。
「ありがとね……わがまま聞いてくれて」
「いいんだ。とりあえず今は休もう」
俺はテイオーのサポートをする。勝利を掴めるように。トレーナーとして、勝利を信じてあげないといけない……しかし、勝負の世界も甘くは無い。
ライバルとの初めての勝負からの次走レース。そこで、初めての敗北……メンタルに相当なダメージが入るはずだ。せめて、俺はその時の覚悟をしておこう。