トウカイテイオーと帝王を目指す 【完結】 作:Tmouris_
9月の発熱から調整はギリギリではあるが、レースに出走出来る程度には仕上がっていた。
「多分テイオー自身が1番分かってると思うけど、今のテイオーの仕上がりは完璧とが言いきれない。出走相手もナイスネイチャにイクノディクタスと強者揃いで、メジロパーマーにダイタクヘリオスも出走してる」
天皇賞春に続いてのナイスネイチャとのライバル対決。しかも、大逃げコンビの出走だ。長距離の有馬記念でさえハイスピードのレース展開に持ち込んでくるんだ。中距離でそのスピードを出されると思うと恐ろしい。
「とりあえず、周りの」
「周りのペースに流されずに自分のペースを保てだよね」
テイオーは落ち着いた表情でそう言った。
「大丈夫だよトレーナー。ボクは今日できる最善の走りをしてみせる」
テイオーの瞳は力強く俺を見つめていた。ボクを信じてと言わんばかりに。
「分かったよ。それじゃ行ってこい!」
「うん!頑張ってくるから応援してよね!」
そうやって、俺はテイオーのことを送り出した。
「やぁ、トレーナー君。テイオーの調子はどうかな?」
俺がタキオンたちのいる観客席に向かうと、そこにはルドルフも一緒に座っていた。
「背水の陣と言うべきかな?ライバルの出走に加えて強敵揃い。しかも、天皇賞春にマックイーンを下したことによって周りからかなりマークされているから」
『まずは2枠3番メジロパーマー!天皇賞春では見事な大逃げを見せてくれました。中距離レースでの大逃げに期待です!10番人気になります』
「今回のレースの鍵の1つ……彼女の走りが今回の走りに大きく影響するだろうねぇ……2000mという距離であのハイスピードを見せられたら煽られないウマ娘はいないさ」
今回のレースメイクを、中盤までは確実に彼女らが握ることになる。
『3枠6番ダイタクヘリオス!2000mというこの距離で彼女の大逃げは爆発するのでしょうか!』
「マイルの大逃げのダイタクヘリオスさんに長距離の大逃げメジロパーマーしゃん!あぁ……マブダチ尊ひ」
『4枠8番イクノディクタス!力をつけ伸びて来ているウマ娘のうちの一人です!4番人気』
イクノディクタスも堅実に確かに強いウマ娘だ。油断ならない相手の一人だ。
『6枠11番ナイスネイチャ!トウカイテイオーのもう1人にライバルと言われる彼女の実力!このレースでも見ることができるのか!実力の安定性もあり2番人気です!』
ナイスネイチャ……たしかな実力者で菊花賞では敗北寸前まで追い込まれた。だが、今回は中距離のレース。テイオーに有利に進んで行くはずだ。
『7枠15番トウカイテイオー!天皇賞春ではライバルメジロマックイーンに勝利し、今回はナイスネイチャに勝利することが出来るのか!1番人気です!』
「体の仕上がりはまぁまぁと言ったところか……正直驚いたよ。出走するのではとは思ったけれど、体調不良というアクシデントの中でここまで仕上がりを見せるとは」
ルドルフがテイオーの仕上がりを見て、純粋に驚いていた。その直ぐ横ではタキオンがふくれっ面でダラーっとしていた。
「本当なら、完璧な状態で送り届ける予定だったんだよ。まさか間に合わないとは……」
「テイオーさんもタキオンさんも最善を尽くしましたって!」
拗ねるタキオンをデジタルが励ましている。
「たしかに、体の仕上がり?完璧じゃない……けどな、今日のテイオーは絶好調だぞ」
不調で出走が怪しい状態からここまで仕上がり、多くのライバルがあつまった。その状況にテイオーは燃えている。
「少なくとも簡単に負ける気はないよ。俺もテイオーも」
『全てのウマ娘がゲートに入りました。2000m晴。バ場状態は良。青空の下……秋の盾を手に入れるのはどのウマ娘か!今一斉に……スタートしました!』
スタートは上々。序盤のポジション取りも上手くいった!
(ただ、問題は目の前のこの2人なんだよね)
ボクの前にはパーマーとヘリオスの2人が走ってる。出来る限りはペースに飲まれないように、自分のペースを維持してるんだけどさ。
(ネイチャもそんなボクを見ないでよね。ピリピリと十分に圧感じてるんだからさぁ!)
200m400mと通過していき、600mを通過しようとしていた。
(スタミナにはまだ余裕はある……けど、問題なのはパーマーとヘリオスの2人。もうすぐで1000mを通過しそうなのにこのスピード。単純なスピード勝負に持ち込まれたら絶対に追いつけない!)
ここでは動かないべきか……うん、流石に動くべきじゃない。走ってるボクでも分かる。明らかななデッドペース。このスピードを最後まで維持出来るとは思わない。ただ、最後どこまで粘るかも分からないから油断出来ない。
『おーっと!1000mの通過タイムは57秒5!?殺人的なハイペースだ!』
「結構マズイ展開になってきたな」
1000mの通過タイムが余りにも速すぎる。その規格外の速さにマイペースを意識しているであろうテイオーが、少しだけペース感覚が狂ってる。
「想定のペースよりも速くテイオー君自身も通過している。まぁ、あのペースで目の前を走られたら溜まったもんじゃないね」
「でもでも!テイオーさんだって十分ペース抑えられてますって!」
たしかに、幾らペースが乱されていると言えど。それほどのオーバーペースという訳では無い……だが、スタミナは確実に削れている。
「けど、テイオーの後ろにはナイスネイチャが居る」
菊花賞で、唯一テイオーを限界のギリギリまで追い詰めてきたウマ娘。たしかな実力と相手を揺さぶることを得意とする彼女が何もしないとは思えない。
パーマーもヘリオスも減速してきてる。そして、後ろからネイチャが動き出したのも分かる。
(仕掛けて来るタイミングは最後の直線の最初……)
だから、そこに合わせてスパートをかければネイチャに負けることは無い!
『トウカイテイオーが最後の直線の差し掛かった!』
(今だ!)
タイミングは完璧。ネイチャの動きも読めた。なのに……なのにどうしてボクはネイチャに追いつかれそうなの!?
「やっぱりか!テイオーのラストスパートの伸びが悪い」
並のウマ娘ならここで失速していてもおかしくない。前半は大逃げによるデットペースに。後半はそこで狂った感覚を突き刺すようにナイスネイチャの煽りが入っていたか!
「おぉっと……これは流石にマズイねぇ……この違和感に気づかない相手だったらどれほど楽だったか」
タキオンがそう言った直後。後方に居たナイスネイチャのペースが上がった。誰よりもテイオーをマークしていたであろう彼女だからこそ、誰よりも早く反応してみせた。
「まっまずいですよ!テイオーさん抜かされちゃいます!」
一瞬だった。ボクのスピードが伸びないのを見たネイチャ。そこから一瞬でボクを追い抜いて行った。
『先に行っちゃうよ?』
そう言いたそうに、ボクの方を振り向いて……ネイチャに抜かされた。
(スタミナは限界……でも、あんな顔されたらさ。燃えずにはいられないよね?)
『トウカイテイオーが仕掛けた!トウカイテイオー!ナイスネイチャを必死に追いかける!』
明らかな時間差。スタミナも身体も限界のはずだった。それでも、テイオーは駆け抜けるのか!
「負けるなテイオー!まだだ!まだ終わってない!」
「がんばれー!テイオーさん!」
「あぁ……本当に君は見ていて飽きさせられない!」
『トウカイテイオー伸びる!ナイスネイチャに迫る!迫る!その背中を捉えた!』
(あぁ……待たせちゃったね。でも、僕だって負ける訳には行かないんだよね!)
【究極テイオーステップ】
『トウカイテイオーが更に伸びる!ナイスネイチャ粘る!トウカイテイオー並ぶか!?』
限界を超えて出し切った。調子は絶好調で問題なかった。そう今ある全部を限界を超えて出し切った。
(そのボクを超えていくんだね……ネイチャ)
『ナイスネイチャが今1着でゴール!菊花賞の敗北を超えて!ついに無敗の帝王……トウカイテイオーを下したぁぁあああ!』
あぁ……負けちゃった。でも、なんでだろうな。こんなにも満足してスッキリしてんだろ。負けちゃったはずなのに。
「遂に負けちゃったよ。でも……その相手が君で良かった」
「これで1対1だから……おあいこだよ」
そう言ってネイチャは去ってった。ボクはまだその場から動けずに立ち尽くしていた。
「負けた……か」
「テイオーしゃん……テイオーしゃん……」
デジタルは泣くのを必死に我慢していた。俺も悔しいし、デジタルやタキオンも悔しいはずだ。けど、俺たちの中で1番悔しいのはテイオーだ。そのテイオーが泣いてない以上、俺達も泣く訳にはいかない。
「調子は良かった。完敗だ」
「仕上がりは完璧ではなかった……」
俯きながらタキオンはそう言った。もし仕上がりが完璧だったら?
「いや、今出せる全てを出し尽くしてテイオーは戦ったんだよ」
テイオーも同じことを言うはずだ。絶好調だった。それで負けたんだって。
ボクはレース場を後にトレーナーと合流した。少し心配そうな顔をしたトレーナーだったけど、すぐにそんな顔をしなくなった。
「大丈夫か?テイオー?」
「大丈夫なんかじゃないよ。悔しいし。初めて負けたんだよ?でも、それ以上に燃えてるよ。ライバルに次こそ勝つってね」
「あぁ……そんな顔をしてるよ。次こそ勝つぞ」
「あったりまえじゃん!」