トウカイテイオーと帝王を目指す 【完結】 作:Tmouris_
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仮トレーナーとしての1日目のトレーニング。俺がグラウンドに行くと、テイオーは既に準備万端で待機していた。
「集合時間よりも速いじゃないかテイオー」
俺がテイオーにそう言うと、テイオーは少し小っ恥ずかしそうに頬を赤くした。
「いや〜いくらトレーナーが誰でもいいなんて言っても、なんか新鮮な気分で楽しみだったんだよね」
仮とは言えど俺はテイオーのトレーナーだ。できる限り彼女にふさわしいトレーナーであろうとしよう。
「とりあえず、今日のトレーニングメニューはこれにまとめてある。走りを見るために基本的には走り込みだけどな」
「ふ〜ん。じゃあ僕の走りをそこでとくと見よ!」
ターフを走るテイオーは速かった。俺の想像以上に。トレーニングの合間にレストを取りに木陰に入った。
「テイオーの走りはすごいな。俺の想像を遥かに超えていたよ」
「あったりまえじゃん!僕は最強無敵のテイオー様だぞ!」
テイオーは自慢げに鼻を伸ばしている。ここまでのトレーニングの疲れを感じさせないような元気さだ。
「ただ、ペース配分がぐちゃぐちゃだな。そこを気をつけようか」
レースにおいてもペース配分は大切だ。スタミナの管理やレースメイク。そういったもの全てに直結していく。
「えぇーでも速く走れてるからいいじゃん」
「いや、でもな」
「ふん!次のセット行ってくる!」
どうやらヘソを曲げてしまったらしい。ムクれながらターフに戻っていく。
中々上手く行かないものだな……元々契約自体がその場の流れみたいなものだったし。テイオーからの信頼を得るのは大変そうだ。
その後もトレーニングは無事に進んだ。結局最後の最後までペース配分はぐちゃぐちゃのままだったが……
「テイオーこれで今日のトレーニングは終わりだ」
走り終えたテイオーにトレーニングの終了を伝えると、ポカンとした表情でこちらを見ていた。
「え?これだけで終わり?」
俺はそれだけの発言で、トウカイテイオーの才能の大きさを再び理解することになった。今日用意したトレーニングは、超がつくほどハードなトレーニングではないにしろ、体に刺激を与えるには十分なものにしたつもりだった。けど、テイオーにとってはこの程度のトレーニングでしか無かった。
「あっああ。今日は初日だしな。テイオーの走りを見てトレーニングの組み立てを本格的に行ってくつもりだ」
もちろん嘘だ。俺はテイオーに合わせてしっかりとしたトレーニングメニューを組んだつもりだった。俺に務まるのか?トウカイテイオーのトレーナーが。
「へ〜そうなんだ。それじゃあ明日楽しみにしてるからね!ちょっとだけランニングして帰るよ。じゃーねー」
今日のトレーニング内容は正直拍子抜けだった。カイチョーが優秀なトレーナーだからって仮契約したけど失敗だったかなー。でも、今日のは様子見だって言ってたし。明日を期待して待とう!
(でも、そんなに色々しなくたっていいのに)
僕は1人でも速くなれるし。元々トレーナーを選ぼうと思ったのもレースに出るためだしな〜。今日みたいに色々と口出されるのもちょっとやだな〜
トレーニングが終わって寮に向かっている途中でカイチョーが歩いてるのを見かけた。
「カイチョー!」
僕は勢いよくカイチョーの背中に抱き付いた。トレーナーがいない時は自由にトレーニングしてたから好きな時にカイチョーを見に行けたけど、今はそうはいかないからね。
「なんだテイオーか。今日はトレーニング初日だったはずだが。お前から見たらどうだいトレーナー君は」
少しだけ驚いていたカイチョーだけど、すぐに落ち着いていた。カイチョーは僕の扱いを心得ているというか、慣れてるんだもんね!
「う~ん。カイチョーは凄いって言うけど本当にあの人凄いの?なんかどこか自信なさげだし。僕のトレーナーなんだからもうちょっと堂々としててほしいんだけどなー」
紹介してくれたカイチョーには悪いけど正直な感想を言った。だって、あの凄いカイチョーが褒めるんだから凄い人って思うじゃん。
「私も昔は同じことを思っていたよ。気は強くないしきょどきょどしていることも多い。でも、彼はいつでも全力だ。テイオーもそのうち彼の凄さに気が付くさ……そう、あの異常な全力を」
カイチョーがそこまで言うならもう少し信頼してもいいのかな?でも、なんかパッとしないんだよねー。
今日もトレーナーの言う通りのトレーニング内容でトレーニングをしてる。ただ、今日はなんだか視線が凄いというか……なんかずっと見られてる感じで落ち着かないな〜。
「ねえねえトレーナー。僕の走りを見るのは良いけど、ちょっと見すぎじゃない?」
「あっあぁ……すまない。ちょっと集中しすぎた」
そう言うと、トレーナーは直ぐに視線を外してくれた。今日は特に何も言わずにトレーニングを終えた。昨日みたいに注意されると思ったんだけどな。
「トレーナーメニュー終わったけど」
「お疲れ様。どうだ今日も走り足りないか?」
トレーナー質問は昨日みたいに感情的じゃないというか、なんだか事務的な質問みたいだった。
「ん〜走り足りないってことはないけど、昨日も今日も走り込みだったし別のトレーニングもしたいな」
トレーニング量は増えたけど、結局は昨日やってることと同じだった。せっかくトレーナーがついたんだから、僕だけじゃ出来ないというか思いつかないトレーニングしたい。
「それもそうだよな。分かった。明日までに用意しておくよ」
その日はそのまま解散になった。今日は帰りにハチミーでも買って帰ろうかなー。
その次の日のトレーニングはダッシュ系のトレーニングだった。瞬発力には自信があるんだよねー僕。トレーナーはというと、僕の走りを見ながら何かを考え込んでるみたいだった。
「どうしたのトレーナー。僕の走り何か悪かったの?」
「悪くない……寧ろ良くてびっくりしたよ。凄い瞬発力だ」
なーんだ。僕の走りに見とれちゃってただけなんだ。それに、カイチョーが相手じゃなくても褒めて貰えるのは嬉しいもんね。
(今日は何とか大丈夫だった)
そして、今日もテイオーの才能に押しつぶされそうだった。あの瞬発力は天性のものだ。あのアキレス腱の柔らかさ。速く走るための体をしてるんだ。
次のトレーニング内容どうする。時間が足りない……考える時間が。テイオーはトレーニング効率よりも楽しさを重視してる節がある。長い走り込みや単調なトレーニングは良くない……
本人が気乗りしないトレーニングをしても効率は逆に落ちるだけだからな。
「調子はどう?トウカイテイオーとは上手くいってるの?」
トレーナールームに向かう途中で東条さんとたまたま出くわした。
「状況は良くないですね……テイオーの才能に俺がついて行けるかどうか」
近状報告をしながら自分のトレーナールームにたどり着いた。すると、東条さんがそのまま扉を開けて中に入っていく。
「全く……こんなことだろうと思ったわ」
部屋を見た東条さんは呆れていた。そりゃこんなもの見たらそんな顔されても仕方ない。
「資料とかは分かりやすいように整理整頓しとくようにって前から言ってるじゃない」
(これだけの資料をこの短期間に集めて、トレーニングの内容をいくつも絞り込んでいる。時間を使えば誰でもできること……けど、あなたは何処からその時間を出してるのか)
「まぁ、リギルにいた時みたいに人の出入りがないのでつい」
リギルにいた時は、エアグルーヴやヒシアマゾンといった世話焼きなウマ娘がよく掃除に来てくれたもんだ。
東条さんも心配して見に来てくれたんだろう。軽い注意をしてから自分のチームに戻って行った。
「今日はサーキットトレーニングだ」
「サーキットトレーニング?」
テイオーはサーキットトレーニングをやったことないのか。首を横に傾げて頭に?マークを出している。
「何個かのトレーニング道具を置いて、一定の間隔でそれを周回していくトレーニングだ」
「何それ楽しそう!」
テイオーは目をキラキラとさせて興味津々だ。組み合わせを考えるのに時間が必要だったが……考えた甲斐が有る。
「それと明日はトレーニングは休みだ」
「仮契約もそろそろ終わっちゃうのにいいの?」
「それも俺にとっては大事だが……俺を優先してテイオーを怪我させたんじゃ意味もない」
できる限り自分のアピールをしたいところだが……俺にはテイオーのトレーナーはきっと務まらないだろう。彼女が契約の破棄を望んだら潔く受け止めよう。
今日のトレーナーはなんだか変だ。元気そうに振舞ってるのに何故か知らないけど覇気を感じられない。でも、それ以外は違和感を感じられない。違和感がないのが寧ろ不自然というか……
結局トレーニングが終えるまでその違和感の正体は分からなかった。
「どうしたテイオー考え事か?」
「あっカイチョー!」
ちょうどカイチョーと出くわして話を聞いて貰うことにした。カイチョーはトレーナーのことよく知ってそうだったし。
僕が仮契約してから今日までの流れをカイチョーに話した。最初は走り込みばかりで退屈だったとか。トレーナーが何か変だと言うことも。
「そうか、数日でそれだけトレーニングの変更を……ならテイオー、この書類を明日トレーナールームに届けてくれないか?元々は明後日私が届けようと思ったものだから問題は無い」
僕はカイチョーから封筒を受け取った。どうしてこれを届けることに意味があるんだろう。
「でも、明日はトレーニングお休みだし。トレーナーはトレーナールームに居ないんじゃないの?」
「テイオーが知りたいことがそこにある。自分の目で確かめて彼のことを知るといい」
そして、その翌日にトレーナールームの中に入って見たものは僕にとっては衝撃的だった。