トウカイテイオーと帝王を目指す 【完結】 作:Tmouris_
新年を迎えて約1ヵ月が経った。テイオーが怪我をして療養に入ってしばらく経つが完治はしていない。脚への負担を考えて、海岸で砂浜や海を使ったトレーニングをしている。
「デジたん頑張れー!」
「ひゃい!テイオーさんの応援とあらば不肖デジたん!がんばっちゃいますよおお!」
去年のレースデータを元にタキオンとミーティングを重ねた結果、レースの敗因は実にシンプルな結論となった。
デジタルは既に芝とダートの適正は十分であった。距離適性としては、マイル、中距離。元々器用だとは思っていたが、逃げ以外の作戦はこなすことができる。
その反面、デジタルはフィジカルが強くない。上手くレースが進めば勝利する力は十二分にある。しかし、そうならない時にそれをカバーするフィジカルがない。
正直、今の華奢な彼女の体でどうやって力強い末脚で走れているかが謎なくらいだ。本人曰く、愛の力らしいが。メンタル面で強くなるのは良いことだが、逆もありえる。それ故に底力を上げる意味でもフィジカル強化は必須事項だった。
「私もデジタル君の用なトレーニングをしなくてもいいのかい?」
「デジタルはまだ体が出来上がっていない気がするんだ。事実、トレーニングでの成長が全体的に著しい。だからこそ、ハードなトレーニングが必要だ。本格的にクラシック戦が始まれば、今のデジタルじゃシンプルな身体的能力差で勝てないと思う」
と言っても、デビュー戦から6戦3勝。その内の1つは重賞レースだ。一般的に言えば、ジュニアでそれだけの戦績を残しているのは凄いと言える。しかし、デジタルの目標は芝とダートのどちらでも戦うオールラウンダー。本人もテイオーとタキオンの戦績を見て触発されている。
「だが、タキオンは既にクラシック戦に入ってもその中でもトップクラス……いや、テイオー同様にその世代の中では頭一つ抜けた実力をしている」
「おやおや、君がテイオー君と同等と認めてくれるとは」
「普段のトレーニングを見て、驚異的な実力を持っているとは分かっていたよ。けど、レースに出走して、俺の想像を超える速さを見せつけた」
正直、同世代のウマ娘に同情するレベルの強さだった。このまま行けば、テイオー同様にクラシック3冠に手が届くと思う。
「となると、懸念すべき点はタキオンの脚の繊細さだ。基礎的なトレーニングを積むと同時に頑丈な肉体作りに努めて欲しい」
「君はテイオー君のことばかり見ていると思っていたけど。意外にも私たちのことも良く見ているんだねぇ」
「そりゃそうだろ。もう短い付き合いでもないし。タキオンとデジタルには恩も感じてる。担当として、2人のこともしっかりと見てるよ」
最初はお互いの利害関係の一致だったし、2人の行動に口を出すつもりはなかった。しかし、次第に仲良くなっていき。2人が俺のことを頼ってくれることも増えた。
そんな2人を蔑ろになんて俺にはできない。2人が俺のことを頼ってくれる場面や力になれることがあれば極力力を貸すつもりだ。
「私たちも君に恩を感じているのだけどねぇ……」
「ん?なんだって?」
「いやぁ、そこまで私たちに尽くすなんて。なんて従順なトレーナーなんだろうと言っただけさ」
そりゃ、全力で努力する彼女たちを見て頑張ろうと思わないトレーナーなんているのだろうか。
「ところで、これからの私たちのレースプランはどうするつもりだい?」
「そうだな。ある程度はもうレースプランは決まってるよ」
テイオーも怪我こそしているが、それ程重いわけではない。数か月もすれば出走できるレベルまで回復するだろう。
「テイオーが目指すは宝塚記念だ。メジロマックイーンとナイスネイチャも出走することを発表していたし。それが、テイオーの着火剤にもなるだろう」
「たしかに、この時期にテイオー君が狙うなら宝塚記念になるね。それにしても、いくらなんでも復帰戦にそのメンバー相手にレースをするのは酷じゃないかい?」
たしかに、普通なら復帰戦でのG1レースや強敵とのレースを避けることは少なくない。
「最強無敵のテイオー様がそんなことを理由にレースから逃げるわけないだろ?」
「っふ……それもそうだねぇ」
メジロマックイーンとナイスネイチャの2人も去年から更に実力を伸ばしている。他にも、去年の宝塚記念を制覇したメジロパーマーも出走する他、イクノディクタスといった強者揃いのレースになるだろう。
「例え強敵が集まろうと、テイオーはそれから逃げない。強者から逃げたレースだけの勝利をいくらしても、それは帝王の戦績に相応しくない」
「昔の弱々しい君からは想像できない言葉だね」
前までの俺は自分に自信が無かった。けど、テイオーやデジタル、タキオンの才能に溢れた実力者たちが認めてくれる自分を被虐するのは3人に失礼だ。
「デジタルはとにかく場数を踏むことになるだろうな。正直、今年1年はデジタルにとっては辛い時間になるかもしれない」
だが、デジタルは太い芯を持っている。きっとその敗北を乗り越えてくれると信じている。本人だって易しい道のりじゃないことくらい、去年で嫌というほど味わっただろう。
「レース数が多いと聞けばデジタル君は泣いて喜ぶだろうねぇ。ウマ娘という存在を尊とむ彼女にとって、ウマ娘の走るという本能が出るレースというのはまさに聖域。その感情から来るデータには心惹かれるよ」
「というか、人の心配をしてる暇があれば自分の心配もするんだな。タキオンの次走は弥生賞だぞ」
「大丈夫さ。弥生賞の次は皐月賞。そして、ダービーすらも制して見せようじゃないか」
タキオンからダービーという単語を聞くとは。今まではウマ娘のスピードと皐月賞にしか興味を示さなかったタキオンが。
「皐月賞の先のレースのことをタキオンから聞く日が来るとはな」
「正直、私にとってレースとは自身の強さ。そして、速さを証明する場でしかなかったんだがねぇ……他人に報いようと思うのは君たちにあてられすぎたんだろうね」
「まぁ、チームって言うのはそういうもんだろ」
「そういうものかねぇ」
最初はただの利害の一致での関係でしかなかった。しかし、今はお互いが仲間でありチームであると考えている。そんな彼女たちに報いてあげたいと俺は思った。