トウカイテイオーと帝王を目指す 【完結】 作:Tmouris_
「準備は万全。コンディションも問題ない。タキオンは何か気になることがあるか?」
「どこにも問題はないさ。心身共に健康だとも。出走メンバーに関しても、カフェはまだ本調子ではないし、データ的に私に敵う相手はいない」
タキオンの世代でひと際注目を集めているのは、タキオンとジャングルポケットの二人。事実、二人の実力は同世代のウマ娘たちに比べて、一つも二つも上なのが分かる。
「だが、レースで何が起こるかなど分からない。手加減も慢心もなく、全身全霊で挑ませてもらおうじゃないか!」
気持ちが高まってか、タキオンは椅子から立ち上がり宣言した。
今までは、データと自身のスピード以外に興味を示さないタキオンだった。しかし、今のタキオンは他の出走ウマ娘を意識して、データ以上の物をレースに見出している。
「確実に今回のレースでタキオンはマークされている。勝つために何かしらのチャレンジを起こすウマ娘もいるだろう。挑戦される立場だと思って行ってきてくれ」
「それは実に楽しみだ。挑みたまえ、勝負したまえ……そして、私を超えてみせてくれ。その中で勝利してこそ、全ての証明につながるのだから」
俺はその時、タキオンからテイオーやルドルフと同じ雰囲気を感じ取った。リギルでサブトレーナーをしていて、多くの強者たちを見てきたせいもあるだろう。タキオンからは確かに彼女らと同じ絶対的強者の風格を感じたんだ。
「それじゃあ、俺は観客席から応援してるよ」
タキオンとの話し合いが終わり、観客席に向かうと、テイオーと珍しい二人組が一緒に座っていた。
「フジじゃないか。久しぶりだな」
「トレーナー君じゃないか久しぶりだね」
俺がリギルのサブトレーナーをしていた時、フジにはよく世話になっていた。面倒見が良いというか世話上手というか。サブトレとしてフジに付くことは勿論あったが、雑務が忙しい時などは恥ずかしながら助けられたもんだ。
「リギルから移籍したって聞いたけど、遂に復帰する気になったか?」
「あはは、冗談はよしてくださいよ。私はもう終わったウマ娘なんですから」
フジは自分を終わったウマ娘だと言う。俺にはその真意が未だに分からない。復帰しようと思えば、本格的なトレーニングをして復帰も出来る。恐らく実力だってトップクラスのはずだ。それでも、彼女は自分は終わったのだと復帰せずにいる。
「それなら敵情視察と言ったところかな?」
「その通りだ!」
フジの横に座っていたウマ娘が立ち上がり俺に向かって指を指した。
「去年はタキオンに負けちまったが皐月賞ではそうはいかねえ!ぜってぇー俺が勝つ!」
堂々と宣言する彼女の横をそそくさと通り抜けて、テイオーが俺の横に座った。
「ボクを見るなり、最強は俺だー!とか色々言って絡んできたんだよ。フジさんがいて助かったよ……」
テイオーが俺がいない間にあったことを、大雑把に耳打ちで教えてくれた。
「おい!聞いてんのか!タキオンもトウカイテイオーもテイエムオペラオーだって倒して、俺が最強だって証明してやる!」
「それなら、君は今日のレースを見に来たことは幸せでもあり不幸でもあるね。ジャングルポケット」
「っどういう意味だよ!」
「君は強者だ。並みのウマ娘じゃ歯が立たないほどに」
彼女のレースは勿論チェックしている。去年のレースを見て、タキオンを追い抜く可能性が一番高いと思ったからだ。実力はさることながら、レースセンスが非常に高いウマ娘だった。
「レースに絶対がないと言われる世界で尚最強と呼ばれるウマ娘たち。それは、彼女たちが絶対的強者だからだ。怪物と呼ばれたウマ娘がいた。皇帝と言われるウマ娘がいた。女帝と言われるウマ娘がいた。テイオーが帝王としてそれに並んだ。そんな彼女たちを見たことがあるからこそ言える」
彼女たちも決して敗北しない訳じゃない。それでも、最強と呼ばれ続ける。レースでそれを目に焼き付けられるからだ。
「アグネスタキオンというウマ娘は最強だ」
だからこそ、ジャングルポケットは思い知るだろう。自分がこれから挑もうとしている最強という壁を。一ヶ月後には挑まないといけない、アグネスタキオンというウマ娘を。
あぁ、昔の私なら想像もしなかっただろう。レースに前向きに挑む自身の姿を。私にとってレースとは自身の研究の成果を試す試験場。データを測り、自分の糧とする過程でしかないと思っていた。
しかし、この数年でテイオー君を全力でサポートし、トレーナー君に全力でサポートされた。その中で私は気付いたんだよ、彼女等はレースの為に全身全霊で挑んでいるのだと。だからこそのレースでの輝き。想定したデータ以上の成果。それを間近で見てきたからこそ、私はこうしてレースに向き合える。出走するライバルたちを意識できるのだろう。
(私も彼等に毒されてしまったねぇ……けれど悪い気はしないよ)
感情論では速くは走れない。かならず要因となる何かがるのだと思っていた。データを取り、研究して数値化していく。理論で分かっても再現は出来なかった。けれど、テイオー君の菊花賞、天皇賞春、自身のデビュー戦を経て分かった。いくらデータを取って数値化しても、どれだけ理論を展開しようが感情は完全にコントロール出来るものではない。だから想いが大切なのだよ。自身を奮い立たせる感情、自身を一歩でも前に向かわせようとする感情、そういったものが詰まっているのだから。感情と理論、その両方を理解してこそ、私が望む先が見える。
「意外ですね。あなたがレースにそこまでの昂ぶりを見せるなんて」
「おや、カフェじゃないか。たしかに、君から見たら意外かもしれないねぇ。あの研究室もレースの研究のために使う機会も少なくなった」
カフェと共に使っている部屋はチームで使うには狭すぎる。個人的な研究と休憩のためにしか使っていないから、そういった一面を見せる機会はほとんど無かった。
「初めはすぐに戻ってくると思ってました」
「私だってそのつもりだったさ。だが、彼等は私に大きな影響を与えてくれたよ」
例え、データで私が君たちより優れていても。
「全力で勝負しようじゃないか!カフェ!」
それが、結果的に君たちを蹂躙するとしても。私はレースに全力で挑ませてもらおう。
「それにしても妬けちゃうな~。ボクの目の前で別の娘のことあんなにべた褒めするなんてさ~」
俺たちは結局、ジャングルポケットたちから少し離れたところに座っていた。そして、テイオーにさっきのことで、このこのっと肘内をくらっている。
「まぁ~気持ちはわかるけどね……元々強かったけど、今年に入ってからはタキオンの成長速度凄かったもん」
「テイオーもそう思うか?」
「得意な距離も脚質もタキオンと似てるからボクでも分かるよ。菊花賞は厳しいレースになると思うけど、皐月賞とダービーの二冠はタキオンが取れると思うな。ポッケって娘も十分強いと思うよ。年によっては三冠もあったかもしれないけど……」
テイオーの言う通り、ジャングルポケットは強者だ。しかし、現段階ではタキオンと並ぶほどじゃない。
「やっぱ、タキオンだけレベルが違うかな」
テイオーの視線の先にはゲートインするタキオンの姿があった。
間もなくして、レースは始まり……タキオンの完勝で終わった。
(あぁ、胸の高鳴りが治まらない)
レース運びは順調だった。結果的に完勝でレースを終えることできた。だが、レース中に感じる一着を取るという想い。私に勝つという想い。そういったものがピリピリと伝わってきた。だからこそ、私は最後まで全力で走り切った。
そして、全力で走り切りこうなる可能性があったことも分かっていた。ゴール後の彼女らの多くは私を見て絶望していた。
私もテイオー君のように、メジロマックイーンやナイスネイチャといった存在が居たら。更にその先を見ることが出来たのでは無いかと一瞬思った……が、直後その考えは散った。
(カフェ……やはり君は素晴らしい。一刻も早くここまで登ってきてくれ)
カフェの視線は獣の様に鋭く私を捉えていた。どこか妬ましいそうに、次は私が勝つんだと宣言しているように。
(そうだ良い手があるじゃないか)
「とんでもないスピードだったな」
「調子も良さそうだったもんね~」
そんな話をしながら、チラッとジャングルポケットの様子を見た。呆然とレース場を見ていたが、少ししてから表情を変えてフジの手を取った。
「帰りましょうフジさん!」
「おっとっと、急にどうしたんだいポッケ」
「もっと鍛えないと、このままじゃタキオンに勝てねえ……」
「分かったから!だからそんなに引っ張らないでくれよー!」
その時のポッケの目には、タキオンに勝つという強い意志が宿っているように見えた。タキオンの圧倒的な強さを見てなお、勝つ為に行動を起こした。
(タキオンはとんでもないもんを目覚めさせたかもな……)
これからタキオンの脅威になるであろう存在を見て俺の弥生賞は幕を閉じた。
タキオンのキャラが本編と大分違う感じになっちゃいました。
個人的にはこういうのは好きなんですけど解釈違いがあるとは思います()