トウカイテイオーと帝王を目指す 【完結】   作:Tmouris_

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ちょっと長め


第38話:運命

 最近のトレーニングは、熱の入り方が違う。

 タキオンは日本ダービーに向けて。テイオーは宝塚記念の復帰戦。デジタルはNHKマイルCに向けて頑張っている。お互いがその空気にあてられて高め合ってる。

 

「デジタル、芝の走りもかなり仕上がってきたな」

「タキオンさんにテイオーさんが頑張っているのに、デジたんも負けてはいられません!お二人とトレーニングできるのが幸せしゅぎて……」

 

 デジタルはここ最近、レースの観戦に同行していない。レースを観察するのはテレビだったり、録画を見返している。タキオンの調子の確認も現地に行けない分、前日に念入りにしているとか。

 

「無理して怪我したりするなよ~」

「もちろんです!」

 

 そんな、軽いやり取りをしていた直後の事だった。ズサー!っと大きな音がグラウンドに響いた。

 嘘だろ……脚の状態は完璧だった。トレーニング前にだってしっかりと確認をした。それなのに!

 俺の視線の先には、脚を抑えて倒れ込んだテイオーが居た。すぐにテイオーのもとに駆け寄って、脚の状態を確認する。

 

「くそっ!タキオン!急いで救急車を呼んでくれ!デジタルは応急処置の手伝いを頼む!」

 

 明らかに普通じゃない脚の腫れ方をしてる。下手したら骨に問題があるかもしれない!

 テイオーは脚の痛みに耐えられず、言葉が出ずに唸っている状態だ。ここまでの痛みとなると……

 

「デジタル!テイオーの脚を固定して冷やす!脚を持っていてくれ!」

 

 詳しい診断までは出来ない。けど、俺もデジタルもスポーツ医学を学んだ身だ。今の状態が異常なのは分かる。

 応急処置を終えて、テイオーが救急車に運ばれたことを確認し、俺たちも急いで病院へと向かった。

 

 

 

「折れています。骨折ですね……」

「そんな、バカな……」

 

 俺とテイオーが聞くことになったのは、衝撃すぎる診断だった。症状から見て可能性は高かった。でも、そんなわけがないと思いこんでいた。

 

「三度目の骨折です。医療に関わる身としてはこれ以上、走ることをおススメできません……癖になって再び骨折してしまうリスクが高いんです」

 

 先生の言う通り、骨折は複数回経験すると、折れやすくなる。リスクが上がる……それは分かっているんだ……

 俺が思い詰めていると、テイオーが俺の袖を引っ張る。テイオーの方を振りむくと、彼女はいつも通りの明るい笑顔で口を開いた。

 

「大丈夫!ボクは走るよ」

 

 その表情からは考えられないほど、テイオーの手は震えていた。テイオーは怖いんだろう……それでも、自分に発破をかけている。そうしないと、テイオーは折れてしまいそうなんだ。

 

「そうだな。もう一度走れるさ」

 

 俺はテイオーの頭撫でた。彼女に不安を悟られないように。

 気が気じゃなかったんだ。再び骨折してしまうよりも、もっと恐怖すべき考えが俺によぎったからだ。タキオンの話した仮定が俺の中で確信に変わろうとしている。

 

 

 

「トレーナーさん!テイオーざんは大丈夫なんでずがああ!」

「あぁ、とりあえず大丈夫だ。直らない骨折でもなかったよ」

 

 デジタルはそれを聞くと「よがっだあああ!」と泣き崩れてしまった。それを支えて、椅子に座らせる。

 そして、タキオンの方を見ると、何か言いたげにこちらを見ていた。

 

「タキオン、話があるんだ」

「あぁ、私も丁度君に話したいことがあったところさ」

 

 場所を移して、タキオンと二人きりで話をすることにした。

 

「単刀直入に聞く。テイオーはこれからどうなると思う」

 

 俺がそう言うと、タキオンは目を一瞬細めて語り始めた。

 

「そうだねぇ、現実的な話をすれば、骨折は直ってもう一度走ることができる。イップスなどに悩まされる可能性はあり得るがね」

 

 タキオンはそう言い切ったあと、「けれど」と付け加えて。

 

「君が聞きたいのはそういう事ではないのだろう?彼女の運命の話をしようか」

 

 ゆらりと壁に腰を預けて、タキオンは続きを話始める。

 

「今回の骨折は、今までの比較にならないほどイレギュラーなものだ。本来なら骨折しない……いや、走っているだけじゃ骨折のしようがない状態だった」

「そうだ、テイオーの脚は健康そのものだった。前回の怪我も完治して残っていなかった。検査も万全を期して行ったはずだ」

 

 それでも、今回の骨折は起こった。おこりえないはずだったのに。

 

「きっと、トウカイテイオーというウマソウルの運命なのだろう。彼女は三度骨折をして、宝塚記念には出走できない……そういう運命」

「なら!テイオーの努力は無駄だったのか!?俺たちのしてきたことは!」

 

 運命という理不尽。理解できない現象への困惑。それを受け止められずに、俺はタキオンに訴えかけた。

 

「無意味ではないさ。彼女が努力しなければ、君が彼女を支えなければレースで活躍することはなかっただろう。だが、レースで活躍してしまったからこそ、トウカイテイオーというウマは運命という軌道に乗ってしまった」

 

 そんなの、俺たちじゃ防ぎきれないじゃないか……

 俺は膝から崩れ落ちた。力が入らず、立ち上がる気力も湧かない。

 

「これから……テイオーはどうなるんだ」

「それは分からないさ。運命とは可視化できるものじゃあない。もしかしたら、骨折から復帰後、なにも問題なくレースに出走できるかもしれないし、もう一度同じことが起きるかもしれない。トウカイテイオーと言うウマソウルの運命はここで終わりで、走ることが叶わないかもしれない」

 

 タキオンのその言葉に、俺は何も言えなかった。あるかもしれない無限の可能性ではなく、確かに決まった運命。でも、それを可視化できない……その不安に向き合えなかった。

 

 その後は、タキオンとデジタルを寮まで送った。タキオンは何かを考えるように、デジタルはいつものように、俺は普通を装って不安を隠した。

 その日の夜、考えるべきことは沢山あったが、考えがまとまらず、気が付いたら眠りについていた。

 

 次の日から、チームの様子はおかしくなっていった。傍からみたらいつも通りかもしれない。それでも、たしかな違和感がそこにある。

 

「おい!デジタル。そのメニュー今ので終わりだぞ!」

「ありゃりゃ!デジたんとしたことがすみません……」

 

 デジタルがペースを間違えたり、トレーニングメニューをしっかり把握できてなかったり。明らかな不調だ。

 俺も、テイオーのことが不安で仕方がなかった。けど、それを隠して、いつも以上に慎重に二人を見ていた。デジタルのフォローもできる限りのことをしたし、テイオーの面会にも頻繁に訪れた。もちろん、タキオンの研究にも付き合った。

 

 それでも、ダメだった……

 

「すいません……トレーナーさん」

「いや、デジタルが不調なのは分かってた。それを考慮した上でサポートするのがトレーナーの仕事だ。むしろ善戦したほうだ」

 

 デジタルはNHKマイルCで7着。1着をとるポテンシャルは既にあったが、調子というものはどうしても付きまとう。不調の中でこの順位なら善戦したと言える。

 

(やっぱり無理なのか……)

 

 この結果を見て、どうしても"運命"という言葉がちらつく。この結果も、全てアグネスデジタルの運命なんじゃないかと。

 その日から、明らかにチームの活気は薄れていった。トレーニングはしているのに、どこか無気力で。唯一、タキオンだけが何かを考えてトレーニングに臨んでいたのかもしれない。

 

 

「タキオン、脚は大丈夫か?異常はないか?」

 

 遂にダービーまで1週間。タキオンの調子や脚の状態をこれでもかってくらい確認した。多分……無意識にテイオーの骨折のことを考えていたからだと思う。

 しかし、タキオンはそのたびに「安心したまえ」とか「大丈夫だとも」と軽く受け流すだけだった。

 そして、ダービー前日の放課後の事だった。

 

「トレーナー君。少しお茶に付き合っておくれよ」

 

 タキオンからお茶に誘われた。彼女もダービーという大舞台を前に緊張しているのだろう。そう思って、素直に紅茶を受け取った。

 

「覚えているかい。私たちのチームが最初どのようなものだったか」

 

 紅茶を一口飲んでから、タキオンは静かに口にした。

 

「忘れないよ。互いに利用し合う関係。目的の為に集まったチームだったな」

「私もデジタル君も、君のチームはとても都合が良かったからね。だが、色々なことがあった」

 

 彼女は窓の外の夕日を眺めていた。その表情は普段のタキオンからは感じられない、切なさと……それでいて力強さを感じる。

 

「このチームが今の形になれたのは、まさに君が私達3人と向き合い続け、努力した証明とも言える」

「タキオンが俺のことをそんなに褒めるなんて珍しいな。何かやらかしでもしたか?」

 

 俺の冷やかしを聞きもせずに、タキオンは話を続ける。

 

「私は君から多くを受け取った。だから、今度は私が君に授けるとしよう……未来への可能性を」

「タキオン?一体何言って……」

 

 あれ……?意識が朦朧と……

 

「君なら分かってくれるだろう……明日の私の付き添いはデジタル君に頼んである。彼女には必要な刺激だろうからね……だが、君はゆっくりとここで見るといい」

 

 それを聞いたのを最後に、俺の意識は完全に暗闇に落ちた。

 

 

 次に目を覚ました時には、既に日が昇っていた。目の前に時計があったので急いで確認すると、ダービーの出走まで時間がなかった。俺は混乱したが、時計の下にあった、「トレーナー君へ」という手紙を見つけて、落ち着きを少しだけ取り戻した。

 その手紙はタキオンから俺に宛てられたものだった。

 

『やぁ、君がこの手紙を読んでいるという事は、しっかりと紅茶に入れた睡眠薬が効いたみたいだね?君の身体データを元に、ダービー出走前に起きるように量は調整しておいたよ。それに、最近疲れているようだから、疲労回復効果のオマケ付きだ。感謝したまえ』

 

 たしかに、昨日に比べて体の疲労が大分取れている。

 

『前置きはさておき。本題に入ろうか。私たちが話したように、ウマ娘にはウマソウルという、別の世界の魂が宿っている。そして、その運命に私たちは縛られていると言ってもいい。実際に、私は皐月賞にそれを感じた。皐月賞というレースへの執着。レース中に感じた違和感。それら、全てがアグネスタキオンというウマソウルの運命だったのだろう。皐月賞に出走し、1着のとあるタイムでゴールする。そして、私のレース人生が終わる。きっと、それが私の運命だった。しかし、私は君たちに出会っていた。多くを与えられ、多くを経験した。それは、ウマソウルであるアグネスタキオンが持っているものでは無い。この世界のウマ娘としてのアグネスタキオンが得たものだ。それ故に、私はこの世界の理の中に生きている。君の努力と私の想い。それが、アグネスタキオンという運命から解き放たれた。きっと、気づかなかっただけで、テイオー君にもそういう瞬間があったのだと思う。だが、前にも言ったように、運命は可視化出来ない。それ故に証明出来ない。だから、私たちのチームに相応しい証明をしよう。私たちの積み重ねに意味があったのだと。情熱的で諦めの悪さが君の強さじゃないのかい?』

 

 手紙を読み終えて、テレビをつけると、ゲートインは済んでいて、スタートする直前だ。

 

 

 レース展開は順調。タキオンのポジション取りは完璧だ。このまま行けば、問題なくダービーに勝てる。

 

(運命は可視化出来ない……か)

 

 そうだ、見えないものを気にしても仕方がない。俺はテイオーに走って欲しい。

 結果が運命で決まってる?ふざけんな。あるのは無限の可能性だけだ。俺たちは見てきたじゃないか。データ以上の力を見せるウマ娘たちを。

 

 レースは終盤。このタイミングでタキオン、ジャングルポケット、ダンツフレームの3人が仕掛ける。

 予め集めたデータじゃ、2人はタキオンに勝てない。だけど、そんなものでレース結果は決まらない。

 

(俺たちらしいやり方ね……)

 

 ラストスパートで、ジャングルポケットとダンツフレームがついにタキオンに並んだ。3人の誰が勝ってもおかしくない状況。本来、ここで3人が並んでるはずじゃなかったのに。

 見ているこっちが手に汗握る展開だ。たった1歩、速く脚を動かした方が勝つ。そんなギリギリな勝負。

 タキオンが1歩前に出る。それに対抗するようにジャングルポケットも前に。ダンツフレームも必死に食らいついている……

 結果は、ジャングルポケットとタキオンが同着で1位。

 

(タキオン……これがお前の証明なんだな)

 

 俺の中で、消えかけた炎が再び燃え上がるように熱い。やるべきことも、出来ることもいくらでもある。こんな所で立ち止まってる暇はない。

 

 

 

「あぁ……僕はもう……こんな風に走れないんだ……」




少し駆け足気味で許して欲しいです……
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