トウカイテイオーと帝王を目指す 【完結】   作:Tmouris_

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第39話:挫折

 ダービーを見てから、もう一ヶ月も経った。

 ボクは、無事退院して。今ではみんなと一緒に、少しずつトレーニングもしてる。脚はちゃんと動くけど、最近は走るのが少し怖い……タイムを見た時、脚に触れた時、誰かの走りを見た時。色んな場面で心がチクチク刺されるみたい。

 

 

「デジタル君!今日も絶好調じゃないか!もう少しデータを取らせてくれ!」

「はい!タキオンさんのお願いとあらば何度でもぉぉおお!!」

 

 タキオンはダービーの後に、ちょっとした怪我が見つかって、今はデジたんやボクのサポートばっかりしてる。……タキオンは前からそうだったや。

 

「テイオー?どうしたんだ、そんなぼーっとして」

「ううん。ボクも頑張らないとなって」

「無理はするなよ?治ったっていっても、病み上がりみたいなもんなんだから」

 

 トレーナーは、相変わらずボクに優しくしてくれる。トレーニングが終わっても、ボクのその日の様子を見て、次の日のトレーニングメニューを考えて。

 それなのに……ボクは惰性で続けてるだけ。トレーニングがない、レースに出ないっていうのがいまいち分からないから。

 

「ボク、大丈夫なのかな」

 

 デジたんの走りを見てたら、無意識に口に出た。

 

「大丈夫さ。テイオーは今でも最強のウマ娘だよ」

 

 前までは心強く感じた、トレーナーの一言も、今は胸に刺さように痛い。

 

(ボクは……どうしたいんだろう)

 

 きっと、みんな気付いてる。ボクがどんな言葉が欲しいか。でも……みんな、ボクが言うまではその言葉を言うことはないんだろうな。

 

 

 その日の夜、入院していた時のことを、ふと思い出した。

 

「テイオー。私は、今回の宝塚記念に、絶対勝利して見せますわ。そして、盤石の構えであなたを迎え撃つ」

「ネイチャさんはボチボチ頑張りますかね~。また、レースで一緒に走ろうね。テイオー」

 

 マックイーンもネイチャもボクを待ってる……でも、二人の横を一緒に走れない。

 

(もう……頑張れない)

 

 そうだ、トレーナーに正直に言えばいいんだ。トレーナーはボクに甘いし。高等部になってボクも成長した。たまに、トレーナーがボクを女の子として意識しちゃってるのもしってる。何より……トレーナーがボクのこと大好きだから。

 

 

 

「おいおい、こんなところに呼び出して二人きりなんて、愛の告白でもされるのか?」

 

 トレーナーはいつもみたいに笑ってる。ボクが河川敷の下に呼び出したことを、おちょくるみたいに。

 

「そうだよ」

 

 ボクのその一言で、トレーナーから笑顔が消えた。さっきまでのおちゃらけた雰囲気じゃなくて、真剣な顔でボクを見てる。

 

「テイオー、それ本気で言ってるのか」

「もちろんだよ!だって、トレーナーはすっごく良くしてくれるしさ。一緒に居て楽しいもん」

 

 誰かに好きなんて言ったことない。どう伝えるかとか、雰囲気とかは良く分かんなかった。でも、トレーナーなら受け入れてくれる。

 

「それに、トレーナーだってボクのこと大好きでしょ?」

 

 トレーナーが返事をしてくれない……どうして、照れてくれないの?どうして喜んでくれないの?

 

「ボクだって大人っぽくなったんだよ。身長も伸びたし。その……子供のままじゃないから」

「そうだな……テイオーは大きくなったよ。変わったと思う」

 

 いつもなら「バカ!大人をからかうな!」とか照れちゃうのに。ボクの告白を受け入れてくれてないみたい。

 

「だからさ、一緒にどっかで暮らさない?賞金だって残ってるし、トレーナーも結構稼いでるよね?ボクもその内働けるようになるし、家事も頑張るよ?トレーナーは頭いいから、何でも」

「テイオー……それは、レースから引退するってことだよな」

 

 あっそっか。引退するって伝えてなかった。だから、ちょっと混乱しちゃってたのかな。ボクが話してる途中に言われてびっくりしちゃった。

 

「そうだよ。あっでも、トレーナーはボクが走るの見るの好きだもんね!地方に行って、たまにレースに出たりするのもいいかも。そうればトレーナーも続けられるし、デジたんとかタキオンもついてきてくれるよ!」

 

 トレーナーはボクの提案を聞いて、悩んでる。

 そうだよね。お金のこととか生活のこととかもあるし。トレーナーはボクよりそういうのに詳しいから考えちゃうか。

 だから、トレーナーがこんなこと言うなんて、これっぽっちも想像してなかった。

 

「断る」

 

 真剣な表情で。視線を少しも動かさずに、ボクを見てる。

 どう……して?体が動かない。口が動かせない。どうしてって聞きたいのに聞けない……

 

「俺は、テイオーがもう一度走れると信じてる!」

 

 トレーナーは力強くボクに言った。

 しばらくの静寂が流れる。そして、再び「何より……」と悲しそうな顔で口を開いた。

 

「俺は……テイオーの、逃げる理由になりたくないんだ……」

 

 その言葉を聞いて、ボクは涙を流した。

 ボクは、トレーナーの好意を利用して逃げようとしたんだ……自分の想いもごちゃごちゃにして。

 でも……ボクは!

 

「もう頑張れないんだよ!走るのが辛いんだ!」

 

 

「みんなみたいに……走れないんだよぉ……」

 

「まだ、一緒に走ってない」

「無理だよ!三回目の骨折だよ!?怪我も続いたせいで、何カ月も走ってない!そんなんで、みんなと走れるわけない!」

 

 今もみんな努力してる。ボクに勝つって、マックイーンもネイチャも頑張ってる。

 

「走れる!」

「どうして!」

 

 なんで、トレーナーはそう言い切れるの……タキオンもデジたんも。誰一人ボクを疑わない……

 

「俺が、テイオーと一緒にここまで来たからだ」

 

 色んなことを思い出した。デビューまでのこと、皐月賞、日本ダービー、菊花賞、天皇賞、ジャパンカップ、有馬記念。それだけじゃない……チームのみんなとやってきたこと。

 

「でも……ボクは自分を信用できないよ……」

 

 今考えても、みんなに置いて行かれるイメージしかできない。一緒に横に並ぶライバルの自分が……

 

「俺たちが信じてる」

「でも、ニュースとか見てるから知ってるでしょ……みんな、ボクは終わったって」

 

 街を歩いててもお疲れさまとか、ファンでしたとか。終わったように言われる。過去のウマ娘なんだって思う。

 

「終わってない。それを証明して見せる」

「でも、ボク速く走れないかもしれないよ?ずっと遅いま」

「一回で横に並べなかったら、次は並べるようにチームでサポートする!それでも、ダメなら次の案を考える!そうやって俺たちは進んできた!」

 

 そっか、ボクたちは挑戦してきた。出来る出来ないとか関係なく、やりたいかやりたくないで挑戦してきた。

 

(ボクは……本当はやりたいんだ)

 

「それでも、どうしても無理だった時に初めて……今日の返事をするよ」

 

 それを聞いて、ボクは顔が熱くてたまらなかった。よく考えたら、ボクとんでもないこと言っちゃった!?告白というか、むしろプロポーズだよね!?

 

「ふん!そこまで言うならさ!ちゃんとボクが終わってないんだって証明も責任もってしてよね!」

「もちろんだ」

 

 そう言いながら、トレーナーは持ってたカバンから作りかけの一枚のチラシを取り出した。

 

「今月末にある夏のファン感謝祭でライブをしよう」

 

 

「2人は、今頃どうなってるかねぇ」

「タキしゃん!2人きりの河川敷って……そういうことですよ!?詮索しちゃダメですって!」

 

 タキオンさんと、テイオーさんのライブ計画と準備をしてるけど、デジたん的にもそれは気になるぅぅぅ。

 

「でも、これで良かったんでしょうか……」

 

 最近のテイオーさんは、明らかに様子がおかしかったし、トレーナーさんもタキオンさんも気付いてた。最初、それに触れようとした時にタキオンさんに止められちゃったし……

 

「大丈夫さ。それに、デジタル君もそう思うから、開催も決まってないライブの準備をしてるんだろう?」

「それはそうですけど~!」

「どちらにせよ、これからも走るなら、これはテイオー君が乗り越えるべき壁だよ。それは、私たちの役目じゃない」

 

 目の前に苦しんでるウマ娘ちゃんがいるのに、何も出来ない日々は、デジたんにとっては地獄にも等しい日々でした……

 

「それに、君も自分の心配をしたまえ。最近調子が良いとはいえ、上を目指すなら慢心はいけない」

「慢心なんてしませんとも!全身全霊!ウマ娘ちゃんには敬意をもってレースに挑んでいますから!」

 

 恐縮ながら、先日のレースではレコードタイムを出してしまったデジたんですが。それも、ウマ娘ちゃんの存在あってこそ!……トレーナーさんたちの存在も大きいですけど。

 

「テイオー君は、戻ってくる前提でいいだろう。不本意だが、2人の関係値はそれだけ高いからねぇ」

「本当、不本意ですね」

 

 言葉とは裏腹に、2人の口元には思わず笑みが浮かんだ。

 

 負けたような、誇らしいような……

 

 きっとこれが、私たちがトレーナーさんとテイオーさん……このチームを好きになった理由なんだろうなぁ。




前話での感想ありがとうございます!不定期更新で長い間投稿してなかったのに感謝しかないです……
今回は気合い入れて書いたので、もし面白かったら感想評価お待ちしてます。
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