トウカイテイオーと帝王を目指す 【完結】 作:Tmouris_
ダービーを見てから、もう一ヶ月も経った。
ボクは、無事退院して。今ではみんなと一緒に、少しずつトレーニングもしてる。脚はちゃんと動くけど、最近は走るのが少し怖い……タイムを見た時、脚に触れた時、誰かの走りを見た時。色んな場面で心がチクチク刺されるみたい。
「デジタル君!今日も絶好調じゃないか!もう少しデータを取らせてくれ!」
「はい!タキオンさんのお願いとあらば何度でもぉぉおお!!」
タキオンはダービーの後に、ちょっとした怪我が見つかって、今はデジたんやボクのサポートばっかりしてる。……タキオンは前からそうだったや。
「テイオー?どうしたんだ、そんなぼーっとして」
「ううん。ボクも頑張らないとなって」
「無理はするなよ?治ったっていっても、病み上がりみたいなもんなんだから」
トレーナーは、相変わらずボクに優しくしてくれる。トレーニングが終わっても、ボクのその日の様子を見て、次の日のトレーニングメニューを考えて。
それなのに……ボクは惰性で続けてるだけ。トレーニングがない、レースに出ないっていうのがいまいち分からないから。
「ボク、大丈夫なのかな」
デジたんの走りを見てたら、無意識に口に出た。
「大丈夫さ。テイオーは今でも最強のウマ娘だよ」
前までは心強く感じた、トレーナーの一言も、今は胸に刺さように痛い。
(ボクは……どうしたいんだろう)
きっと、みんな気付いてる。ボクがどんな言葉が欲しいか。でも……みんな、ボクが言うまではその言葉を言うことはないんだろうな。
その日の夜、入院していた時のことを、ふと思い出した。
「テイオー。私は、今回の宝塚記念に、絶対勝利して見せますわ。そして、盤石の構えであなたを迎え撃つ」
「ネイチャさんはボチボチ頑張りますかね~。また、レースで一緒に走ろうね。テイオー」
マックイーンもネイチャもボクを待ってる……でも、二人の横を一緒に走れない。
(もう……頑張れない)
そうだ、トレーナーに正直に言えばいいんだ。トレーナーはボクに甘いし。高等部になってボクも成長した。たまに、トレーナーがボクを女の子として意識しちゃってるのもしってる。何より……トレーナーがボクのこと大好きだから。
「おいおい、こんなところに呼び出して二人きりなんて、愛の告白でもされるのか?」
トレーナーはいつもみたいに笑ってる。ボクが河川敷の下に呼び出したことを、おちょくるみたいに。
「そうだよ」
ボクのその一言で、トレーナーから笑顔が消えた。さっきまでのおちゃらけた雰囲気じゃなくて、真剣な顔でボクを見てる。
「テイオー、それ本気で言ってるのか」
「もちろんだよ!だって、トレーナーはすっごく良くしてくれるしさ。一緒に居て楽しいもん」
誰かに好きなんて言ったことない。どう伝えるかとか、雰囲気とかは良く分かんなかった。でも、トレーナーなら受け入れてくれる。
「それに、トレーナーだってボクのこと大好きでしょ?」
トレーナーが返事をしてくれない……どうして、照れてくれないの?どうして喜んでくれないの?
「ボクだって大人っぽくなったんだよ。身長も伸びたし。その……子供のままじゃないから」
「そうだな……テイオーは大きくなったよ。変わったと思う」
いつもなら「バカ!大人をからかうな!」とか照れちゃうのに。ボクの告白を受け入れてくれてないみたい。
「だからさ、一緒にどっかで暮らさない?賞金だって残ってるし、トレーナーも結構稼いでるよね?ボクもその内働けるようになるし、家事も頑張るよ?トレーナーは頭いいから、何でも」
「テイオー……それは、レースから引退するってことだよな」
あっそっか。引退するって伝えてなかった。だから、ちょっと混乱しちゃってたのかな。ボクが話してる途中に言われてびっくりしちゃった。
「そうだよ。あっでも、トレーナーはボクが走るの見るの好きだもんね!地方に行って、たまにレースに出たりするのもいいかも。そうればトレーナーも続けられるし、デジたんとかタキオンもついてきてくれるよ!」
トレーナーはボクの提案を聞いて、悩んでる。
そうだよね。お金のこととか生活のこととかもあるし。トレーナーはボクよりそういうのに詳しいから考えちゃうか。
だから、トレーナーがこんなこと言うなんて、これっぽっちも想像してなかった。
「断る」
真剣な表情で。視線を少しも動かさずに、ボクを見てる。
どう……して?体が動かない。口が動かせない。どうしてって聞きたいのに聞けない……
「俺は、テイオーがもう一度走れると信じてる!」
トレーナーは力強くボクに言った。
しばらくの静寂が流れる。そして、再び「何より……」と悲しそうな顔で口を開いた。
「俺は……テイオーの、逃げる理由になりたくないんだ……」
その言葉を聞いて、ボクは涙を流した。
ボクは、トレーナーの好意を利用して逃げようとしたんだ……自分の想いもごちゃごちゃにして。
でも……ボクは!
「もう頑張れないんだよ!走るのが辛いんだ!」
「みんなみたいに……走れないんだよぉ……」
「まだ、一緒に走ってない」
「無理だよ!三回目の骨折だよ!?怪我も続いたせいで、何カ月も走ってない!そんなんで、みんなと走れるわけない!」
今もみんな努力してる。ボクに勝つって、マックイーンもネイチャも頑張ってる。
「走れる!」
「どうして!」
なんで、トレーナーはそう言い切れるの……タキオンもデジたんも。誰一人ボクを疑わない……
「俺が、テイオーと一緒にここまで来たからだ」
色んなことを思い出した。デビューまでのこと、皐月賞、日本ダービー、菊花賞、天皇賞、ジャパンカップ、有馬記念。それだけじゃない……チームのみんなとやってきたこと。
「でも……ボクは自分を信用できないよ……」
今考えても、みんなに置いて行かれるイメージしかできない。一緒に横に並ぶライバルの自分が……
「俺たちが信じてる」
「でも、ニュースとか見てるから知ってるでしょ……みんな、ボクは終わったって」
街を歩いててもお疲れさまとか、ファンでしたとか。終わったように言われる。過去のウマ娘なんだって思う。
「終わってない。それを証明して見せる」
「でも、ボク速く走れないかもしれないよ?ずっと遅いま」
「一回で横に並べなかったら、次は並べるようにチームでサポートする!それでも、ダメなら次の案を考える!そうやって俺たちは進んできた!」
そっか、ボクたちは挑戦してきた。出来る出来ないとか関係なく、やりたいかやりたくないで挑戦してきた。
(ボクは……本当はやりたいんだ)
「それでも、どうしても無理だった時に初めて……今日の返事をするよ」
それを聞いて、ボクは顔が熱くてたまらなかった。よく考えたら、ボクとんでもないこと言っちゃった!?告白というか、むしろプロポーズだよね!?
「ふん!そこまで言うならさ!ちゃんとボクが終わってないんだって証明も責任もってしてよね!」
「もちろんだ」
そう言いながら、トレーナーは持ってたカバンから作りかけの一枚のチラシを取り出した。
「今月末にある夏のファン感謝祭でライブをしよう」
「2人は、今頃どうなってるかねぇ」
「タキしゃん!2人きりの河川敷って……そういうことですよ!?詮索しちゃダメですって!」
タキオンさんと、テイオーさんのライブ計画と準備をしてるけど、デジたん的にもそれは気になるぅぅぅ。
「でも、これで良かったんでしょうか……」
最近のテイオーさんは、明らかに様子がおかしかったし、トレーナーさんもタキオンさんも気付いてた。最初、それに触れようとした時にタキオンさんに止められちゃったし……
「大丈夫さ。それに、デジタル君もそう思うから、開催も決まってないライブの準備をしてるんだろう?」
「それはそうですけど~!」
「どちらにせよ、これからも走るなら、これはテイオー君が乗り越えるべき壁だよ。それは、私たちの役目じゃない」
目の前に苦しんでるウマ娘ちゃんがいるのに、何も出来ない日々は、デジたんにとっては地獄にも等しい日々でした……
「それに、君も自分の心配をしたまえ。最近調子が良いとはいえ、上を目指すなら慢心はいけない」
「慢心なんてしませんとも!全身全霊!ウマ娘ちゃんには敬意をもってレースに挑んでいますから!」
恐縮ながら、先日のレースではレコードタイムを出してしまったデジたんですが。それも、ウマ娘ちゃんの存在あってこそ!……トレーナーさんたちの存在も大きいですけど。
「テイオー君は、戻ってくる前提でいいだろう。不本意だが、2人の関係値はそれだけ高いからねぇ」
「本当、不本意ですね」
言葉とは裏腹に、2人の口元には思わず笑みが浮かんだ。
負けたような、誇らしいような……
きっとこれが、私たちがトレーナーさんとテイオーさん……このチームを好きになった理由なんだろうなぁ。
前話での感想ありがとうございます!不定期更新で長い間投稿してなかったのに感謝しかないです……
今回は気合い入れて書いたので、もし面白かったら感想評価お待ちしてます。