トウカイテイオーと帝王を目指す 【完結】 作:Tmouris_
テイオーのライブ準備は、想像以上にドタバタして、俺たちだけじゃ回らなくなっていた。
「本当に助かりましたよ。東条さんにルドルフ」
「いいのよ。うちの準備はほとんど終わってるから」
「私たちは、感謝祭のノウハウもある。企画はデジタル君の物で、修正もほとんど必要なかったからね」
このままじゃ間に合わないと思って、東条さんに頼み込んだ。すると、二つ返事で了承してくれて、チームリギルのみんなが手伝ってくれている。
「何より、あんたがお願いをしてくるなんて珍しいもの」
「トレーナーと同意見だ」
言われてみれば、リギルから独立して、東条さんに助けを求めることはほとんどなかったな。
現場を見ながら、三人で話していると、機材を持ったテイオーが、俺たちの方に駆け寄ってきた。
「もう!何でボクのライブなのにこんなボクが頑張らないといけないのさ!」
相当ご立腹なようで、テイオーがその場で地団駄を踏んでる。
「本当にすまん!猫の手でも借りたいぐらいなんだ。それが終わったらライブの練習に行っても大丈夫だから!」
手を頭の前で合わせて、俺は頭を下げた。
あんな啖呵を切っておいて恥ずかしすぎる!企画なんかはすぐに終わったし、宣伝、告知も問題なかった。けど、設営ばっかしは人手がいるんだ……
「これで、ボクのライブ失敗しましたなんて許さないからねぇ!」
走りながら、テイオーはそう言い残していった。
「ありゃりゃ、これは失敗は許されませんな~」
「テイオーの華々しい再スタートのため、わたくしも精一杯協力します」
「ナイスネイチャにメジロマックイーン……君たちもありがとう」
この二人は、テイオーの愚痴を聞いて、手伝いに来てくれた。ぜひ、自分たちも協力させてほしいとのことだった。
「お気になさらず~」
「わたくしも宝塚記念を終えて、時間がありましたから」
二人は軽く会釈すると、作業に戻って行った。他にも、ちらほらテイオーの同級生が手伝ってくれている。
ついでに、一般の男性二人組から、大量の飲み物の差し入れがあって、作業中の熱中症予防は万全だとかなんとか。
「テイオーは……良い仲間を持ったな」
「あぁ。競い合い支え合う。いい仲間だよ」
ルドルフのテイオーを見る視線は、嬉しそうなのに……どこか羨ましそうだった。
ファン感謝祭当日。控室で、ライブの最終打ち合わせをしていた。
「とりあえず、全体的な流れはこんな感じだけど、気になることはあるか?」
「大丈夫。そういえば、今日一日デジたんとタキオン見てないけど。二人は何してるの?」
「あ~二人にはちょっとした演出の準備をしてもらってる」
このライブは、テイオーがまだ終わっていない証明をする舞台。そのために、二人には朝から動いてもらっている。
「まずは、俺から行かせてもらうよ」
沈黙が流れた。俺の言葉の意味が分からなくて、テイオーがフリーズしてる。
しかし、すぐに意識を取り戻して、てんぱりながら。
「待ってトレーナー!そんなのライブの予定にないよね?カイチョーとかには言ってあるの!?」
「言ってない言ってない。こんなん言ったら拒否られるに決まってるし」
ルドルフは、聞いたら拒否しなきゃいけない。それは彼女個人がどう思うかは関係ない。トレセン学園の生徒会長として、判断を下さないといけないからだ。
後ろから「ちょっと待ってよー!!」という、テイオーの声をスルーして、俺はステージに上がった。
テイオーではなく、トレーナーがステージに上がって来たことに、観客も運営もざわついていた。
「トウカイテイオーのトレーナーの東海だ。今日はテイオーのファンに聞きたいことがある」
瞬間……校舎の方から七色の閃光が走る。
『やぁやぁ!みんなファン感謝祭を楽しんでいるかい?今のはほんの余興だよ』
校内放送でタキオンの声が響く。「おい!放送室はどうなってる!」とエアグルーヴも、焦った様子で状況を確認している。
『今から、もっと素晴らしいものを披露してみせようじゃないか!場所は……生徒会室とライブ会場とかかがいいかな。デジタル君はどう思う?』
『ちょっと、タキオンしゃん!?私は放送を乗っ取るだけでいいって!』
あ~デジタルもなんだかんだ生徒会に目を付けられてたから、その辺気にしてはいたのか。
『それでは、気にせずファン感謝祭を楽しんでくれたまえ!なに!危害が及ぶようなことはしないさ!待っているよ、生徒会諸君!』
その言葉を最後に、校内放送は途切れた。エアグルーヴ率いる生徒会メンバーは、既に動き出しており。校内放送が終わって、ルドルフがメガホンを取り出した。
「すまない。生徒が少々浮かれてしまったらしい。私たち生徒会は、少々席を外すが気にせず続けてくれ」
視線が痛い。トーンも軽いはずなのに、凄い重く聞こえる……事情は分かったけど、お前あとで覚えとけよって目をしてる。
生徒会が会場を離れたのを確認して、もう一度俺は観客に問いかける。
「世間じゃ、テイオーは"終わった"なんて言われてる。メディアも好き放題に引退なんて口にする……」
会場に沈黙が走る。ここにいるテイオーのファンみんなが、少なからず同じ不安を抱えているだろう。テイオーはもう復帰しないんじゃないか、諦めてしまうんじゃないかって。
「けど、テイオーは今も諦めず頑張ってる!テイオーが終わってなんかないって。今日のライブでそう思ってもらえると嬉しい。
言うべきことは言った。あとは、お前次第だ。まだ、終わってないんだってお前とファンで証明してやれ。
マイクをテイオーに渡して、ステージを下りた。
(トレーナーはずるいなぁ……)
あんなこと言われたら、頑張らないわけにいかないじゃん。
それでも、ステージの真ん中に立つと、ボクはみんなの顔が見れなかった。不安な顔で、諦めた顔してたらどうしようって。そう思うと、視線を上げられない。
でも、聞き覚えのある声が、ボクに自然と前を向かせてくれた。
「テイオーさん!私待ってます!また、テイオーさんが走ってくれる日を!」
それを皮切りに、観客のみんなが声を上げる。
「まだ負けてない!」
「これは勝ちの途中ですわ!」
「テイオーしゃーーーーん!」
ボクを認めてくれる。応援してくれる。期待してくれる……まだ、みんなが待ってる。
「もう、しょうがないなぁ……みんなボクのこと大好きなんだからさぁ」
声が震える。今にも泣いちゃいそう……それでも。まだ、ボクは終わってないんだって。みんなに伝えないと。
「みんな、見てて。ボクまだ頑張るから!」
ライブは大成功に終わった。観客のみんながテイオーの復活を疑ってない。どこのだれかが、終わったなんて言ってても知るか。こんなにも、テイオーを信じてくれるファンがいるんだから。
「ライブ成功してよかった。生徒会としても、私個人としても嬉しいかぎりだよ」
「あはは……感謝祭を盛り上げられたならうれしい限りデス……」
俺、タキオンとデジタルの三人は、ルドルフの前に正座で並んばせられた。
喜んでくれたなら、その凍り付きそうな冷ややかな目は止めてほしいなぁ……
「盛り上げてくれた分、しっかりと反省と始末書を書いてもらうことにはなるがね……!」
「みんなしょうがないな~ボクも手伝うから、後始末はしっかりしないとね」
ファン感謝祭終了後、タキオンが使った薬品の片付けや、汚した部屋の掃除を生徒会から言い渡された。その上、反省文に始末書まで書かされて、余韻に浸る暇もなかった……
けど、俺たちは、この日を境に力強く一歩を踏み出した。