トウカイテイオーと帝王を目指す 【完結】 作:Tmouris_
ここまで付き合ってくれてありがとうございます。
先日の天皇賞秋を終えて、11月の頭。テイオーが、「ボク、有馬記念に出る」と言い出した。それを受けて、俺は緊急ミーティングを開きチーム全員を集めた。
「約一年ぶりの復帰戦……それにG1。しかも、有馬記念を選ぶとは思わなかった。メジロマックイーンと何かあったか?」
天皇賞秋の前に、繋靭帯炎を発症し、メジロマックイーンの復帰は絶望的と言われているらしい。
これは、感情的問題じゃない……繋靭帯炎は無理をすれば日常生活にも影響が出る。治ったとしても、再発率が他の怪我に比べて非常に高い。
テイオーが昨日、メジロマックイーンに会いに行ったあと、ずぶ濡れで俺のところに来て事情を説明してくれた。そして、「マックイーンは、どんな時でも、ボクの最強のライバルでいてくれた。だからさ、今度はボクの番なんだよ」と有馬記念の出走を宣言したんだ。
テイオーの骨折も再発率は高い。だが、繋靭帯炎はそういうレベルの怪我じゃない。それも、テイオーは分かってる。だから、有馬記念という最強の舞台を選んだのか。
そうすることで、諦めないこと。メジロマックイーンを最強の自分で待ち続けることを証明するために。
「それもあるし、ボクを待ってるファンがいっぱいいるからね~」
まるで照れ隠しでもするような、からかうような笑顔。けど、そこからはファンに対する感謝が滲み出てる。
「ならば、私たちも有馬記念に出走するとしよう」
静かに話を聞いていたタキオンが、紅茶を置いて、有馬記念出走登録用紙を二枚取り出した。
一枚はタキオンの出走用紙。じゃあ、あと一枚は……
「タキオンだけじゃなくてデジタルも出走するのか!?」
夏には、ジャパンDダービーで一着を取り、天皇賞秋では、世紀末覇王テイエムオペラオーをも下した。世間では勇者とも言われてる……らしい。
デジタルがテイオーから話を聞いて、あらかじめ、タキオンと話を合わせて準備してたなこれは。
「むむむ!テイオーしゃんとマックイーンしゃんの推せるカプ……その間に割って入るのは、とても心苦しい!」
あ、やっぱり、デジタルは勇者は勇者でも変態勇者だな。
妄想で暴走しかけたデジタルだったが、「でも」と平常心に戻る。
「テイオーさんは、普通の有馬記念で一着を取っても、最強と胸を張れないじゃないですか」
少し恥ずかしそうに、人差し指をくるくる回しながら視線を落とした。
その発言は、例年、有馬記念に出走する強者たち以上に、自分がテイオーの壁にふさわしいと言ってるようなものだ。
普段、他のウマ娘を尊重するのに……そこまで覚悟を決めてるってことか。
「私もデジタル君と同意見さ。普通の舞台じゃ帝王を示すには相応しくない。それに、ポケット君やカフェにも絡まれて私も苦労していてね。この辺りで勝負に一区切り付けようと思ってね」
タキオンもダービー以降は怪我でレースに出走していないが、クラシック二冠を成し遂げている。そのレースで、ファンは大きな衝撃を受けた。未だに人気投票でも上位。有馬記念への出走条件は満たしている。
デジタルも、ダートと芝の両方成績を残している。先日の天皇賞秋では、世紀末覇王テイエムオペラオーをやぶたと話題になり、ファン投票ではタキオン以上に票を獲得している。
「ということらしいが、テイオーどうする?」
聞くまでもない質問に、テイオーはにっと子供らしく笑った。
「二人とレースするのは初めてだから楽しみだよ。勿論勝つのはボクだけどね」
有馬記念まで、いつも通りのやり取りやトレーニングをしていった。タキオンが研究で怒られて、デジタルが昇天して、テイオーが面白がる。そんな当たり前の日常。しかし、彼女たちはお互いを、ライバルとして初めて意識していた。
レースには勝敗がある。それはレースが他者との勝負な以上しかたのないことだ。それでも……彼女たちは誰が勝ってもお互いを讃え合うんだろう。
有馬記念の出走メンバーは錚々たるメンバーになり。過去稀に見るほど、人気は分散していた。
世紀末覇王テイエムオペラオー、菊花賞ウマ娘ナリタトップロード、ダービーウマ娘アドマイヤベガ、今年度二冠ウマ娘アグネスタキオン、今年度ダービーウマ娘ジャングルポケット、今年度菊花賞ウマ娘マンハッタンカフェ、勇者アグネスデジタル、ブロンズコレクターナイスネイチャ、名脇役マチカネタンホイザ、波乱の逃げウマ娘メジロパーマー、不屈の挑戦者メイショウドトウ、日本総大将スペシャルウィーク、世代のキングキングヘイロー、大器の英雄ゼンノロブロイ、麗しき実力者メジロライアン、最強ウマ娘トウカイテイオー。
計16名の出走が決まった。
一人一人が世代を代表するウマ娘。誰が勝ってもおかしくない。
「ボクは絶対に勝つよ。どんなメンバーでも、どんな状況になっても。レースに絶対はない……でも、この勝ちたいって想いは絶対に変わらない」
マックイーンのため、ファンのみんなのため。そういうのも勿論ある。でも、レースで勝ちたいっていうのはボクの想い。みんなの想いを背負って、力に変えて。ボク自身のために走るんだ。
控室で、力強い宣言をテイオーはした。その瞳から、迷いはこれっぽっちも感じなかった。
俺は、それ以上何も言わずに控室を出た。何も言わず……何も言うべきことがなかったが正しいな。テイオーは、このレースで、テイオーの気持ちが揺れることは絶対にない。だから、今日はテイオーの思うがままに走れ。
「テイオー君にとって、このレースにどんな意味を持つかはもはや関係ない。私が用いる全てを賭して勝負させてもらうよ。そうしないと意味がない……何より、今日の私は挑まれる側じゃない。挑む側だ」
共にチームにいたからこそ分かる。彼女は衰えてなどいない。怪我でのブランクを、衰えなどという言葉では言い表せない。それ以上に強い何かを、テイオー君から確かに感じる。
「テイオーさんに勝ってほしいです……でも、デジたんはチャレンジャーとして全力で挑みますよ!」
きっと、デジタンだけじゃない。他のウマ娘ちゃんもみんな分かってる。テイオーさんのレースを見てきて。テイオーさんがどれだけ強いのかって。
タキオンとデジタルの様子も見に行ったが、言葉は違えど、口裏を合わせたんじゃないかってくらい同じことを言っていた。
違うな……二人とも分かってるんだ。たとえ、一年というブランクがあっても、テイオーが帝王として君臨すると。自分たちが挑む側の立場だということを。
体は全盛期ほどまで持ち直すことはできなかった。だが、技術と経験は無くならず、洗練されてきた。想いは、今までのどのレースより強い。
(もしかしたら、今のテイオーが今までで一番最強なのかもしれないな……)
俺はゲートインする彼女たちを見てそう思った。
後日公開されたインタビュー記事から、他のウマ娘たちもトウカイテイオーに"挑む側"と捉えられる発言をしていたことが分かった。