トウカイテイオーと帝王を目指す 【完結】   作:Tmouris_

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テイオーとタキオンとデジタルとトレーナー。
4人の物語の最後を見届けてください。


最終話:帝王

 ターフに上がると、観客席から大きな歓声が聞こえた。ファンの熱気、出走メンバーのピリピリとした雰囲気。全部が久しぶりの感覚で、ボクを迎えてくれた。

 

(ボクはここに戻って来たんだ)

 

 レースの空気を感じていると、いつものように、ボクを呼ぶ声がした。

 

「テイオー君。私は、トレーナー君の次にきみの走りを理解している。だが、あえて言うとしよう」

 

 そこまで言って、おでこがぶつかりそうなくらい顔を近づけて、再び口を開いた。

 

「私が勝つ」

 

 いままで、タキオンに一度も感じたことなかった。背筋がぞわっとする感覚。

 これが、レース中のタキオンなんだ。カイチョーの走りを、初めて見た時を思い出すな。

 たとえ誰が相手でも、このレースでボクは勝つ。勝って証明する。君たち相手だからそれが出来る。

 

「ボクは負けないよ」

 

 怯えたりしない。タキオンが強いなんて分かってる……分かってるよ、チームメイトでずっと見てきたもん。

 いつもの高笑いはしないで、軽く「ふっ」と笑って、タキオンはゲート前に戻っていった。

 

「テイオーしゃん」

 

 ゲートに向かうタキオンを見ていると、後ろからデジたんに声を掛けられた。

 いつもみたいに、ちょっと丸まって。ボクたちに遠慮しているみたい。

 

「デジたん……いや、アグネスデジタル。今日はよろしくね」

 

 今日はチームメイトのデジたんじゃない。ライバルとして、同じレースで走るんだ。

 デジタルは少し呆気に取られて、すぐにボクのことを見た。

 

「はい。今日はいいレースにしましょう」

 

 デジタルが出した手を取り。お互いに視線がぶつかった。迷いなんて少しもない、たしかな覚悟がそこにあった。

 

「はーはっはっは!今日のレースは素晴らしい!世代の強者と言われるウマ娘が勢ぞろいだ!そう思わないかい?勇者に……帝王?」

 

 唐突に割って入って、気分が良さそうに、高笑いをするオペラオー。だけど、その瞳は熱く、冷静だった。そして、力強くボクたちを視界に収めてる。

 

「そうだね……ボクも気合入れないと」

 

 ボクたちも視線を返すと、満足したようにボクたちから離れて行った。

 

「あなたの話は、タキオンさんから聞いています……」

 

 急に背後から声が聞こえて、驚きのあまり「わあ!」って声が出ちゃった……音も気配もないから、びっくりした……

 

「驚かせてしまって、申し訳ありません。私はマンハッタンカフェといいます」

「あっあ~タキオンがたまに話してたから知ってるよ。菊花賞は凄かったね」

 

 じっとボクのことを見つめて来る……なんだろう、勝負服に変なとことかあったかな?

 そう思い、勝負服を見直してみたけど、着崩れたり、おかしなところはどこにもなかった。

 

「すみません……あなたもタキオンさんも周りとは違う雰囲気なのでつい」

 

 それだけ言って、彼女もゲートに向かった。

 ボクとタキオンって雰囲気似てるのか……

 

(ボクもそろそろゲートに入る準備しないと)

 

 ゲートに向かう途中で、ネイチャと一瞬だけ目が合った。いつもみたいに優しい目。それなのに、不思議と「テイオーに勝つ」って聞こえた気がした。

 

 ゲートイン直前に観客席を見回しても、マックイーンの姿は見えなかった。

 ボクは信じてるよ。君が見てくれてる……いや、見に来てくれるって。

 

『およそ10万の大観衆。その大歓声が鳴り響きます。スタート地点は3コーナーの奥です。16人のウマ娘が、いよいよゲートに収まっていきます。過去稀に見る夢のような出走メンバー、有馬記念肌を刺す空気は一番と冷たさを増しています』

『芝2500m晴。勝利をつかむのはどのウマ娘か……今、一斉に!スタートしました!』

 

 スタート同時に、激しい位置取り争い。ボクは負けじと周りを押し返す。

「今回のレース。各々が自分のスタイルでぶつかり合うことが予想される。それだけ、今年の出走メンバーは個としての能力が高い。だから、全身全霊の正面衝突だ」

 トレーナーと一緒に決めた作戦。ボクの武器を活かしたシンプルなぶつかり合い。レース中盤までは中段をキープする!

 

(目の前はスぺちゃん、横からネイチャがボクを警戒してし、後ろからはマンハッタンカフェがくっついてる)

 

 完全に囲まれた……前後の二人は意識した訳じゃないだろうけど、ネイチャはわざとボクの横についてる。

 どっかのタイミングで、包囲から抜け出さないと……

 そのまま、抜け出せずにレースは中盤。大きくレースが動くことも無く、みんなが様子を伺ってる。

 

(いまだ!)

 

 ネイチャのブロックが緩んだ一瞬。その隙間を抜けて、スペちゃんの横に並んだ……ままに留まらない。ボクはここで前に出る!

 けど、スペちゃんはそれを許してくれない。自由に走らせまいと、ボクに合わせてスピードを上げてきた。

 

(ここで突き放したい!)

 

 おそらく、スペちゃんは今のポジションをキープするつもり。無理をしてまでボクを抑えようとはしないはず。

 スタミナを使うことになるけど……仕方ない!

 前に行かせまいとスペちゃんが競り合ってくる。ボクが、もう一段階スピードを上げたところでスペちゃんは元の位置に戻ってった。

 まるで、これが開始の合図だったかのように、少しずつレースが動き始めた。

 

 

「頑張れ!テイオー!タキオン!デジタル!」

 

 チームメンバー三人が同じレースに出走してる。三人に勝って欲しい……でも、レースの勝者は1人だけだ。俺に出来るのは、目を逸らさず、三人の走りを見届けることだ。

 

「負けないで……テイオー……」

 

 ぼそっと、大きな歓声にかき消されそうなのに、はっきりとテイオーを応援する声が聞こえた。

 振り向くと、前に見たような威厳はなく、縮こまるようにメジロマックイーンがテイオーを見ている。胸に当てている手は震えていて、その顔には不安の表情が見て取れる。

 彼女は、俺の視線に気が付いて。何か聞きたそうに、こちらを見る。

 

「テイオーは勝つ」

 

 その言葉を聞きたかったんだろう……それを聞いて、彼女は安堵の微笑みを漏らした。それでも、俺は言わないといけない「だが」と言葉を続ける。

 

「それは、出走しているウマ娘全員が思っていることだ。【自分が絶対に勝つ】今、あそこで走っているのはそう信じてるやつらだけだ」

 

 自分は勝てない。そんな、甘い考えを持っているウマ娘は出走していない。今年の有馬記念はそれだけレベルが高い。絶対に勝ちたい。絶対に負けたくない。そんな葛藤を抱いて、その経験を乗り越えてきたウマ娘ばかりだ。

 

「レースってのはそういう世界だ。君自身が一番わかっているんじゃないのか?」

 

 メジロマックイーンは何も言わない。何かを思い出し噛みしめるよう。さっきよりも強い力で胸に手を押し当てる。

 不安は消えてない。それでも、縮こまらず前を向いて、ターフを……テイオーを見届けている。

 レースは終盤。先頭を走るのはメジロパーマー、二番手にタキオン、三番手にテイオー、四番手にテイエムオペラオー、五番手にマンハッタンカフェ、六番手にデジタルの順番だ。ほぼ、全員が塊のように走る展開だ。

 

 

(肺が焼けるように苦しい。体が鉛みたいに重い。でも……脚は動く!)

 

 ここが、正念場だ!パーマーとの距離は縮まってる。むしろ、さっきからスピードが落ちてるのが分かる。みんなそれは分かってるはず。どこで仕掛けるかタイミングを計ってる……けど、最初に動くのは君だよね……タキオン。

 直後、タキオンのペースが一気に上がった。

 

 

(テイオー君。君たちからは、本当に多くのものを得た)

 

 集団での活動、想いの力、ウマ娘の運命、限界への挑戦……そして、自分自身のために走り、誰かの想いを背負う。

 だからこそ、私は全力で君に勝ちに行こう。それが、私にできる最大限の恩返しさ。

 限界は近い。だが……その限界など乗り越えてみせよう。君たちに勝利するために!

 

 

(やっぱり、タキオンさんが動いた)

 

 レース終盤で、先頭のパーマーさんのペースが落ちるこのタイミング。それを、一番最初に感じられるのは二番手のタキオンさん。

 ここで、突き放されたら……いや、ここで並びにいかないとダメだ!

 

(チームのみんながいなければ、デジたんはここまで来られなかった)

 

 自分は普通のウマ娘で、ほかのウマ娘ちゃんの引き立て役なんだって思ってた。近くでレースを見られて幸せだって。でも、チームのみんなが私を褒めてくれた。

 トレーナーさんが私を推してくれた。タキオンさんが私を特別だって言ってくれた。テイオーさんが……私をライバルだって認めてくれた。

 だから!みんなの想いを背負って、自分の為に走る!たとえ、それでウマ娘ちゃんの尊い関係に影響が出るとしても!

 

 

 メジロパーマーが先頭から落ち、先頭集団五人がほぼ横並び。だったが、テイオー、タキオン、デジタルの三人が一歩前に出て、テイエムオペラオーとマンハッタンカフェを引きはがした。

 

「頑張れ……!」

 

 力強く握った俺のこぶしからは、血が滲んでいた。

 俺には見守ることしかできない。俺は彼女たちのトレーナーだから……だが、君は違うだろう?

 真横を一人のウマ娘がゆっくり、ただ、しっかりと一歩前に進みながら通り過ぎる。そして、観客席から身を乗り出して、この観客席の誰よりも熱く、想いを叫んだ。

 

「勝って!テイオォォォオオ!」

 

 

(あぁ、やっぱり見に来てくれたんだ……)

 

 地面を強く、強く踏みしめる。

 体の限界なんてとうに迎えてる。タキオンもデジタルも強い。このレースに出てるみんなが強い。

 それでも!ボクは負けられない!

 

「はぁぁぁあああ!!!」

 

 疲れてるなんて関係ない!脚が動くなら前に進める!気を抜くな!

 全身の力を振り絞って走った。タキオンもデジタルもずっとくらいついてきた……それでも、ボクが前に飛び出した。

 

『トウカイテイオーが飛び出し……トウカイテイオーが出た!?』

 

 観客席は一瞬静寂に包まれて、すぐに空気を震わせる大歓声が響いた。

 

『トウカイテイオー前に出る!アグネスタキオン!アグネスデジタルが並べない!トウカイテイオーが有馬記念を勝ち取るのか!?』

 

 みんな何言ってるの?まだ、レースは終わってない。

 

『おっと!ここで背後から一人のウマ娘が迫る!あれは……ナイスネイチャだ!ナイスネイチャが一気に前に出る!』

 

 ボクの横を走ってるって、見なくても分かるよ。ボクに勝つために。

 今考えれば、途中で急にブロックが緩んだのはおかしかった。結果的に前に出られたけど、あそこでスぺちゃんと競り合ったから、ボクもスぺちゃんもスタミナを使うことになった。

 終盤にタキオンとデジタルとボクが全力で先頭あらそいをして、二人はボクの後ろに沈んだ。それを君は待っていたんだね。

 

(本当にすごいやネイチャは。能力だけ見れば、君がここにいるなんて誰も思わなかったのに)

 

 きっと、自分の持てる全てを使ってここまで来たんだ。ボクがこのレースにかける想いも、ボクを意識するみんなも、そういう戦略以外も考えて。そして……自分自身の肉体も。

 君の息遣いも聞こえない、見ている余裕なんかこれっぽっちもない。

 それでも、ラストスパートの瞬間だけは君を感じて、二人の勝負だった。ライバルとの限界を超えた、意地と意地のぶつかり合いだ!

 

「「はあああぁぁぁあああ!!!!」」

 

 自分の疲れを少しでも誤魔化して、少しでも力を抜かないために。ボクとネイチャは喉が裂けるほど叫んだ。

 勝つ!いや、負けられない!

 残りたったの数十m。ここまでの道のりを考えれば一瞬の距離。いや、この数十mのための2400mだったのかもしれない。

 

 ボクは負けない!だって!みんなの【最強の帝王】であり続けるって決めたから!

 

(前へ!1歩でも……いや、半歩でも速くッ!)

 

 勝敗なんてもう見えない。ただ、走ることだけに全身全霊を懸ける。

 

 そして……その中の一人がゴールラインを越え、有馬記念の勝者が決まった。

 

 

『ただいまのレース、ビデオ判定で一着を確認中です。もうしばらくお待ちください』

 

 さっきまで熱い実況が嘘のような、事務的な放送がレース場に流れる。だが、今まで以上にレース場は緊張に包まれて、ビデオ判定の結果を待っている。

 

「メジロマックイーン」

「……はい」

「テイオーのところに行ってやってくれ」

 

 たったそれだけのやりとり。彼女と関りが多かったわけじゃない。それでも、伝えたいことがお互いに分かった気がする。

 杖に支えられながら。それでも、彼女は自身の脚で歩み始めた。

 

(テイオーだけじゃない……このレースに出走したウマ娘みんなが証明したんだ)

 

 いや……証明してきたのかもな。限界を超えた可能性ってやつを。

 

『いま、ビデオ判定の結果が出ました!一着は!!トウカイテイオー!!!」

 

 再び、激しい歓声でレース場が震えた。

 

 

(あぁ……ボク勝ったんだ)

 

 脚が震えて力が入らない。肺が痛くて呼吸が苦しい。

 ボクとネイチャはゴールして、その場から立ち上がれなかった。

 

「はぁ……はぁ……いやぁ、やっぱりテイオーには勝てなかったなぁ」

 

 ネイチャは悔しそうに、でも、どこか嬉しそうに言った。

 

「テイオー」

 

 倒れながらも、ボクたちは視線を合わせる。

 

「おかえり」

「うん……ただいま」

 

 ネイチャのおかえりは……とっても温かかった。

 

「テイオーしゃぁぁぁん!!大丈夫ですか!?」

 

 そんな余韻もつかの間、ゴールして呼吸を整えたデジたんが、急いで駆け付けた。

 

「デジタル君。君も疲労が溜まっているのだから落ち着きたまえ」

 

 その後ろから、タキオンがゆっくりと歩みを進め、デジたんの横までたどり着いた。タキオンだけじゃない。出走メンバー全員がボクたちを取り囲んだ。

 

「復活の帝王よ!今日の走り、見事と言わざる負えない。この一瞬、世紀末覇王であるこの僕が!勝者である君を支えようじゃないか!」

「えっ?ちょっとみんなぁ!?」

 

 レース場のモニターには、ボクがみんなに胴上げされているところが、大々的に映し出されてる。

 嬉しいけど凄い恥ずかしいよこれええええ!!

 

 

 タキオンとデジたんの肩を借りて、レース場を退場したボクは、通路でマックイーンと対面した。

 

「タキオン、デジたんありがとう。ここからは自分で歩くから」

 

 二人はボクの肩を離して、静かに控え室の方へ進んで行った。

 

「テイオー……」

「もう、どうして君が泣くのさ」

 

 涙を堪えるマックイーンをぎゅっと抱き寄せた。それに応えるように、ボクを強く抱き締め返す。

 

「わたくし……頑張りますわ。再びあなたと駆け抜けるために」

「うん。また一緒に走ろう」

 

 通路には、ボクたちの泣き声だけが響き渡った。誰も見ることがない、最強の二人だけの涙を流しながら。

 

 

「タキオンお疲れ様」

「おやおや……私の元に一番に来るとは意外だねぇ。真っ先にテイオー君に飛びつくとばかり……」

 

 タキオンは背中を見せたままこちらを見ない。肩は震えて、いつもの頼もしさは薄れて、弱々しくも感じる。

 

「テイオーは今、お取り込み中だ。タキオンもすれ違っただろ?」

「……そうだねぇ」

 

 そうか……タキオンにとっては初めての敗北。今まで体験したことの無い感覚か。

 

「感情というのは……やっかいなものだね。良くも悪くも抑えられないのだから」

 

 そっとタキオンの肩に手を置いた。一言だけ「まだ、タキオンは強くなれる」と言い残して、控え室を出た。

 

 デジタルの控え室に向かう途中で、タキオンのことを思い出す。

 敗北の経験があるとはいえ、今日のレースに対する熱意は異常な程高かった。その分、受ける傷も大きい。

 それでも、俺はデジタルと向き合おう……彼女のトレーナーとして。

 

「デジタルお疲れ様」

「あっトレーナーさんお疲れ様です!」

 

 控え室に入ると、デジタルはいつも通りの笑顔で迎えてくれた。決して強がりなんかじゃない。

 

「……終わっちゃいましたね」

 

 どこか寂しそうに俯くデジタル。

 違う……いつも通りなんかじゃない。少しだけ、心の整理が早いだけで。

 

「あぁ、よく頑張った」

 

 チームメイトとの初めての勝負。勝者と敗者……二人のトレーナーとして、俺はそれだけしか言うことが出来なかった。

 

「デジたんすっごい嬉しかったんですよ。テイオーさんやタキオンさんと同じレースで勝負出来て。しかも、あんな激戦したんですよ?楽しかった。楽しかったなぁ……」

 

 デジタルは、今まで見たこともない満面の笑みで嬉しそうに笑った。その頬に涙を垂らしながら……

 

(俺も、トレーナーとしてまだまだだな……)

 

 どんな言葉をかけてあげればいいのか。どう接するのが正しいのか分からない。ただ、デジタルの感情に寄り添ってやることしか出来なかった。

 

 

 テイオーの控え室の壁際に、ルドルフが静かに立っていた。

 

「やぁ、テイオーは着替え中だよ」

「ルドルフもテイオーと話に来たのか?」

「既に話は終わったよ。君にも少しだけ話があってね」

 

 急に空気が重くなり、固唾を飲んでルドルフの話を聞く。

 

「テイオーは皇帝を越える……君はそう言ったね?」

 

 一歩、また一歩。俺との距離を詰める。

 

「今日のレース、私も見ていたよ。素晴らしいレースだった。こんなにも胸が踊るレースはそうそう見られるものじゃない」

 

 体二個分のところでルドルフは脚を歩みを止めた。

 

「けれど、まだ足りない。テイオーでは皇帝に届かない」

 

 ルドルフの声だけが、通路に木霊した。

 

「たしかに、今のテイオーじゃ皇帝を越えられない」

「ほう?」

「だけど、テイオーは孤独の皇帝じゃない。仲間と共に競い合い高め合う帝王だ……いずれは皇帝をも越える」

 

 二人で視線をぶつけ合う。お互い、一歩も引かずに目を逸らさない。

 しばらくして、ルドルフが「そうか」と微笑みながら、振り返り去っていく。

 

(全く……意地悪をしてくれる)

 

 ルドルフは、昔から俺たちのことを認めてくれていた。だが、今日初めて敵として認識されたんだろう。

 少し余韻に浸っていると、カチャっと扉が開く。そして、テイオーがひょっこり顔を出した。

 

「トレーナー誰と話してたの?カイチョーと?」

「まぁ、少しな」

「ふーん。まあいいや、立ってないで入りなよ」

 

 テイオーに手を引かれるがまま、控え室の中に入る。

 

「テイオー……一着おめでとう」

「うん……みんな強かった」

 

 いつもと違う雰囲気が部屋に漂う。嫌な気持ちはしなかった。なのに、どこか気不味くて咄嗟に話題を振った。

 

「そういえば、ルドルフとは何を話してたんだ?」

「んっ?あ〜次は私とも勝負しようって」

 

 やっぱり……ルドルフのやつ、試すようなことしやがって。元々、やる気満々じゃないか。

 

「それよりも!」

 

 グイッと、息づかいを感じられるほど顔を近づけられた。

 

「ボク……トレーナーの期待に答えられたと思うんだ」

 

 いつもの元気なテイオーとは違う。お淑やかで……少し色気を感じる。

 着替えたばかりで下ろした髪が、余計に大人らしさを際立てていた。

 

「だから、ご褒美が欲しいな」

 

 顎を上げて、目を瞑るテイオー。

 何を求められているか分かる。ここまでさせて、スルーするのは失礼だろう。

 テイオーの肩に手を添えると、びくっと体を震わせた。

 俺は顔を少しずつ近付ける。そして、テイオーの額へとキスをした。

 

 顔を離すと、テイオーは涙目で真っ赤になりながら、パクパクと口を動かしてる。

 

「もおおお!トレーナー信じらんない!」

「ははは!俺たちはまだまだこれからだぞ!そういうのは、全部終わらせて大人になってからするんだな!」

「ボクだってもう大人だよ!」

 

 ムキになったテイオーから逃げて、控え室を飛び出した。

 

「あれ、トレーナーさん。そんな走ってどうしたんです……」

「ほら!二人とも帰って今日の反省会とデータ整理するぞ!」

 

 タキオンとデジタルの横を通り抜けると、二人も俺の追って走り出した。

 

「君たちは私を退屈させないねぇ」

「テイオーがませたことするからだ!」

「余計なこというなあああああ!」

 




ここまでお付き合い下さりありがとうございました!
初めて、作品として完結させることが出来て良かったと思います。
長い時間をかけてしまい、後半は駆け足になってしまいましたが、自分の書きたいことは書けたと思います。
それでは、別の作品でお会いしましょう。
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