「突然だが、テイオーのフォームを改造しようと思う」
「え〜なんでー。この走り方すごい早く走れるんだよ?」
たしかにテイオーの言う通りだ。あのフォームのままではしりつづけることが出来るなら何も問題はない。
「それが故障する原因になるとしてもか?テイオーの目標は無敗のクラシック制覇。そして、打倒皇帝シンボリルドルフだ。それまでに何度のレースに出ると思ってる?」
夢を叶えるまでの道のりで怪我をしてしまったらどうしょうもならない。
「クラシック……2冠くらいなら取れるだろうな。けど、きっとそこが限界だ。お前は怪我をする。ただ、今フォームを考え直せば今はペースこそ落ちるが怪我のリスクは確実に減る」
テイオーは悩んでいた。彼女のあの走りは今までの彼女を積み上げてきたものだ。それが無になるんだから悩むよな。
「それで速くなれる?」
「速くなれるかは怪しい。だが、強くはなれる」
速いだけが強さじゃない。タフさや怪我をしないこと色々な強さがある。
「うーん……分かったトレーナーを信じて頑張ってみるね」
もっとゴタゴタするかと思ったけど、あっさりと決まったな。ならば話は早い。
「ここに次のフォームの案をいくつか用意した。その中からテイオーにあうものを選んで行く。観察役はデジタルがする。加速とかいろいろ違和感があったら言ってくれ」
「ひゃい」
とりあえず一通りフォームを試した。確実にテイオーのスピードは落ちていた。それに、今まで体に染み込んだ癖というのは抜けないもので、フォームの違和感が拭えない。
走り終わる度にテイオーとデジタルとタキオンの3人でフォームについて話をしている。
「決まったよトレーナー」
「そうか、とりあえず流しで2000m走ってきてくれー」
今決まったフォームでテイオーはスタートした。考案してすぐなのに綺麗なフォームで遅くもなかった。しかし、早くない。このフォームがどこまで馴染んでどこまで伸びていくか。
「ペースは落ちたけど想定の範囲内ではある」
後はここから伸びるだけだしな。俺はテイオーを呼んだ。
「来週にデビュー戦に出る。それまでに体に馴染ませてくれ」
俺のその発言にテイオーは驚いていた。そりゃ、急にデビュー戦の話されたら驚くよな。
「テイオーの実力はジュニア級の域を出てる。出走は全く問題ない」
「いや実力はそうかもしれないけどさ!今日フォーム変えたばっかだよ!?いいの?」
ラストスパートのテイオーステップ。それさえあればジュニア級ならどうとでもなる。負けることも無い。レースの経験にもなるからちょうどいい。
「ラストスパートだけはテイオーステップを使っていい。なんか必殺技見たいだろ?」
テイオーは必殺技という言葉に反応して、目をキラキラさせていた。通常時はテイオーステップに変わる負担の少ない走りを極めるべきだ。
「まぁ?僕は天才だし。こんくらい楽勝だけどね」
テイオーの許可も得て、テイオーのフォーム改造計画が始まった。そして、デビュー戦までにフォーム改善トレーニングが始まった。
無事にトレーニングを行っていって。ついにデビュー戦を迎えた。
「なんだテイオー緊張してるのか?」
「しっしてないやい!」
テイオーは両手両足を同時に前に出しながらパドックに向かった。俺はタキオンとデジタルのいる観客席に向かった。
「まさか、タキオンも来るとは思ってなかったが」
「レースでのデータも重要さ。トレーニングとは違う環境、精神状態。そこから得る研究データは貴重なものだ」
なるほど、タキオンはテイオーのレースデータを取りにきたのか。レースの日程は教えていたが、応援に来いとは言ってなかったしな。
「それでデジタルは?」
「いえいえ!それは勿論テイオーさんの応援ですとも!形は歪であれどチームメイト!しかも、ウマ娘ちゃんを推さない訳には行きませんから!」
なるほど、一応応援という建前でウマ娘を見に来たということだ。
「お前もデビューすればあの顔を真横で見れるんだがな」
「わっ私がデビューしていいんですか!?」
テンパリながらも俺に質問してきた。そりゃ、いつかデビューはするだろうに大袈裟な。
「お前が芝を走りたいなら走れ。ダート走りたいなら走れ。一緒に走りたい娘と走りたいならそのレースに出ればいい」
俺が提示した自由というのはそういうものだ。自分の欲望のままにやりたいことをすればいい。
『全てのウマ娘がゲートインしました。新たなウマ娘が夢に向かって……今スタートしました!』
テイオーが取ったポジションは中段の先行。フォームもトレーニングどおりだ。スピードは以前ほど乗らないが体への負荷は落とした。
残り400mでテイオーが動いた。自慢の体の柔らかさを利用して、一気に加速していく。4,3,2,1と抜かしていきそのまま1着でゴールした。完勝……とはいえなかったが十分な勝利だ。
「あーあーいつも通り走れば、こんなギリギリじゃなくてぶっちぎりだったのにな〜」
テイオーはギリギリの勝利に不服なようだ。最初からテイオーステップで走っていれば余裕を残しての1着だろうからな。
「それでも、テイオーは耐えた。これから先もっと強くなっていくために」
テイオーが頷いた。テイオーは自分の今の強さを捨てても後に手に入る力のために頑張っている。
「データを取ったのもフォームを考えたのもダブルアグネスだ。そっちも褒めてやってくれ」
「ありがとう2人とも!」
テイオーのお礼にデジタルは昇天しタキオンは笑った。この2人がいればテイオーはもっと強くなれる。
テイオーを帝王にする基盤は整った……後はテイオーを鍛えて行くだけだ。
「いいか、皐月賞までのレース全部勝って。クラシック三冠取りに行くぞ!」
「「「おお!」」」
タキオンも声をあげてくれた、そういうキャラじゃないと思っていたが。割とノリは良い奴なのかもしれない。
それじゃあ一気にクラシックに殴り込みに行くか!
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