Tales of Vesperia~新たなる輝きの先へ~   作:長者原画鋲

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かなりのカメ更新。
本当に申し訳なく思います。

かなり変な終わり方していますが、予めご了承くださいまし!


『変動、新たなる異変 ~起~』

 

 

 帝都『ザーフィアス』

 

 

 イリキア大陸の中央に位置する帝国の帝都。あの『アレクセイの反逆』や、世界を覆い消そうとした『星喰み』後は、住民の身分区別などを緩和し、階級化の厳格性を《新生皇帝》としてヨーデルの名の元に改善された。

 

 流石に元あった貴族の市街地や、大円を描くように美しく作られた設計され作られた大都市【ザーフィアス】の上層に建築された意味もない豪奢な建物などの取り壊し、生活に欠かせない建造物などを数多く建て直しを実行。そして遺産的文化などを残すようにし、必要最低限以外のものは建て直しとなり、それだけでもかなりの改善と国費が抑えられた。『貴族』による狂われた怠惰による肥大化もだ。

 

 昔ならば、下町の住民が貴族街に足を踏み入れるだけで嫌悪の視線や態度を取られていた不遜の帝都だったが、今や貴族や他の住民たちとが互いに談笑などしている所が見られるようになっていた。

 

 下町も皇帝・ヨーデルが世界を救った英雄が出身の町ということだけで、深謝の寄付金が贈られた。

 さらに下町の拡張工事、《水道魔導器(アクエブラスティア )》が無くなったことによる新たな井戸建設。そして様々な町の改築が行われていった。

 

 もちろん、下町にだけでは無く、貴族による数多の問題、騎士団の腐敗した思想を撤廃するべく。世界を救い、新たに帝国騎士団の《騎士団長》となったフレン・シーフォによる新生騎士団の結成。

 フレン直々の目で選抜された複数の騎士を隊長にして、様々な地方にへと派遣した。

 

 まだまだ世界に向けての問題が残っている中、確実に、そして実になるように行動を起こすべく、『帝国』は動きだしていたのだった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

「それで、なんでお前らが下町(ここ)に居るんだ?」

 

 そこは新築に綺麗にされた道具屋の二階。この二階だけは馴染みのあるキシキシと軋み鳴る古き年月を感じさせる木造特有の部屋となっていた。

 これにはそこに住んでいる男だと言うのに、黒いその髪は背丈まで伸ばしてあり、欠伸を決め込みながらその青年はベッドから移動せず、安い家賃で住まわせてもらっている青年が決めたことなので、道具屋の店主も文句は言ってはいないが、その青年、ユーリ・ローウェルがベットから目を覚ました時には、目の前に見知った人物たちが部屋の主であるユーリより先に無断で朝食を食べているのに疑問が浮かぶのにそう時間が掛からなかった。

 

「ほら、やっぱり良い匂いで起きたでしょ? ユーリは普通に起こすよりお腹が減って勝手に起きてくるんだよ」

 

「あら? じゃあこのパンはお預けになってしまうのね。出来立てで美味しいのだけれど」

 

 あれ? そんな賭けしたっけ? と頭を傾げて出来立てのハムエッグを人数分の皿の分けているのは、前髪が妙に膨らみ逆立てた髪型で、まだ子供だと言うのに何処か勇ましく見えるギルド『凛々の明星(ブレイブヴェスペリア)』の首領(ボス)の少年、カロル・カペルは下町の傍らで貰った出来立てのパンを並べ、そしてもう一人手伝っていたのは人物《クリティア族》の見目麗しい女性にしてカロルたちと同じギルド『凛々の明星(ブレイブヴェスペリア)』の一員、ジュディスだった。

 

「質問に答えてくれねーのか? まったく………昨日遅かったんだからもうちょっと寝かせろよ」

 

「聞いたよー? また(・・)お節介してたらしいね」

 

また(・・)ってなんだよ」

 

「ユーリの癖ね。困ってる人が居たら放っておけない」

 

 ジュディスの美麗な顔が微笑み、カロルと一緒にパンを食べはじめている。綺麗に色々と準備したあとに朝食を取り始める二人に、溜め息を漏らす。

 

「…………いやだから」

 

「ユーリの朝ごはんもあるよ」

 

「…………あぁ」

 

 起きたばかりで脳が覚醒していないのか、それとも長く一緒に旅を共ににしていた者たちに手の内を十分に知られているのに呆れ、ユーリは空腹だったことを思い出したのか、カロルたちの不法侵入を問うより、先に腹を満たすことを優先した。

 カロルとジュディスが作った朝食を食べ、片手に注がれたミルクを飲み、そして、

 

「なんで、下町に居るんだ? カロルはまぁ………なんか理由あるんだろうが、ジュディは忙しいと聞いてたハズだけどなぁ」

 

「あら? だれかから聞いたのかしら」

 

「〝おっさん〟」

 

 ジュディスは何処かで手に入れたのか、鉄製のコップに入れてあるコーヒーを片手に飲んで陽気に微笑む。

 

「ま、それなりに片付けてきたのよ」

 

「ふーん」

 

 クリティア族の特徴とも言える後頭部から生えているひときわ長い感覚器『触手』が、まるで髪のようにしなだれているのをジュディスは器用に頭だけ動かして椅子と一緒に座らないようにして、腰かけている。

 

「理由を話すのは簡単なんだけどさ、ユーリ。何か忘れてない?」

 

「理由?」

 

 なんのことか、とユーリはハムエッグを美味しくいただきながら考える。考えるが、思い出せない。

 

「あ~絶対忘れてるって顔だよ、ジュディス」

 

「だから言ったじゃないカロル。ユーリはきっと忘れてるって」

 

 さっきから何を言っているのか分からないユーリは、口の中に広がる卵とハムの肉質を咀嚼して味わいながらもう一度考えてみた。

 

 カロルはギルドの巣窟と呼ばれるトルビキア大陸北部にある唯一国家である帝国の首都《ザーフィアス》以外での《大都市》と呼ばれる《ダングレスト》に住んでいる。

 最早、 昔ほどの敵対心は無いものの、過去の確執も残っているが、そのダングレストにも帝国騎士団『ダングレスト支部』という騎士団の支部署が設けられた。

 過去にもある厚い軋轢(あつれき)を恐れたが、あの『星喰み』があって以来、人間同士が協力していかないということは子供でも分かっている。それもあってまだ溝はあるものの、上手くやっているという。

 そんなカロルもギルドの首領(ボス)

 ギルドユニオンに加盟しており、ユニオン本部があるダングレストで着々と土台を固めていっているらしい。『らしい』と言うのも、ユーリも手伝っていたりするのだが、それは本当にたまに(・ ・ ・)手伝うというギルドメンバーにも関わらず余りにも自由な形で参加しているからだった。

 かく言うジュディスも、『始祖の隷長(エンテレケイア)』である〝バウル〟と共に新たな『仕事』とやらもやっているらしい。そういう話をユーリは小耳に挟んだことがあった。

 

 そして、ユーリは考えた結果、この〝三人〟が集まったということに重要な何かだと気付く。

 

「ギルドで何かあったのか?」

 

「まぁ、それでユーリの家に来たんだけどね……あぁ、これは忘れてるね?」

 

 ふ~やれやれ、とオーバーリアクションをするカロルだがユーリは実は思い出していた。

 

「教えてくれよ、カロル先生」

 

「えぇ~どうしようっかな~!」

 

「ボスの口から是非とも聞いて、思い出したいんだよ」

 

 寝起きだからか些か適当だったと思ったユーリだったが、カロルは気にせず『首領(ボス)』と呼ばれて意気揚々に語りだした。随分と一緒に旅などしたが、カロルのこのチョロさには不安に駆られる。詐欺師に会ったら獲物にされるの間違いなしだ。

 

「ボクらはねぇ! 今じゃあの有名な帝国騎士団の団長になったフレン・シーフォ殿から直々に我ら『凛々の明星(ブレイブ・ヴェスペリア)』に依頼が送られてきたのさぁ!!」

 

 見てみてー! とカロルは帝国での正式な願いなどで使用される高級な紙にきらびやか装飾などが付いた一通の手紙を握っていた。

 だがユーリは『ふ~ん? そりゃよかったー』と棒読みの如く呟きながらカロルの目前で信じられないくらい麦パンに甘い甘い真っ白なクリームを塗りたくって次々と口につっこみ咀嚼して、これまたクリームが浮かぶミルクを飲んでいた。

 話を聞いてんのか分からないと言うより、なんちゅーもんを口に突っ込んでだー…………、とカロルが叫びそうになるが、何故か見ている自分が胸焼けしてきて気持ち悪くなる。そんはユーリにジュディスが落ち着いて脇から『このチョコクリームもイケるわよ?』とか瓶に入ったチョコクリームをユーリに手渡している辺り、またも胸焼け。

 

「ちょぅ聞いて……ウプっ!」

 

「寝起きなんだ、もうちょっと後から行こうぜ。そのフレンからの依頼ってやつ」

 

「あら、やっぱり知ってたのね? 私なんかカプワ・トリムの騎士団経由のギルドで聞いたわ。商業ギルド『幸福の市場(ギルド・ド・マルシェ)』トリム店でね。改めて、騎士団とギルドが協力し合っているのに驚きがあるけど」

 

「まぁ、この時代で変に意地張ってたら死ぬかもしれないからな。だったら意地(プライド)なんて捨てて、生きる為に心開いて話すしかねえだろうな……。あとフレンの件は、わざわざアイツ下町まで来て言ってきたからな」

 

「ウプっ……って、知ってた!? くっ、よくもユーリ知らない振りをしてボクに胸焼け攻撃仕掛けてきたな! だったら見事だね! ご覧の通り想像だけで胸焼けして気持ち悪いよ!」

 

「あ? なにが?」

 

 そう言ってユーリはさっそくジュディスから貰ったチョコクリームを真っ白なクリームの上からどっさりと重ね塗り始めた。

 

(わざとじゃない!?)

 

(…………冗談であげたのに、本当に乗せるなんて……)

 

 ユーリの甘さに対する追及に戦慄を覚える二人、ユーリは何年かぶりの豪華な朝食に満足だったそうだ。

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

「この帝都、イリキア大陸マイオキア平原より海を越えて、北にある大陸・ユルゾレアの『湯源郷(とうげんきょう)・ユウマンジュ』に襲撃が合ったんだってさ」

 

 カロルが自慢気に話しているが、本当によく知っているとユーリもジュディスも感心する。まだ『少年』なんて呼ばれる歳だが、青年であるユーリよりも地理に詳しいのではないだろう。

 そして、今カロルが言っている通り、過去ユーリたちは空を飛べる『始祖の隷長(エンテレケイア)』の巨大な《(ドラゴン)》、バウルに乗ってその遠方の『湯源郷(とうげんきょう)・ユウマンジュ』には行った事があった。

 

 ユルゾレア大陸北部にある深い森。だが何もその森自体が不気味というわけではない。緑深き美しい静けさを漂う森だ。だが問題は、その周辺には魔物が多く徘徊しているうえに、それをも遙かに凌ぎ、地方や遺跡などでは《主》と呼ばれる巨大な魔物が住み着いていることだ。

 テルカ・リュミレースではごく当たり前に存在している《魔物》。それらは当然人間を襲う、恐怖を与える存在だ。

 つい最近なら結界魔導器(シルトブラスティア)に守られた場所で内側に籠れば助かっていたかもしれない。だが、今は違う。

 現実(いま)を受けとめる為に、人間は新たな世にしっかりと足を踏み込んでいくと決めたのだ。

 今では帝国の騎士団やギルドの傭兵団などが大変重要とされる役職になってきているだろう。

 

「その、帝都から放れた場所の襲撃に何でオレらが呼ばれたんだ? 確かに騎士団や傭兵団じゃ応援仕切れないことを多々あると聞いちゃいるが、限りなく少数メンバーで有名であるオレら『凛々の明星(ブレイブヴェスペリア)』に、なんで話が上がった?」

 

「少数メンバーっていうのは別に悪いことじゃないんだよ? 例えばボクらが築き上げたあのダングレストでも有名……いや、『伝説』とまでなったギルド『漆黒の翼』も丁度ボクらと一緒の〝三人〟しか居なかったんだ!! ハリーから話を聞くまで思い出さなかったよ!!」

 

「つまり思い出さないほど、余り有名じゃなかったんじゃないかしら?」

 

 さっそくカロルとジュディスから話を聞いたユーリだったが、内容がまたとんでもなく大きなものだった 。

 三人が居るのはユーリが衣食住をしているお店《箒星》の二階では無く、綺麗に整備された生まれ変わった下町の中央広場の休憩スペースだった。

 新生皇帝から賜った大切な設備技術が毎日のように輝いて見えていた。だがそれは下町の住民が本当に嬉しくて毎日のように隅々まで掃除などしているから清潔さが保たれているのだが、それでも有難い。ユーリは元気に子供たちと歩く世話になっているハンクス爺さんに笑みを浮かべていた。

 

「ちが、違うよ! 『伝説』って言ったでしょ? もう凄すぎて当たり前な感じだったからさぁ、見逃しちゃってたんだよ~」

 

「でも私も聞いたことがあるわね。確か〝おじさま〟から聞いたわ」

 

「『おじさま』ねぇ………」

 

 そのユーリの呟きに、ジュディスはクスクスと微笑んでその呼び名に当てはまる人物を少しだけ思い出す。と、言ってもユーリは最近ちょくちょく会っていたりする。

 

「あっ、話が逸れたけど戻すよ」

 

「確か、ユウマンジュだろ? ジュディスが居るからバウルで行けんだろ。移動手段で困ることは無い」

 

「まぁ、行く前に帝都(ここ)で『臨時メンバー』を待ってるんだけど…………」

 

 うん? とカロルの何気ない問題発言にユーリは宿屋兼酒場である《箒星》から買ってきた搾りたてリンゴ水を片手にもう一度聞き返す。

 

「臨時メンバーだぁ? さっきまでその翼のなんとかは〝三人〟で一緒の人数で嬉しがってた奴の発言かよ、ボス」

 

「ひどいわよね、ボス」

 

 敢えて首領(ボス)と呼ぶ二人は少なからずこの話は聞いていなかったらしい。これにはカロルも『あっ』と何かを思い出させる切欠となる。

 カロルは慌てて、何でも入るサイドバッグから紙を取り出した。

 

「ごめんごめん! これはギルドユニオンからの提案で、少数メンバーであるボクらのギルドに『臨時メンバーを加入させては?』って話があったの伝えるの忘れたよ! ご、ごめんよ」

 

 仲間に大事な知らせを伝え忘れるなんて、しかもギルドの長たる自分が、と自己嫌悪に陥るカロル。それにはユーリもジュディスも少し苦笑してしまった。

 

「うふふふ。それじゃカロルには後で《スケジュール》について話し合いましょう」

 

「《スケジュール》?」

 

 聞きなれない単語にカロルは首を傾げる。

 

「予定や日程を決めておく表のことよ。まぁ、私たちは『職盟規則(ギルドルール)』で憶えるようにすれば良いと思うわ」

 

 『職盟規則(ギルドルール)

 

 かつてあった『職盟暗号(ギルドコード)』に並ぶ古いギルドユニオンの規約の一つで、ギルド同士、はたまたギルド内での規則(ルール)を定めた掟の一つである。だがこれは古参でも知っているか定かではないほど古い規約の一つ。何故、ジュディスが知っているのか疑問に思ったが、今はそれどころじゃない。

 

「『職盟規則(ギルドルール)』での《スケジュール》かぁ…………」

 

「…………別にいいんじゃねぇか? そんな固いことしなくても」

 

「ユーリ? あなたのせいでもあるのよ? 都合が良いときに表れるのは良いけど、神出鬼没なのはこちらとしては驚くわ」

 

「いや、好きで表れてんじゃねえぞ? 行こうかな、と思った矢先に丁度良く困ってるカロルやジュディスやら、エステルやらリタやらがな……?」

 

 あれやこれやと説明するユーリだったが、ジュディスは無視(スルー)する。

 

「まず私たちが集まる場所を決めて、そこで《スケジュール》を決めておきましょうか。今誰が何処で何をしているのか、いつまでの期間やっているのか、とかね」

 

 ジュディスが始めた『配達』の仕事も、これで他のメンバーも何処に行っているのかなど知ることができるだろう。

 ユーリは渋々といった感じで頷いた。ただただ面倒なのだろうな、とカロルとジュディスは心の内で呟いていた。

 

「……はぁ、そして? 《スケジュール》の件は後にして、まず依頼内容を教えてくれよ? じゃねぇと仕事もできねぇぞ」

 

「なんだかね、ボクも仰々しいと思ったんだけど、メンバー全員集まってから来てほしいって手紙には書いてあったよ?」

 

「それは私たちだけではなくて?」

 

「うん。ちゃんと『臨時メンバー』も一緒にだって」

 

 あのフレンがそう言ってきているということは、余程真面目な話なのだろう。

 

「それじゃ早いとこその臨時メンバーって奴らを迎えに行くか。……迎えに行くのか、オレらが?」

 

「あー……ユーリ言わなくていいよ、迎えてもないのに迎えに行かないといけないのか、とか言わなくていいよ」

 

「オレそんな酷いこと言わねーぞ」

 

「フフフ、でも言いそうね」

 

 そんな三人が話していると、ユーリたち三人のところに、黒い影の『何か』が頭上を越していった。

 咄嗟に動いたのはユーリで、座っていた椅子を後ろから倒れた。と見せかけて後方に大きく飛ぶ。

 

(いきなりだな……!)

 

 ユーリは愛刀としている白い柄に金の鍔をした片刃の剣『ニバンボシ』を抜刀し、相手の迫る。

 だが相手もユーリの動きを知っている(・ ・ ・ ・ ・)かのように、迫る剣線を相手も使っていた剣によって弾き返された。

 だがユーリは狼狽えることもせず、弾き返された剣をわざと遠回しに体ごと回し、相手の追撃を躱す。

 相手がそれに怯むのを見計らって脚を払って横転させる。転んだ相手に剣を首筋に当てると、後頭部から何か迫る気配を察知する。だが動かない。動かなくて(・ ・ ・ ・ ・)良いのだ(・ ・ ・ ・)

 

「随分と派手にやり過ぎよ、あなた達(・ ・ ・ ・)

 

 ガキィン! と甲高い音ともに弾かれたユーリに迫った凶刃は、椅子に座りながらも届くジュディスの愛槍『ブラッククリスタル』の漆黒の矛先で受け止められていた。

 

「それはオレも含まれてんのか?」

 

「喜び勇んでテクニカルな動きで相手を翻弄してたじゃない」

 

「いやいや、こっちは襲われたんだぞ? だったら早急の対応をだな……」

 

彼女たち(・ ・ ・ ・)が迫っているの知ってたクセに、既に刀を握ってたわよ、あなた」

 

 まるで世間話でもしてる風を醸し出しながら、襲撃者たちの首筋に刃を向けているこの二人に、さすがに広場では注目の的になっており、子供たちと遊んでいたハンクス爺さんが呆れながらユーリたちを咎めるように、

 

「おい、じゃれあうなら他所でやれ」

 

「「「「……………………………………」」」」

 

 そう言って、子供たちが好奇心でユーリたちのその戦闘に見ていれば、ハンクス爺さんが『ほれほれ、あんなの見てもつまらんから向こうに行こうかの。パン屋のメープル婆さんが焼き立てのパンをくれるじゃろうからのう』と言って、目先より食べものに興味を引かれたのか、ハンクス爺さんに子供たちはついて行った。

 なんとなく気まずい空気になっているところに、掠れた声でカロルが呟く。

 

「……とりあえず……助けて」

 

 一番最初に飛来したであろう『黒い影』の正体は、複数の投げ針で、綺麗カロルを囲むように壁に刺され、身動きが取れなくなった首領(ボス)の姿だった。

 ユーリたちは襲撃者が『知人』だったこともあり、その場はゆっくりとした動きで収まり、襲撃者もカロルに放った(全体的に放ったつもりなのに何故かカロルに)投げ針も一個一個丁寧に戻していく。

 

「おい、もっとまともな登場の仕方も出来ないのか、お前ら」

 

「ふん。貴様らの腕が落ちていないか確かめたまでだ」

 

「私は~やめようって言ったよん?」

 

 憩いの場であり下町の広場にある休憩所に、新たに加わったのはかつて暗殺ギルドとして立ちはだかった二人の凄腕暗殺者である少女二人、ゴーシュとドロワットだった。

 赤毛でスレンダー、冷徹な口調が特徴的なゴーシュはまるで自分は悪くないと言わんばかり鼻を鳴らす。

 そして対するもう一人の少女、こっちは緑にも見える髪とゴーシュとは打って変わってグラマラスな体型を誇るドロワットは子供っぽい口調なのも変わっていなかった。双子と思ってしまうほど髪型も服装も似ている二人だったが、今は服装も変わり、髪型も変わった二人にユーリとカロルは一瞬驚く。

 

「なんつーか、変わったな」

 

「うん! 二人とも明るくなったような気がするよ!」

 

 二人の意見に、ゴーシュはぶっきらぼうにしながらも褒められることに慣れていないのか、顔を赤くして鼻を鳴らし、ドロワットは笑みを浮かべてありがとー、と返す。

 

「二人は確か、〝おっさん〟の元に働いてるらしいな」

 

「……一応、上司だから言うが、〝レイヴン〟と言ってくれ。こんな私たちを雇ってくれたのだからな」

 

「うにゃ~、わたし達《闘技場(コロシアム)》とかでしか稼いでなかったから、有り難いと言えば有り難いんだけどサー」

 

 二人は互いに顔を向けると『だけど……』と付け加え、壮大な溜め息を吐いた。

 

「「おの〝おっさん〟どっか行き過ぎっ!!」」

 

((あっ、ハモった))

 

 ガシガシと頭を掻くゴーシュに、疲れたような顔のドロワット。

 

「帝国とギルドの混成部隊の部隊長であり、『帝国』では彼の有名な英雄・シュヴァーン隊の正体であったり、ギルドでは名高い《天を射る矢(アルトスク)》でも指揮を取ってる人ですもの。レイヴンには手を焼いているようね。でも、今回のギルドからの応援って貴女たちだったのね?」

 

「ソイツらだけじゃないわ」

 

 声がした方を振り向く。

 するとそこに立っていたのは、

 

「ナンっ!!」

 

 己の得物であろう巨大な円輪刃の武器を布で覆ったまま、その重量感を軽く思わせるくらい軽い足取りでユーリたちに合流してきたのは、魔物退治を生業とするこの世界でも有名なギルド《魔狩りの剣》の一員でもあり、この隠そうともしないで嬉しいオーラを出しているカロルの想い人でもある少女・ナンだった。

 

「どどどど、どうしてナンがここに!? えっ! まさかっ……えっ!」

 

「カロルのテンションがヤバくなってきてるらしいから、どうか説明願いたいんだが……」

 

 ユーリが疲れたような声で言ってきたが、ナンも苦笑を浮かべながらカロルの前に立つ。

 

「ユニオンの決定により、ギルド《魔狩りの剣》から《凛々の明星(ブレイブヴェスペリア)》の臨時メンバーに選抜されたナンです。よろしくお願いします。…………まぁ、私が出来るのは戦闘くらいだけど、よろしく」

 

「よよよよよォろしくお願いちまづっ!!?」

 

 思いっきり舌を噛んだカロルだが、とても嬉しそうな顔だった。

 ゴーシュとドロワット達との反応は少し違うが、レイヴンから何か聞いていたのか、微妙な反応で静かに待っている姿勢だった。

 ユーリはこのメンバーにどんな意味を持ってこれからの【任務】を言い渡されるのか少し不安を感じるが、そんなの今までの冒険に比べれば大丈夫なような気がしていた。ジュディスに至ってはもう喜色満面の笑顔で、早くこれからの出来事に期待を膨らませていた。

 

「いやまさか、ナンが来るなんてな。よくあのクリントが許可出したな」

 

 《魔狩りの剣》の首領(ボス)であるクリントは、巨漢ながらの強者(つわもの)で、魔物に臆することのない勇猛果敢な戦士の男であり、身体中にある傷跡もあの男の一歩も引かぬ強さを引き立てる装飾に見えてしまうほどの戦闘者。

 あの殺気立つ《魔狩りの剣》を率いるクリントは、ギルドの皆を家族のように大切にしていることも有名で、ユーリたちも一度、このナンという少女を危険に晒されないよう不器用に、何処までも不器用に接しながらも、どこか限りない優しさに満ちたやり取りを見たことがあった。

 そんな(おとこ)の戦士が、この帝国とギルドの対立が減少している中、まるで娘のようにナンを見守っていたあの傷だらけの巨漢がこのような仕事をナンに回しているところは、少しだけ想像が出来た。

 

「その、首領(ボス)や師匠が……他のギルドを見聞してくることも、己の糧となるって言って、私を推薦してくれたみたいで」

 

「ふっ、あのクリントがねぇ」

 

「ふふふ、あのフードのお師匠さまも許可を出したのね」

 

「それで、ギルドはあと何名来るとか書いてあんのか、カロル」

 

「う~ん……なんか正確に人数決めをしてないらしいんだ」

 

「………………なるほど」

 

 ということは、どれだけ待てば良いのか分からないということ。

 待つ。それは一見楽そうに見える行動の一つだと思われるが、世界には万を越える人間だって居る。そんなにいれば、その『待つ』という行動が苦手と感じてしまう人間も居てもおかしくはないだろう。

 ユーリが一つ間を空けてから考え、思った。

 ただ『待つ』ことを嫌うユーリは、

 

「よし、あとはフレンに聞けば良いだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで真っ直ぐ帝国騎士団総本部にまで、来たと」

 

「おー……まさか本部に入るのにこんなに面倒になるとはな」

 

 現在、ユーリたちが居るのは歴代の帝国の騎士団員たちが築きあげてきた名誉と誇りで固められた立派な建物、『帝国騎士団総本部』にへと来ていた。

 場所は騎士団長室、以前使っていた先代騎士団長・アレクセイの執務室を預かったフレンは、そこで仕事をしていた。執務机にはまるで山のように築きあげられた書類が重なって、フレンの金髪が見え隠れしている。

 

面会予約(アポメント)も無しにくればそれは警戒すると思う訳だが……」

 

「アポって……おま、何様だそれ」

 

「……ユーリのことだ、手っ取り早く【任務(しごと)】の説明を聞きに来たのだろう」

 

 ユーリの不遜な態度にも溜め息一つで片付けるフレンだが、今やこの世界の唯一国家『帝国』に置ける重役にして重鎮、帝国の剣にして盾である《帝国騎士団》を統率する騎士団長(シュヴァリエムナール)

 控えている騎士団長補佐官ソディアが険を深くしてゴホン! と咳をする。

 ユーリと共に来ているのはカロルだけで、他の女子メンバーは待機という名目で、帝国の城下町でショッピングに洒落込んでいた。

 やはり強く止めておけば良かったと、嫌な汗を流しながらカロルは動向を窺う。

 

「私自ら説明をすると文にも書いてあったしね、説明をするのは構わないのだが、済まない。ご覧の通り仕事が溜まりに溜まっている」

 

「フレンにしちゃあ珍しいな。こういうのは前もって終わらせておくだろ?」

 

「騎士団長に就任してからはそれでも追い付けないくらい舞い込んでくるよ。でもこれらは本当に重要案件だけで、通常のものはソディアや他の文官たちが請け負ってくれてるよ」

 

「……へぇ~~」

 

「な、なんだユーリ・ローウェル!!」

 

「どうしたソディア?」

 

 急なソディアの反応にフレンが疑問を浮かべた眼差しを向けるも、ソディアは赤面になりながら頭を振り『申し訳ありません、なんでもありません』と謝る。

 ユーリはニヤけていると、脇からカロルが質問してきた。

 

「じゃあ……フレンも大変そうだし、ユーリ! また来ようよ!」

 

「終わるまで待ってた方が良くねぇか? ほら、そこに帝国印の菓子もあるし待ってようぜ。……あぁ、そこのお嬢さん、お茶くれ」

 

「ユゥゥゥリィィィ!!」

 

「このォ! ユーリ・ローウェル!」

 

 なんでこんなに騎士団を、いや、ソディアを挑発するようなことをするのかカロルは胃を痛くしながら思っていると、ソディアは案の定怒り心頭でユーリに迫っていく。

 すると、ユーリは来客用のソファーに座っていたのに、急に立ち上がり、

 

「うぐぐうっ」

 

「ッッッ!!?」

 

 ユーリは胸部辺りを支えて、見るからにわざと苦しんで見せている。

 今更になって朝食に摂取した甘さに胸焼けでもしたのかと思っていると、ソディアが何故か尋常じゃないほど焦りはじめてきたのだ。

 カロルはきっと今日の朝食のことを知らないから、ソディアが心配しているんだと思い、知らせてあげる。

 

「安心してよソディアさん。ユーリの自業自得だから」

 

「えっ!(ビクンッ!)」

 

「ほらユーリ! いい加減してよ、だからダメだって行ったのに!」

 

(な、何をダメだって!? 何か知っているのかこの少年は!?)

 

 カロルの言葉でまた更に焦りに拍車をかけてしまいソディアは変にオロオロし始める。

 この様子にユーリは大変満足そうにして笑っていれば、フレンもユーリが何かをからからっていることを知っているからか、書類仕事を没頭し始めていた。

 

 




後日また書き足すかもしれませんww

〝ww〟じゃねぇよってねww あっ

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