『そしていつかの物語』
◆◇◆
懐古を感じさせる優しい風の吹く自然の中に、一つの家がポツンと建っている。
こんな人気のない周囲を自然に囲まれた辺境に住む者、御伽噺であったなら、きっと住んでいるのは――魔女だろう。いやいやまさかそんな、こんなあからさまに災厄がいるはずもない。
そこで暮らしているのは――。
「オレは今日こそ、あの魔王を倒す!」
そこに小さな勇者がいた。
おもちゃのマントを翻し、エクスカリバー(ひのきの棒)を構える
紅葉のような赤髪に真っ赤な瞳。
その様はまさしく『剣聖』!人類最強の剣士!
「お兄ちゃんさー。いい加減諦めなよー」
そんな意気込む男に水を差すものがいた。
男の天敵、妹である。
「何を言う妹よ!あの邪知暴虐の限りを尽くす魔王の横暴をお前も見ただろう!」
「私五歳だからむずかしい言葉わかんないよ~」
本当に五歳かと疑いたくなるほど聡明な妹であるが、さすがに知らない言葉は知らないのだろう。それは仕方のないこと。
「くッ我が妹もよもや魔王の手に堕ちたかッ」
「えぇ~?」
しかし役に入り込んでいる男はそれを魔王の仕業だと確信する。
「ハーッハッハッハ!!!!!」
そこに割り込む第三者がいた。
「我こそは魔王様を守る四天王が一人!最強の鬼神である!」
四天王(一人)。黒髪に赤い瞳をもつまさに悪魔然とした風貌の男。
しかし、この男が強きものであることは事実。
「出たなッ魔王の手下めッ!」
「魔王様に物申したいことがあるならばこの我を倒してからゆくがいい!」
木の棒をもった勇者と無手の悪魔との戦いが!今、始まる!
「いざ!」「尋常に!」
「ふぁぁぁ」
勇者はその額に一本の角を生やし、相棒に渾身のマナを込める。
悪魔はその額に二本の角を生やし、その一撃を受け止めんと拳を構える。
妹はまだ残る眠気のままに欠伸する!
この場は混沌に満ちていた。
そして、混沌を治めるのが魔王という存在である。
「――ハル、ヨル、あなたまで。何してるの」
恐るべき覇気。
勇者も悪魔も妹も、動くことはできない。
否、妹は即座に魔王の元へ向かった。
「お母さーん、またお兄ちゃんがね~」
裏切りである。
「う、裏切ったな、妹よ!くッやはり魔王の手に!」
「――そう。」
妹、ヨルから話を聞いた魔王は一言、そう告げた。
その一言だけでさしもの勇ましき勇者も動けない。
勇者の心中にあるのはただ一つ。
――怒られたくない!
そして。
「もうご飯できたから、早く来なさい。――すぐ来なかったらご飯抜きよ」
そう言って魔王は去っていった。妹もそれについていく。
魔王は慈悲深かった。そして横暴だった。
「うっ卑怯だぞっ!」
最大限の抵抗をするものの
ああ、なんと無力なのだろうか。
「ほら、母さんを待たせるな。行くぞ」
情けない。
「はぁ。わかってる」
しかしそれを責めることはできない、怒らせると怖いのだ。
マントと木の棒をその場において家の裏庭を去る二人。
これが世にも珍しい鬼族一家の日常である。
◆◇◆
続ク。かも知れなイ。