コヨーテの歌   作:ねこや しき

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あとがき

 ここまで読んでいただきありがとうございました。完結までにとても長い時間(4年! )がかかってしまいました。ついてきてくださったみなさんには改めて御礼申し上げます。

 

 さて、ここは蛇足です。 が、後半にはエピローグ Bもあります。好きに読んでいただければ、と。

 

 

 令和に入ってから電脳コイルを見直して、みごとに沼につかりました。優しくないヤサコと勇ましくないイサコの、電脳の絆で結ばれたふたりの女の子。

 

 当初はヤサコとイサコの対称性にバチギレしていたのですが、だからこそ人生で初めてここまで文字数をかけて「勇子と名前を呼ぶ人」を書ききったと思います。何度読み直しても楽しいので、まあそういったところでしょう。技術的にはつたないですが、あることが第一です。未来の私がにっこり。

 

 幸枝

勇子は作中でほとんど「ゆうこ」と名前を呼ばれません。だから彼女の幸せに尽力してくれる人が欲しくてこの人物になりました。幸枝は勇子にふりかかる雨を防ぐ枝です。しかし、枝でしかないので全てを除けることはできません。原作沿いにする上でこの設定は絶対に必要でした。

 徹頭徹尾そういう人であると思います。ですがその一方で、ちょっと不思議なくらいに勇子の幸せを祈っています。そのために勇子の過去をねつ造しまくっています。あのあたりが一番書いていて楽しかったです。人は葛藤しなくては。

 

 ハッピーエンド

で終わりました。「幸せってなんだろ!」と思いながら途中でプロットをやりました。はじめは「イサコを絶対に幸せにしてやる!」と思って書き始めていますので。なんか、でも、イサコは自分の幸せを自分で叶える人だから、余計かなとも思いつつ。幸せを願うのもエゴだなあ、ともなりつつ。だから言葉を尽くさないといけないんだろうな、と思います。そういう感じ。

 

 電脳コイル

最後まで書ききれたのは、電脳コイルという作品の魅力のおかげです。びしゃびしゃに泣きながらアニメを見ました。本当にありがとうございました。近頃(2014年はじめ)では資料などが再版されていて嬉しい限りです。とってもだいすき! イサコ、わらって!!

 

 

 

 

 

エピローグ B

 

『私たちは共犯者だ』

 

 さらさらと通学路を春の風が吹き抜ける。風に混じってちらほらと桜の花びらも飛んできた。

 4月から入学した中学校はブレザーを制服にした学校で、今までとはたくさんのことが変わった。これまでと同じとはいかない。体に合った制服を着て、指定の鞄を持って川縁の道を通う。

 

 後悔はなかった。

これまでと違う生活をすることも、ヤサコとの縁を細いものにすることも。そうすることが自分に必要だと勇子はわかっていた。あの日、目覚めたときから勇子の見える世界が変わったのだ。今までよりもずっと広く物事を見れる。自分のこと、ヤサコのこと。それから家族のことも。

 怖くて目をそらし続けた時間のことや、これまでずっとそばにいてくれた人たちのことを考えると頭が痛いやら恥ずかしいやらで、正面から向き合うのはまだ難しい。でもきっと、いつか全部に向き合うことができるんだろう。それがわかるようになった。

 

 さらさらと風が耳元を抜けていく。髪を下ろすようになってから、視界をさえぎることが多くて非生産的だった。かといって希望の髪型があるわけでもないから、だらだらと長くしている。

 そうやってぼんやりと考えながら歩いていると、車が寄ってきた。見慣れた車だ。開いた窓からオバの顔が見えた。

 

「勇子~! 乗ってかない? 」

 

 オバは普通の会社員だから、この時間帯はいつもなら勤務時間のはずだ。なにかあったのか。車に近寄りながら疑問を口にする。

 

「オバさん? 今日、はやくないか? 」

 

「そう! 今日は早く上がっていいよ~っていう日みたい。だから一緒に帰らない? 」

 

 まぶしそうに目を細めながら私の返事を待っている。その表情はやわらかで、焦りや怒りとは無縁だ。あの日以来、オバさんは激しい感情を見せない。もともとからそういうタイプの人であるらしい。むしろ他の親族に聞くと、あんなに焦ったりしていることのほうが珍しいという。

 

「うん」

 

 頷いたら嬉しそうに笑ってくれたので、なんだか自分が良い行いをしたような気持ちになった。

 ドアを開けて、バカみたいに詰め込まれた鞄を足元に置く。シートベルトをしめたら車は出発した。学校と家はそんなに離れていないけど、歩くより車のほうが楽に決まっている。

 

「今日の学校はどうだった? 」

 

「……委員会活動がはじまって、別に言うこともないから椅子に座ってるだけになった」

 

「えー? 今もそんな感じなんだ。どこに入ったの? 」

 

 オバの問いかけは時々むずかしく、返答に困ることもある。たぶん、あんまり返答の内容に気を使って話していない。慣れていないんだと思う。

 入院しているときから微妙に話がかみ合わなかったり、返答が難しい問いかけが妙にあった。ただそれも、会話の数をこなすうちに大分マシになった。オバは私の反応をよく見て、最適化をはかっている。

 

「そういえば今朝のニュースでAI技術の話が出てたけど、電脳メガネにコンシェルジュみたいなAIサポート機能って載せられないのか? 」

 

「あ~……、まだ容量的な問題が解決しないかな。ただ、個人で賄える程度ならなんとかできるかもね。精度も賄える程度にしかならないけど」

 

 電脳技術に対する知識と回答はブレがない。運転をする横顔を視界に入れると、ほんの少し嫌そうな顔をしている。うまくできないのが嫌なのかもしれない。そういう気持ちはよくわかる。

 

 私もうまくできないことがある。

 

 やりたいのにうまくできなくて、これでいいのかと迷っている。オバは、たぶん、私の望みをできるだけたくさん叶えようとしてくれる。それはありがたいことだけど、私みたいな人間にはそれは困る。ひとりで歩き続けるためには、助けられることに慣れたらいけない。そう、ヤサコに告げたように。

 

 だけど、とも思う。【このひとにむくいたい】とも。

 

 ぽつぽつと続いていた会話が途切れる。オバと話す内容はピンからキリまであるし、話さない時間ももちろんある。その無言の時間に焦りを感じることはもうない。

 だけど今日は、心臓がばくばくと動いている。こんなに動いているのに、オバに聞こえないのが不思議なほどだ。今日は言える気がする。ヤサコから電話が来たからだろうか。あっちはあっちで進んでいるようだったから、私も一歩を。

 

「ねえ、――ゆきちゃん」

 

 言えた! その言葉には長いブランクがあるはずなのによく馴染んだ。昔、ずっとそう呼んでいた。

 ゆきちゃんを見たら、もうすぐに泣きだしてしまいそうな顔をしていた。それはたぶん、悪い意味じゃないほう。

 

「なに? 泣いたの? 」

 

 あんまりにもくしゃくしゃの顔で泣くのをこらえてるし、途中で嬉しそうに笑うものだから。今まであんなにためらっていたのが馬鹿みたいだ。もっと早くそう呼べばよかった。恥ずかしくて頬があつい。

 

 うまくいって、嬉しい。

 

 ぐすぐす鼻をすすって、目をこすりながら運転を続けるゆきちゃん。言葉にならないうなり声で「うー」とか深呼吸をして、それでもう本当にうれしい顔で言う。

 

「今日、ご飯なににする? 」

 

「じゃあハンバーグがいい」

 

「そしたらひき肉を買いに行かなきゃだね」

 

 「うん」と返事をして思い出す。

電脳空間でお兄ちゃんと一緒にいた頃、自分の名前を呼ぶ声を遠くに聞いていた。電脳空間に季節のうつろいや、天気がときどき反映された。お兄ちゃんはゆきちゃんの名前を呼ぶことがあった。

 

 ゆきちゃんはずっと一所懸命で、私たち家族のためにがんばってくれる。いつか、その理由を聞きたい。

 


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