気分屋マヤノちゃんがクラシックを荒らす話。   作:隣のAG/マヤノテイクオフ

2 / 25
続きました(挨拶)


無敵の帝王伝説、背後に迫るのは変幻自在のファイター。


本編:気分屋マヤノちゃん
クラシック ハートブレイク1 接敵


3冠を含めたクラシックディスタンス、そのG1レースに出走するに当たってひとつ大きな問題があった。

 

 優先出走権がない1勝ウマ娘なので、出走できないのだ。

ホープフルステークスを勝利したトウカイテイオーはともかく、マヤノトップガンは入着したもののメイクデビューしか勝利がない。

弥生賞を勝利すれば優先出走権が手に入るらしいが、皐月賞、ダービーと続けて挑むことを考えるともう少し期間を空けておきたい。

かといってトウカイテイオーの次走である若駒ステークスは避けたい。

そこで選んだのは2月前半に開催される、G3きさらぎ賞。マイルの1800mレースだった。

 

 あんまり好きじゃない距離だけど、このレースなら大丈夫そう。とはマヤノ談である。

今回も【逃げ】でいくらしい。

 

「まだマヤに注目するには早いもん。トレーナーちゃんだけが見ていれば十分だから」

 

 それに、切札はとっておきのタイミングで切るものだと、人差し指を口の前に持ってきて、まるで秘密だよとでもいうようにマヤノは言う。

世間にはまだ逃げウマ娘だ。そんなウマ娘がもしG1の舞台で逃げではなかったら?もし出遅れでもしてバ群に埋もれたりしたら?

バ群に埋もれた逃げウマ娘の末路は明らかだ。まず勝てない。そう思ってくれれば皐月賞は警戒されずに動きやすくなるだろう。

 

 今はまだ、逃げウマ娘がたまたま勝利をもぎ取った。そう見えるのがマヤノにとって望ましい。

それこそ見る目のあるトレーナーなら違和感を覚えるかもしれないが、まさか脚質自由なウマ娘とは夢にも思うまい。

 

 マヤノにとって気持ち良く飛ぶための、フライト前の入念な計器チェックに過ぎないのだから。

 

 マヤノは無邪気に笑う。

楽しいフライト(レース)の時間までは、まだ余裕があるのだから。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

2月。G3 きさらぎ賞 マイル 1800。

 

『1着はマヤノトップガン!見事に逃げ切り1/2バ身差をつけて勝利しました!』

 

 1勝ウマ娘はG3ウマ娘となった。

あとは皐月賞の抽選次第だ。

その日のインタビューでマヤノトップガンの次走は皐月賞であると公表した。

クラシックは面白そう!という回答だったマヤノだが、その内心は見た目ほど楽しみという訳ではないだろう。

勝てるから取りに行く。それだけなのだから。

 

「次も逃げ切るから、楽しみにしていてね!」

 素晴らしいです!!と感激するちょっと有名な記者の質問に、適度に濁しながら答えインタビューは終えた。

逆に、並みのトレーナー以上に鋭い観察眼を持った人だと感じられる部分が見られ、トレーナーでなく記者であるのが、不思議に思う人だったということが印象に残る人だった。

 

 

 

 

 

「―――へぇ、マヤノも皐月賞に出るんだ」

 

 でも、ボクが勝つけどね。

モニターを消した少女は部屋を後にした。

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 クラシック最初の冠、G1 皐月賞。

ここから3冠を賭けた最初のレースが始まる。

このレースでは最も早いウマ娘が勝つ。と言われている。

 

 あるウマ娘は3冠に至るユメを。あるウマ娘は一族の悲願を。

多くの人の願いを背負いウマ娘が走っていく。

いまだ新人に過ぎない私は、ホープフルステークス以上の熱気に圧倒されていた。

 

 だがきっと、マヤノトップガンが勝つだろう。

担当だからと多少は贔屓目で見ているとしても、間違いなく最も仕上がりが早いウマ娘はマヤノトップガンなのだから。

 

『注目の一番人気!期待のホープ、トウカイテイオー。8枠18番から出走です』

『よい仕上がりですね。調子も良さそうです』

 

『続いて2番人気!マキシムマイティ。5枠11番です。』

『この評価は少し不満か?』

 

『3番人気はこのウマ娘!マヤノトップガン。4枠9番から出走です』

『今回はどんな走りをみせてくれるでしょうか』

 

 

 

『各員ゲートイン完了』

『スタートしました!』

 

『おっと9番マヤノトップガン!大きく出遅れか!?』

 

 逃げウマ娘のマヤノトップガンは大きく出遅れ、バ群の後ろへと取り残されたスタートになった。

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

『大きく離されてシンガリは9番!マヤノトップガン』

『なにかの作戦でしょうか?』

 

 

『注目の18番トウカイテイオーは前につけました』

 

 

 トウカイテイオーは最も得意な先行策。今回もいい位置につけた。

今回の逃げウマ娘はどこかの逃亡者のように、破滅的な逃げという訳ではないようだ。

このペースならいつも通りに足を溜めて、スパートに備えるだけだ。

気になるのは、逃げウマ娘のはずであるマヤノトップガンが出遅れたのか後方にいるようだが…

 

(マヤノはゲート苦手だったかな…?)

 

チラリと後方を見るが、バ群に埋もれたのか、それとももっと後方なのか、姿は見えず確認できない。

今いない相手のことを考えても仕方ない。

勝負は最終コーナーからなのだから。

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

『最終コーナーに入りました』

『ここからスパートですね。中山の直線は短いぞ!』

 

テイオーは最終コーナーで抜け出す準備に入った。

ここからボクの勝ちパターンだ。コーナーを膨らみつつ加速し、直線で一気に置き去りにする。

チラリと左を(・・)見てハナを走っていたウマ娘を抜き去った。ここからテイオーの一人旅だ。

背後に迫る音は聞こえてこない。

 

あと100メートル…50メートル…ゴールは目の前だ。

ボクがサイキョーだ!このまま走り抜けるだけだ!

ムテキのテイオー伝説、その一つ目の冠が今―――

 

 

 

―――シュートダウン

 

 

 背後から迫る戦闘機(ファイター)が、目の前の敵機を撃墜し少しズレることで交わしていく。

テイオーの意識の隙間に滑り込むように、橙の影が内からハナ差を抜け出した。

 

 

『クラシック3冠最初の冠!勝ったのは―――!!』

 

 自分ではない名前を呼ぶ、実況の声はどこか遠くに聞こえる。

 

「…え?」

 

 今何が起こったのか確かめるように、自らの勝利だったハズのものを確かめるように。

トウカイテイオーは掲示板を右から振り返った。

 

 そこには自分のものではない数字が。あるはずがないと思いたかった誰かの番号9と、2着になった自分の番号である18、そして“ハナ差”の表示が。

 

 いったい誰が?ボクは負けた?

 

 

「テイオーちゃん」

 

 

 そこでやっと現実を直視することになった。

 

 

「マ、マヤ…ノ……?」

 

 普段の笑みはせずに真面目な表情のマヤノトップガンがいた。

ボクがサイキョーだって、相手にならないって、意識していなかった相手。そのハズだったのに。

 いつから?どうやって?

後ろに向いても誰もいなかったハズ、だったのに?

 

「まず一つ目だね」

 

 客席に向けて一つ、指を立てる。

ボクがやるはずだった、冠ひとつ取るごとに指を増やす。その勝利宣言を。

 

 ボクは混乱したままで、怒りも、悔しさも、哀しみも何も感じられずただ呆然としていた。

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 無事クラシック最初の冠、皐月賞を制したウマ娘。マヤノトップガンはどう走ったのか?

というと答えは単純である。マヤノトップガンにしかできない走りをしたのだ。

 

 今回は追込の作戦だった。

殿について足を溜める。それから最終コーナーまでを目安にじわりじわりと順位を上げる。

バ群にあえて突っ込み、トウカイテイオーがスパートする直前には真後ろにつけたのだ。

あとはトウカイテイオーの意識がどちらに向くかに合わせて、外か内か少し横に動く。

マヤノはトウカイテイオーがスパートするときは外に、最後の瞬間は内に。トウカイテイオーがどちらに意識が向く方向とは逆に動いたのだ。

あとはスリップストリームだけではなく、トウカイテイオー自身の足音にリズムを合わせて気配を消し、最後の瞬間の油断に合わせて抜き去った。

 

 照準はとっくに合わせているのに、あえて撃墜せず待っていたという訳だ。

間違いなくマヤノトップガンにしかできないだろう。なにせ本人の感覚だけで全てやってのけたのだから。

 本人に聞いても「わかっちゃった」と返ってくるだけだ。誰にも真似できないだろう。

 

 

 

 ウイニングライブを待つ間、スピカトレーナーと少しだけ話をした。

 

「してやられたぜ。まさか逃げ以外もいけるとはなぁ…」

 

私も驚きです。好きに走ってもらうことにしましたので。と返すと驚きを露わにした。

 

「マジか。どうりで逃げウマ娘にしてはバ体が…いやこれは後で洗い直しだな…」

 

思った以上に要注意だったなと呟くのが聞こえてくる。

 

「ともかくおめでとさん、これで新人君も皐月賞ウマ娘のトレーナーとなった訳だ」

 

実感は薄いです、と正直に返すと「そりゃそうだ」と苦笑された。

そろそろ励ましに様子を見にいくわ、と手をひらひらとさせながら去っていった。

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 クラシック3冠でしか聞けない選曲のウイニングライブを終え、控室でマヤノに改めて「おめでとう」と伝える。

 

「トレーナーちゃん」

 

 ゆっくり振り返ったマヤノは心なしか、少し気落ちした様子だった。

 

「…マヤはキラキラ、してた?」

 

 してたさ。誰よりも輝いていた。

 

「なら、いいのかな」

 

 …トウカイテイオーのことだろうか。

 

「うん。マヤがいなかったらテイオーちゃんは無敗で、皐月賞ウマ娘だったと思うから」

 

 勝つことは誰かの夢を砕くことでもある。トウカイテイオーの無敗で3冠を取る夢は今日、断たれたのだから。

 勝負の世界とは残酷である。それはトウカイテイオーだってわかっていたはずなのだ。

でも私は、マヤノの好きに走ってほしい。

 

 マヤノトップガンのフライト(レース)を、誰よりも楽しみにしているのは私だから。

 

「…もっとマヤにむちゅーにさせちゃうからね」

 

 

 レースは残酷だ。勝ちは最初に駆け抜けた者だけが手にし、他の全員が敗者となる厳しい世界。

しかし誰しもそこにユメを背負い駆けるのだ。

マヤノトップガンがこれからも勝つことになれば、その分だけ積み重なっていく。

 

 今日は同室でもあるトウカイテイオーのことも考え、外泊許可を取った。

寮長からはこればかりは仕方のないことだから。と快く許可が下りたという。

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 やっと自分が負けたのだ。そう自覚し始めた時にはもう、ウイニングライブは終わっていた。

ボクはうまく笑えていただろうか?ちゃんと踊れていただろうか?

控室に戻ったボクは、力無く椅子に座り込む。

 

 ボクはマヤノに負けたのだという、事実が段々と重く、重くのしかかっていくように感じた。

 

 

 

「ボクの、無敗も3冠も……終わっちゃった」

 

 

 その日の晩は、マヤノがいない暗い部屋でひとり、うずくまっていた。

 

 




短いかもしれませんがキリのよいとこで投稿です。
創作は勢い!

本当は3話完結で終わる予定でした。
でもそうすると永遠に投稿しないかもしれない。
モチベの限り、続きます。

名前の出ないモブウマ娘リスト
デンジャーゾビー、タドリツクレガシィ、バンバンシュート、バクソウチャリィ、ハイパワームテキ、クロノシスサーティ、他

次はダービー。

設定まとめがあったら

  • みたい
  • みたくない
  • 表紙、描んだよぉーっ!
  • 無回答
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。