気分屋マヤノちゃんがクラシックを荒らす話。 作:隣のAG/マヤノテイクオフ
次の標的は宝塚記念。
マヤノトップガンは伝説への道を飛ぶ。
トウカイテイオー骨折、全治6ヶ月。
ダービーの後でマヤノから「折れてると思う」と聞きはしたものの、それは未だ新人トレーナーと分類される私には衝撃の内容だった。
3冠のうち2つは既にマヤノトップガンの手にわたったとはいえ、あとひとつというところで最有力候補のライバルウマ娘が実質、出走できなくなったのだ。
意地でも勝負を仕掛けてくるであろう相手が、当然のようにリベンジしにくるだろう。そう思っていた。
スピカトレーナーに後で聞いた話だが、怪我の原因はよくわかっていないらしい。
現代でもいまだウマ娘について未解明な部分も多いのではっきりしたことはわからないという。
ウマ娘全体でも、特に身体が柔らかい方に入るトウカイテイオーでも骨折するということは、もしかしたらの話だが、特徴的な走り方に原因でもあるのか、硝子の脚と言われるほうなのか、真実は定かではない。
しかし、文字通り飛ぶように走るというのは多大な負荷がかかりそうでもある。
傍から見れば、人間で言うと常にハードルを飛ぶような走りに近いと思われる。ウマ娘だからできる走りなのかもしれないが。よほど頑丈なウマ娘にしかできないのかもしれないが、まず比べるデータがない。
素人意見ながらスピカトレーナーは「その発想はなかったわ」と有り得ない発想ではないことを認めていた。
全力で間に合わせる為にどうにかする、それがトレーナーの役割だ。と迷いなく言えるその姿は尊敬に値するトレーナーの鑑であると素直に思えた。
◇◇◇◇◇
なんだ、なんだあいつは。
マヤノトップガン、あいつはバケモノだ!
あんな奴と私は、私たちは同世代になってしまったのか!
トウカイテイオーですら溢れる才能を感じるヤバイやつだったのに、もっと上の奴が今まで本性を隠していたのか!
ホープフルステークスでは全く片鱗を見せず、ただの逃げウマ娘だったのに!
皐月賞では出遅れて安心していると、いつの間にかトウカイテイオーの真後ろだ。意味が分からない。
おまけにダービー。
あれはなんだ?
5,6人のウマ娘によって前も後ろも横も、完全に塞がれていたハズだ。
アイツのプレッシャーで焦り、戸惑い、ペースを乱されたウマ娘はその包囲網を崩してしまった。
一瞬の隙に抜け出したらそのまま3、4コーナーを外差し態勢に入ってからのスパート。
トウカイテイオー含め3,4人のウマ娘を抜いてさらに末脚を爆発させ、まとめて薙ぎ払ってしまった。
あれがクラシックウマ娘の出すプレッシャーなのか?
包囲網に加わったウマ娘の誰もが、玉座と紫電を幻視したのだ。
そのプレッシャーも、走りも、まるで。
かつての皇帝シンボリルドルフのようではないか!
逃げ、追込、そして差し。複数の脚質で勝つようなウマ娘なんて、冗談だったらどれだけ良かったか!
あんなヤツにどうやって勝てというんだ。
トウカイテイオーが怪我で脱落してしまったら、かつてのシンボリルドルフ、ナリタブライアンの悪夢そのものじゃないか!
―――とあるウマ娘の独白
◇◇◇◇◇
今後のことを見据えて、仮でもチーム名を決めて欲しいとたづなさんを介しての通達があった。
今はまだマヤノトップガンで手一杯なので、複数の担当を受け持つことは厳しいが、手続きの関係上必要になるときがあるので、チームを名乗ることが許されたのだ。
どうしよう。悩んでも候補が浮かぶわけもないので、マヤノと相談して決めることに。
さそり座α星A、アンタレス。
それが現在唯一の担当であるマヤノトップガンが所属するチームについた星の名前だった。
というのも、マヤノトップガンが知っている、伝説的エースパイロットのコールサインに使われた星を選んだだけなのだ。
当然ながら、トレーナー業とウマ娘に費やした半生の若人にその手の知識があるはずもなく、マヤノの好きにしていいよ。とそのまま提出。受理された。
マヤノの父親がパイロットであるという話を聞いたので、その関係かもしれないとふんわり考えていた。
…マヤノトップガンというエースパイロットが立ちはだかる敵を撃ち落とす
そのついでとして、勝負服に撃墜したG1レースの意匠を凝らした勲章をつけていきたいということで、簡素なデザイン案と方向性を書き連ね、専門デザイナーに発注することになった。
余談だが、父親は戦闘機で山岳地帯にあるトンネルを潜り抜けたことがあるらしい。
戦闘機が通り抜けるには狭いと思われるギリギリな幅と聞いた。それは本当に同じヒトなのだろうか?
ひとつ謎が深まったのは言うまでもない。
◇◇◇◇◇
ダービーを終えたが、一大イベントといえるG1レースは残っている。
ファン投票で出走可能かどうかが決まる夏のレース。
そう。宝塚記念である。
多くのグランプリウマ娘を望むレースである宝塚記念。サイレンススズカやオグリキャップを始めとする人気のウマ娘への投票は多いものの、出走の可否は問わないので、実際には出走見送りと決まった時点でその次の順位になったウマ娘が、繰り上げで出走権を得るといったシステムである。
今年も海外遠征中のサイレンススズカは出てこないし、春の天皇賞を取ったメジロマックイーンのように、目標レース以外は積極的ではないウマ娘も勿論不参加を発表している。
しかし、現在2冠ウマ娘マヤノトップガンが、クラシックでシニア期のウマ娘に挑める絶好の機会を、逃すハズもなく…
「マヤね、宝塚記念に出ようと思う」
宝塚記念には少しだけ感じるものがある。と言われれば止める訳にもいかない。
ウマ娘には運命を感じるレースが確かにあるのだ。ウマ娘の魂に刻まれたレースと言うべきものが。
別世界に存在する平行同位体が関係しているという、正直眉唾物の話もあるが、その真相を知るのは女神のみである。
今回の宝塚記念出走バでの最有力候補は、エアグルーヴ、マチカネフクキタルらしい。
副会長を務める女帝エアグルーヴは言わずもがな、応援券がおみくじ感覚で扱われているが爆発力が恐ろしいマチカネフクキタル。
どちらもチーム・スピカが誇るサイレンススズカとしのぎを削った強敵である。
「今回はさすがのマヤもいけるかわからない」と言うくらいだ。クラシックとシニアの壁はそれだけ厚い。
そもそもクラシックの時期に皐月賞、ダービーから続けて宝塚記念を取るのはシンボリルドルフすらしていない。正直に言うと厳しいローテになっていることで、マヤノトップガンにもしものことがあったら目も当てられない。
夏の合宿トレーニング計画は完全に白紙となり、マヤノトップガンのレース対策をどうするかといったコンディション調整に注力することとなったのは言うまでもない。
ひとつ安心できる点があるとするなら、私もマヤノも、負けたら終わりの背水の陣とでも言うべき覚悟を背負っている訳ではないということだ。
連勝記録を望むファンには申し訳ないが、負けたら負けたでそういうときもある、程度の軽さであった。全力を尽くさないという訳ではない。
◇◇◇◇◇
今年の宝塚記念は、現在連勝中の2冠ウマ娘マヤノトップガンが殴り込みを仕掛けるということで、大きな賑わいをみせていた。
逃げ、追込、差しの全く違う走りを見せ、今度はどんな脚質を見せてくるのか、と各陣営のトレーナーもウマ娘もファンも、頭を悩ませている。
クラシックを迎えてからは前からも後ろからも勝つ。という意味不明な戦績という偉業を既に残しているが、ここまでくるとどうすれば止められるのか、を考えるよりいかに自分のペースで勝利を目指すかを考えた方が有意義ではないか。と対策を諦めるしかない。
チーム・リギルもエアグルーヴ本人のペースを崩されなければ勝てるだろう。というのがトレーナーの評価であり、最強のチームという称号は伊達ではないと、堅実な戦術と対策を持って臨むことになった。
『今年もスターウマ娘が集まりました宝塚記念!』
『1番人気はこのウマ娘!女帝、エアグルーヴです!』
『8枠12番からの出走です』
『最強のチーム・リギル、その実力を見せてくると期待されています』
『2番人気はこのウマ娘!現在3連勝中、2冠ウマ娘マヤノトップガン!』
『6枠9番からの出走です』
『本日はどのような走りをみせてくれるか、注目のウマ娘ですね』
『3番人気はこのウマ娘!マチカネフクキタル!』
『5枠7番から出走です』
『吉とでるか、凶とでるか、全く読めないウマ娘ですがその実力は本物です』
会長のシンボリルドルフは気を付けろと言っていた。同時に気を取られ過ぎてもいけないと。
マヤノトップガン、フライトジャケット風の勝負服には見慣れぬ勲章が2つ、新たについている。
どんな作戦であれ副会長として、リギルの一員としての実力を思い知らせるまでのこと。
『各ウマ娘ゲートイン完了』
『今年のグランプリの称号は誰の手に!今、スタートしました!』
『9番マヤノトップガン、すーっと前に行きます』
『今回は逃げでしょうか?』
『大きく4,5バ身差をつけて逃げるマヤノトップガン!大逃げか!?』
なんだとアイツは!?かかっているのか?
『4番手につけましたエアグルーヴ』
『2コーナー回って向こう正面、依然として縦長の展開です』
いまだクラシックのウマ娘が大逃げか?サイレンススズカならまだしも、そんなスタミナがあるとでも言うのか?
くっ、どちらにせよ離され過ぎると、差し切って勝つには脚が残るかどうか…
後続にはマチカネフクキタルもいる。このままペースを保ちながら後ろも気にしなければならないとは。
『ややペースを落としたかマヤノトップガン、3コーナーに入ります』
『後続との差も詰まってきましたね』
そろそろ最終コーナーだ。このまま差し切る!
「シィィィラァァオオオォォキィィサマァァァァッッ!!」
「何っ!?」
凄い形相のマチカネフクキタルが、恐ろしいペースで上がってきた。
今日は“キテル”日だとでも言うのか!?
『3コーナー、マチカネフクキタルペースを上げてきた!』
『馬群を突き抜けて上がってきました!』
『先頭マヤノトップガン、最終コーナーに入り加速しました!』
こうなるとは思いたく無かったが、マヤノトップガンが加速した。
マチカネフクキタルはスパートに入った私を置き去りにして、マヤノトップガンへ迫っていく。
私は、私は…!届かない…!
『驚異の末脚マチカネフクキタル!』
『しかしマヤノトップガン粘る!マヤノトップガン粘る!』
『どっちだ!?マヤノトップガンか!?マチカネフクキタルか!?』
『両者ほぼ横並びでゴールイン!』
『少し遅れてエアグルーヴ!3着です!』
『写真判定に入ります』
『判定でました』
『1着は…』
『マヤノトップガン!ハナ差で見事グランプリウマ娘の称号を手にしました!』
『惜しくも2着マチカネフクキタルです!』
『あと数メートルあれば勝敗は変わっていたかもしれませんね』
あいつにサイレンススズカの幻影を見てしまった。
それが私の明確な敗因だろう。速さの向こう側へ走り抜ける、そんな姿がよぎってしまったのだ。
マヤノトップガン、間違いなく皇帝に並ぶかもしれない次世代のウマ娘だろう。
今の私ではまだ、スズカに届かないのではないか。あいつの影に動揺してしまった。私もまだまだだな。
しかし、敗者となったが勝者は讃えられるべきだ。
この燻る思いに蓋をして、先輩をしてできることをせねば。
「おめでとう、マヤノトップガン」
その日、マヤノトップガンの勝負服に輝く勲章がまたひとつ、増えた。
菊花賞といったな?あれは噓だ。
次回こそ菊花賞です。
まだ戦えると自分を鼓舞して続いております。
次回の更新はいまだ未定です。
設定まとめがあったら
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みたい
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みたくない
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表紙、描んだよぉーっ!
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無回答