気分屋マヤノちゃんがクラシックを荒らす話。 作:隣のAG/マヤノテイクオフ
グランプリウマ娘かつクラシック3冠。
マヤノトップガンは前人未踏の先を行く。
ウマ娘の史上初、クラシック期の宝塚記念制覇と皐月賞・ダービーに続く変則3冠の達成。という大きすぎる話題で世間は賑わっていた。
次に控える菊花賞も取れば、クラシック3冠なのだ。さらに言うとこの3冠を全て、異なる作戦で勝利した、というのも前例がなく、後押ししているのだろう。
しつこい記者とマヤノが「いやなかんじー」と言う会社からの取材依頼は全て断っているものの、つても後ろ盾もない新人というこの身ではどうにもならない部分は、たづなさん経由でなんとか手を回してもらっている。
…だけなら良かったのだが、“新人”の“初担当”ということで、同僚の妬みややっかみの声が大きくなった、というのはクラシック路線も折り返しの時期に大きな問題だった。
幸いにして、スピカやリギルといった一部のトレーナーは同情的というよりは、協力的な立場であるのがありがたいことだ。
昔からトレーナー同士の情報共有がいくら低く閉鎖的と言われていても、人は共通の敵に対してここまで連携できるのかと関心してしまいたくはなかった。
直接「お前には荷が重い」とか「いずれ才能をつぶす」とか言ってくるのは可愛い部類で、「私なら3冠どころか5冠になっていた」とか「賄賂をいくら積んだのか?」とか言われるのは流石に私も頭にくる。ウマ娘をなんだと思っているのか。
さすがに手を出してくるトレーナー失格な方々に関しては「資格剥奪!」と理事長直々の追放処分が下された。
嘘か誠か、のらりくらりと偶々落ちてきた植木鉢すら躱し、犯人を心底恐れさせたらしいマヤノに被害がないのが救いか。
こうなると以前並走を頼んでいたチームにはもう頼れず、頼ってくれていいと言われたスピカや、これまたチームとして新しいカノープスか、となるが同期のライバルがいるチームには頼りにくい。
本格的にお手上げ状態のまま迎えることなった夏は、意外にもリギルから合同合宿という形を取らないか、と誘いを受けたので夏合宿の間だけ同伴に与ることとなった。
なおマヤノはレースの疲労を考慮してトレーニング自体は不参加である。
要はサブトレーナーのように手伝いをするということである。
リギルのように大きいチームとなれば、人数が多いのでどうしても全体をみることはできない。
トレーナーならストップウォッチを握るくらいはできるだろう。ということである。
◇◇◇◇◇
ホテルに荷下ろしをした夜。
事前にトレーニングの手伝いをするという話はされていたが、初日は休息となった。
ウマ娘たちは近くの海に出かけたようだが、トレーナー二人、ラウンジで向かい合っていた。
「実はルドルフから一度話がしたいから機会を作れないか、と言われてね」
珍しいことに
「本来ならば、有能な人材はサブトレーナーとして迎えたいところなのだけど」
君は断るでしょう?と続けられはい。と即答した。
マヤノ以外のウマ娘に目を向けてトレーニングやローテーションを考える、なんて余裕が自分にはない。
「ウマ娘に寄り添ったトレーニングメニュー、ね」
マヤノのトレーニングに関する資料。全てとは言わないが、まとめた物をリギル・トレーナーに渡した。その資料を見ながらどこか懐かしむように言った。
「放任主義、というよりは色々しているみたいね」
何事もマヤノのやる気が一番ですから。
それはマヤノの才能を目の当たりにして日々を過ごす中、くだした結論だった。素人の管理主義など足枷にしかならない。下手に縛り付けることはマヤノトップガンの強みを殺すことと同義なのだ。
ならば自分にできるのは、ほんの少しの後押しだけ。コンディションの維持に努めるのがトレーナーの仕事だ。
「若いわね。あなたのようにウマ娘を尊重し、任せる方針なんて、なかなかできないわよ」
あの時、私の初担当のときもそうだった。そう言ったが、初担当といえばマルゼンスキーだろうか。
マルゼンスキーさんの時は大変だったと噂は聞いていますが。
「あの頃はまだ、クラシックレースの出走制限も含めて、まだまだルール改訂がされていなかったから」
マルゼンスキーのように海外生まれというウマ娘は、いくら日本に帰化していても出走できない。そういった制度があった。島国特有の排他的な考え、というものだが、いつまでも閉じこもっていては更なる発展はみられない。
さらには地方出身のオグリキャップが出走できない、といったものもあったが、ファン含む有志による強い働きかけの結果、それらは撤廃されたのだ。
あなた達先人のおかげで、今のウマ娘達がユメを追うことができます。
「あなたは…誰よりもウマ娘を、担当を信じているのね」
はい。担当を信じてこそトレーナー、でしょう?
「…話を聞く限り、リギルよりスピカの方があなたの方針にはあっているようね」
…管理主義ではマヤノのトレーナーには、なれませんでしたでしょうね。
「お互い、才能溢れるウマ娘が最初になってしまうと大変ね」
強い輝きは強い影が生まれるもの。賞賛と栄誉だけでなく、恨みつらみも手繰り寄せてしまうものである。他人事のようには思えない状況とも言っていた。この人もまたマルゼンスキーという天才によって苦労したのだろう。
こうしてリギルからは並走くらいなら良い刺激になるから、と時々マヤノの並走トレーニングを引き受けてもらえるようになった。
それからリギル合宿の手伝いをして、夏は過ぎていく。
マヤノは時々、軽く流す程度に砂浜でのトレーニングに混じったりと楽しんでいた様子だった。
近くのちょっと、いやかなり古い宿にはスピカの面々がきているらしい。あのトレーナー私よりも予算と給料あるはずでは…?
◇◇◇◇◇
「マヤノトップガン。少し、いいかい」
あと数日で合宿は終わる。そんなある日の夜の砂浜でマヤノトップガンはシンボリルドルフと相対していた。
振り返ると目に入る長い鹿毛の髪をストレートに下したウマ娘、前髪に入った流星は三日月のようだ。
彼女こそトゥインクルシリーズで史上初の無敗でクラシック3冠を取り、シニアも含めて唯一の7冠を成し遂げたウマ娘。生徒会長シンボリルドルフ、絶対の皇帝。
マヤがいつか、トレーナーちゃんと一緒に撃ち落とす相手。
「まずは変則3冠、おめでとう。クラシックウマ娘による初の宝塚記念制覇、見事だった」
「ありがとう、ございます?」
会長さんはテイオーちゃんをまるで我が子のように、相当贔屓目でみている方だから、そちらの話からかなと思ったけれど。
「クラシック3冠も残すは菊花賞。シニアと戦える君にはもはや取ったも同然と言われている」
「マヤノトップガン、君は“絶対”と示す頂点になるだろう」
「…マヤは別に、“絶対”になりたい訳じゃないけど」
会長さんは、“絶対”を体現する後継者を欲している。でもそういうことを聞きたい訳じゃないみたい。
「ではマヤノトップガン、君は何のために走るのかい?」
「マヤが走るのはトレーナーちゃんの為だよ。3冠なんて正直、どうでもいいけど」
強い相手じゃないとあまり面白くはないけれど、それはそれ。マヤはマヤのことを信じて好きにさせてくれる、そんなトレーナーちゃんだから3冠をプレゼントしたいと思うの。
「…君は、傲慢だな」
会長は苦虫を嚙み潰したように言った。それもそうだろう。
曲がりなりにも、全てのウマ娘に幸福を。そう公言しているのだから。
勝つことこそが容易く他のウマ娘の夢を踏みにじる、残酷だがレースの必然だとしても。
…でも会長さんは、同世代では足りなかったから、マヤのような相手と戦いたい。そういった“飢餓感”を感じてる。
今のテイオーちゃんではまだ、相手にならないと認めているから。心配はしているけど。
「でも会長さん、レースは残酷なんだよ?誰もかれもが喜びを分かち合える訳じゃない。そうでしょ?」
「わかっているさ」
わかってないよ会長さん。私ならどうやって勝とう、なんて闘志を燃やせるのが当たり前なわけじゃないもん。
「だからこそ、君の手を借りたい。生徒会を手伝ってはくれないだろうか」
マヤに生徒会に入れっていうの?
「君の力が必要だ」
「マヤは嫌だよ」
伸ばされた手は握り返さない。
マヤを誘うのは悪手だよ。それこそネイチャちゃんやキングヘイローさんでも誘うべきだよ。
スペシャルウィークさんみたいに、才能に溢れすぎるウマ娘もあまり良くない気がする。
当然のようにG1を勝てるウマ娘に、デビューすらできないウマ娘のことはわからないでしょ?
カリスマがあったとしても、生徒会が強者への畏怖で支配するような場所じゃ、ダメなんだよ?
だって、
寄り添うことはできても、理解はできないのだから。
根本的に間違えたやり方だって、言っても納得できないでしょ。
だからマヤは応援しないよ。
「マヤはトレーナーちゃんの方が大事だから」
◇◇◇◇◇
明日で合宿も終わりだ。最後の夜はマヤノに「海デートだね!」と引っ張られて砂浜に二人きり。
海風にゆれるマヤノの髪は普段のようにツーサイドアップに結ばれず、おろされていた。
波打ち際に立つマヤノの髪は月明かりに照らされ輝いていた。
その小柄な後ろ姿を見て、私は彼女の担当であることは夢ではないのだと改めて感じた。
マヤノにとってはほとんどバカンスだったが、中々できない貴重な経験をさせて貰ったので、チームリギルには感謝してもしきれない。
明日からはまた学園でマヤと二人三脚の毎日だろう。
「ありがとうね。トレーナーちゃん」
マヤノはゆっくりと振り返る。
「トレーナーちゃんだから、マヤはここまで走れたよ」
私はなにもしていない。マヤノができることを自由にやっただけだ。
「違うよ」
…そう、だろうか。
「他のトレーナーさんだったら、きっと息が詰まる思いだった」
「自由に走るなんてきっと、できなかったから」
「トレーナーちゃんみたいな人、他にはいなかったよ」
管理主義のトレーナーだったら、マヤノにとって足枷になったかもしれない。
でも、リギルもスピカも、きっと他にも、良いトレーナーはいたはずだ。
首を横に振るマヤノは、それにねと続ける。
「トレーナーちゃんだけがマヤをどきどきさせてくれるの」
少し顔を下げたマヤノ。彼女だって、年頃の少女だった。
「だから、最後までトレーナーちゃんでいてくれる?」
もちろん、最後まで。何があってもマヤノトップガンのトレーナーだ。
「マヤのこと、ちゃんと見ててね!ユー・コピー?」
月明かりに照らされて、マヤノは笑う。
◇◇◇◇◇
クラッシック3冠、最終戦。G1、菊花賞。
京都で行われる、クラシック路線を締めくくる3000mの長距離レース。
最も強いウマ娘が勝つとされるこのレースを勝利することで、マヤノトップガンはクラシック3冠ウマ娘になることができる。
今期無敗のウマ娘、マヤノトップガン。
既に変則3冠なのだから、1番人気に推されるのも当然だろう。
可愛い顔した魔王に挑む村人の気分はこんな感じだろうか。
トウカイテイオーは復帰が間に合わなかった。
(なーんて、ネイチャさんに人の心配している余裕なんてないですよー)
『1番人気はこのウマ娘!5枠10番マヤノトップガン』
『変幻自在の戦術でクラシック3冠最有力候補です!』
『2番人気はこのウマ娘!3枠5番ナイスネイチャ』
『掲示板を逃さない好走で、変則3冠ウマ娘を阻止できるか!?』
『3番人気はこのウマ娘!8枠18番ラビラビタンタン』
『この評価は少し不満か?爆発力に期待です!』
(ネイチャさんは、マヤノトップガンに勝てると言われているのはトウカイテイオーだけじゃない、テイオーがいなくても勝てるウマ娘がいるぞーって証明したいところだねぇ)
ほどほどに頑張りますか。そう気合いをいれて。
テイオー。私は、私達はテイオーがいなくたって強いんだぞ。
『各ウマ娘ゲートイン完了』
やるだけやってみますか!
『今、スタートしました!』
◇◇◇◇◇
…ボクが抱いたユメの舞台。
ボクが走るはずだったクラシック最後の菊花賞。
なんで、ボクは
『まずは先行争い!4番手につけましたマヤノトップガン!』
『先頭を進みます――――!!』
マヤノが走っている。ボクがもし、あの舞台で走るとしたらというイメージそのままで。
まるでボクが、菊花賞を走っているみたいなユメの続きをみせている。
最初の正面はまだ温存。ここから2周目だ。
『スローなペースです』
『ナイスネイチャは中団やや後ろにつけました』
第3コーナーで抜け出し準備をして横に動く、スパートをしかける最終コーナーで抜け出して…
『ここでマヤノトップガン動いた!ハナを奪いました!』
そのまま直線加速して置き去りにする。
『マヤノトップガン!どんどん引き離していきます!』
『2番手はラビラビタンタン!2バ身後から追いすがる!』
『ナイスネイチャも突っ込んできた!』
『強い!強いぞマヤノトップガン!』
『変幻自在の撃墜王だ!』
『菊の舞台を制し、クラシック3冠を達成しました!』
クラシック3冠に合わせて、3本の指を掲げるマヤノトップガン。
『2番にはラビラビタンタン!』
『3番にはクローズグレイト!4番手はナイスネイチャが続きました!』
ボクは夢でも見ているのだろうか。なぜあそこにボクが立っていないのだろう。
…でも、ボクは決めたんだ。
3冠ウマ娘に勝ったら、ボクはサイキョーでしょ?だから次は勝つ。
カイチョーと走るんだって、マックイーンと走るんだって約束したのだ。
「マヤノ、3冠おめでとう」
サイキョームテキではないけど、ボクの本当の戦いはここからだ。
ここから新しいユメを駆ける、そのために。
私はルドルフもスペちゃんも好きです。
なんならスペちゃんが生徒会長とか全然アリです。
あと2,3話で終わる予定
これも全部エボルトってやつの仕業なんだ
※1話目をちょこっと書き足しました。
設定まとめがあったら
-
みたい
-
みたくない
-
表紙、描んだよぉーっ!
-
無回答