気分屋マヤノちゃんがクラシックを荒らす話。   作:隣のAG/マヤノテイクオフ

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もちっとだけさらに続く


せっかくテイオーを描いたので、自給自足するスタイル。


EX02 TM・M/オーダー:3冠ウマ娘

 

 

「ええっ!?マヤノ、レース出ないの!?」

 

 

 

 新しい伝説となったマヤノトップガン、そのシニア1年目の出走予定は、チームルームにやってきた本人によって唐突にもたらされた。

 

 ここは今日からお世話になることになった、チーム・スピカの部室。

スピカ・トレーナーと交わした契約によって、チーム・アンタレスは開店休業もとい、一時的にチーム・スピカの実質的な傘下となった。本人達の要望によって、サブトレとして手伝いをするという形での業務連携である。

 既にチームとして独立したトレーナーがサブトレーナー業を行うという、順序が逆の異例な事態ではあるが、チームを解体する訳でもなく1年という期限つきだ。

 

「どうやら本当のようですわ、テイオー」

 

 これから放送の時間ですわ。と番組の予定を確認してあったメジロマックイーンは既にモニターをつけて待機している。

 

 顔を向けるとモニターに映るのは、インタビューを受けたマヤノトップガンの姿が。

これは先日行ったもので、今日のこの時間帯まで公表を控えて欲しいという、有無を言わさぬ笑顔による“お願い”の結果である。

 もし守られなかったら?という前例は以前に問題となったインタビュー関係の騒動によって証明されている。

 

『今年でシニア1年目ですが、出走予定はどうなさりますか?』

『既に6冠ということで、皇帝に並ぶ記録に挑む期待の声も…』

 

 記録、世間の期待といったワードが溢れる中、ゆっくりとマイクを持ち上げたマヤノトップガンの様子に、記者たちは期待と共に静かに言葉を待った。

 

『今年のレースは、でないよ!』

 

 衝撃の発言により一瞬、会場が静まり返ったが、すぐに質問攻めが始まり騒がしくなる。

 

『だって気分が乗らないんだもん!』

 

 記録が、栄誉が、といった声は多く聞こえるが、騒がしいインタビューはそのままお開きとなった。

 

 なお去り際にマヤノだけが聞こえたトレーナーへの侮辱をこぼした者は、不思議なことに出版社のスキャンダル発覚で大炎上したという。

 

 

 

「というわけで、1年だけよろしくね!」

 

 混乱からかトウカイテイオーの指先はモニターとマヤノを往復している。スピカ・トレーナーは苦笑いだ。

 心強い仲間にスペシャルウィーク・ウオッカ・ダイワスカーレットは純粋に喜んでいるが、同世代でのライバルで実際に競った相手であるトウカイテイオーとメジロマックイーンは困惑の表情を浮かべていた。

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 トウカイテイオーの次の目標は天皇賞・春。そこでメジロマックイーンとの約束も果たすという話だ。

 それまではリハビリと共に長距離を走りきるスタミナをつけることになる。スピカ・トレーナーは対決の時まで、今回に関しては並走も一緒のトレーニングも禁止する方向でいくらしい。

 トウカイテイオーにはウオッカとダイワスカーレットが、メジロマックイーンにはスペシャルウィークとゴールドシップが付くが、マヤノトップガンはというと両方を手伝う。

 トウカイテイオーとメジロマックイーン、どちらも間近で戦った相手なのでその走りを再現することがマヤノにはできる。そこでどちらにも肩入れせず、週替わりで仮想敵としてトレーニングを手伝う形だ。

 敵に回ると恐ろしいけれど、チームならこんなに頼もしいウマ娘はいませんわ。とはメジロマックイーン談だ。ひとりで様々なウマ娘の走りを再現できるのは、マヤノの専売特許である。

 もちろん週末はトレーナーちゃんとのデート、という名目でいつも通りレース場に観戦しに行くのは変わらない。

 

 ただひとつ、解決しなければならない問題がある。

 それはスピカ・トレーナーと交わした条件のひとつ、最低でも一人は新しい担当ウマ娘を見つけることだった。便宜上、契約期間の2年間はスピカ所属の扱いになるが些細な問題だ。

 まともにスカウトした試しがないトレーナーには難しい話である。

 

 そんなある日、マヤノから「面白そうなウマ娘を見つけたから連れてくる」という連絡が入り、伝えられた名前のウマ娘について、データを集めることとなった。

 

 

「ミホノブルボンです。よろしくお願いします」

 

 綺麗な姿勢から、機械のように正確で滑らかな動作のお辞儀をするウマ娘。

クラシック3冠を目標に掲げる、スプリンターと言われているらしいウマ娘、ミホノブルボン。

 

 3冠を目標にしたウマ娘トウカイテイオーと、6冠を撃墜したマヤノトップガンに続く新しい3冠候補が、チーム・スピカにやってきた。

 

「私の目標はクラシック3冠です」

 

 表情の変化に乏しいが、確かな意思を感じさせる声である。

 

「クラシック3冠を制したマヤノトップガンさん、そのトレーナーさんであれば私の目標達成に最適なトレーナーである、そう認識しました」

 

 アンタレスの方に入りたいというウマ娘たちについて確認したものの、正直このウマ娘だという子は見つけられなかった。

 初めての担当がマヤノトップガンだったことで、ハードルが高くなり過ぎている可能性は否定できないが、経験不足であることも大きな要因と思われる。

 しかし、マヤノが「面白そう」と言うなら模擬レースだけではわからない、秘められたモノがあるのだろう。

 これからよろしくと、私はその手を取った。

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 ミホノブルボンはスプリンター、らしい。

 

 と、いうのも模擬レースの短い距離で、スプリンターとしての十分な加速力、スピードを既にもっているというのが実態だ。

長距離を走るにはスタミナが足りないが、それを鍛えるなら既に持っている才能を磨くべきだ、というトレーナーばかりだったらしい。

 叶えられるかどうかはともかく、ウマ娘の夢に寄り添い、支えるのがトレーナーの仕事では?と思ってしまうのは、まだ新参者だからだろうか。

 あくまでも走るのはウマ娘達なのだから、他の道が良いと提示されても、納得して選べるかは別だ。どちらがうまく行くかはわからないのだから。

 

 

 現状でスピードは十分、スタミナの問題とペース配分の問題が3冠を取るために最も重要だろうか。

 坂路とプールを中心にメニューを組み、ひたすらスタミナ作りのトレーニングとなった。

 トレーニングの際、マヤノの呟きによって正確な時間感覚があると確信が得られたので、活かせる策を探し、ついにミホノブルボンなら可能であろう戦術を見つけた。

 

 それはラップ走法というものらしい。

 

 決められた区間をペースを維持して走る、というペース走。これを利用してレースレコードを出すためにハロンごとのペースを設定し維持する。

 意図的にレコードを出せるなら、レースも勝てるよね?という理想論の作戦とも呼べるだろう。

 ミホノブルボンが逃げ気質なのもあり、他のウマ娘にペースを乱されることがなければ、デビューは容易いかもしれない。

 

 逃げと言えばサイレンススズカがチーム・スピカにはいるものの、彼女は大逃げなので参考にならない。

 ただこれにも弱点はあって、相手が圧倒的格上だと難しいだろうし、レース相手が想定を超えて強くなられるようなら勝てないこともあり得る。

 

 普通であれば、の話だ。しかし、並走はマヤノトップガンである。

 

 想定外が起こりえるなら、あらゆる想定を身をもって覚えればいい。

 無茶苦茶なことを言っているが、マヤノトップガンだ。当然のように、ありとあらゆる手段でプレッシャーをかけ、焦らせ、ペースを乱すという方法を再現できる天才である。

 人数が多くないとできないトレーニングについては、スピカのメンバーにもたまに協力して貰うことで解決する。

 

 

 こうして後に新たなる3冠の伝説は、着実に始まりが迫っていた。

 

 

 

―――数年後、いつかのインタビューで語られることになる後日談。誰が言ったか分からないが、最も的確な言葉でその伝説はまとめられる。

 

 

 ミホノブルボン3冠RTAと。

 

 

 恐らく【】書きで動画タイトルのように、マヤノ最強や、なるほどわからん、前人未到、(これが一番早いと思います)といった言葉で挟まれるでしょう。

 

 

 大きすぎる爪痕は、マヤノトップガンという伝説に続く鮮烈なアフターグロウで、クラシックを再び荒らすのだった。

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 天皇賞・春、そのレースを目前にしたある日。

 

 トウカイテイオーは復帰レースを見事に勝利し、メジロマックイーンとの“約束”を前に順調に調子を上げていた。

 懸念事項であるケガ再発と、脚への負荷を考慮して走法自体を変えるというのは期間的に間に合わないと、スピカ・トレーナーとの相談の結果判断した。

 スパートの距離を伸ばして加速を緩やかにするという方法で、急激な負荷を減らそうという作戦を選んだのだ。そのためにミホノブルボンと共に、プールトレーニングも多かった。

 本職のステイヤーであるメジロマックイーンやゴールドシップのようにロングスパートとはいかないが、加速力とレース勘は天性のものだ。不利ではあるが、良い勝負になるだろう。

 

 今日はマヤノもブルボンもトレーニングはお休みであり、マヤノがブルボンを連れてお出掛けで不在だった。

 そんな夕方に、勝負服を纏ったトウカイテイオーが待っていたかのように佇んでいた。

 

「キミも座りなよ。ちょっと話したくてさ」

 

 そう言われた私はトウカイテイオーの近くに腰掛ける。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「なんか調子くるっちゃうんだよね」

「違うチームのはずなのに、思った以上に全力で協力してくれるし、感謝してる」

「ありがと」

 

 自分はスピカ・トレーナーの手伝いを少ししただけだ。それ以外はほとんどマヤノに任せきりになってしまって申し訳ないくらいだ。

 

「そういうとこだよキミィ。仮にもマヤノは6冠ウマ娘だよ?」

「ライバルに安売りして言い訳?」

 

 マヤノの好きにさせるのが私たちのやり方だから。本当にダメなことではない限り、私が断る必要もないだろう。

 

「…ボクもキミの担当だったら、違う未来もあったのかもね」

 

 少し羨ましいかなと続いたその呟きは、聞かなかったことにした。

 

「ボクはキミたちに感謝をしたい。だから、勝つんだ。マックイーンに」

「それを伝えにきたんだ」

 

 夕陽に照らされたトウカイテイオーはどこか、シンボリルドルフの面影を感じられた。

 

「だから有難く勝負服姿を拝むとよいぞー」

 

 

 あぁ、もしかしたら違う未来で彼女は無敗の2冠、もしくは3冠ウマ娘だったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 …そんなトウカイテイオーの決意も虚しく、天皇賞・春の盾を手にしたのはメジロマックイーンだった。

 

 ハナ差数センチの2着。本来の運命より壮絶な競り合いになり、僅かな差で負けてしまった。スタミナがついたことで実現した、使わないつもりだった2段階のスパート。それでも届かなかった。

 

 負荷が重なった結果なのか、症状は軽いものの、2度目の骨折となってしまった。

 

 

 そして続く3度目の骨折、マックイーンも不調で屈腱炎が発覚したことで、トウカイテイオーのリベンジするという約束も、永遠に果たされないものになるかもしれない。

 

 マヤノの出走予定は未定のまま更新されず。ファンのモヤモヤは募るばかりかもしれないが、申し訳ないと思うものの、それどころではないのだ。

 一番辛いのはスピカ・トレーナーだ。放任主義とはいえ、不調に敏感なトレーナーが疲れもあってか、不調を見抜けなかったのも応えているようだった。

 

 マヤノの希望もあり、1年限りの契約は2年目に延長されることになった。





アニメのときから思っていたことなのですすが、せっかくなので。

 ウマ娘の成長速度って一般的なヒトど同様という設定、どこかにあるのかしら?
中等部、高等部のくくりはあるものの、実際の年齢が本当に中学生並みかというと疑問に思うのですけど、全く触れる人がいなくてよくわからない。
下手すると中等部でも、普通に1桁台…いや、この話はよそう。
現役を何年続けているかも謎ですが。

まぁ、実際のところその辺り触れると面倒なので、ヒト基準にしてるというのはありそう。

…でもハローさんもたづなさんも年齢不詳だから誤差やな!

考察、反論お待ちしてます。

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