女の子になったボクは、とりあえず親友を惚れさせることにしてみた   作:恥谷きゆう

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おさかな!

「それで、わざわざお前から『デート』に誘ったんだから、この後の予定も決めてるんだろうな?」

「もちろん。栗山さんたちの目を欺くための作戦だからね。抜かりはないよ」

 

 まあ、本当はコイツをボクに惚れさせるためなのだが。

 

「次はここだね。水族館」

「うわっ、似合わな」

「なんだよー! たまにはいいだろ?」

「まあ、嫌とは言わないけどなー、お前魚とか興味なかったよな?」

「何を言う! マグロとか鮭とかホッケとか、好きな魚はいっぱいいるよ」

「それ、全部食べる方だろ?」

「チッ、バレたか。まあでも、彼らの生きている姿を見るのもたまにはいいんじゃないかなーとか思ってさ。それに、水族館に行くなんて高校生のデートっぽいじゃん」

 

 栗山さんにおすすめしてもらったデートスポットなのだから、間違いない。

 

「それもそうか」

「異存はないね。じゃあ、行こうか」

 

 ボクは立ち上がると、座ったままの俊樹に手を差し伸べた。

 

「……なんだこれは?」

「手、繋ご?」

 

 小首をかしげて、ボクは囁いた。内心凄まじい恥ずかしさだったが、なんとか我慢する。

 どうだ俊樹、ボクの胸キュン攻撃を食らえ!

 けれど、彼は頬を緩めるどころかむしろ苦い顔をして、自分で立ち上がった。

 

「お前、それ俺以外の男にするなよ」

「ちょっと! 無反応はひどいって!」

 

 

 

 

 しばらく駅前を歩き、目的地へ。その間、ボクは主に男から、少なくない視線を感じた。顔や胸を行ったり来たりする視線。そんな何気ないことから、自分の性別が変わったことを実感する。少しの優越感と、僅かばかりの不快感が、胸中にぼんやりと漂っていた。

 

 水族館の中は、暗くて静かだった。ぼんやりとした光に照らされた水槽の中で、魚たちはまるで空でも飛ぶみたいに泳いでいた。

 

「お、見ろ見ろ俊樹! マンボウ! ハハッ、馬鹿みたいな顔してるわ!」

「今のお前ほどじゃないけどな」

「なにをー!?」

 

 いちいち一言多い奴め。

 

「……そういえば、写真撮って報告しないといけないんじゃなかったか?」

「ああ、そうだった。コーデを手伝ってくれた栗山さんと片岡さんのためにも、ちゃんとした写真撮らないと」

 

 そう言うと、ボクは俊樹の方にぐいと近づき、腕を取った。

 

「うおっ」

「はい、チーズ」

 

 また一枚、写真をパシャリ。確認してみると、そこには笑っているボクの可愛らしい顔と、若干頬を赤らめながらボクから離れようとしている俊樹の姿が映っていた。

 

「っはっは! なんだよこの顔! いつかのプリクラみたいじゃん!」

 

 ボクが撮れた写真を見せてやると、俊樹の顔がどんよりと曇った。

 

「お前、本当にその写真をアップするのか? ちょっと考え直さないか?」

「あー、ダメダメ。めちゃくちゃいい写真だから、投稿しまーす。俊樹の顔は著作権フリーでーす」

 

 軽いノリで言い、すぐに投稿する。スマホをしまったボクは、意識をリアルの方へと戻し、俊樹との会話に戻る。

 

「それで、どこ行く? とりあえずペンギンショーに行くのか確定として」

「そうだな……とりあえずぶらぶら回るか」

 

 元々、魚に興味のない二人で来たのだ。何が見たい、というわけでもなく、ただ館内を歩き回る。

 しかし、これが案外楽しかった。可愛い小魚を見つけて、指をさして俊樹にそれを教えたり、珍妙な形をした魚に腹抱えて笑ったり。全然動く気配のない貝をじっと観察したり。大きなマグロの迫力にビビったり。

 

 そんなことをしているうちに、ペンギンショーの時間になっていた。

 

「ペンギンかあ。さすがに人気だな。人だらけ」

「ああ、この水族館の目玉らしいからな」

 

 続々と集まってくる人混みに紛れて、ボクたちはやや後ろの方の席を取った。しかし、着席してから気づく。前の人の背が高くて、良く見えない。ボクは背伸びしたり首を左右に曲げたりしてなんとか見れないか試したが、縦にも横にも長い前の人の背中で、なかなか水槽の様子が見れなかった。

 

「……場所、変わるか?」

 

 そんな様子を見かねたのだろう。俊樹が、席の交換を提案してくれた。

 

「でも、俊樹が見れなくなるんじゃ……」

「今の俺とお前なら身長差があるから、多分大丈夫だ」

「あ、そっか」 

 

 あまりにもいつも通りに俊樹と接しているから、すっかり失念していた。ボクは彼に感謝を述べると、席を交換した。

 そんな何気ない差異に、ボクふと気づいた。

 

「……ああ、そういえば女の子になっちゃったことすら忘れるほどに、遊ぶことに集中しちゃってたんだなあ」

 

 デート、なんか肩肘張ったものじゃなく、単に親友と一緒に出掛けるという日常的なイベントになっていたことに、今更気づいてしまった。惚れさせる、なんて大層なこと考えてたのはせいぜい写真を撮った時くらいで、後はひたすらに水族館を満喫することに集中していた気がする。

 

「……でも、それでもいっか」

 

 今日を楽しく過ごしていくうちに、どうでも良くなってしまったのだ。呪いを解くために俊樹を惚れさせることも、クラスメイトに俊樹と付き合っていると信じさせることも。

 ――今が楽しければ、もう少しだけこのままでもいいかもしれない。

 

 ボクは、そう思ってしまった。ひとまずは、このペンギンショーを楽しもう。ボクはそう決意すると、見やすくなった視界のうちで始まるショーに目を凝らした。

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