女の子になったボクは、とりあえず親友を惚れさせることにしてみた   作:恥谷きゆう

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れんじょう!?

「クックック……クックックックックック!」

 

 夢の世界で目覚めたボクを迎えたのは、悪魔の上機嫌な笑いだった。

 

「……なにがそんなに面白いんだよ」

 

 対するボクは不機嫌だった。眠りにつくまで、ずっと悶々と悩んでいたからだ。

 あの、ボクの胸を支配した感情は一体何だったのか。どうして、俊樹と接していると体が熱くなるのか。いくら考えても答えは出ず、なかなか眠りにつくことができなかった。

 

「いやあ、まさかお前の方から先に惚れるとは思ってもみなかったからなあ! 面白いことになった! クックック!」

「……は?」

 

 悪魔の言葉に、ボクの頭は真っ白になった。ボクが、惚れた? そんな、まさか。

 

「一応確認するけど、誰に?」

「もちろん、お前の親友に、だろ。手を握られた時のお前の表情、ぜひ鏡で見せてやりたかったよ!」

「そ、そんなわけ……」

 

 反射的に否定しようとしてから、自分の状況を冷静に思い返す。彼と接した時の、体中の熱。動悸。溢れ出す感情。

 それらを総合すれば、恋という単語が思い浮かんだ。

 

「――それでも、違う!」

「おや?」

 

 脳内に浮かんだ言葉を否定するように、ボクは叫ぶ。悪魔は、幼子のように首を傾げた。

 

「ボクと俊樹の間にあるのは、友情だ! 恋情じゃない! ボクらの友情は、ボクが女になったくらいで壊れるものじゃなかったはずだ!」

 

 ボクたちの関係を赤の他人に定義されることに反感を覚えたボクは、必死に言い募った。

 そうだ。ボクたちは親友だ。友情で結ばれ、一緒にいる。ゲーセン行って遊んで、ラーメン一緒に食って帰って、下ネタ言って笑い合う。そんな、どこにでもいるような男子高校生だったはずだ。

 それは、たとえボクが女になったとしても、変わることはないはずだ。

 

「なぜ、恋情があると友情が壊れると思っている? どうして、愛情を認めると親友ではなくなるのだ?」

 

 心底分からない、と言いたげに悪魔は聞いて来た。

 

「だってボクらは男同士だったから……! そういう感情は全くなかった! それが、この程度で変わってしまうような脆いものだったはずがない!」

「ふーむ。人間、貴様めんどくさいな」

 

 ため息をついた悪魔は、滔々と語り出した。

 

「いいか、人間。人同士の相互関係を定義する言葉なんて、さして重要じゃない。友情だろうか愛情だろうと劣情だろうと、関係は関係だ」

「……お前、鈴木の件でボロクソに言ってた時と主張が違くないか?」

「いいや。俺が話しているのは、相互関係だ。独りよがりではなく、相手を思いやる気持ちを互いに持った、美しい関係のことだ」

「劣情も美しいと?」

「劣情を抱えてなお相手のことを思いやれるのなら、それは美しい関係だ」

 

 悪魔の中には確固たる思想があるようで、それはボクと問答したところで少しも揺らぐ様子を見せなかった。

 悪魔は教師のような口調で話を続ける。

 

「話を戻すぞ。人間、お前らは愛を厳格に定義しようとしすぎる。人間の言葉による定義など無粋なほどに、愛とは多様で素晴らしいものだ」

「……お前、さっきから難しい話ばっかりするな。もっと分かりやすく話してくれ」

 

 結局、こいつは何を言いたいんだ。

 

「つまりだ。友情の延長線上に愛情があってもいいし、愛情と友情が同居したっていい。」

「でも、ボクと俊樹は男同士で――」

「なぜ男同士だったら愛情が生まれないと思う。それに、貴様は今は女だ」

「それは、そうだが……」

 

 いまいち、釈然としない。この胸の感情を、愛なんて呼ぶのには違和感があった。

 

「ふむ、理屈が納得できないというより、感情的に納得できないといったところか。まあ、俺はそれでもかまわん。どちらにせよ面白くなりそうだからな」

「お前の思う面白いことにはならないと思うぞ」

「いいや、きっと面白いことになる」

 

 きっと、何かの間違いだ。女になるなんて体験をしたせいで、脳が不具合を起こしたのだ。数日もすれば、まるで風邪の熱が引くみたいに、この胸の熱も引いていくだろう。

 悪魔の気が済んだのだろう。夢の世界がぼやけていく。今日の対話はこれでおしまいのようだ。

 最後に、悪魔の言葉がボクの頭に響いた。

 

「長く生きるものとして一つアドバイスをするならば、人間よ。自分の気持ちには、素直になった方がいいぞ」

 

 その助言は、起床したボクの耳にもしばらく残ったままだった。

 

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