女の子になったボクは、とりあえず親友を惚れさせることにしてみた   作:恥谷きゆう

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どきどき!

 夢の中で聞いた言葉は、いつまでもボクの頭にモヤモヤと残っていた。

 いつもの通り朝支度を済ませ、玄関のドアを開ける。すると、その先には昨日からずっとその姿を幻視していた彼の姿があった。

 

「よう。今日は早かったな」

「俊樹……」

 

 その姿を認めた途端、ボクの心臓は激しい音を立て始めた。うるさい。静まれ、ボクの心臓。それでは、まるで悪魔の言葉を認めるようじゃないか。

 しかし、ボクの内心とは裏腹に、彼に近づくごとに心臓はどんどんと動きを早めているようだった。

 

「あ、あの、とりあえず、行こうか」

「ん? ああ」

 

 ボクの不審な態度に眉を顰めた俊樹だったが、ひとまずは歩き始めた。ボクも肩を並べ、学校への道を歩き出した。

 

「……遠くないか?」

 

 ボクと彼の間には、人二人ぶんくらいの距離があった。

 

「い、いや? 別にこれくらい普通だろ。だいたい、男同士で距離近すぎるのも気持ち悪いって」

「お前らしくないセリフだなあ。大丈夫か? 熱でもあるんじゃないか? なんかちょっと顔赤いし」

 

 俊樹の指摘に、ただでさえ暑かった顔がさらに暑くなった。

 

「は、はーっ! 全然そんなことないし! この熱は……ちょっと暑かっただけだし! 暑かったから暑苦しいかなーって距離取ってただけだし!」

「まだ春だぞ? お前、いつもよりだいぶ変だぞ」

「いつも変だったって言いたいのか!?」

 

 ひどい奴だ。そんな言葉を聞いていたら、体の熱も引いてきたぞ。

 

「そういえば、昨日の件はもう気にしてないか? やけに落ち込んでたけど、そんな深く考え込むことはないからな」

 

 そう思っていたのに、再び体が暑くなりはじめた。

 

「だ、大丈夫! 大丈夫だから!」

「お、おお。そうか」

 

 俊樹はボクの勢いにちょっと引いていた。

 

「くそう……」

 

 自分の体の不調に、ボクは釈然としない気分になった。たしかに状況だけ見れば、悪魔の言う通り、ボクが俊樹に惚れているようだ。けれど、ボクと彼の間にある感情は、そういうものではなかったはずだ。

 そのことを確かめるために、ボクは一つの策を試した。

 

「ていっ」

「ウオオオオ!」

 

 ボクは二人ぶんくらいの空間を一足飛びに詰めると、俊樹の腕に抱き着いてみた。

 

「お前、なにやってんだよ!?」

「え? 恋人ごっこ?」

 

 あれ、意外と大丈夫だぞ。俊樹の体に密着しても、体の熱は上がらないし、心臓の動きも正常なままだ。これは……まさか、こっちから行く分には大丈夫なのか?

 

「離れろ馬鹿! お前のご近所さんに生暖かい目で見られてるから!」

「おおー、良かったじゃん俊樹。これでリア充の仲間入りだなあ」

「くっそこいつ……」

 

 なるほど、俊樹に予想外の動きをされるから、ボクは動揺するのだ。こちらから動けば怖くない!

 

「ほら、行くぞ、学校」

「このままか!?」

 

 当たり前だろ。その後もボクに纏わりつかれた俊樹は、終始歩きづらそうにしていた。

 

 

「さすがに教室に入るのにこのままはまずいだろ! 離せ!」

「えー、しょうがないなあ」

 

 ボクもそろそろこの体勢が辛くなってきたところだった。素直に手を離す。

 二人で並んで、教室に入る。ドアを開けたボクらの方へと一瞬視線が向き、すぐに外れる。――ボクは、一瞬身震いした。

 

「どうした?」

「なんでもない。あ、栗山さんと片岡さんおはよう!」

 

 ちょうどデートの報告をしたかったところだ。ボクは栗山さんと片岡の元へと駆け寄った。

 

「おはよー、朝から熱々カップルだったねえ!」

「えー、そうかなあ」

 

 揶揄うように栗山さんが言ってきたが、まんざらでもなかった。そう見えたなら、ボクらの演技は上手くいっていたのだろう。

 

「写真見たよー。楽しそうだったじゃん」

「まさしく青春を謳歌するカップルって感じの写真だったね。評論家としては百点を付けたいくらい」

「ふふん。嫌がる俊樹を無理やり写真に映したかいがあったよ」

 

 あいつ、ボクがツーショット写真を撮ろうとすると、途端に逃げ出そうとするものだから写真撮影には苦労したものだ。全く、シャワーを嫌がる犬みたいだったぞ。

 

「それで、私の紹介したカフェと水族館はどうだった?」

「ああ、それが最高でさー。特にペンギン! やっぱり小っちゃい動物って可愛いなあって改めて分かったよ」

「ふむ、ペンギンを愛でる美少女、良い画になりますね。専門家として百点をあげましょう」

 

 片岡さんの肩書きがまた変わってる……。しかし、そんな片岡さんの様子を見た栗山さんは、呆れたように口を開いた。

 

「というか加奈、いつまでコミュ障出してるの。稲葉さんとならいい加減普通に話せるでしょ」

 

 えっ、片岡さんの変な口調って素じゃなかったのか? 栗山さんの言葉を聞いた片岡さんは、急にしおらしくなった。

 

「エッ、でも、その、恥ずかしいっていうか、稲葉さんみたいな美少女前にすると緊張するっていうか……」

「その変なキャラクターの方が恥ずかしいって! 大丈夫!」

「ぐはっ……」

 

 ああ、片岡さんが大ダメージを受けた! 心的外傷によってふらついていた片岡さんだったが、やがて落ち着きを取り戻した。ふー、ふー、と大袈裟に深呼吸。よし、と頬を叩くと、ボクの方へと向き直った。

 

「エト、稲葉さん。その、こんな私だけど、恋愛事の相談ならなんでも乗るから、任せて。少女漫画、恋愛小説、BL小説、あらゆる恋愛に関わる創作物に触れてきたから」

 

 実地経験はないんだね……。

 

「ありがとう。……早速一ついいかな」

「うん、どうしたの?」

 

 片岡さんは、柔らかい表情でボクの言葉を待ってくれた。その態度に、背中を押され、ボクは恐る恐る口を開いた。

 

「じつはボク、俊樹に急に接近されるとなんだか体が暑くなるんだ。こういうの、女の子なら結構普通のことなのかな? 原因が分からなくてさ……」

「……は?」

 

 ぽかんと、まるで宇宙人でも見たみたいに、二人は口を開けていた。

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