女の子になったボクは、とりあえず親友を惚れさせることにしてみた   作:恥谷きゆう

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そうだん!

「じつはボク、俊樹に急に接近されるとなんだか体が暑くなるんだ。こういうの、女の子なら結構普通のことなのかな? 原因が分からなくてさ……」

「……は?」

 

 ぽかんと口を開けてボクを見つめてくる栗山さんと片岡さん。凄い顔だ。

 

「いや、だから俊樹に近づくと体が暑くなったり心臓の鼓動が早まったり……」

「いやいやいや!」

 

 真っ先に口火を切ったのは、栗山さんだった。

 

「どう考えても恋じゃん! なに、今更そんなこと言ってるの!? 逆に今まではどうだったわけ!?」

「いや、この前までは親友の延長だったっていうか……」

 

 その様子を見ていた片岡さんが、なにか閃いた、という様子で口を開いた。

 

「もしかして稲葉さん、秋山君のこと男避けにするために彼氏役にしてた?」

「えっ!?」

「そうなの!?」

 

 なんで見抜かれた!?

 

「その反応……やっぱり。烏合の衆の目は誤魔化せても、リア充観測隊隊長たる私の目は誤魔化せないよ」

 

 片岡さんの肩書きがまた増えた……。

 

「確かに二人の距離は近かった。でも、わざわざ恋人だって強調するような言動が目立ってたからね。無意味に近づいたり、やたら付き合ってるって男子たちに強調したり」

「そんな……」

 

 結構頑張ったのに! 皆騙されてくれてると思ったのに!

 

「でも安心して。私もむやみに言いふらす気はないよ。稲葉さんと秋山君の近いようで遠い距離感、見ていて結構好きなんだよね。たまに秋山君の鉄仮面が外れてるのとか見ると、あ、平静を装ってるけど結構動揺してるなあ、とか。稲葉さんが下心ゼロで秋山君に接近してる時とか、結構面白いリアクション取ってるんだよ。それに、私は『リア充爆発しろ』とか言うタイプじゃなくて、むしろ『リア充尊い』って言うタイプだから」

 

 片岡さんは普通の口調で話すとたまに早口になるなあ。

 

「で、恋人のふりをしているうちに、本当に好きになったと。このパターンは私も何回も見ているからね。分かるよ」

 

 それはどこの漫画の話だろうか……。

 

「――だからね、稲葉さん」

「うん」

 

 片岡さんがぐっと顔を近づけてきた。漲る熱意に、少し引く。

 

「稲葉さんが次に目指すべきは、今の偽の関係からなし崩し的に付き合うことだよ。かりそめの関係を、本当にしちゃうの」

「ちょ、ちょっと待ってよ」

 

 片岡さんは何か勘違いをしている。

 

「ボクが俊樹を好きなんて一言も言ってないよ! 騙してたのは悪かったけど、本当にあいつとは親友ってだけだって!」

「はぁ……」

 

 栗山さんと片岡さんは、頭痛でもするみたいに頭を押さえていた。やがて、今度は栗山さんが話し始めた。

 

「まあでも、稲葉さんは稲葉さんのペースでやればいいと思うよ。幸い、二人の距離感を見て尚奪い取ろうとするやつなんてそういないと思うし。それに、こういうのは本人たちの納得感が一番大事でしょ?」

「それもそうだね……」

 

 二人はなにやら勝手に納得していた。話がまとまったらしい。栗山さんが、元気よく話しかけてくる。

 

「稲葉さん!」

「なにかな?」

「その感情の正体に気づいたなら、私たちに相談していいからね!」

「うん、ありがとう」

 

 でも、多分そんな日は来ない。だってボクは、俊樹を惚れさせてさっさと男に戻るのだから。

 

 

 

 昼休みになった。ボクはいつも通り、俊樹のテーブルに行って弁当を広げる。一方の俊樹は、コンビニで買ったらしいおにぎりを広げている。

 

「……」

 

 彼の顔を眺めていると、やっぱり顔が暑い。それを努めて気にしないようにして、ボクはいつも通り会話を始めた。

 

「俊樹はいっつも昼飯が不健康そうだよな。そんなんで足りるのか?」

「あー、まあな」

 

 食事に集中しているらしい彼はそっけなかった。

 

「ふーん。あ、じゃあボクのおかず食べるか?」

「え、いいよ。箸持ってないし」

「じゃあ、ほら」

 

 ボクは弁当箱からナスを取ると、箸で掴んだまま俊樹の顔の前まで持っていった。

 

「……いや、いらん」

 

 一瞬すごい顔をした俊樹が、ぷいと顔を逸らす。

 

「えー、なんでだよ」

「男同士ならまだしも、男女だと変な意味にもなるだろ」

「は? ……あ」

 

 遅れて気づく。これはいわゆる、間接キスという奴ではないか……? そう認識した途端、体の熱が急上昇した。

 

「ふー、ふーん! ボクは全然気にしてなかったけど、俊樹はそういうこと意識してたんだね! 前から思ってたけど、君って結構むっつりスケベだよね!」

「そうじゃねえよ! 俺が気にしてるのは周りの視線だよ! ちょっと周りを見てみろ!」

 

 見ると、主に女子生徒がキラキラとした視線でこちらを見ていた。まるで、憧れのものを見ているような、羨ましいものを見ているような、そんな視線だった。

 今度は羞恥心で、ボクの顔は真っ赤になった。

 

「ッ! いいから早く食え! 視線が痛い!」

「だからそう言って……おい、やめろ! ナスを頬に押し付けるな! 分かった! 食うから! 食うからやめろおお!」

 

 結局、俊樹はボクの箸からナスを食べた。どこからともなく、「フーッ」というはやし立てる声が聞こえてきた。肩身の狭い思いをしながら、ボクらは昼休憩を終えた。

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