女の子になったボクは、とりあえず親友を惚れさせることにしてみた   作:恥谷きゆう

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さくをねる!

「しかし、俺の耳にまで声が聞こえてきたとなると、どうやら本当に悪魔の存在を信じなくてはならないようだな」

「えっ!? ボクずっと居るって言ってたじゃん! 信じてなかったの!?」

 

 ひどい。頑張って説明したのに。

 

「ともかく。そうなると、本格的にお前を男に戻す方法についても、信じて策を考える必要があるかもな」

「ああ。やっと本気になってくれたか」

 

 それは頼もしい。さあ、ボクがお前を惚れさせる方法をキリキリ吐くがいい!

 

「まずはお前のトラウマを克服するところからだな。ちょっとずつ、段階を踏んで直していこう」

「ちょ、ちょっと待って!」

「うん?」

「その言い方だと、なんか数か月とかかかりそうなんだけど!?」

「まあそりゃ、かかるだろうな」

「困るよ! そんなに待ったらボク、どうなることか……」

「なに? 今なにか不都合なことが?」

「い、いや別に……」

 

 ただ、このまま女のままだったら、ボクは俊樹と会うたびにこの熱に侵されることになるのか、と思っただけだ。

 

「……というか、悪魔の言う惚れられるの条件が告白なら、話は簡単じゃないか」

「ん? なにか思いついたのか?」

「俺がお前に告白すればいいだけじゃないか」

「は……はあああああ!?」

 

 俊樹のとんでもない発言に、ボクは顔を真っ赤にしながら立ち上がった。

 

「いや、やってみるだけだって。これで呪いが解けたらラッキーくらいの気持ちでさ」

 

 そんな何気ない言葉に、ボクは謎に怒りを覚えた。

 

「いやいや! 告白ってそういうのじゃないって! もっとこう、シチュエーションがあって、雰囲気があって、お互いの気持ちが交錯して、甘酸っぱい空気があって、みたいなさ!」

「……? そんなに必死にならなくても。別に本気じゃないぞ」

 

 素っ気ない言葉に、ボクの中の謎の怒りは増す一方だった。

 

「ハーッ! なんで君はそうドライなんだ! 考えてもみろよ。人生で初めての告白なんだろ?」

「いや、決めつけんなよ」

「えっ? 告白したことあんの?」

 

 なんだろう。急に怖くなった。

 

「いや、ないけどな」

「ないなら素直に認めろよ! つまらない見栄張るな!」

 

 あー、良かった! ……なにが良かったんだ?

 

「じゃあ人生最初の告白になるわけだろ? もっと大事にしろよな? 本気度とか雰囲気とかさあ」

「分かった。――じゃあ」

 

 ボクが適当にまくし立てていると、俊樹の雰囲気が急に変わった。真剣で、緊張感があって、まるで一世一代の告白をする前みたいな……。

 

「うぇ!? なんだよ、急に改めるなよ!」

「ゆうき」

 

 いつになく真剣な声で、彼はボクの名前を呼んだ。僕の喉が、キュッと締まる。けれどそれは嫌な感じではなく、むしろ何か嬉しいことを期待するようだった。

 

「お前との付き合いも、もう一年になるな。俺たちが友達になったのは高校生になってからだけど、なんか馬鹿なお前の騒ぎに付き合ってるうちに、三年くらい経ったような気がするよ」

「う、うん」

 

 色々言いたいことはあったが、今のボクは蚊の鳴くような声で返事をすることができなかった。体が暑いし、心臓がどきどき言ってる。

 

「最初は騒がしいだけだと思ってたお前も、付き合っていくうちに色んないいところがあるんだなと思った。お前の美徳は、その正直さと優しさだな。誰とでも分け隔てなく接して、時には誰かのために泥を被ることも厭わない。正直、一年のクラスが皆仲良かったのは、お前のおかげもあったんだろうな」

「きゅ、急になんだよ。褒めても何もでないぞ」

 

 というか、その真剣な眼差しやめろ! すごい体が暑い! 居ても立っても居られなくなる!

 

「ゆうき」

「ひゅっ」

 

 大きく息を吸ってから、彼は言った。

 

「好きだ」

「ッ……」

 

 心臓が爆発しそうだ。今なら、茹で上がった顔で湯が沸かせるかもしれない。ゆっくりと、ボクは口を開く。ボクの返すべき答えを、考えて――

 

「あれ、戻らないな」

 

 俊樹のいつもと変わらない口調に、ボクは思わず顔をあげた。

 

「は?」

 

 そこにいたのは、告白の雰囲気なんて少しも残していない俊樹の真顔だった。

 

「おかしいなー。おい、あくまー。告白したぞー」

「……」

 

 ふるふると、体の奥から際限なく浮かび上がってくる熱に、ボクは戦慄いた。それは、先ほど告白されかけた時のどこか心地の良い熱とは違う、凄まじい怒りだった。

 

「と、としきー!!」

「うおっ、なんだ聞いたこともない大声出して。うわっなんだやめろお!」

 

 勢いよく飛び掛かってきたボクを支えきれなかった俊樹が、後ろに倒れ込む。ボクは彼の腹を跨いで膝立ちする。その勢いのまま、ボクは彼に叫んだ。

 

「お前! 冗談でやっていいことと悪いことがあるだろ!」

「いや、冗談っていうか最初から試すだけだって……」

「明らかに試すだけの雰囲気じゃなかっただろ! なんであんな真剣な顔したんだよ! お前のあんな顔初めて見たわ!」

「いやだって、お前も謎にうるさかったし。それに悪魔を納得させる演技しなきゃ……」

「それに! なんだよあの告白の前口上! ボクらの今までを振り返って懐かしむってもう告白通り越して結婚の挨拶か!?」

「違うわ! お前の妄想力が豊かなだけだ!」

「ううう……納得できない! なんでボクだけあんなドキドキしなくちゃならないんだ!」

 

 なんでコイツの本気でもない告白に、ドキドキしなくちゃいけないんだ……!

 

「とにかく、どいてくれ! 男の頃ならいざ知らず、今のお前だと色々マズいことになってる!」

「なんだよー! ボクの怒りはまだ収まってないぞ。このまま話を聞いてもらうからなー!」

「違うって! こんなところ誰かに見られたら……あ」

 

 ふ、と俊樹の視線がある一点で止まる。その先では、理子がドアの隙間からこちらを見ていた。

 覗き見に気づかれたことを悟った理子は、慌てたように弁解し始めた。

 

「ち、ちがうの! その、秋山さんにせめてお茶出しくらいしようと思って、そしたら中から大きな音がしたから、大丈夫かなって覗いてみたら姉貴が……姉貴が……」

 

 未だに自分の見た光景に衝撃を受けているのか、彼女はひどく落ち着かない様子だった。

 

「秋山さんを襲ってたなんて」

「……は?」

 

 一瞬、妹が何を言っているのか分からなくて困惑する。俊樹の方を確認するように見ると、彼は呆れたように額に手を当てていた。……あれ、なんでボクは彼の顔を見下ろしてるんだ。これじゃあまるで、ボクが俊樹の上に乗っかってるみたいな……。

 

「ッ!」

 

 状況が分かった瞬間、ボクは俊樹の上から退いていた。遅れて、状況のまずさに気づいて血の気が引く。

 

「ご、ごゆっくりー!」

「まずい、お前の妹逃げるぞ! 早く誤解解いてこい!」

「うわああああ! 理子、理子、ちょっと待ってええええ!」

 

 幼い頃以来の兄妹の鬼ごっこは、ボクの辛勝だった。

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