女の子になったボクは、とりあえず親友を惚れさせることにしてみた   作:恥谷きゆう

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こそこそ!

「いや、大丈夫大丈夫。これは友人として、俊樹が変な女の子に騙されていないか確認するためだから。決してストーカー行為とかそういうのじゃない」

 

 ブツブツと、自分に言い聞かせるように言いながら、ボクは俊樹の背中をこそこそと追いかけていた。ボクが隣にいないときの彼の歩くスピードは速く、着いていくので一苦労だ。

 

「しかしあいつ、なんか嬉しそうに見えるな……」

 

 足取り軽くどこかに向かう彼は、どことなく上機嫌に見えた。なんか、ムカつく。

 

 たどり着いた先は、屋上につながる階段だった。封鎖された屋上にわざわざ近づく生徒はいない。だからここは、密談するのにはうってつけと言えよう。

 階段の一番上で待ち受けていたのは、可愛らしい女の子だ。上履きの色から、ボクたちの一個下、一年生であることが察せられる。間違いない。彼女が、話に聞いた桃谷さんだろう。ボクは階段の陰に身を潜め、二人の様子を窺った。

 

「悪い、待たせたか」

「いえいえー。私も先ほど来たばかりですからー」

 

 おっとりとした口調で、桃谷さんは答えた。聞く者を蕩けさせるような、甘さを含んだ声だった。

 

「やっぱり、恋人同士なのかな……?」

 

 話し合う二人の距離は、誰かに話を聞かれることを恐れるように、近い。こちらから見ると、まるで抱き合っているようですらあった。

 ああ、まただ。心の中に、深い深い悲しみが溢れてくる。違うのに。ボクは彼が幸せになるのを祝福しなくちゃいけないのに。

 

「――」

「――」

 

 二人の会話内容は、ボクの位置からでは聞き取れなかった。けれどこれ以上近づくのは難しいだろう。息を潜め、ただ二人が近い距離で会話する様子を眺める。

 いっそのこと、飛び出して何を話しているのか問いただしてしまえば良かったのかもしれない。彼らの関係をハッキリさせてしまった方が楽だったのかもしれない。でもいボクは、それを恐れた。彼らが恋人同士であることをハッキリとさせることが、たまらなく怖かった。

 

 

 やがて、時間としては三分ほどが経っただろうか。

 

「……それじゃあ、またよろしくな」

「ええー。またこの場所でお会いしましょう」

 

 おっとりと言った桃谷さんに、俊樹は軽く頭を下げた。二人に見つからないように、ボクは廊下の隅まで下がった。

 俊樹が足取り軽く去っていく。それを追うように、桃谷さんがゆっくりとこの場を去っていった。残ったのは、ボク一人。物陰から出て、一息つく。

 

「なに、話していたんだろう」

 

 ぽつりと呟く。彼らはどんなことを話して、俊樹は何を思ったのだろうか。

 気分が晴れない。彼が桃谷さんに会うところを見てから、その様子を眺めている時まで、ボクの心はずっと曇天だった。

 

「……気にしたところでしょうがないか」

 

 考えたって仕方ないことだ。そう思ったボクは、思考を断ち切り、帰り道へと向かった。

 

 

 

 

 考えたって仕方ないことだ。そう思っても、やっぱりボクの頭には彼らが何を話して、どういう関係なのか、という推測ばかりがグルグルと回っていた。

 迷ったボクは、結局また栗山さんと片岡さんの二人に相談することにした。

 

「なるほどー。人目を避けるようにして話をしていて、会話の内容も他人に聞かれないように気を付けていたと……」

 

 ボクの言葉をまとめた栗山さんは、何か考え込むように唸り初めてしまった。変わりに、片岡さんがボクに確認してくる。

 

「本当に、会話の内容は少しも聞こえなかったの?」

「そうだね。小声だったから」

「うんうん。なるほど」

 

 片岡さんは少し目を閉じて考えるように姿勢を見せてると、やがてゆっくりと目を開いた。

 

「一つ私が言えるとしたら、部外者から見て、秋山君が稲葉さんの他に彼女を作るようには見えないってことだよ」

 

 いつになく真面目な口調で、片岡さんは語り始めた。

 

「はたから見て、あなたたちは付き合ってない方がおかしいくらい。秋山君はなにをするにしても、だいたい稲葉さんと一緒。さらに、稲葉さんと話している時だけ表情豊かに見える」

「えっ、そうかな?」

 

 俊樹はだいたいいつも無表情な気がするんだが。もちろん、完璧な無表情というわけではなく、うっすらと感情の伝わってくるような微妙な変化はあるのだが。

 

「そうなの。稲葉さんには当たり前だから、気づかないだけ」

 

 そうかなあ。

 

「しかも最近は特に、稲葉さんに構っているように見えたよ。なんか君が男子と関わるたびに、心配そうに見ていたくらい。まったく、そんなに大事ならさっさと告れよ、って感じだったよ」

「こくっ……」

 

 思わぬ言葉に、顔が赤くなるのを感じた。でも、片岡さんの言葉には少し誤解があった。

 

「いや、違うんだ。元々、ボクのトラウマをあいつはどうにかしようとしてくれていて、それで最近はちょっと過保護気味だったんだ」

 

 男子が距離を詰めすぎていたらさりげなくボクとの間に割ってはいり、ボクと男子が一対一にならないように気を配っていた。

 

「いや、それが付き合っている彼氏ムーブだったんだけど……。まあいいや。とにかく、そんなに大事にしてる女の子がいながら、わざわざ他に彼女作るようには見えないってこと」

「……」

 

 片岡さんは、ボクを安心させるようにそう締めくくった。

 少し、違う。俊樹の中のボクは、ずっと男友達のままだ。心配するのも、気を遣うのも、親友だからだ。

ボクが男だったという前提。それがない二人とは、どうしても見方が変わってしまう。だから、片岡さんがいくら俊樹が彼女を作るわけがないと説いても、ボクは少しも安心することができなかった。

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