女の子になったボクは、とりあえず親友を惚れさせることにしてみた   作:恥谷きゆう

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もやもや!

 聞きたいけど、聞きたくない。俊樹と後輩の女の子は、いったいどんな関係なのか。それを聞いてしまえば、何かを確定させてしまうようで、躊躇ってしまう。

 

 それでも、と意を決して彼に話しかける。

 

「なあ、俊樹……」

「ん? なんだ?」

 

 相変わらず無表情にボクを見る彼に、ボクは聞きたかったことを聞こうとした。

 けれど、喉元まで出かかった言葉は、最後まで出ることはなかった。

 

「……いや、なんでもない」

 

 結局、何も言えない。やっぱりハッキリさせることが怖くて、怯えたままだった。ああ、こんな意味のないやり取りも、いったい何度目だろう。聞くべきか聞かないべきか、悩んで、結局やめる。今回に始まったことではなかった。

 

 そんなボクの様子を、俊樹は不思議そうに眺めていた。

 

 

 

 

 しかし、そんな風に停滞を選んだボクにも、突如として変化が訪れた。

 

「あなたが、稲葉ゆうきさんですね。初めてまして、私、桃谷和葉と申しますー」

 

 おっとりとした口調でボクに話しかけてきた彼女は、先日俊樹と密談していた桃谷さんだった。

 

「えっと……何の用……?」

 

 思わず、口調が少し硬くなってしまう。俊樹の彼女かもしれない女の子。ひょっとしたらこれは、宣戦布告とか勝利宣言とか、そういうものかと思った。

 

 けれど、ボクの固い態度にも、桃谷さんは少しも動揺した様子はなかった。

 

「はいー。秋山先輩にお願いされて、あなたにお会いしに来ました」

「俊樹に?」

 

 それはいったい、どういう風の吹き回しだ?

 

「ちょっと失礼しますねー」

「あっちょっ」

 

 ズズイと近づいてきた桃谷さんは、一瞬のうちにボクに密着すると、手始めにボクの腕をふわりと握ってきた。

 

「ふわっ……な、なに?」

「ふむふむー。なるほど、柔らかいですねー」

 

 にぎにぎとボクの二の腕のあたりを握りながら、彼女は呟いていた。

 

「お肌もなかなかに気を遣われている様子……秋山先輩の言葉から受ける印象とはちょっと違いますねー」

 

 今度はボクの頬のあたりをムニムニしながら、彼女は独り言のように言葉を紡いでいた。

 彼女の言う通り、ボクは、スキンケアなどに気を遣うようになっていた。妹に「女なら当たり前でしょ」と諭されたのもあるが、何よりも素材がいいボクの顔がどんどん可愛くなっていくのは、見ていて結構楽しいものだった。

 

「……それで、俊樹から何を言われてここに来たの?」

 

 ひょっとして、交際の報告とか? 最悪の可能性が頭をよぎり、身震いする。いや、でも体の状態を確かめられたのはいったい……?

 

「はい。ズバリ――」

 

 ふんわりとした雰囲気を纏っていた桃谷さんの顔が引き締まる。彼女の豹変に合わせて、空気までもが静かになったような気がする。ただ事ではない雰囲気だ。

 ゴクリと、ボクは唾を飲んだ。

 

「先輩の彼女さんを見に来ましたー」

「…………えっ?」

 

 その時のボクの顔は、とても間抜けな呆け顔だっただろう。

 

 

「あっ、でも、先輩に頼まれたのはちょっと違うことでしたー」

「……えっ、待って待って! 彼女は君じゃなかったの!?」

「はいー?」

 

 何を言っているのか分からない、と言いたげ桃谷さんが首をかしげる。その様子に、ボクはさらに混乱した。

 

「あれ!? だって俊樹と付き合ったっていう報告をするためにボクのところに……」

「私、そんなに性格の悪いことしておりませんー」

 

え……じゃあ、彼女はいったい俊樹と何を話していたんだ……?

 

「先輩には、稲葉先輩の男性恐怖症を改善するための相談をされていたんですー。……もしかして、何か勘違いされていましたか?」

「えっ!? ……そう、だね。勘違いっていうか、ボクが勝手に早合点してたっていうか」

 

 こうして、真実を直接告げられて、ボクは悟った。たかだか一回話しているところを見たくらいで、何をボクはそんなにも焦っていたのだろうか。我が事ながら、一人で色々納得しすぎていた。

 

「その様子……フフフ、秋山先輩は幸せですねー」

 

 何事か納得したように呟く桃谷さんは、一呼吸置くと、話を戻した。

 

「あなたのトラウマ改善のために、秋山先輩にアドバイスをしていたのは私ですー」

「そ、そうだったの?」

 

 そのおっとりとした様子からは、あまり想像できないのだけれど。しかし桃谷さんは、ボクの内心を読んだように話を続けた。

 

「これでも私、中学の頃から皆さまから色んなことを相談されていたんですよー。恋愛相談から、人間関係、進路相談まで、たくさんの人の力になってきましたー」

 

 桃谷さんの言葉には、嘘一つないように聞こえた。どうやら、このおっとりとした少女は、本当に敏腕コンサルタントのようだ。

 

「中学の頃に、秋山先輩の友達の相談にも乗りました。その時のことを先輩は覚えていらっしゃったから、今回の件も私に相談に来たんだと思いますー」

「えっと、じゃあ、桃谷さんは俊樹と中学生の頃からの知り合いってこと?」

「はいー。美化委員で一緒になり、話をしましてー」

「な、なるほど」

 

 思えば、ボクは俊樹の中学生の頃の交友関係は知らなかった。いきなり見も知らない女の子に会いに行くようになったのかと思ったが、どうやら二人は元から知り合いだったらしい。……本当に、全部ボクの早合点だった。

 

「……でも、わざわざボクに直接会いに来る必要はなかったんじゃない?」

 

 ふと気になって、ボクは彼女に尋ねた。

 

「ああ。それは、秋山先輩曰く、稲葉先輩の様子が最近変なので、相談に乗ってやってほしい、ということでしたー」

「……相談? ボクに困ったことなんて……あ」

 

 そうか。ボクが俊樹に彼女が出来たんじゃないかとソワソワしていたから、様子が変だと思われたのか。

 思えば、最近のボクは俊樹に何か聞きかけて、結局やめるということを繰り返していた。そんな思わせぶりなことばかりされたら、そりゃ俊樹も気になるだろう。

 

「ああー。大丈夫。たった今解決したから」

「ということは、やはり私と秋山先輩が付き合っていると勘違いなさって、それで様子が変だったのですねー?」

「えっ!? なんで分かったの!?」

「私、これでも人の悩みはたくさん見てきましたのでー」

 

 す、すごい……! どうやらこの一個下の少女は、ボクよりもずっと頭が回るらしい。

 

「その上で、私に相談すること、ございませんか?」

「え……?」

 

 一瞬言われた意味が分からなくて、困惑する。

 

「先輩は、秋山先輩の偽装彼女という立場に甘んじたままでよろしいのですか?」

 

 いつの間にか、優しい瞳をしていた桃谷さんの目が、こちらの内心を見抜こうとする鋭い光を灯していた。

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