女の子になったボクは、とりあえず親友を惚れさせることにしてみた   作:恥谷きゆう

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すき!

 梅雨にも終わりが見え、夏の匂いが近づいて来た。一学期の期末試験が終わったボクは、俊樹と試験勉強の苦労を分かち合っていた。

 

「いやー。やっと終わったなー。俊樹はどうだった? いつもと変わらず九十点台連発か?」

「どうだろうなあ。正直、今回はお前に勉強教えるのが大変すぎてなあ」

「わ、悪かったって」

 

 いやだって! 勉強を教えてもらうと必然的にお前と距離が近くなるんだもん! 心臓がうるさすぎて勉強どころではなかった。集中力の落ちたボクは、同じところを何度も教えてもらうことになっていた。

 

「でもさー。お前は彼女との勉強デートっていう貴重な体験をできたわけだから、そこは感謝してくれてもいいんじゃないか?」

「勉強デートってなんだ。勉強かデートかどっちかにしろよ。というか、あんまり調子乗ってると次から教えてやらんぞ?」

「うわああ、待った待った! ボク高校受験で頑張りすぎた結果勉強に着いていくの大変なんだって! お前の助けがないと卒業できないって!」

「受験勉強頑張れたなら試験勉強も頑張れるだろうが。お前はちゃんと勉強する意欲があれば卒業くらい容易いと思うのだがな」

「いやー、その。ゲームとか、漫画とか? 高校生は忙しいなー、なんて……」

「コイツ……」

 

 俊樹は頭が痛い、と言いたげにこめかみのあたりを教えていた。

 まあ、そうは言ってもたしかにコイツにいつまでも迷惑をかけるわけにはいかないことも分かっている。頭のいい俊樹は、きっとたくさん勉強して良い大学に行くのだろう。その時まで勉強を教えてもらうっていうのは、なかなか難しいだろう。

 

 受験に、進学。あるいは就職。そのことを考えると、ボクの気持ちは少しだけ暗くなった。

 そんな気分を誤魔化すように、ボクは殊更に明るく言葉を紡いだ。

 

「それよりも! 試験から解放されたんだから、次は夏休みだろ! どうする、どこ行く!?」

「おお、楽しそうだな。まあ、お前が行きたいってところに俺も行くよ。……というか、今のお前が人の賑わうところになんか行ったら、一瞬でナンパされそうだしな。男避けの役目くらい務めてやるよ」

「うっ……そうだった。助かるよ」

 

 確かに、人混みの中で男に無理やり迫られたら、今のボクには対処は難しいかもしれない。

 

「色々行きたいところあるよなー。海とか、川とか、あ、ちょっと遠出してテーマパークとか!」

「いいんじゃないか」

 

 好き勝手に言うボクを見つめる俊樹の視線は、どこか柔らかかった。少し気恥ずかしくなって、目を逸らす。

 

「それから……さ」

 

 俊樹は、ボクがどこに行きたいのか言うのをじっと待っているようだった。いつも通りの無表情に見える顔。けれど、その目はどことなく楽しそうに見えた。それに後押しされて、口を動かす。

 

「その、さ。良かったらなんだけど……」

 

 がらでもなく、緊張する。ボクと彼の今度を決定づける、大事なイベント。その誘いを、ボクは今から口にするのだ。

 

「夏祭り、一緒に行かないか?」

 

 意を決して言ったボクに、俊樹は少しだけ目を見開いたように見えた。

 

「……なんだ、改まって。それくらい、別に構わないけど」

「本当か!? よしっ!」

 

 思わず、ボクはガッツポーズをした。計画の第一段階は、あっさりと上手くいった。

 

「なんだ、夏祭りくらい。そんなに喜ぶようなことでもないだろ」

「い、いやー。なんていうの、夏祭りのこと考えたら、改めてボクは試験勉強から解放されたんだなあーって気分になって、それが嬉しくてさー」

 

 慌てて誤魔化す。危ない。ボクの一世一代の告白計画は、彼に悟られないように進めないと。

 告白計画、最初の一歩について、アドバイザーの桃谷さんはこのように語っていた。

 

『肝心なのは、夏祭りに一緒に行くのはいつもの遊びの延長線上だと思わせることですー。警戒心の強い秋山先輩の気を緩めさせて、告白の成功率を高めましょー』

 

 彼女のアドバイスに忠実に、ボクは最初の一歩を踏み出すことができた。さあ、この夏休みが正念場だ。ボクはこの夏に、俊樹を落とす!

 グッと手を握り、気合を入れ直す。

 

「……なあお前、何をそんなに意気込んでいるんだ?」

「え、えっ!? いや、ただ夏休み頑張れるぞー! って気合入れてただけだよ!」

「夏休みって気合入れるものだったか……?」

 

 あ、危ない! 俊樹に変だと思われないうちに、適当に話をそらさないと……!

 

「な、なあ。それよりも、暑いしアイスとか食いたくないか?」

「お、いいな。どこ行くんだ?」

 

 幸い、彼は大して追求することもなく、ボクの話に乗ってきてくれた。

 

 

 

 

 セミの大合唱に、照り付ける太陽。学校の外に出たボクたちを、夏が迎えた。

 

「外あっちーな。なあ俊樹、寒くなるような話ないか?」

 

 なんだか怪談でも聞きたいような気分になったボクは、俊樹に無茶ぶりした。

 

「そんな急に……? ああー、そうだな。お前のスカート、後ろ捲れてるぞ」

「えっ、嘘!?」

 

 慌てて後ろを確認する。幸い、特に問題なくスカートはボクの体を守っていた。

 

「ちょっ……確かに涼しくなったけどその微妙に笑えない冗談やめろよ!」

「ははっ……いや悪い。いつかお前がリュックにスカートの裾ひっかけてたの思い出してな」

「ああー、やめろお! ボクの女の子初心者時代の失敗を掘り起こすな!」

「初心者時代? お前いつまで初心者だろ」

 

 俊樹は、心底ボクを馬鹿にしたような笑みを見せた。

 

「なにをー!? どういうところが初心者だって言うんだ、言ってみろ!」

「そりゃ、俺が勉強教えてる時無防備に前かがみになったりとか」

「うっ……」

 

 俊樹に気まずそうに「胸が見えそうだ」と指摘された時のことを思い出し、顔が暑くなる。

 

「スカートで足開いて座ったり」

「それは……最近やってないし……!」

 

 そういえば、最初の頃は堂々と俊樹にパンツ見せてた気がする。……今思うと、とても恥ずかしい。

 

「こっちの気持ちにもなれってんだよ全く」

「すいません……」

 

 寒くなる話を聞いたはずのボクは、恥ずかしさですっかり暑くなっていた。

 

「とにかく、アイス食うんだろ? お前が言ってた新しくできた店ってどこだっけ?」

「あー、それは――」

 

 それから、ボクと俊樹は、並んで歩き、アイスを食べに行った。

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